機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
その目を見開き、アレハンドロを見つめるジョーン。
「引き金を引けないと思ってるの?私が」
ジョーンは少しだけ視線を下げて、そう告げた。
「いいや……信じてるんだよ。オマエを」
「……え?」
動揺からか、ジョーンの拳銃を握る手が弛(ゆる)む。
アレハンドロはそれを見逃さなかった。
「……ほいっと」
下向きで押し出すように拳銃へ力を加えると、
脆くもそれはジョーンの手から溢れ、地面へと転げ落ちた。
「あっ……」
声を漏らしたのはジョーンだった。
取ろうと屈む彼女を、アレハンドロは背中から引き寄せ、制止する。
「おっと、それは無しだぜ?」
間もなく拳銃は柵の下の隙間を抜いて、崖から落ちて行った。
振り返ったジョーンの両目がアレハンドロの顔を睨んでいる。
「……そう怖い顔すんなってさ。な?」
アレハンドロが手を離すと、ジョーンは少しだけグラつき、
しかしすぐに持ち直した。
なおもアレハンドロに向けられる視線は冷たい。
「同僚を見るかよ、おい」
冗談っぽくアレハンドロがそう言ったぐらいじゃ、
ジョーンは動じない。
「あのな?
もし、俺が本当にスパイなら、とっくにパーディを殺してる。
……違うか?」
「下手に殺した足がつくから……
口から出任(でまか)せで誤魔化(ごまか)すつもりかもしれない」
「おいおい」
アレハンドロは苦笑した。
「どんだけ信用ねぇんだ……俺は」
ジョーンから顔を背けて、アレハンドロがそんな一言を。
「まぁ、ひとつだけ弁解しとくとだな……
別に敵のモビルスーツが分かったってのは、俺の手柄じゃねぇんだ」
「……どういうこと?」
「パーディから聞いてねぇのか?」
ジョーンは静かに頷く。
「何だよ……それ。せめて疑うなら、確認しろっての」
アレハンドロは両手をパタパタと左右に振った。
まるでペンギンのように。
「ホントはハサン先輩の手柄なんだ……
って、パーディのヤツがもう伝えてあるかと思ってたぜ。
まぁ……あの状態じゃムリか」
パーディはアーモリー・ワンの襲撃以来、
精神的に参ってしまっており、グナイセナウへの航路では、
オペレーター業務をこなしていなかった。
「……ハサン先輩がダーティから見つけたんだ。
アドゥカーフ・メカノインダストリー社のマークをね。
それのお陰で、すぐに調べがついた。
何がスゲェって、
アドゥカーフはダーティに社のマークつかってねぇんだよ。これが」
「……えっと、つまり、どういう?」
ジョーンが首をやや斜めに回す。
「アドゥカーフが使ってるマークじゃなくて、
社が利用している別ブランド、
それも、別事件でテロリストに強奪されたせいで潰された、
もう使われてないブランドのものなんだぜ?
そんなのを見つけたんだ、ハサン先輩は。
もう、死ぬって時にだよ?スゲェと思わねぇか?」
アレハンドロは嬉しそうで、しかし、どこか悔しそうでもあった。
「ワイリー先輩もだ……俺、思っちまったよ。
どうして、俺みてぇな出来損ないが無傷で生き残って、
あんなスゲェ2人が……なんてよ」
アレハンドロは体を横に向けた。
涙を溢しそうになっていたその顔を、ジョーンから遠ざけるように。
「……らしくも、ねぇのによ」
ジョーンから見えたアレハンドロの横顔は、
その口角が上がっていた。
笑顔。しかし、ジョーンにはそれがとても苦しそうに見えた。
「分かるよ……私にも」
そう答えるジョーンに、アレハンドロの表情が少し柔らかくなる。
もっとも、すぐにそれを隠すように顔を逸らしてしまったが。
「でも……まあ、起きちまったことはどうしようもねぇんだ。
結局、やるしかない。
生きているヤツは、生きているなりに。自分なりに、よ」
この後、アレハンドロは腰のホルスターから銃を抜いた。
拳銃の種類はトーラス・ジャッジ。
ジョーンは撃たれると思い、表情を曇らせたが、実際はその逆。
わざわざ目の前で弾を全部抜き、その場にボトボトと落とし、
「ほーら」
更に、空になった拳銃をジョーンの方に投げ渡したのだ。
ジョーンは驚いた表情そのままに、慌てて拳銃をキャッチする。
「……これで満足か?」
ジョーンはなおも複雑そうな表情を見せる。
「何だよ?まだ信じてくれない?」
ジョーンは静かに、フンと鼻を鼻を鳴らした。
「何か……それでも、完全には……」
そういう彼女の視線は、手元の拳銃の方にあった。
「あぁ……そうかい」
アレハンドロは振り返り、トボトボ歩き出した。
その足音に、パーディの顔が上がる。
「あぁ……しまったよ。折角、チャンスだと思ったのによぉ」
「……チャンス?」
小声で聞き返すジョーンに、アレハンドロの足が止まる。
「今なら、落とせるかと思ったんだがなぁ。畜生」
背中を向けたまま、右手で拳銃のような形を作り、
手首を曲げてジョーンに見せたかと思うと、すぐに引っ込めた。
その後は、何事もなかったようにそそくさと歩き去っていった。
「何よ……アイツ」
ジョーンの顔に笑顔が溢れた。
それを知ってか知らずか、闇に消えていく最中、
アレハンドロもまた、笑っていて……