機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
ホースから吐き出された水のように、
降りかかるビームをシールドで耐えながら。
「……何を悩むことが」
クトゥルフの照準を合わせば、放つまでにそうブランクは出来ない。
相手はビームライフルを撃っている途中。
反応まで若干のタイムラグが生まれて。
ビームシールドを展開したから、ボディの方は防御が間に合ったが、
ライフル自体は被弾。爆発する。
そこからの反応は速かった。
即座にビームサーベルに持ち換えつつ、
頭部のビームガンをばら蒔き、牽制(けんせい)するのだから。
そこからは心理戦だ。
機動力でなら負けることはまずないとして、問題は武器。
ガトリングでは隙が大きすぎる。敵はクールカのアダガだけじゃない。
ヤツが誰ぞザクの1機を配置しているのは分かる。
レーダー上に出ているのだから。
装甲の色を変えて空に同化しているが、コイツはそう問題じゃない。
武器の色までは変えられないから、構えた時点で動けばいい。
それだけの話。
ただ、俺もダーティの頭を掴んでいる以上、
これを投げ捨て、ビームピックを抜くとなると、動作が多い。
動いている間に、ザクならマシンガンを抜いて撃つまで出来る。
リック・ドムならまだしも、ザクの手数は厄介だ。
距離が距離である以上、
これを攻撃するなり、防御するなりするとなると、
必然的にクールカに背を向けることになる。
その間に間合いを詰められると、悪くいけば一撃で仕留められ、
上手くいっても接近戦に持ち込まれてしまうだろう。
接近戦では、ピックとサーベルのリーチじゃ、流石に不利。
じゃあ、いっそダーティを盾に?
いや、ダーティのパイロットは貴重な人質。
むざむざ殺させる訳には……
ヴァイデフェルトとシージーは離れすぎだ。
それに、向こうも向こうで戦っている。援護は期待できない。
そんな中……
『……久(ひさ)しいな、アスカ』
クールカの声を聞いた。
「戦場で話すことかよ。クールカさん」
愛想笑いというべきか、苦笑いというべきか、
顔を合わせて言うでもないのに、ついついそんな表情になる。
『そうは言うがなぁ……今ぐらいしか、話せまい』
普通に考えれば、視線誘導の類であろうが。
後方のザクを含めて、特段の動きは見られない。
『全く……考えられんことだろうなぁ。旧時代の戦争を知る者には』
その一言に、一人の男の顔が頭を過る。
クールカも恐らく、同じ人物を意識したであろう。
『厚い鉄の壁を一枚隔てしまえば……「死」はどこか遠くに……
殺しているという自覚も、殺される恐怖も……
不思議なものだ。忘れてしまっているのだから。
だからこうして、平気な調子で話せるんだろうなぁ……』
周囲への警戒は怠らない。
しかし、やはり動きはなく、
俺の頭には、今、不意打ちを仕掛ければ、あるいは……
そんな考えも過っていたが。
『……残酷だな。人間というのは。人間の……考えることは』
絞り出すように、クールカは言った。
「何が……言いたい?」
『……やはり、何も聞かされていないのか』
沁々(しみじみ)とそう言葉を紡(つむ)ぐクールカに、
こちらを欺(あざむ)く意図があるようには思えなかった。
間もなく、
『イヒヒヒヒヒヒヒ……』
耳を覆いたくなるように大きく、そして金属を切るように甲高い、
ダーティのパイロットの笑い声が聞こえる。
『……時間、切れェェ』
瞬間、コロニーの外から爆発が……
「……ルカーニアめ」
その頃、ヴィトー・ルカーニア本人は。
「……フゥ」
最早木の幹のような太い葉巻をくわえ、
吐く息もまた霧のように濃く、周囲を覆い隠してしまう。
「流石に、これは不味かったんじゃありません?ルカーニア閣下」
煙の奥で、フィロパトルが口元を押さえ、微笑んでいる。
「……勝ちゃいいんだよ。勝てば」
葉巻を口から離し、その両の口角をクッと上げる。