機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
その頃、当の俺は。その夜はたまたま寝付きが悪く、
灯りを消して、毛布を頭から被り、
しかし、目だけはずっと開けていた。
もしそこに誰かがいたなら、暗い室内で赤い目だけが光る、
不気味な光景を目撃したことだろう。
とにかく、そのとき、艦内にその声は響いた。
『コンディションレッド発令!
ブリッジ格納!対空警戒、厳に!パイロットは搭乗機で待機!』
オペレーターであるパーディの声だ。
正に跳ねるように起きて、部屋を出た。
突き当たった廊下は暗く、薄いオレンジ色の灯りがある程度だったが、
すぐに真っ白な光が灯(とも)り、
居並ぶ番号の書かれた白いスーチルの自動ドアが次々開いていく。
「おいおい……夜中に何の騒ぎだよ」
「連合の連中が遂に攻めてきたのか?」
「イタズラだろ?多分」
ある者は欠伸(あくび)をし、ある者は眠そうに目をこすり、
またある者は頭をポリポリ書きながら、フラフラと歩いている。
奥では、人がぶつかるところも垣間見えて、
「あぁ……ゴメン。サム」
などと謝る声が聞こえてくる。
このとき、部屋を出てから上着を着る隊員がいる中、
ふと冷静になって、
軍服を着たままベッドに横たわっていた自分を不思議には思った。
ともかく正面を見ると、
「俺、先に行きますからね!」
そう声を上げて、少し先の部屋から一人の男が飛び出した。
「……勝手にしろ。マイク」
部屋からは、そんな声がする。ワイリーのものだ。
ゆっくり俺が歩を進める中で、
「こんなこと……ヒック」
そうワイリーはそうしゃくりをした。
同時に、何か液体がこぼれ落ちる音もして。
たどり着き、部屋を覗けば、
ワイリーは御猪口(おちょこ)に酒を注いでいる途中で、
「こちとら……とっくに酒気帯びて、戦場に出れねぇんだ。
畜生(ちくしょう)が」
などとぼやいている。頬(ほお)を赤く染めて。
「……どうせ何時かは死ぬんだ、みーんな」
かける言葉が見当たらず、踏み出すこと数歩、
やはり忍びなくなって振り返ろうと立ち止まった直後、
柔らかい感触が背中にして、振り返った。
「……あっ」
ぶつかった女性が声を上げた。
彼女は口に手を当てており、欠伸を覆っていたらしかった。
ぶつかったのは、俺の肘と彼女の二の腕辺り。
紫またはピンク色をした瞳を大きく見開き、一歩下がり、次いで、
「すみません……アスカ副長」
と頭を下げた。
下がった拍子に、彼女の長く茶色の髪がフッと浮き上がり、
次いでそのポケットから、ピンク色のスマートフォンが下に落ちた。
慌てて、俺が拾い上げ、彼女に渡した。
この際に、スマホをひっくり返し、画面が割れてないか確認したが、
その点は大丈夫だった。
「……ありがとうございます」
「いや、いいんだ、マ……」
言いかけたところで、俺はハッとし、咳払いをした。
「……ヴァイデフェルト隊員」
こう言い直した。
「これは……一体、どういう……」
困惑した様子で、右耳にかかった髪に触れるヴァイデフェルト。
「ひとまず……モビルスーツデッキに向かう。話はそれからだ」
これだけ言って、俺は向き直り、踏み出した。
このとき、
自分が自然と彼女の方から視線を外そうとしていた理由を、
まだ俺は知らなかった。
「あっ……はい」
こうして数秒後、返事と共に、
彼女の足音が俺の後ろに響き始める……
──アーモリー・ワン。
英語で「兵器工廠」を意味するアーモリー市にあって、
ここは7年ほど前、当時の最新鋭戦艦《ミネルバ》と、
セカンドステージと題されたモビルスーツの就役に利用され、
一度は襲撃により大きな損害を受けたものの、その後復興。
大西洋連邦がC.E.77年にL4地点に「植民市」の名目で、
実質的な軍事要塞『オバマ』を建設した影響もあって、
プラント・L4地区の総司令官ヴィトー・ルカーニアの指示により、
アーモリー市、特にこのアーモリー・ワンは、
モビルスーツの開発と製造、
およびプラント国内の重要な軍事拠点に位置付けられた。
事実として現在、新造艦《フレイヤ》と新型モビルスーツ数機が、
この街に配備されていた……