機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS   作:申業

77 / 91
さて、シージーの方はというと、結論から言えば彼は助かった。
彼が上空の、それも比較的コロニーの外壁近くにいたのが幸いした。
他に感謝すべきは、大出力のエネルギー砲ゆえの遅さと、
このフリーダムもどき──ヴェスティージの速さであろう。
『うるさいなぁ』
そんな言葉をダーティのパイロットが発したときにはもう、
ヴェスティージは外壁の隙間を抜き、既にコロニーの中にいた。
だから煙の奥で何かが光った時点で、警告をすることができた。
「シールドを出せ!死にたいのか!」
ただ、恐怖に震えきったシージーの体は動けないでいたから、
そう呼びかけたところで効果はなかったが。
とはいえ、呼び掛けながらも、俺は動いていた。シージーの方へ。
そしてギリギリ間に合った。
ヴェスティージのビームシールドはダーティの砲を受け止め、
シージーのジズはおろか、
ヴェスティージ自体にさえ一切の傷を残さなかったのだから。
『大丈夫ですか?……シージーさん』
ヴァイデフェルトの声が聞こえる。
彼女のジズは2秒後にシージーの側まで辿り着いた。
『あっ、あぁ……』
などとシージーの返事はぎこちなかったが、それでも、
「今度は……守れたな」
目前ではゆっくりと煙が晴れ始め、ダーティの全身が顕になる。
まず見えたのは足。上を向いていた両足だ。
次に下半身。向きから下の方から先に出るのだが、
ビームを吐き出した口に、
垂れて見える目がどうにも笑っているように見えて、気味が悪い。
次いで腰と、胸と、背中のX字の骨みたいなバックパック、
そして頭蓋骨が半分剥き出しになったような奇怪な頭部。
空中に逆立ちした体勢にあり、
ダーティの回転する左目が正面で動きを止める。
丁度、こちらを見る形で。
『……ヒヒッ』
そんな笑い声が聞こえた。
見たこともない女の笑う顔が見えた気がした。
ボロボロになった上下の歯が完全には噛み合わないまま、
隙間より唾の泡が漏れる。そんな表情が。


PHASE-11 少年たちの戦い(7/7)

上下の歯が合う。それは何も笑うときだけなるのではなく……

事実、酒場の隅で強く噛み締める彼の表情は、苦しげであった。 

「ノエル……さん?」

リョウはノエルを見ていた。

しかし、当のノエルはグラスを両手で抱き締め、

酒の水面に映る自身の顔をじっと見つめていたのである。

余談だが、グラスに入った酒の色が先程と違う。

先程の酒──ハイ・ライフは黄色は黄色でも白っぽく濁っていたが、

今度のは同じで黄色ながらより透明に近い。

名前はアラスカ。

シャルトリューズ・ジョーヌとジンを1:2の比率でステアした、

アルコール度数の高いカクテルである。

「ヤツは……ホルローギンは言った。ここを発つ前に。

自分(ホルローギン)には……『才能も、根性もない』ってな」

少し揺らせば、水面には波紋が広がり、

そこに映るノエル・ド・ケグの顔が歪み始める。

やがて広がる波紋の動きが止まり、ノエルの顔が元に戻る一瞬、

本来は片側にしかない前髪が何故だか両側ともにあるように、

『ある人物』に瓜二つの容姿として映った。

リョウはその様を見て、

「ノエルさんって……似てますよね?あの……」

と何かを言いかけるのだが、ノエルは最後まで言わせなかった。

急に自身の方へ向き直ったノエルに、

リョウは口を閉じてしまい、話を再開できなくなった。

「どいつも、こいつも……俺に言わせれば焦り過ぎなんだよ。

プラントはこと総兵力だけなら、7年前の数倍はある。

真っ向から国家転覆を行うには無理がある。

少し考えれば分かるだろうに……何故そう結論を急ぐ?」

そう語るノエルの顔は、気持ち顔は下に向き、

眉間にはシワが寄り、サングラスの奥の目も細くなっている。

睨んでいた、リョウの顔を。

「ぼっ……僕に言われても……」

目を逸らすリョウ。

「……オマエの上司の話だろうが」

リョウが視線を上げてノエルを確認すると、

もうノエルは正面を向いて、また酒に手をかけていた。

そこから4、5秒あまりリョウが黙っていれば、

「知らないのか?オマエの上司……ヤン・クールカの前歴を」

ノエルはそう呟いて、グラスを口へと運んだ。

「すみません……どういう意味ですか?」

グラスがゆっくりとテーブルへと戻される。

「オマエは、オーブの人間だったな?」

リョウが静かに頭を下げる。

「……少しは疑わなかったのか?

何故、プラントのテロリスト集団にオマエら余所者が呼ばれた?

このプラントのどこに世直しの必要性がある?

オートクレールのヤツが語った『尊厳』の意味は?

俺たちは……何をしようとしているのか?」

リョウは返す言葉を持たなかった。ただ黙って俯いている。

「教えてやるよ。これが……俺たちの戦争だ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。