機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
そこまで見届けると、
パーディはマイクつきのヘッドホンを取り、テーブルの端へ置く。
それから両手の指を組んで、両腕を上に伸ばし、
伸ばせるだけ伸ばすと、
ゆっくりと胸の前に下ろし、組んだ指をほどいた。
そして、
「……フゥ」
と息をついた。
そこから、左手首を返す。左手には、腕時計がはめられている。
バンドの部分が色鮮やかなミサンガで、
文字盤にも月が描かれた派手な金色の腕時計が。
「えっ……まだ、10時25分?ウソでしょ?」
慌てて彼女が画面を見ると、隅に12:11との文字が確認できる。
「マジ焦った……」
パーディは時計を外し、
ヘッドホンを置いた横へ、文字盤を下にしてゆっくりと置いた。
それから、だらしなく、背もたれに身を預ける。
いつの間にやら画面は切り替わり、
縦横に均等な線が引かれた紫の扇形が出ている。
どうやら、レーダーらしい。下部にグレーの丸い点が映っており、
そこに矢印がされ、《ZGMF-X56SR-2》と出ている。
「……あー、暇」
彼女がそう漏らした直後、背中でドアが開く音がした。
振り返ると、見えたのはブドウ色の髪。
入ってすぐは少し前屈みだったが、顔を上げていくに連れ、
ブドウ色の毛に下に白い毛が少し揺れた拍子に垣間見える。
そんな風貌の小柄な男性がそこには立っていた。
そのピンク色の眼で、辺りを見渡し、女性の姿を確認すると、
缶コーヒーを握った右手を上げて、
「……よぉ!パーディ」
と声をかける。口を横に開いて、目を細めて笑いながら。
パーディと呼ばれた女性は、少し呆れた様子で、
「……何よ?アレハンドロ」
と答える。アレハンドロは鼻で笑うと、
「いやぁ~ねぇ……寝れないから、様子見に」
などと、パーディの方へと歩み寄る。
「お姉ちゃんたちと楽しいことしたから……
興奮して寝れないとかでしょ?どうせ」
「いや~ねぇ~……スゴかったぜ?もうこんな……」
そう笑うアレハンドロは、
胸の前で縦向きに大きく円を描くように腕を振っている。
「……アンタねぇ」
と漏らすパーディ。ふとアレハンドロが彼女の方に向くと、
パーディの胸の脂肪が、
テーブルに少し押し潰されながら乗っているのが確認できた。
「おっと……こちらも中々にぃ……」
そう漏らすアレハンドロに、パーディは、
「……キモい」
とだけ言って、少しなオーバーな動きで向き直り、
アレハンドロに背を向けた。
「冗談だってば……パーディ。そう言うなって」
「いいから寝ときなさいよ……
どうせ、酒気帯で戦えないんだろうし」
フンと鼻を鳴らすパーディに、アレハンドロは、
「……飲んでねぇよ。一滴たりともな」
「……え?」
「まあ、そう邪険(じゃけん)に扱うなっての。
俺から差し入れもあるんだし」
「……差し入れ?」
パーディが振り返ろうとしたとき、
もうすぐ後ろまで来ていたアレハンドロが、
その首筋に缶コーヒーを押し当てた。相当冷えていたのだろう、
「ひゃっ」
などといった甲高い声を上げ、パーディが両手を首にあてる。
アレハンドロは後ろでハハハッと笑っている。
パーディが頬を赤らめ、また眉をひそめ、振り返ったとき、
アレハンドロは、
「コーヒーだぞぉ?」
と笑ったまま、彼女の前に手を突き出し、軽く左右に揺らした。
その後、缶コーヒーは、画面の脇の狭い縁の部分に置かれた。
続けてアレハンドロは、その場でゆっくりと回り、
左手をポケットに突っ込み、別の缶を取り出した。
プルタブに手をかけたところで一言、
「しっかし……夜勤は大変だなぁ。彼氏とデートも出来ねぇじゃん」
そう呟く。カチッという蓋の開く音がする。
「……なにそれ、彼氏いないアタシへの当て付け?」
パーディの聞き返す声に続いて、プシューという泡の立つ音がした。
炭酸飲料らしい。
「あぁ……そうだっけ?」
とアレハンドロはニヤッと笑う。
「……わざとらしい」
パーディがそう漏らしつつ、目を反らした直後、
茶色っぽい泡が缶の穴から涌き出てきて、
アレハンドロは慌てて口を蓋のようにつけた。
そこから少し啜(すす)った後で、口を離し、話を続ける。
「なんなら、俺が付き合……」
半笑い気味に言いかけたところで、パーディが振り返る。
「……それはない」
語調は、「ない」の部分を強める言い方で。
青緑色をした目を細め、ジトッとアレハンドロを見る。
「なんだよ……つれねぇなぁ」
アレハンドロは缶を振り上げるようにして、グイッと飲んだ。
「まあ、冗談はさておきだ……」
アレハンドロの顔つきが変わる。
それを見たパーディの目も、少し大きくなる。
「いいのかねぇ……こんなに不用心で」
缶を軽く揺する。
それに合わせて、中の炭酸飲料がピチャピチャと音を立てた。
音は軽い。中身はもう少ないようだ。
「不用心?」
「……ああ」
「どういう意味?」
答えるより先に、アレハンドロは残りを一気に飲み干してしまった。
「いくら夜間とはいえ……
ブリッジには1人、巡回するモビルスーツも1機、
不用心とは思わねぇか?いくらなんでも」
そう言うアレハンドロは、まだ缶から口を離そうとはしないまま。
「しょうがないでしょ?……夜間なんだから」
「……そんな事情、敵さんが配慮してくれるのかよ?」
空になった缶をアレハンドロが握り潰せば、
その音は静かなブリッジ内に思いの他、大きく響いた。
「だから……自分が見に来たって言いたい訳?」
「まあ……そんなとこかなぁ~」
アレハンドロはニヤッとまた歯を見せて笑いながら、
首を右に少し回し、ゆっくり缶を口元から遠ざけた。
「……それだけじゃ、ねぇけどな」
アレハンドロがそう漏らした直後、それは起こった。
警告音が鳴り響く。耳障りな程、大きな音で。
……例のレーダーに反応が出たのである。
パーディは慌てて、ヘッドホンを手に取る。
マゼンタ色をして、ポニテールに束ねられた彼女の髪の、
白に黒のドットが入った柄のシュシュの部分へ、
丁度ヘッドバンドが当たるように、
ヘッドホンがつけられた。
続けて、マイクを口元に寄せる。
「ハサン先輩!……返事をしてください!先輩!」