機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
自動ドアが開き、中に入ると、彼女は教卓の奥に座っていた。
ルシア・アルメイダ、その人が、である。
場所は館長室。 教卓に似た白い半円形のテーブルが置かれた、
割に大きな部屋だ。
入って数歩のところで、彼女──ヴァイデフェルトは立ち止まり、
「……おはようございます」
そう一礼したが、
「はい」
相手はこう返答するだけで、見向きもしない。
目前にはノート型PC。見るからに、デスクワークで忙しそうだ。
前髪を弄ったり、部屋を見渡したりして、彼女が少し待っていると、
そのうちアルメイダが顔を上げた。
とはいえ、口をついて出たのは、
「……で?」
の一言だった。
「……え?」
丁度、前髪を触っていたヴァイデフェルトの手が止まる。
「……何の用かって聞いてるんだけど?」
ヴァイデフェルトは状況をすぐには理解できなかった。
2、3秒あまりの沈黙を経て、
「いえ……隊長がお呼びだと、窺(うかが)ったもので」
うつ向きがちに、くぐもった声でそう答えた。
対するアルメイダは、ため息を漏らした。
ついで、ピンク色の髪の、
黒くなった生え際辺りをかきむしったかと思えば、
「私が呼んだのはアスカ副長であって……アナタじゃない」
と断言する。ヴァイデフェルトは無言で立ち尽くしてしまった。
「……アスカ副長がどこにいるかぐらい分からないの?」
「ええと……」
ヴァイデフェルトの髪に触れていた手が下りて、
やがて胸上へと落ち着いた。
「……お見舞いに行くと窺いました。ワイリー先輩の」
「あっそう」
アルメイダの視線が手元に戻る。
それより先、数十秒、ヴァイデフェルトに視線が移ることはなく、
ただキーボードを押すカタカタという音だけが響いていた。
「……あ、自分はこれで」
ヴァイデフェルトは振り返って部屋を後にしようとしたが、
「ところで……」
と呼び止められた。
「……報告書、まだなの?」
「……はい?」
「私はこのグナイセナウにいて……詳しい状況が分からない訳よ。
そんな中、二度も戦場に出て戦ったんだから、状況報告の書類、
出すのが普通でしょ?」
ガヴァイデフェルトが振り返り、深々と頭を下げる。
「すみません……すぐに提出します」
「……今日中に」
隊長の首を前に突き出すような所作を見て、
下げられたヴァイデフェルトの頭がなおも低くなる。
「……はい」
それだけ答えると、彼女はそそくさと部屋を出ていった。
そうしてドアが閉じた瞬間に、
キーボードを叩くアルメイダの手は止まった。
肩の骨を内側に押し込むように、両手を広げて、上へと伸ばす。
「……ふぅ」
漏れた息と共に、アルメイダの体は後方に倒れ、
その身は椅子の背もたれへと預けられた。
「随分、部下を失ったみたいじゃない……全く」
アルメイダが見つめる画面には、
サム・スクリーチの名義で出された報告書が映っている。
報告書のタイトルは「2度の戦闘における戦没者とその経緯」。
その順は時系列に沿ったもので、
ハサン・エルトゥールルが最初で、最後はマイク・フルータ。
「……フッ」
ため息なのか、何なのか。
ともかく、そんな声を漏らし、一同画面を折り畳んだ。
椅子は後ろへと引かれ、天井を見上げる顔に、右手が添えられる。
「何してんのよ……アイツ。また……」
左手の拳が握られ、それは真っ直ぐにテーブルへと振り下ろされた。
「あんなヤツが副長じゃなきゃ……今回も。あの時も……」
そんな独り言の後、室内に響き始める電子音。
スマホの着信音だった……
同じ頃、彼女は高台の上から、
街並みをぼんやりと見下ろしていた。手をポケットに突っ込んで。
「何してんだ?ジョーン」
名前を呼ばれ、彼女は振り返った。
呼んだのは、あのアレハンドロだ。
足音が聞こえない程度に緩やかな足取りで、アレハンドロは、
ジョーンの横までやって来た。
一度は振り返るジョーン。しかし、すぐに向き直ってしまった。
「パーディに怒られっぞ?」
ポンと頭の上に手を置き、アレハンドロは笑う。
しかし、ジョーンは1歩ばかり横に動いて、また何も答えなかった。
アレハンドロはというと、
ツーブロックの髪の下に指を突っ込み、刈り上げられた銀色の髪を、
軽く掻(か)いている。
「……のことか?」
「うるさい、チビ」
ジョーンは振り返らないままでボソッとそう言ったが、
アレハンドロはフッと笑った。
ちなみに、アレハンドロの身長は164cm。ジョーンは172cmだ。
「……何気に気にしてることなんだけどなぁ」
地団駄(じだんだ)踏むように、足を鳴らすアレハンドロに、
遂にジョーンが振り返る。
先程までポケットに突っ込まれていた右手には、
今、拳銃(レミントン・モデル95・ダブルデリンジャー)が握られ、
添えられた左手共々、銃口はアレハンドロに向いていた……