機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
その頃、当の会議室では。
閉ざされたブラインドの隙間から漏れる陽光は弱く、
部屋は電灯が照らしている。
4つのイスがそれに合わせる高さの長方形型のテーブルを、
左右から取り囲む形で並んでいる構図。
このとき、ルシア・アルメイダは入り口側・左のイスに座った。
ヨーゼフ・スコルツェニーは、部屋の右奥におり、
コーヒーを注いでいる。そのまま、
「アーモリー・ワンの件、とんだ災難でしたね」
と話し出す。首を回し、少しだけアルメイダの顔を見ながら。
「ええ……」
間もなく、コーヒーは注ぎ終わった。スコルツェニーは向き直り、
アルメイダの席の前へと進む。両手には2つのコーヒーカップ。
その片方を彼女の前に押し出すように置き、
もう片方は向かいの席に。
そうして自身もまた、向かいの席へと腰を下ろしたスコルツェニー。
座ってすぐ彼は、フゥと息を漏らした。
「どうぞ」
掌を開き、コーヒーを勧める。
「……すみません」
アルメイダは一礼すると、
持ち手に外側から軽く指を添え、カップを持ち上げた。
「いえ」
目を閉じたスコルツェニー。
アルメイダは少しコーヒーに口をつけたが、すぐに顔を上げた。
「ところで……本日はどのようなご用向きで?」
「はい……そのことなんですが」
スコルツェニーは持ち手に指を入れると、
真っ直ぐ口元へ運び、微かにだがその音を立てながら、
コーヒーを啜(すす)った。
その後、彼がカップをテーブルに置いたとき、
中身は3分の1近くが減っていた。
時間としても、4、5秒程度はかけていたろう。
ようやく語り出すスコルツェニー。
その手は今日も、あの羽冠のごとき頭頂部に触れていた。
「……今からする話は、あくまでも『要請』であって、
『命令』ではないこと……まず、これを理解していただきたい」
ようやく、スコルツェニーがこう切り出した。
アルメイダは少し困った様子で、少し遅れ気味に、
「は……い」
と応じ、カップを音を立てぬようゆっくりテーブルに置いた。
そんな彼女の背後で、ドアが静かに開き始める。
スコルツェニーの顔が少し上がり、
アルメイダもまた、勢いよく振り返る。
それはもう、彼女のピンク色の髪がほんの一瞬だが、
風にその身を乗せて揺れる鯉のぼりがごとく、はためいていた。
会議室のドアを開けば、ルシア・アルメイダの黒い頭頂部と、
ヨーゼフ・スコルツェニーの顔が見える。
2、3秒程度。声には出さないが、舌打ちするような顔付きで、
振り返ったアルメイダは睨(にら)んでいた。
「参謀長!……これは、失礼しました」
ここへ向かう途中で、廊下を歩いていたスコルツェニーの、
対角線上を一人の男が歩いてきた。
それは白い口髭を蓄え、
キャバリア犬のような明るい茶髪のおさげ髪をした紳士だ。
スコルツェニーと目が合うと、一礼し、すれ違い様、
「……お勤め御苦労様です」
と小声で笑いかけた。
そこから、互いに背を向けた構図で、
2、3歩、踏み出したところだったか。
スコルツェニーは立ち止まり、
「貴殿は何時まで、プラントに滞在なさるおつもりか?
ヴァレフスキ司令」
そう彼を呼び止める。ヴァレフスキは振り返る。
「すぐに帰るつもりだったのですが……
元首様のご気分が優れない様子で、ほって置くには忍びなく」
そこまで言うと、ヴァレフスカは自身の後ろ髪を撫でた。
「……まぁ、今回の会議のことで、今に帰国すれば、
皆様にいらぬ誤解を招きかねないと思い、
しばしば、様子を見ておこうかと……そういったこともありまして」
ヴァレフスキが顔を下げる。
「貴殿は何故、毎日のようにラクス様をお尋ねになるのか?
失礼ながら……少々、疑問に思っておりましてね」
話の終わりで、とってつけたような笑顔を浮かべ、
スコルツェニーがようやく振り返った。
「理由……ですか。それは、考えていませんでしたねぇ」
ヴァレフスキは笑う。
しかし、スコルツェニーが何も言わず、
微妙な表情で彼を見続けるものだから、
ヴァレフスキも顔色を変えて、
「何か……不都合でも?」
と、そう尋ね返す。
「……いえ。そのようなことは」
スコルツェニーは振り返った。ヴァレフスキに背を向けるように。
「ただ……あまりの入り浸(びた)りように、
御二人の仲を邪推(じゃすい)するものもいるようで……
身の振り方は、よくお考えいただきたいものですな」
「……ご忠告、感謝いたします」
ヴァレフスキはまた一礼。
「それでは……私はこれで」
そう笑顔で答え、
踵を返したヴァレフスキはその場を去っていった。
後には、
「……チッ」
と舌打ちすると共に、
ポケットの奥に手を伸ばし、
スマートフォンの録音をやめるスコルツェニーの姿があった。