機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS   作:申業

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「畜生……狙いは悪くないと思ったんだが……」
アレハンドロの漏らす言葉に、
『言ってる場合か。来るぞ!備えろ!』
ダイがそう咎(とが)める。
「んなこたぁ分かってる!」
そう答えた直後にはクールカのアダガより放たれたビームが、
アレハンドロの足元に降り注いだ。
ただし、アレハンドロは直撃のギリギリで1歩前に出て、
これを回避したから、その反論も嘘ではなかった。
「……アイツ、今度こそ!」
赤きアダガを見上げる青きアビス。
かつこのアダガの背後には、
青い青い空が一見すれば限りない程に広く広がっている。
更に奥、白く白く輝いていた太陽が今、
舞い降りるアダガの肉体に隠れてしまった。
こうなると、アダガの体は後光が光の翼のように照らしつつも、
その赤いボディ自体は、
酸素を失いやや黒っぽくなった静脈血のごとく、
どこか力なき色として見えた。
丁度、そのとき、
「……くらえ!この野郎」
との掛け声と共に、
アビスは全身の火器という火器を一斉に空へ向けて放った。


PHASE-10 強行突破(4/7)

アレハンドロが下から攻撃を加えれば、

横からも10機あまりのジズが脱走兵らを襲う。

ただし、彼らがクールカらの下にたどり着くことはできなかった。

突如暗い煙に覆われた何かが、

高速で舞い降りてきて、ジズのうちの1機の上に着地。

煙はやがてダーティという本性を現して直後、

背中のビーム砲で近場にいた別のジズを撃ち殺すと、

ビームの爪で、下のジズも引き裂いてから、

一度大きく飛び上がった。

ある2機のジズが接近してダーティを攻撃するが、

例によって機動力の差で着いていくことさえ敵わず、

しかもうちの1機が下半身のビームで撃ち殺されてしまった。

次いでジズの群れがダーティに向かうもここでも機動力の差。

あっさり上に逃れられ、両腕のビーム攻撃を撃ち込まれる。

それでも、一度はシールドを張ってこれに耐えた。

ただし、それも一度だけ。

ワイヤーで延びた両腕がシールドの隙間を抜いて、

ビームを撃ち込もうものなら、中央辺りにいたジズはやられ、

その隙間に捩じ込むように入ったダーティに、

抱き寄せられるように両腕で絡め取られ、

下半身のビーム砲、背中のビーム砲、そして両腕の爪で、

ほんの数秒にして壊滅。

生き残った1機のジズが、

ビーム砲で反撃を試みたが、機動力に加え、隙もでかい。

あっさり避けられると、平手を打つように、腕をぶつけられ、

光の爪に切り刻まれる運命であった。

『クックッ………』

唾が泡立つような不快な音を出しつつ、

ダーティのパイロットが笑う声が聞こえてくる。

しかし、攻撃がそれで終わりという訳ではない。

散ったジズらの爆煙に紛れて、

一発のビームがダーティへと届けられる。

油断からか、本来なら避けられる程度のこの攻撃を、

ダーティはモロに食らってしまった。

ビームが下半身に直撃。

左腿部の砲台のある部分に命中し、

ダメージこそ小さいが、見た目には派手に誘爆。

ついついジョーンも、

『スゴいよ!サム』

などと口走った。

この直後、煙が晴れると、

そこにはカオスの機動兵装ポッドがあった。

そう、ダーティに一矢を報いたのはこのポッド、

ひいてはそのパイロットたるサムであった。

ただ本人はというと、

「……喜んでいる余裕はなさそうだ」

と意外に冷静なのである。

なにせ、これから数秒後には、

煙を上げるのも気にせず前に出たダーティによって、

後退させようと動くも間に合わず、

ポッドはその爪によって切り裂かれ、破壊されてしまうのだから。

ダーティの片目はキョロキョロと周囲を見渡している。

前から左側、そして後ろへと。

顔自体も、動く左目の視覚となる右方面に向けられており、

全方位に対して抜かりない。

だから、すぐに見つけられてしまった。

ダーティより上477メートル、右1826メートル離れた場所に、

変形して航空形態となったカオスを土台にして、

人形で膝をつき、ビームライフルにてダーティを狙う、

ガイアの姿が。

「……気付いたか」

サムは見えないように上唇で歯を隠しながら下唇を噛んだ。

丁度、口が鳥のクチバシみたいに尖(とが)っている。

『どうするの?』

「……避けるに決まっている」

言ったときにも、もう動いていた。

ダーティの股から放出される大出力のビームが飛んでくる。

カオスはビームシールドを張りつつ、

左に体を傾けて攻撃を避ける。

「ジョーン、掴まってろ」

カオスの体はやや傾いたまま、斜め下向きに、

ダーティへは距離を取りつつ、やや高度を下げていく。

その間、ガイアはビームライフルで撃ちかけたが、

流石に狙いがつかず、当たらない。

それから適当なところで、両肩の側についていた、

残り2基のポッドを機体より分離する。

「……副長の指示を忘れるな。

撃墜は目的じゃない。あくまでも、生き残ることだ。

分かってるよな?」

『うん』

即答するジョーンに、

数日前に怯え戦(おのの)いた人物の面影はない。

その冷静な性格ゆえにそう大きなリアクションではないながら、

一瞬、サムは言葉を失っていた。

噛み締めた唇が小指の先の大きさぐらいには開いて、

それから、その口角がゆっくりと上がった。

「……行くか」


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