機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
部屋から出たところで彼女は、
欠伸(あくび)を漏らし、遅れて口を被(おお)ったときには、
もう収まった後であった。
「……パーディ」
自身を呼ぶ声に、口を被ったままに向き直る。
そこにいたサムが立っている。彼女は驚いているらしい。
「おはよう」
そう笑いかけるパーディに、サムは顔を綻(ほころ)ばせ、
「おはよう」
と静かに頷いた。
食堂にいると廊下から二人の声が聞こえてくる。
「ヘンなんだよ、アイツ。ホントに」
パーディの声だ。
その声は結構大きく、
思わず、食堂にいたヴァイデフェルトがその手を止めた。
「わからないが……
アレハンドロなりの優しさなんじゃないか?それは」
サムの声がそれに続く。パーディの声が大きかったせいもあるが、
サムのそれは抑揚が小さく、冷静な印象を受ける。
そうして先に入ってきたのはパーディだった。
ヴァイデフェルトと目を合わせ、
「おっはよ!」
と笑いかける。
ヴァイデフェルトは離れていたからだろう、声には出さないながら、
微笑み、顔を合わせたままに首を斜めに傾け、会釈する。
同様にサムも手を挙げて挨拶した。
「アイツがそんな気回せるタイプには見えないけど……」
パーディの元気そうな声に、
ヴァイデフェルトの顔もどこか柔らかい表情となる。
続いて彼女が何気なく周囲を見渡せば、
外の景観を映し出す窓はどこか青みを帯びた光を部屋へと運び、
テレビは『故人(こじん)を訪ねて』の表題で、
2年前に亡くなった、コスタ・デ・ベロ特集を放送している。
ケイマンブラック島のジェラルド・スミス空港の傍らに建つ、
彼の墓が映る。
「どうしてるかな……副長」
ヴァイデフェルトの口からそんな言葉がついて出る。
そんな彼女の近くにパーディとサムが腰を下ろすのは、
そう呟いてすぐのことだった。
なお座る位置は、向かいにパーディ、右横にサムというもの。
「……また副長の話してるぅ~」
振り返るヴァイデフェルトに、
パーディが意地悪そうな笑みを見せる。
「ホントに好きだよねぇ」
「……えぇ?」
仄(ほのか)かに染まるヴァイデフェルトの頬。
「何で……それを?」
伏し目がちに尋ねる彼女の横で、
サムが玉子の殻を剥(む)く音が聞こえてくる。
「何でって訳じゃないけど……見てて分かるじゃん?ねぇ?」
パーディがサムの方にそう呼びかければ、
サムも作業そのままに顔を挙げ、コクりと頷く。
「そう……なんだ」
ヴァイデフェルトは顔を下げたまま、
右耳にかかる髪を持ち上げるようにサッと撫でた。
「確か……病院に行ったって話だったな?」
そう言うのはサム。
パーディは口に小さなクロワッサンをくわえたまま、
「……ふーん」
と少し唸った後で、クロワッサンを食い千切りと共に、
「そうなんだ……何のようで?」
そう答えた。
「何がって……パーディ、聞いてないのか?」
そう言って、サムはヴァイデフェルトの方に一度向き直る。
ヴァイデフェルトが遅れ気味に答える。
「……あぁ」
また玉子を口に運びながら。
「え?……何?なぁーに?」
パーディの軽い調子の問いに、
残りの2人は顔を見合わせ、回答に困った様子を見せる。
そんな様子を見れば、パーディもボリュームを下げ、
「あれ……何か聞いちゃまずいことだった?」
2人の顔を交互に確認する。
「まぁ……その」
「……重症なんだって、ワイリーさん」
目を見張るパーディ。
「えっ?マジで?」
ついつい大きくなるパーディの声。
ヴァイデフェルトが指を口にあてて、静かにと合図する。
その頃ともなると、徐々にだが、人が入ってきていた。
「命がどうこうとかではないが……両足がな……」
サムがヴァイデフェルトに顔を向けた。
サムの言葉は重く、釣られるように、
パーディもヴァイデフェルトも、言葉を失ってしまう。
ただ、少ししてからヴァイデフェルトが、
「そう言えば……アレハンドロくん、遅いね」
と話題を変えた。
「……いつものことじゃん?」
返事したパーディの顔には、先程までと同じ笑顔が戻っている。
「そう……かな?」
「朝練(あされん)だよ……アイツが言うには」
サムの言葉に、ヴァイデフェルトだけでなく、
パーディも驚いた表情を見せる。
「朝起きたら……モビルスーツデッキで、
模擬演習をするのがアイツの日課なんだ」
「へぇ……意外」
「……いつか、アスカ副長を倒すと息巻いてるそうだ」
フッと笑うパーディ。
「……言うじゃん」