機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
「詳しいお話は……また日を改めて」
そこまで話し、一礼したスコルツェニーは、
出口の方へと歩き出した。去り際、俺に、
「……先の2度の戦いで、
アルメイダ中隊はモビルスーツを数機失われたと、
窺(うかが)いましたので、こちらで用意させていただきました。
開発中だった新型です……お役に立てれば」
こう言うのだ。実に、胡散臭(うさんくさ)い笑顔で。
「……ありがとうございます」
とこちらは一礼。
「いえいえ……私はアナタにも期待しているのです。
南米には、アナタも想いを残しておいででしょうから……」
スコルツェニーは笑っていた。それは変わらない。
ただ、このときだけ、上記の言葉を囁いたほんの数秒の間だけ、
その笑みに侮蔑(ぶべつ)と皮肉を織り混ぜていた。
それがただ微(かす)かに見上げ、見つめるだけでも分かった。
「……また、お会いしましょう」
そうしてスコルツェニーが部屋を去るまで、俺は顔を上げなかった。
ドアの閉まる音がして、足音も聞こえなくなった頃、
俺はゆっくりと顔を上げた。
そこには険しい表情で腕を組む、アルメイダの姿があった。
ずけずけとこちらに歩み寄ると、
「……立場を弁えることね」
とだけ言い残した。吐き捨てるように。
そうして、彼女もまた去っていった。
モビルスーツデッキに向かうと、スコルツェニーの話通り、
見慣れないモビルスーツがそこにはあった。
それも、
「……フリーダム」
なんて俺が呟く程、よく似ていた。『ZGMF-X10A フリーダム』に。
上向きに真っ直ぐ伸びた2本と、それぞれが左と右へと伸びる2本。
カニの鋏(はさみ)みたいに折り畳まれた背中の両翼。
全てが同じではないが、よく似ている。フリーダムに。
実際にフリーダム自体が戦ったのは7年前が最後で、撃墜され、
その後の活躍は後継機の『ZGMF-X20A ストライクフリーダム』や、
更に後継機の『ZGMF-X30A アルティメットフリーダム』に、
譲ることとはなったが、今なおその「伝説」、その人気は衰えない。
核エンジンが産み出す圧倒的なエネルギーを武器に、
当時のトップレベルの武装を余すことなく搭載、
単機にして戦局を優に覆し得る力を持った驚くべき機体。
その奇特なるモビルスーツが今、俺の目の前に立っているのである。
7年のブランクを消し飛ばすように。
それはもう7年前、いや10年前にオーブの空に見た、
偉大にして恐るべき存在のままに。
居並ぶジズの中で、異彩を放つソイツには、
その物珍しさからか、人だかりが出来ている。
メカニックもパイロットも、はてはオペレーターなども。
真っ先に俺に気付いたのは、ヴァイデフェルトだった。
「……副長だ!道を開けてくれ!」
直後、誰かの叫びに応じて、何人もの隊員が振り返り、
海が割れるように、ひと一人が通れるほどの隙間を開けてくれる。
開いてくれた道を進むこと、5歩とか、6歩とか。
左手側にいたダイが、こちらにバインダーを差し出した。
それはダイいわく、
「データです……この機体、
『ZGMF-X40A1 ヴェスティージ』の」
だという。話を聞いてから、バインダーを受け取ると、
そこには確かに載っていた。
目の前にいるヴェスティージは、起動する前だから灰色一色だが、
資料の上に挟まれた写真には、白と青を基調とした姿で映っている。
サッと、2枚目、3枚目とめくりながら、
緩慢(かんまん)な歩みでヴェスティージに近付く。
一応、全部の資料に目を通した頃、
俺の足も機体のすぐ側まで来ていた。
「……幸先がいいというか、なんと言うか」
後ろでそんなダイの声がした。とても嬉しそうだ。
「ジズなんかとは比べ物にならない……高性能機ですよ、これ。
これなら、どんな敵が来ても大丈夫ですね」
書類から手を離し、バインダーを下ろした。
見上げたヴェスティージの顔は……何故だか、
妙に悲しげに見えた。俺はごく小さな声で言った。
「俺がフリーダムに……か」
苦笑せずにはいられなかった。誰にも聞こえないことを祈ったが、
いつの間にか傍らにいたヴァイデフェルトに聞こえたらしい。
複雑な表情でこちらを見ているのが分かった……