機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
あの醜い頭の中から飛び出した何かがジョーンに襲いかかった。
手にはナイフ。割と大きかったように記憶している。
いや、もしかしたら、包丁だったかもしれない。それは分からない。
ともかく、ヤツ──ダーティのパイロットは、
その手に刃物を持っていた。
ヤツは何故ジョーンを狙ったのか。ただ近くにいたからなのか。
いや、そもそも、人間を狙うような知能がそのときあったのか、
それすら分からない。
どうして、あそこにジョーンがいたのだろう。
ジョーンは言っていた。期待に答えたいと。
どうしてそう思った?アレハンドロが言ったから?
分からない。分からない。
……アーモリー・ワンを出たときに無理をするなって言ったのに。
ジョーンなんて、まだ新人なんだ。役に立てなくたって……
分からない。分からない。分からない。
あそこにいたのがジョーンじゃなかったら?
いや、そもそも……俺がヤツを捕虜にするなんて決めなければ。
分からない。分からない。分からない。分からない……
どこで間違えた?誰が間違えた?
ただ、結論だけを言うなら……
俺はヤツを捕虜にして、
戦闘の最中にヴァイデフェルトのジズに託し、ここまで運ばせた。
運ばれたヤツは刃物を片手にコクピットから飛び出し、
ジョーンを襲った。胸をひと突き。
慌てて周りの連中がヤツを押さえにかかる一方で、
ジョーンの姿が消えていく。
波のような人の群れの中で、溺れていくように。
俺は……あの群衆の中をどう抜け出たのか、記憶はない。
アレハンドロが、
「副長!」
なんて俺を呼んだのが、最後の記憶。
……気が付くと、俺は数名の隊員に両肩を押さえられていた。
目の前には、あのダーティのパイロット。
頭に巻かれたヒジャブの隙間から見えたヤツの口が、
赤い血を滴(したた)らせていて。
次いでに、俺の拳にも血が滲(にじ)む。
痛みも傷口もないところを見るに、ヤツの血だろおう。
「……押さえてください。副長」
右腕を押さえていたヴァイデフェルトが、そう囁(ささや)いて。
足下を見れば、ジョーンが倒れていた。
祈るみたいに胸を押さえて横たわる彼女は、指の一本も動かない。
彼女を刺したであろう刃物は、その辺に落ちていて。
更にしばらくすると、何の前触れもなく、
「……イヒヒ」
などという笑い声を漏らしたと思えば、
指を振り上げ、俺に何かを飛ばしてきた。
ベチャッという音を立てながら、俺の頬に着地した謎の液体。
濡れた彼女のボトムズと、なおも股間へ向けて伸ばされる手。
荒い息……
「……テメェ」
ヴァイデフェルトの腕を振りほどいて、一歩は前に出たが、
それ以上、かける言葉が見当たらなかった。
握る拳に力が入らなかった。
「副長!」
泣き出しそうな声で呼び止めるヴァイデフェルト。
俺は振り向く勇気もなくて、
ただ曲げただけの拳を静かに下ろした。
「……ヒヒヒヒヒヒッ!」
ヤツは笑っている。なおも。
……4月6日の昼頃のこと。俺たちの戦いはこうして終わりを迎えた。