機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
ワイリーの右目の下、斜めに切れた傷口が包帯の隙間から見え、
左側は唇の上下ともを貫く形で一本の縦線の傷が入っており、
縫い合わされているが、その部分だけボコッと凹んでしまっている。
「まあ……生きてるだけマシか」
ワイリーは笑うが、その拍子に唇の傷が開きかけ、
痛そうに顔を下げ、そこの上に両手を添える素振りを見せた。
「……無理すんな、ワイリー」
ひとまず、俺はベッドの横まで向かうと、
そこにあったクッションの青いパイプ椅子を開いて、腰かけた。
そんな俺はこのとき、黒いジャケットに黒いスラックス、
ネクタイは赤で、Yシャツは黒寄りの暗いグレーというもの。
ワイリーはその姿を見るなり、
「死神みたいだぜ?アスカ」
と苦笑した。
「……スマンな」
「いや、いいんだ。俺も……ミイラ男だしな。
ハロウィーンなら丁度よかっただろうぜ?まだ、4月だがよ」
そう笑うワイリーは、今度は要領を得たらしく、
唇を痛む様子はなかった。
「下手なジョークはよせよ、ワイリー。大体、その足じゃ……」
そう言ったとき、いや実はそれ以前からなのだが、
俺の視線の先はワイリーの足に向いていた。
膝から先を失い、また包帯を巻かれた、彼の両足を。
「ひでぇな、おい。昨日の夜から考えてたんだぜ……
日付が変わる辺りで、絶賛絶望中によ」
腹が凹む程に、強く深く息を吐いたワイリー。
「……運よく攻撃はコクピットを直撃はしないで済んだ。
まあ、衝撃で変形したコクピットに足を潰されちまって、
運び込まれたときには、もう切るしかなかったらしいが。
ヘルメットとか、色んなヤツの破片で身体中切り刻まれ、
昨日なんか痛くて痛くて、とても寝れなかったがよ……
命には別状がないらしい。どうにか生きてる」
「……スマンな」
「謝んなよ。俺がでしゃばったから、こうなったんだ」
顔を上げてみると、ワイリーの顔は外を向いていた。
「戦場は怖いもんだってよ……散々思い知ってきた俺がだぜ?
すっかり油断しちまったよ。全く……
結局、戦果/戦禍(せんか)はどうなった?」
ワイリーはそのままの姿勢で聞いてきた。
俺は静かに顔を下げる。
「……サーベラス隊は壊滅。ジズだけで36機と戦艦1隻を失い、
どうにか落ち延びたってトコだ。
対して、敵の損害はザクを10機程度とダガーもどきを3機、
新型を1機。それにイージスが確認したら7機いたが、
ほとんどは自爆した連中だ。
無人機の可能性もある……カウントは出来ない。
それに……敵は戦艦を1隻も失っていない」
すすり泣くように小さく笑うワイリー。
「敵さんは、手負いの獣に殴り返されることを避けて、
ぶつけるものぶつけて、さっさとずらかったと……なるほどね。
うちの隊の被害は?」
「……ジズ1機だけで済んだ」
「そうか……不幸中の幸いってヤツだな」
目を閉じれば、マイクの姿が頭を過る。
その後、死体は回収したが、結局頭は見つからなかった。
ビームに焼かれてしまったのだろう。
「……見た目はあれだが、足がなくてもモビルスーツには乗れる。
そのうち、復帰するよ。
次の戦いには、間に合わないだろうが、それでもよ」
ボクサーのテーピングのように包帯で巻かれたワイリーの拳が、
強く握られていた。
「……ワイリー」
「俺はまた無様に生き残っちまった。何度目か知れねぇ。
俺なんかより、ハイネとかの方がよっぽど長生きしそうだったのに」
話題に挙がったハイネというのは、
彼の同期であったハイネ・ヴェステンフルスのこと。
俺やヴィーノの上司でもあり、7年前の戦いで戦死したのだった。
「俺が復帰するまで……隊を頼むぜ。副長」
少しだけこちらを向いたワイリー。切れた方の口が見えて、
その微妙にずれた唇の隙間から、歯軋(はぎし)りが垣間見える。
俺はただ、伏し目がちに、
「……あぁ」
と曖昧に答えることしかできなかったが……
「しかし……連中も大胆というのか、何というのか……」
そう漏らすワイリーの声に、俺は要領を得ず、ただ顔を上げた。
「……忘れたか?『円卓会議』だよ」
ハッとした俺。恐らく顔に出ていたのだろう。
「確か、9時からだから……」
スマホで確認した。時刻は9時50分に差し掛かっている。
慌てる俺の横で、ワイリーがテレビをつけた。