機動戦士ガンダムSEED C.E.81 LEFTOVERS 作:申業
この話もしておこう。
戦艦『フレイヤ』の廊下に立つ、ヴァイデフェルトの姿。
廊下には白い電灯が灯され、十分明るいのであるが、
ガラス窓から暗い外と月が見える。
半月よりは、少し大きいかというぐらいに。
上半身はほぼ微動だにせず、進むヴァイデフェルトの胸には、
花束が抱かれていた。青い薔薇(ばら)の花束が。
そうして向かう彼女のすぐ前で、ドアが開いた。
何日か前、アーモリー・ワンが襲われたときには、
寝ぼけて俺とぶつかった彼女だが、
今度は一歩下がって避けた上、
花束を落とさぬようによりギュッと体に寄せた。
さて、部屋から出てきたのだが、
「……ダイくん」
そうヴァイデフェルトが呼んだ時点では、長い前髪に隠れ、
その顔は見えていなかった。
ゆっくりと向き直り、その赤い目でヴァイデフェルトを見るダイ。
真っ先に目がいったのは、やはり花束だった。
少し首を傾げ、怪訝な表情を浮かべるダイに、
「……おかしいかな?」
なんてヴァイデフェルトは問うのだ。
「というか……今日は、何かの記念日なのか?」
花束を持つ手の位置が少しだけ下がった。その顔と一緒に。
「ううん……そういう訳じゃないけど」
ダイが一歩前に出た。ヴァイデフェルトの顔が上がる。
次いでダイの右手が、彼女の左肩に。
「……副長に、か?」
吐息が触れるほどの距離に、彼女の顔が斜め下に下がり、
そのままの向きで少しだけ頷く。
「副長は嫌がるぞ……多分な」
「え?」
ヴァイデフェルトの顔が上がる。
即座に、彼女の額へ左手の人指し指を当てるダイ。
そこからツーンと前に押しながら、
「……冗談だよ」
なんて笑うのだ。
「……えぇ?」
押された勢いままに、一歩下がるヴァイデフェルト。
表情も硬いが、ダイはお構いなしで、
「俺なら、ちょっと重いかなぁとは思うけどな。
嫌がりはしないだろう。副長も。あの人はいい人だからな」
ヴァイデフェルトの動きは止まっている。
「何だよ?」
電源を入れられたロボットのように、どこかぎこちなく、
ヴァイデフェルトが応じる。
「あっ、いやね……ダイくん、冗談言うタイプだと思ってなくて……」
「あぁ……そういう」
首を横に振るダイ。
次に彼が自分の両手を腰にあてたとき、
「ごめん」
丁度、ヴァイデフェルトの口からそんな言葉が。
「オマエ……よく副長の近くにいるもんな」
「……うん?」
「……副長の前じゃ、なるだけ無口なキャラで通してんだよ。
隊長は……それとは別に、個人的に嫌いだから、あんま喋らないが」
腰にあてていた右手を上げて、右の前髪をかきあげる。
「レイ・ザ・バレルって人を……知っているか?」
ヴァイデフェルトは首を横に振ってから、小さな声でつけ足す。
「……ごめん」
と。少し伏し目がちに。
「副長の元・同僚で、ユニウス戦役で活躍したエースパイロット。
パーソナルカラーはホワイト。それにアクセントでパープル。
それで本人は、金髪のロングヘアー……」
「……それって」
ヴァイデフェルトの顔が上がる。
今度は左手も上げ、両手で後ろから自身の髪を後ろから前へ押す。
揺れる、ダイの金髪ロングヘアー。
「マメに染めてるんだぜ?……隊長と違って」
「そうなんだ。ちなみに、その人は今、何を……」
ヴァイデフェルトの口が、いいかけて止まったところを見るに、
察したらしい。
「……戦死だ。ユニウス戦役でな」
ダイは横を向き、その横顔すら前髪で隠してしまった。
「俺は……」
体の向きも横に移る。
「……レイさんの代わりになりたいんだ。
いつまでだって、あの人の隣にいれるように」
ダイの右手がその眉間に触れる。
「まぁ……」
眉間から手が下がり、ゆっくりと前髪が退けられる。
「……俺は、俺だけどな」
赤い瞳がヴァイデフェルトに向けられた。
「……それ、渡してこいよ。副長に。
きっと喜ぶだろう。可愛い『部下』が選んでくれたものだ」
ヴァイデフェルトは顔を下げて、すぐには答えなかった。
「私さ……分からないんだよね。正直」
「分からない?」
ヴァイデフェルトが頷く。
「副長と話していると……何だか、その……上手くいえないけど、
私は副長に対して向き合ってるつもりなのに、
何だか副長の方は、私じゃなくて、別の人を見ている感じ……
というのことかな」
窓の外で月が少し位置を下げたように見えた。
「詳しいことは知らないが……副長は昔、家族を亡くしている。
天涯孤独ってヤツだ。所謂な。
俺にはその辛さは分からないが……まぁ、副長には妹がいたらしいし。
もしかしたら……ダブっているのかもな」
一度瞳を大きく開いて、それからゆっくり閉じる。
ヴァイデフェルトは静かに。
「……そう」
彼女の返事は重かった。
「喜んで……いいのかな?」
ダイも顔を逸らした。
「……何とも、言いにくいな」
「そうだね」
両手をポケットに突っ込み、外を見つめるダイ。
足下を見つめるヴァイデフェルト。しばしの沈黙が生まれた。
「……とりあえず、渡してこいよ。それから考えればいい」
「そうだね」
ヴァイデフェルトの足が前に出た。早歩きとか、小走りって感じで。
「ダイくん……ありがと」
すれ違い様に、そう呟いた。
「……あぁ」
ゆっくりと目を閉じるダイ。徐々に遠ざかっていく足音。
やがて、聞こえなくなった頃に、
「俺は……それでもいいと決めたんだ。あの人の側にいれるなら。
でも、まあ……そう思うよな。やっぱり。
好きな人には、自分を見てもらいたいって……」
そうゆっくりとではあるが、ダイも進み出した。
ヴァイデフェルトとは逆の方向に。
「ただ……俺には耐えられないよ。
自分を通して、嫌われることなんて」