機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
外へ出ると、そこにはダイ・フーディニーが控えていた。
それは、俺がスパイの運転手を補導した直後のこと。
曇り空の下、ダイが車のボンネットに浅く腰かけている。
車種は黒塗りのトヨタ・センチュリー。
迎えに来てもらっておいてだが、
マフィアにでもなったような気分で、何となく気乗りしない。
俺の顔を見たダイは一礼し、更に俺が近くまで来ると、
「……お疲れさまです」
と声をかけてきた。
「あぁ……」
静かに応じて、助手席に腰を下ろした。
横でドアの開く音が聞こえる中、俺はベルトを締める。
「どうします?……基地に向かいますか?」
「……あぁ。頼む」
車が動くに前後して、建物の外に立つ警備員の男性が、
わざわざ帽子を取り、頭を下げてきたから、
こちらも簡単にではあるが、会釈を返した。
「キレてましたよ?アルメイダ隊長……副長はどこ行ってるんだって」
「あの人は俺が嫌いなんだよ……ケイマンにいた時から、ずっと」
グナイセナウの道は混んでいた。渋滞ってヤツだ。
見えない程先にある信号が赤になったらしい。
前の車にも動きはない。
「あの頃の副長は確か……」
「アルメイダ中隊長の指揮下ではなかったが……
まあ、その前に、あの人の部下だった時期もある」
「……そうですか」
バックミラー越しに見るダイの顔がどこか不満そうに見えた。
「それより、うちの大将は会議サボったみたいだな」
「仮病を語って昨晩から女性を囲っているとの噂ですが……
本当のでしょうか?」
「有り得るよ…………あの人なら。
元首には多少媚びもするが、なにせ宇宙海賊上がり。
誰かも言ってたろ?『騎士団一の問題児』ってよ」
俺が苦笑したとき、ようやく列が動き出した。
「ルカーニア司令は戦術家としての手腕を買われてORDERに……
最近では人材発掘と育成の能力にも定評がありますが、
元々、クラウス・ゴトウダ国務委員長らと同じく、
ユニウス戦役後の反乱分子の摘発に功績にあったと聞きますが」
「摘発?」
そうして、ほとんど進まぬ内に、また車が止まってしまう。
「……虐殺か略奪の間違いだろ?」
ダイが顔を逸らす。
「戦後の混乱の中で……多くは目を瞑(つぶ)られたと聞きます。
ルカーニア司令が、
ラクス様から直接お叱りを受けた話は有名ですが、
それは氷山の一角に過ぎないとか」
「戦後……未解決の殺人事件が5年間で100件を越えたらしい。
どう考えても多すぎる。
それも大部分は、適当な理由をつけて、捜査を打ち切られてる」
話している内に、車がゆっくり動き出した。
「それが理由で、脱走兵に流れた者が出てるんだ。
本末転倒ってやつだよ……全く。
結果的には、一部の連中の小遣い稼ぎに過ぎなかった訳だ」
ため息が溢れた。
「アレハンドロが話してましたよ……
何が正しいか、分かったもんじゃないって」
そう話すダイは、なおも一向にこちらを向こうとはしない。
「だとしても……テロを認める訳には行かないだろ?
政治は政治が解決すべき問題だ。いくら腐ってても、
殺し合いでどうにかしていいことにはならない。絶対にだ」
やがて、三度目の停車。
ようやくダイがこちらに向き直り、告げた。
「どうなると思います?……これから」
「……アバウトな質問だな」
苦笑する俺に、ダイは真剣な表情を向けてくる。
「ルカーニアは怠惰な男だが、
何の考えもなしに行動しているとは考えにくい。
ヤツにはヤツなりの計算があるハズだ」
「……例えば?」
「それが分かるなら、今頃、俺はORDERの椅子に座ってるさ」
瞬きをした。そして、だらりとシートにもたれかかる。
「色んな可能性が考えられるからな……なってみたいことには何も。
ルカーニアだけじゃない。脱走兵の連中がどう動くかも分からない。
ひとまず……映像で確認したい。
連中の戦い方について、冷静に分析しておく必要がある。
基地に着いたら、モニタールームに向かってくれ」
「はい」
ダイの返事は力強いものだったが、
当の車はまだ、渋滞の中で埋もれ、動かないでいた。