機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
そのとき、リョウはなおもコクピットの中にいた。
画面脇のオレンジ色の背景をした棒グラフ状のメーターが、
縦方向に伸びたり縮んだりして。
しばらく見ていれば分かるが、それはどうやら、
音の大きさに合わせて、長さを変えているらしく、
数人の人間の声を無線で次々拾っていたコクピットでは、
メーターはある程度の長さを維持しつつ、
多少長さが変わる程度に収まっていた。
さて拾っていた声というのは、以下のものである。
『……敵機接近!
この形態、データにはない合致する機体はありません』
まず、そんな若い男性の声が響いた。
『噂の新型ですか……早速(さっそく)』
その声に、リョウは小さく、
「ホルローギン……さん」
と反応したが、聞こえなかったのか、
リョウの方の音声が発信されない状態だったのか、
とにかくホルローギンの方に反応はない。
『……どうされますか?クールカ隊長』
ホルローギンの問いに、ヤンは。
『愚問だ。
如何に性能的に優れていようと、相手は単機。勝算はある。
迎え撃つだけのこと……モビルスーツ部隊を出せ!』
その力強い声に、ついついリョウも歯を食い縛(しば)った。
ただ、その直後、
『……うふふ』
との女性の笑い声に、その表情は崩されることとなるが。
リョウの背に走ったのは、奇妙な悪寒(おかん)。
ただ、声を聞いただけにも関わらず、
誰かに見られているような感覚に襲われる。
いや、それだけじゃない。
目に見える世界は青いベールに包まれたような錯覚と共に、
あらゆる音が空間より消えた。
けれども、けして話が終わったのではない。メーターは動いている。
そのうち、
『強がっちゃって……可愛いお嬢さんね』
と、そんな声がどこかから聞こえてきた。
メーターの動きを目で追っていたリョウには、
それが無線で届けられた音声でないことに気が付く。
『……ホントは怖いクセに』
首を引っ込めたのか、肩を上げたのか、あるいはその両方か。
リョウの背筋を凍らせた声。
やはりメーターの動きと、声との動きが連動していない。
否、それどころか、
まるでその声が後ろから聞こえてきたような……
「……ハッ!」
勇気を振り絞り、リョウは振り向くが、
そこにあるのは背中を預けたオレンジのシートだけ。
ましてシートの裏側などに人が入れるスペースはない。
「どう……して」
『何を探しているのかしら?』
「……えっ?」
次は耳元で囁(ささや)かれたようだった。
小さな風がリョウの耳に触れる。丁度、人の吐息のような。
勢いよく振り返ったが、どこにも人の姿はない。ただ……
『私を……探しているのかしら?』
その声が聞こえたとき、彼女は見てしまった。正面の画面を。
画面に反射する、茶色いヒジャブを頭に巻いた人の姿を。
「……ウソ」
『残念だわ……時間切れね。もう少し、アナタで遊びたかったけど』
ヒジャブを巻いた女性は、前傾姿勢気味で、
その顔の大部分は陰になって見えないものの、
その口元だけは分かる。裂けているように大きく開いているのが。
ただ、彼女の姿はすぐに消えて、
リョウを襲った謎の現象をなくなり、ブリッジからの、
『……発進どうぞ』
という声がリョウの耳に入った。その安堵(あんど)も束の間、
『ジェイナス・ビフロンス、《ダーティ》……出ますわ』
と同じ女の声が聞こえた。ただし、今度は無線越しで。
同じ頃、上空を巡回中のIm/A-Pのレーダーにも反応が。
「聞こえてるよ、戦艦『フレイヤ』……
アーモリー・ワン上空で、所属不明の船舶を捉えた。
この時間帯、入国を申請している船舶はあるか?」
画面にパーディの顔が映る。
『……こちらにそんな連絡は来てません』
すぐに件の船舶は姿を現した。角の丸い三角形状の船舶で、
先端部とその周辺は黄色く、他は濃さの違う2色のグリーン、
という色合いだ。
まだ手を翳(かざ)せば隠れるのでは?と思う程小さいが、
見るところ、この先端部などに、いくつかの砲口が確認できる。
「……こちらザフト。
アーモリー・ワン上空を運航中の所属不明艦に次ぐ」
というように、無線で船舶に呼びかけを始めていた。
「貴艦は現在、プラントの領空を侵犯している。誘導は行う故、
速やかに離脱されたし……こちらザフト。応答せよ」
相手の船舶に反応はないまま、数秒が経った頃、
戦艦『フレイヤ』から無線が入った。アレハンドロの声で。
『送ってもらった映像から判断して……
相手の船は、《ロディニア級戦艦》の可能性が高い』
ハサンは一瞬、反応が遅れてしまった。
「アレハンドロ?……どうしてオマエが?」
対するアレハンドロの反応は速い。
『話は後ですよ、先輩。相手は戦艦なんだ。
それも多分……ザフト脱走兵どもの使ってる、な』
そう話している間に、向こうの船舶……いや、戦艦のハッチが開いた。
ハサンは再度無線を使い、相手の戦艦に呼びかける。
「こちらザフト。威嚇射撃を行う。警告は既にした。
これ以後、貴艦にいかなる損傷を加えたとしても、
ザフトが責を負うことはない……早急に、離脱されよ」
やはり返事は返って来なかった。
「パーディ……艦内に呼び掛けてくれ。戦闘になる」