機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
4月7日、13時7分8秒。ホルローギン・バータルが部屋に入ってきた。
「……失礼します」
との言葉と共に。
「ホルローギンか……」
窓際に座るヤン・クールカは、テーブルに顔から突っ伏し、
横顔を隠すように、両手の拳を顔の左右に並べている。
「えぇ……二点、ご報告に」
そう話すホルローギンは、その話題の二点とは別に、
目の前のクールカについて、二点、気になることがあった。
ただ、それは後に話すとして、
ひとまずホルローギンの話はこうだ。
「まず……オートクレール殿下のことについて。
この度、いえ、
正確にはもう数日前から準備はされていたようなのですが、
活動の拠点を、『オバマ』から遷(うつ)すお考えのようです。
場所はコルドバ。イベリア半島の都市です」
「……そうか」
クールカは依然顔を上げようとはしない。
ホルローギンも首を傾げるつつも、とりあえずは話を続ける。
「それともう一点……
詳しくはシーザー・ルチアーノ様からお話があると思われますが、
パヴァロッティ・ギボンさんと交代とのことで、
私(わたくし)、ホルローギン・バータルめは、
クールカ隊長の指揮下を離れることと相成りました」
ゆっくりとお辞儀をするホルローギンに、
クールカは少しの間を挟んで、また、
「……そうか」
とだけ、顔も上げずに言うのであった。
「パヴァロッティ・ギボンさんは……良い方ですよ。
腕も立ちますし、私ほどお喋りでもない」
苦笑を漏らすホルローギン。
「クールカ隊長の気性には、私よりも合っているように思います。
善き上司、善き部下であれることでしょう……」
その言葉に、うつ伏せたままのクールカが引き笑う。
「俺が善き上司などとは……いいジョークのセンスをしている」
苦笑した次いでに、いくらか緩んでいたホルローギンの表情が、
一瞬で引き締まり、更に少しばかり首まで動いて、
よりクールカに対して正面に近い向きとなった。
「……右も、ですか」
ホルローギンの視線の先は後頭部に。
いつもと違う点が二つ。
普段は編まれている髪が今日はされておらず、流されている点。
そして、もう一つが……
「……あぁ」
そうして目を閉じたまま、顔をゆっくり上げたクールカに、
ホルローギンの予想が事実として現れ、彼の表情を曇らせる。
うつ伏せているときは、髪に隠れている可能性もあった。
だが、顔を上げれば分かる。彼が眼帯をしていないことが。
「……ついに、というべきだろうな」
ゆっくり開けられたクールカの両目は、
その黒目の部分が白く濁っていたのである。
クールカは右の掌を、コメカミの辺りから頬、アゴへと、
少しずつ指の関節を動かしながら、当てていく。
そこに顔があるのを確認するように。
「なあに……分かっていたことだ。医者から言われていた。
発見が遅過ぎたことも、完治が無理なことも……
専用のデバイスがあるらしてな。
それをつければ、人並みには見えるようになるらしい。
何も……怖いものはないさ」
「……身体の方は?」
クールカの顔が気持ち下に向いた。
「まあ、まだ動くさ……まだな」
右手で頬杖をつくクールカ。
「まだ……まだな」
「……まだ、生きてる」
ワイリーは言う。病室のベッドの上で。
「あの爆発のとき、地下にいて無事だったんだからな。
流石は軍の病院だって感じだよな。地下シェルター完備だぜ」
頬杖をついた右側にゆっくりと振り返り、
ベッド横でパイプ椅子に腰かけたアレハンドロに語りかける。
「お互い……ひとまず、生き残れてよかったな」
「……そうっすね」
そう言いつつも、顔を反らし、窓を見るアレハンドロ。
4月7日の18時05分。窓の外には夕陽が下がっている。
「ジョーンのことは……まぁ、可哀想だったがなぁ……」
アレハンドロは顔の向きはそのままに、目だけでワイリーを見た。
「戦争だからな。そりゃ、人は死ぬさ。仕方のないことだ。
……そう、諦めちまった方がいい」
ワイリーは、何時そうしたのか。
今は彼も彼とて窓の方を向いていた。
夕陽が二人のシルエットを浮き彫りにさせる。
「俺たちは生きて……ここにいられる。
それでいいじゃねぇか?それだけで……」
アレハンドロの左肩に置かれた、ワイリーの右手。
「……十分じゃねぇか?」
振り返ったワイリーの横顔。
相変わらず、ミイラ男みたいに包帯グルグル巻きの顔だが、
口元の部分だけ緩み、少しだけ横に開いた口を覗かせる。
「そう……っすね」
アレハンドロはそう答えると、少しだけ頭を垂れた。
シルエットで分かるだろうか?
眉間へと当てられたアレハンドロの右手が。
その腕を流れていた一滴の涙が。