機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
アレハンドロは笑うも、ジョーンは本気らしい。
ジョーンは銃口を下げて、地面に向けて一発、発砲した。
慌ててアレハンドロが指を入れて耳を塞(ふさ)ぐ。
ジョーンもインパクトの瞬間は、目を閉じた。
「……あっぶな!」
流石のアレハンドロも叫んだ。
「正直に、答えてもらえる?」
銃口を上げ、改めてアレハンドロを狙う。
見れば、ジョーンの指先はにわかに震えているのがわかる。
少し視線を上げて、顔を確認すれば、
ジョーンのその真剣な顔つきさえも、どこか怯えが見て取れる。
「サムから聞いた。どうして、警備が薄いなんてこと……
まるで、襲撃が起こることを分かっていたみたいに。
どうして?」
声もそうだ。
息が上がったみたいに、雑音が混じり、聞き取りにくい。
アレハンドロはゆっくり両手を上げた。
「たまたまだって」
少し微笑むように語るアレハンドロ。ただ逆効果だったようで、
「ウソつかないでよ!」
との怒鳴(どな)り声で返された。
「副長から聞いたわ。敵のモビルスーツの情報……
見つけるのだって異様に速かったじゃない?
スパイだからでしょ?だから知ってたに決まってる」
「……んなバカな」
「はぐらかさないで!」
それを聞いてアレハンドロは、
「……しょうがねぇや」
と呟くと、
「こっち来んな!」
と声を荒らげるジョーンを無視して、1歩2歩と前に出て、
「俺の記憶が正しければ……デリンジャーの装弾数は2発で、
しかも、後継の小さい古い銃ってことで、威力は据え置きって訳だ」
遂に、彼女のすぐ側まで寄った。
拳銃を握る彼女の両手を抱き締めるように、自身の両手を重ね、
そして、
「……今度は外さないこった」
の一言と共に、銃口をアレハンドロ自身の心臓に押し当てた。
4月2日の9時15分。
ホテルの部屋にて、フェイはベッドの傍らの木製椅子に座っている。
「『円卓会議』が始まります。向かわれないおつもりですか?」
そう語る彼女の表情は真剣そのもの。
しかし、ベッドでは混血の美女が彼女を嘲笑(あざわら)っている。
ただ、もう1人は気まずそうにフェイを見つめているが。
フェイの視線が混血の美女に移る中、
「どうせ調整者様々が勝手に話まとめてくれるだろうぜ。
アイツに、
ピサロやガムザノハノフみてぇな脳筋どもが勝てるかっての。
ひとまず、俺の話を聞け」
とのルカーニアの話が始まる。
このとき、
ルカーニアは部屋の隅に備え付けられた小さな冷蔵庫の前におり、
フェイの位置からでは、
ルカーニア自身のシルエットに隠されてよくは見えないが、
丁度、中から何かを引っ張り出してきたところだった。
「親父はな、火星とプラントとの間で貿易をやっていた……
とっくの昔にくたばったがな」
ルカーニアはフェイに背を向けたままに、
左腕の肘をやや曲げつつ、少し上げる素振りを見せた。
何かを引っ張っているらしい。
「その親父がよく言っていた。
口酸っぱくな……『商売で最も重要なのはタイミングだ』ってよ」
間もなく聞こえ出すプシューという泡の沸き立つ音。
すると共に、ルカーニアの腕は大きく振り上げられた。
このときになってようやくフェイは見ることができた。
その腕に握られていた缶ビールを。
350mlサイズの、ルカーニアの手にはいくらか小さく見える缶。
それが頭頂部と同じ高さまで持ち上げられたかと思うと、
今度はルカーニアの身体の方がボクシングのスウェーバックみたいに、
大きく上体を反らされ、頭上に掲げられる構図となった。
そこからルカーニアがクイッと手首を返せば、
缶からビールは滝のごとく顔へと注がれた。
勿論、その全てがルカーニアの口に収まるハズもなく、
いくらかは溢れてしまうが、ルカーニアもルカーニアで舌を突き立て、
滑り台のようにしてこの滝を受け止めようとしているのであった。
そんな調子であるから、350mlの滝はほんの何十秒で尽き、
最後は滴として落ちてきて、唇の端を渡って頬を流れ、
やがては彼の足元へと落ちていった。
「……いい飲みっぷりです。閣下」
混血の美女がそう手を叩けば、ルカーニアも満足そうに鼻を鳴らす。
そんな中でフェイだけは真剣な表情。
「おっしゃる意図を……理解しかねます。司令は……
ヘイエルダールをお忘れですか?
……今回のギドー大隊長の一件と合わせても、
我々は大きく消耗しています。
このままですと、非情な決断をされる可能性も……」