機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS   作:申業

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「……はい」
そう答えたヴァイデフェルトの顔は、何故だか妙に不安げだった。
とにかく俺は先に部屋を出た。
ドアの前でヴァイデフェルトを確認。立ち止まる彼女へ、
首を斜めに振って、外へ出るよう合図する。
さて廊下はほの暗い。
昼下がりということで、けして見ることに苦労する程ではないが。
ただ、文字通りの暗雲が立ち込めて、
太陽光線をいくらか遮っているようなのだ。
なお見える範囲に、俺たちの他に人もいない。
「誰だ……客ってのはな」
そう尋ねたとき、俺はぼんやりと窓の外を眺めていた。
ヴァイデフェルトは辺りに誰もいないのを改めて確認し、
少し背伸びをして、俺の耳元に口を寄せ、
「参謀長です」
と囁(ささやく)く。
俺が振り返るに合わせて、彼女は一歩下がり、俯いた。
「副長には……知らせたくないみたいなんですが」
上目遣いでこちらの表情を窺うヴァイデフェルト。
「だったら……何で知らせた?」
自嘲なのか皮肉なのか分かったものではないが、
とにかくそんな一癖ある笑い方でこれに答えれば、
「……お役に立ちたいんです!副長の!」
らしくないくらい力強い声で、そんな言葉が飛んでくる。
ただ、当の本人もそれが意外だったらしく、
数秒して頬を赤らめ、
「……すみません」
などと頭を垂れるもので、俺の口からは溜め息が漏れた。 
「……ピストル持ってるか?」
「…え?」
さりげなく、俺も俺でホルスターの中を確認した。
SIG SAUER P220がそこには確かにある。
「あっ……はい」
返事をしたヴァイデフェルトは、
ホルスターから抜いた拳銃─H&K P2000─を、
こちらに見せる。俺はゆっくりと立ち上がると、
「それなら……射撃場に行くつもりだったってことで、
偶然を装(よそお)って、会議室に行くか」
「……はい」
わざわざ敬礼してみせるヴァイデフェルトの姿。
俺は微笑まずにはいられなかった。今度は嫌味もなく。


PHASE-09 シン・アスカ(1/7)

会議室のドアを開けると、ルシア・アルメイダの黒い頭頂部と、

ヨーゼフ・スコルツェニーの顔が見えた。

2、3秒程度。声には出さないが、舌打ちするような顔付きで、

振り返ったアルメイダは睨(にら)んでいる。

「参謀長!……これは、失礼しました」

馴れないことながら、俺は作り笑いを浮かべてみせる。

無駄に敬礼なんかしちゃってさ。

「射撃場に向かっていたところ……

アルメイダ中隊長のお声を聞きまして。こちらに着いてから、

まだご挨拶(あいさつ)できていなかったもので、

顔を出しておこうと思ったのですが……」

どうにも嘘が下手だと我ながら思った。

平生の自分と比べて、喋り過ぎているのだから。

少しの沈黙を経て、スコルツェニーの方から会釈をしてきた。

こちらも会釈を返し、

「……これは、どういった状況で?」

こう言うのである。

「少し、アルメイダ中隊長にお話がありまして。

アナタは確か……アスカ副長、でしたな?」

「ええ」

「貴方にも……無関係なお話ではない。こちらへ」

スコルツェニーは、アルメイダの隣を手で指し示す。

ここに座れと、そう言いたいのだろう。

アルメイダの口は、帰れ、と動いて見えたが、

気付かないフリをした。

「いえ……自分は……」

と少し頭を下げ、アルメイダの後ろに立った。

「……ここで、聞かせていただきたい」

この間、ヴァイデフェルトはどうしていたのか。

確認する余裕は俺にはなかった。ともかく、俺が動いた直後、

「……アナタは外れてくれていいわ」

アルメイダは声だけは優しげに告げる。

視線の先はヴァイデフェルト。

「……えっ?」

とヴァイデフェルトがアルメイダの方を確認すると、

彼女は正しく鬼の形相でヴァイデフェルトを見ていた。

ヴァイデフェルトは一度俺の顔色を窺い、

「下がった方がいい」

と小声で言いつつ、俺が首を縦に振ったところで、

「はっ……はい」

と答えて退出。

その後、俺にも睨みを効かせる。

黙っていろと、そう言いたいのだろう。

俺はスコルツェニー、アルメイダの両氏から、視線を外した。

「……脱走兵について。本日の用件は、近々予定しております、

次なる出兵に、アルメイダ隊の皆さまにも、ご出馬いただきたく」

斜め後ろから横顔を見ていただけだったが、そこからでも、

アルメイダの表情の変化は窺えた。笑顔が消え、神妙な顔付きに。

そのまま数秒程度の沈黙を経て、自らの頬を軽く撫でたかと思うと、

「それは……すぐには返答しかねますね」

と笑いかけた。だが、先程とは性質が異なる。作り笑いだ。

「……わかります。おっしゃりたいことは。

ほんの3日前、アーモリー・ワンを襲った脱走兵の被害は、

無視できるものではありませんし、

サーベラス隊のことも、聞き及んでいます」

スコルツェニーは顔を下げる。次に彼が息を軽く吐いたところ、

無言の室内に思いの外、はっきり聞こえた。

「ひとつ……御伺(おうかが)いしても?」

「どうぞ」

「命令ではなく、要請だとおっしゃいましたが、それは……

どういうことでしょうか?」

アルメイダの作り笑いが続いている。

「……確かに、私の側から命令を出し、

アルメイダ中隊を無理矢理出兵させるということも、

出来なくはないのですが、今回のケースでは、それよりも、

自主的に手を挙げていただけることが、望ましい……

と、判断しまして」

時折、相手の表情を確認する様子はあったものの、

概ねスコルツェニーは顔を下げたまま話していた。

「……連中の主張は、ラクス様の排斥。

それも、武力に訴えかけるよりは、ラクス様の非を説き、

大衆を味方につけたいようで、

それならば、こちらも上から強引に従わせるより、

部隊長自ら、ラクス様の為に立ち上がると……

それだけでも、脱走兵側に一矢報いることができるものかと」

俺の脳裏をサクラというフレーズが過った。

後ろから見える、アルメイダの表情もどこか硬い印象を受けるが、

俺も俺できっと、いい顔はしていなかったろう。

「……無論、ただでというつもりはありません」

そう言うとスコルツェニーは、

ゆっくりと腰を上げ、アルメイダの耳元へと顔を寄せた。

「ここだけのお話にしていただきたい……」

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