機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
それから休憩室の、自販機の傍らで缶コーヒーを飲んでいると、
「……シン」
と比較的小さな声で呼び止められた。慌てて振り返り、
「トライン大隊長……お久しぶりです」
と一礼する。
相手のフルネームはアーサー・トライン。
彼とは、7年前の戦役以来、古い付き合いになる。
「そんな、よしてくれよ……僕は大した人間じゃない」
彼はその場で帽子を取ると、少し微笑んた。
「……いえ」
トライン隊長が自販機へと寄っていくから、道を開ける。
「聞いたよ……一昨日に来たんだってね。ご苦労様。
元々、アルメイダ中隊は警備を任されたと聞いているが」
「ありがとうございます。トライン隊も、でありますか?」
「……そうなんだけど」
缶の落ちてくる音。
「うちは本来はバーテルソン司令の管轄でね」
屈んで缶を取る。
動きながら喋るから、声が少し上擦った。
「念の為にと、司令から指示を受けたんだ」
プルタブを摘まんで、缶を開ける。
炭酸だったもので、泡が溢れ出て、慌てて口をつけるトライン隊長。
それが落ち着いたところで、話を再開する。
「今回の話……参謀長の要請があったと聞いたけど」
「……お答えできません」
「えっ?」
トライン隊長の間抜けな返事。
「……他言するなと言われたので」
こちらが伏し目がちに応じれば、トライン隊長も表情を曇らせた。
「あぁ……大変だな」
その点については、俺は何も答えなかった。
「それじゃ、これは……ここだけの話ってことになるかな」
ゆっくりとした口調で、かつ小さな声でそう言うトライン隊長。
心なしか、少し前屈みになっている。
「……オーブ戦役のときのことなんだけど」
「はい」
「除隊したエヴァ・ロンメルがORDERだった時代に、
立案した作戦を無視されかけたことがあって、
そのときは、参謀長の部下さんがそれを見つけて、
上に提言したことで、まあ、事なきを得たそうなんだけど……
彼にはそういう、なんというか、嫉妬深いというか、
自分の権力に固執する傾向がある……って噂なんだけど」
言い終わったタイミングで、目を見合わせた。
「……まあ、単に見落としていたってことにはなったんだけど、
参謀長ほどの人だ。そんなミスをするとは……とても。
ロンメルの今を考えても、正直……」
何か答えねばと、そう思ったものの、言葉が出てこない。
「俺の口からは……何も」
思わず、目を逸らしてしまった。
「……そうか」
ひと呼吸置いて、トライン隊長は、
「……くれぐれも、気をつけてね」
と言い残し、その場を去ろうとした。
そんな時だった。地が揺れ始めたのは。
体勢を崩しかけるほどに、激しく揺れたかと思えば、
直後にアナウンスが鳴り響いた。
『……コンディション・レッド発令!
現在、グナイゼナウは、外部より攻撃を受けている。
各員、持ち場に急げ!』
「攻撃ィ?」
トライン隊長の声が裏返った。
「ひとまず……急ぎましょう!」
「あっ……ああっ」
互いの母艦は逆方向にあった。
俺はトライン隊長と別れ、『フレイヤ』に急行した。