機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
時差数時間、グナイゼナウの街の空に太陽が輝いていたとき、
その街の空には月が光っていた。
黒い丸に塗り潰されたように、ほんの僅かに残る三日月が。
「綺麗な月ですね……ノエルさん」
リョウがぎこちない笑顔でそう話しかけると、
「どこが美しいものか……あんなまやかしの月など……」
そうぼやきながら、カクテルの入ったグラスを軽く揺する。
彼らのいる場所は、バーというべきか、パブというべきか。
大西洋連邦(アメリカ)じゃバーと呼ばれるが、
イギリス生まれの大西洋連邦大統領に言わせればパブであろうし。
ともかく、酒を飲む場所と考えてくれれば間違いはない。
木製の椅子と机が並ぶ昔ながらのこの酒場で、
隅に腰をかけた彼ら2人。
背後で騒ぐ団体客を、
椅子の上に胡座(あぐら)をかいたノエルが度々睨んでは、
リョウがまぁまぁとたしなめる。
そんなことを、小一時間ばかりも繰り返していた。
「ここいらの連中は、地球育ちがほとんどだ。
そんな連中の為にわざわざ人工の月なんか作っちまうんだから、
ラクス・クライン様ってのは気前がいい」
そう皮肉り、酒に口をつけ、
傍らの皿に乗ったポテトチップスを摘まむ。
淡い黄色をした、このカクテルの名前はハイ・ライフ。
ウォッカとホワイト・キュラソー、パイナップル・ジュースを、
およそ4:1:1の比率で混ぜ、これに卵白を加えてよくシェイクする。
そんな一品。カクテル言葉は……
「オマエは飲まないのか?ええと……」
そう話すノエルはリョウの方を見ていない。
「リョウです……遠慮しますよ。未成年ですし。アハハ」
ノエルは返答しない。
ただ無造作にチップスを3枚も4枚も口に運ぶだけ。
愛想笑いしていたリョウもそのうちに止めて、
机上の欧風のカレーをモサモサ口へと運び始めた。
そんな中で、
「……ガキどもは仲良く引っ込んでろってことか、まったく。
オマエの上司は気が利くんだな」
「……え?」
「誰だか忘れたのか?……俺の子守りをオマエに命じたのが」
スプーンを皿の上に置き、手を離すリョウ。
「先日も……言い争いをされているのをお見かけしました」
リョウの言葉に、舌打ちを返すノエル。
対してリョウはわざわざ彼の方へと向き直った。
「……お嫌いなのですか?ホルローギン・バータルさんが」
流石にこれにはノエルも視線を移す。
「嫌いだとか、好きだとか……そんな次元じゃないんだよ。
あの人と俺の因縁は。
まぁ……オートクレール殿下も知らないことだが」
「因縁、ですか?」
ノエルは今日もバーテン服。
ネクタイを緩め、第一ボタンを千切らんばかりに荒っぽく開ける。
「……あぁ」
リョウの方を向いていたノエルの顔が離れ、
横顔から青い瞳が金色の前髪の奥へと隠れていって、
リョウには見えなくなってしまった。
『いやはや……これは』
苦笑するホルローギンの声が聞こえてくる。
対し、正面を向いて見つめるダイの横顔は、
奇しくもノエル同様、前髪に隠れて、目が見えない。
『ダイ……ノーマルスーツぐらい着ろよ』
そう話しかけるアレハンドロの顔が映るのは、画面の右側。
一瞬振り返り、その緑色の目を向け、
「うるさい」
と一蹴すると、また正面に向き直るダイ。
「そのモビルスーツ……『氷原の狼』だな」
ダイの声は広域に飛ばされており、
当然、ホルローギン本人の耳にも届けられていた。
『……よく御存知で』
シールドをサッと後ろに引き、
体勢を崩しにかかるホルローギン。
逆の手にはシールドの隙間に隠れて見えないが、
ビームサーベルが握られている。
当然、相手がバランスを崩したところで突き刺すつもりだったろう。
ただ、少しの手の動きから、ダイはそれを読んでいた。
「知らない方がおかしいだろ?」
咄嗟に機体を後退させようと動く。
けれど、タイミングがあまりよくなかった。
突き立てられたサーベルの先が彼の首を捉えていた。
右側から首が半分以上も削られてしまい、
その後、Im/A-Pが引き下がる際に、左へ曲がってしまった。
『なるほど。太刀筋はいいと見えますね』
奥歯を噛み締めるダイ。
『まぁ……』
スッとサーベルを下げるホルローギン。
『……この前のインパルスほどではなさそうですが』
サーベルを握る腕は後ろに回され、足の裏へ隠された。
その後、半身に構えてシールドを突き出す姿勢となり、
刃の形はダイからは完全に見えなくなってしまった。
「……言ってろ!」