機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
と2つ左の席で、ガムザトハノフは漏らす。
ただしバーテルソン本人は、そんな彼には見向きもせず、ただ正面。
司会のツァンカルだけを見つめるようにまっすぐに立って、
話を続ける。
「皆さまは……お忘れでしょうか?我々が戦うということの意味を」
聴衆が押し黙っている。
「……皆さまは、各方面軍司令官。戦場と隣り合わせとはいえ、
実際に武器を取り、戦う機会は少ない。では、戦うのは誰ですか?
……国民です」
誰かのため息が漏れた。恐らくはガムザトハノフであろうが。
「脱走兵はテロリストと……断じてしまうのは簡単です。当然だ。
彼らは政治的な理想を語/騙(かた)りながら、武器を取り、
遂にアーモリー・ワンを襲った。我らが国民を傷つけた……
しかし、皆さまはお忘れか?彼らもまた、国民なのです。
プラントが救うべき国民なのです」
ヤジが飛ぶ。
「テロリストを肯定する気ですか……」
というヴァレフスキの溜め息はまだマシな方。
「オマエは脱走兵の回し者か!」
そう厳しく糾弾(きゅうだん)する、ガムザトハノフの姿も。
ただし、当のバーテルソンは彼らには目もくれない。
2本指でカードを引くかのように上から下へと下りる形で、
ピアスの「Ⅳ」の部分に触れたかと思うと、
「……国民の声に耳を傾けるのも、政治の役割ではないのですか?
少なくとも……国が国民同士を殺し合わせていいハズがない!」
そう答えて、今度は「H」のピアスを触った。
画面の端でスコルツェニーがマルビナスに向けて、
「もういい……下がれ」
と告げた。バーテルソンの演説はまだ続く。
「……アーモリー・ワンの騒動で、
彼らは既にその正義を半(なか)ば喪失している。
このままで、暴徒と化しかねない。力で押さえようとすれば、
相手も力で訴えかけてくるでしょう。
その度に、犠牲になるのは誰です?私や皆さんではない。国民だ。
彼らの意見に耳を傾け、その意を汲み、
話し合えば血を流さず済むではないですか……違いますか?」
意見をしてくれと、スコルツェニーはそう言った。
だのに、彼はろくに話を聞いていない様子だ。
ようやく合った目も、ほんの1秒足らずで外された。
小バカにするように、スコルツェニーが欠伸(あくび)をした。
直後、
「……甘いのではないか?」
その一言がヴァレフスキの口より出た。
「はい?」
「……それは甘い考えではないかと言っているのですよ。
バーテルソン司令」
バーテルソンの顔がそちらに向く。
「……相手はテロリストだ。今の時点でこちらが歩み寄れば、
敵は我々が屈したとして増長するでしょう。
ただでさえ、ラクス元首の辞任などという、
政治的影響の強い要求を連中は持ち出している連中です。
また会議が進展しなければ、連中が更なる行動に及ぶ危険性もある。
……そうなれば、第2、第3の被害、
君の言うところの『国民』に危害が及ぶのだ。
敵はどう見方を変えようと、テロリストに違いない。
即刻、鎮圧に動くべきでは……ないのかな?」
気遣うように、微笑みかけるヴァレフスキ。
「簡単に鎮圧できる相手ですか?彼らは」
バーテルソンが詰め寄る。
「容易にいかない相手なら……尚のことですよ。
更に力を増し、後の時代の憂いとなるぐらいなら、
今、傷付く覚悟で立ち向かうべきではないですか?」
ヴァレフスキはなおも座ったままに応じる。
バーテルソンはまだ何か反論するような素振りが見られた。
しかし、それより先に、
「誇り高きザフト兵を率いる者として……そのように弱腰で、
恥ずかしいとは思わないのですか?」
マッツィーニが続いて、そう反論した。
ただし、これにはヴァレフスキが苦笑い。
「……私も、戦うべきだと思う」
ここに来て、ようやくスコルツェニーが口を開いた。
自慢げなルカーニアの表情には見向きもせず、
咳払いと共に表情を引き締めて、
「このままでは埒(らち)があかない……
政治の問題は、政治の分野で解決すべき問題でしょう。
軍事力で訴えかけることを、政治とは呼びません。
第一……彼らの訴えるものというのは、
尊重できる程に高尚なものでしょうかね?私には単純に……」
そう話して、次に何かを言いかけた辺りで、
「そんなこと……言い始めるなら……だな」
と、バーテルソンが言いかけた。
そう言いかけて、途中でハッとしたように黙ってしまった。
何かを悟ったらしく、ガムザトハノフがチッと舌打ち。
ヴァレフスキは複雑そうな表情を一瞬浮かべ、
次いで目を両手で覆う。
マッツィーニは状況が分からないのか、顔はキメているが、
バーテルソンとツァンカルとをキョロキョロと交互に見ている。
ツァンカルは無表情。スコルツェニーにも特段変化はない。
ただ……時計を見つめていることを除けば。
「言い始めたら……だな」
バーテルソンは「H」のピアスを触っている。額には汗。
そんな中で、彼の背後にあったドアが突然開いて……