機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
その日の夜のこと。場所は会議室だが、流石に状況はまるで違う。
ブラインドの奥に見えるのは三日月で、
スコルツェニーが腰かけていた場所にはダイが座っている。
入り口から室内を見るとすれば、
ダイの向かいに座る逆立った髪の後ろ姿が確認できるだろう。
淡い水色の髪の上に、
ペンで線を引いたように見えるネイビーのメッシュが入っている。
彼女もまたコーヒーを飲んでいた。
癖のなのだろうか、飲む際に彼女は横を向く。この時は右に。
この所作に背後に立つ者とは、横顔で顔を合わせることとなる。
もっとも、このとき、そんな人物はいないのだが。
とにかく彼女のじっとりした半目の青い眼と、
鷲のように高い鼻とがそちらにも見える位置にあった。
それには違いない。
「……『ヘブンズ・キー局』の人間の証言です。
信憑(しんぴょう)は高いかと」
ダイがそう告げれば、そんな彼女の顔もそちらへと移される。
「どう思われますか?……ハビエル副艦長」
ハビエルはコーヒーカップをゆっくりテーブルに置くと、
「どうと言われてもねぇ……流行り病は恐ろしいわね、としか」
そう苦笑する。
「……流石に、ラクス様がそれとは思わなかったけど」
「まだ確定ではありませんが、
視力の低下から始まったことを考えると、その可能性は高いかと」
カップより離れたハビエルの指が額へと向けられ、
少し高度を下げて、眉間を2、3度ばかり軽くつつく。
「……手負いの女神様って訳か。参謀長が幅を効かすハズね」
ダイはその生来の落ち着いた性分に矛盾しない程度に、
少しだけ目を丸くして、ただ無言で見つめ返した。
「あっ、知らないんだっけ?」
ハビエルの問いに、
「お恥ずかしいながら」
と頭を垂れるダイ。
「いや……昼、参謀長がいらっしゃってたんだけど……」
腕を下げるハビエル。
「それは知ってますが」
「……そこで、討伐任務への参加を提案されたんだってさ」
「……はぁ」
ダイは首を傾(かし)げる。
「何故、そのようなこと……」
「まぁ、考えられるのは、主導権争いってことよね」
下げられたハビエルの右腕は、今は背中へ回されて、
左腕に掴まれている。
「……参謀長は『要請』という言葉を強調していた。
あくまでも『命令』ではなくて『要請』なんだってね。
この意味、わかる?」
ダイが首にアゴをつける程度に、軽く頷く。
「参謀長から我々に『命令』を下すとすれば、
管轄のORDER……ヴィトー・ルカーニアの同意が必要になる。
ORDERと参謀長では、参謀長の方が格式でこそ上ですが、
実質的には対等。
こと直接の戦力の有無のみに話を限定するならば、
直属の軍隊を持たない参謀長の方が不利とさえいえる」
「……つまり?」
「これが『要請』の名目なら、
参謀長からルカーニア司令に同意を求める必要性がなくなり、
司令は『志願』した我々の出兵を拒めなくなる。
いや、拒むこともできますが、テロリスト打倒の大義がある以上、
拒めば『円卓会議』での立場とラクス様の心証をなお悪くする。
対して参謀長の立場から見れば、
直接自身が『命令』していない以上、足がつかない。
アルメイダ隊への訪問にしろ、部隊の慰安だったで言い訳がつく。
そして討伐任務ともなれば、
各方面の防衛という任務があるORDERよりも、
参謀長が担(かつ)がれる可能性が高い。
結果的に、参謀長は『何もせずに』大部隊の指揮権を得られる」
ふとダイが相手の顔色を窺えば、
ハビエルの唇の右端が結ばれ、皺(しわ)が寄っている。
「……話が長い」
ハビエルがぼやく。
「まぁ……それだけでもないんだけどね」
「はい?」
ハビエルが今度は左腕を上げ、左の耳回りの髪を上向きに撫でると、
その髪は妙に堅く、撫でた流れがそのまま髪を逆立たせた。
「とりあえず……アスカはどこいんのよ?」
「モビルスーツデッキです……例の新型の模擬演習中かと
アナウンスが流れる。
『これより、
「ZGMF-X40A1 ヴェスティージ」の模擬演習を開始します』
直後、真っ暗だった正面が明るくなり、町並みが現れる。
見渡すと、少し離れたところに3機のモビルスーツを発見できた。
左手側にソードインパルス、右手側にはブラストインパルス、
正面にフォースインパルスという3機が。