気の向くままに、短編集。 作:天道詩音
『迷宮都市オラリオ』太古の昔からある迷宮。その迷宮を中心に都市が集まって出来た街オラリオ。
その迷宮の底に辿り着いた者は誰もおらず、その深層を目指す者、迷宮内に現れる魔物を倒し生活の糧にする者、強くなる為に戦う者など目的は人それぞれでも、迷宮で戦う者達は『冒険者』と呼ばれている。
新たに冒険者になった『ベル・クラネル』も、とある目的を持って迷宮へ訪れていた。
冒険者になって7日目、ベルは迷宮第6層で人影の魔物であるウォーシャドウと戦っていた。
5体のウォーシャドウに囲まれ、正面から鋭利な爪で切り裂こうと詰め寄り腕を振り上げた影に向けて、腕を振り下ろされるよりも速く近づき小剣で斬り伏せる。
斬られた影が消えると同時に後ろの2体がベルに近づき爪を振り下ろすが、近づいてくる気配へ向けて、振り向き様に横に斬りつける。
残り2体ーー影は左右から同時に爪を突き出し、ベルを貫ぬこうするが、ベルには届かない。
「ファイアボルト!!」
右のウォーシャドウへ魔法を放ち、左の影の爪を小剣で受け止め、直ぐに切る伏せると全ての影は霧散した。
周囲を確認して魔物が居ないことを確認して一息つく。小剣を鞘に仕舞い、魔物が落とした魔石を拾って皮袋に入れる。
「全然ダメだ……もっと強くならないと」
迷宮に入ってから7日間。ソロで6層の魔物を難なく斬り伏せているのは異常な事である。それでもベルには足らなかった。
強くなるーーその為にはより強い魔物を倒して『経験値』を貯める為より深い層を目指さなければと思い、次の層へ向けて歩みを進めていく。
道中のウォーシャドウを見つけ次第倒しつつ、7層に着くと直ぐにキラーアントが1体現れた。
『キラーアント』固い装甲に守られた身体は新米の冒険者には斬れる物では無く、上手く倒せたとしても仲間を呼び出して物量で冒険者を殺していく事から、新米殺しと呼ばれている。
ベルは目の前のキラーアントに向けて小剣を振り下ろす。装甲の厚い身体ではなく、脚の関節に斬りつけると難なく脚を切り落とした。それを確認して少し離れる。
ベルは脚を切り落とされてギィギィと鳴き続けているキラーアントを眺めて動かずに待ってしばらく経つとカチカチと歯を鳴らしながら数十体のキラーアントが床だけで無く天井や壁からも現れた。6層に戻る道は残っているが、他はキラーアントで埋め尽くされる。
蟻の群体に向けてベルは駆け出し、役目を終えた魔物は不要だと、助けを呼んだキラーアントの頸を切り落とす。
続けざまに近くのキラーアントに近づき、小剣を両手で持ち、装甲の厚い胴体へ向けて振り下ろすと、装甲を貫いて絶命させた。
剣を振り下ろした体制のベルを噛みつこうとしているキラーアントを横薙ぎで斬り捨てて後方に飛んで距離を取る。
近づいてくるキラーアントを斬る、避ける、刺す、離れる、貫く、回避、斬首、受ける、潰す、躱す、穿つ、駆ける、薙ぎ払う。
「全然減らないなぁ……これは倒しきれないかも知れないし、ならまとめて終わらよう!!」
一度距離を取り、左手を前に構えて呪文を詠唱する。
「雷霆よ、数多を貫く、雷鳴の矢よーー」
群がるように向かってくるキラーアントから目を離さずに、詠唱を続ける。
「蒼穹を穿ち、神の怒りを表す者ーー」
目前に迫る大軍へ向けて、詠唱を完成させるーー
「全てを貫き、裁きを与える者ーー
キラーアントに向けて、雷霆の矢が放たれる。放たれた一本の雷の矢から枝を延ばすように複数に別たれて、全てのキラーアントを貫き、青白い閃光が眼前を埋め尽くす。
光が消え去った後には魔石が残るのみとなっていた。
「ゲホッ……」
魔力を使いすぎた影響で血を吐く。身の丈に合わない魔力行使は身体に大きな負荷を与えた。意識を失う程の激しい痛みが身体を襲う。視界が真っ暗になりかけるが歯を食いしばり耐える。
(まだダメだ……ここで倒れる訳にはいかない!!)
動かない身体を無理やり動かして、6層への道に移動する。階段に座りマインドダウンしている身体を痛みに耐えながら休ませる。
「僕は強くならないといけないんだ……もっと……強くならないと……」
ベルは強くなるとあの日に誓った。
誓いを胸に、力を掴もうと強さを求め続ける。
諦めないベル・クラネルはどこまでも行く。
これは新たなる英雄の物語である。
-----------
マインドダウンの痛みに耐え続けて、動ける程度まで魔力が回復したので散らばった魔石を回収する。
(魔石は集め終わったけど、先に進むのはやめようか……またキラーアントの大軍と戦ったら、厳しいと思うから一度帰って神様にステータスを上げて貰ってから再挑戦しよう!)
道中の魔物を倒しつつ魔石を回収しながらバベルを目指して進む。帰り道は迷宮に入ってからの7日間で戦い慣れた魔物ばかりしか出てこない為魔物毎の倒し方を反復しつつ冒険者になってからの事を振りかえる。
ベルがオラリオの冒険者や迷宮の管理、魔石、ドロップ品の売買を行っている機関である『ギルド』で冒険者登録をしてから今日で10日目。
一日でも早く強くなりたいと言って直ぐにでも迷宮に行こうとしているベルを止めるために世話好きのギルド職員から出された課題である、『中層までの全ての魔物の特徴の暗記』をギルドの一室に籠って図鑑を読み続けて2日で暗記を完了させ、そのまま迷宮に向かおうとしているベルを慌てて引き留めて、明日一緒に武器と防具を買いに出掛けようと約束させた。
次の日にはオラリオを二人で回りながら屋台で美味しい物を堪能しつつ『冒険者は冒険しないように』と冒険者の心構えを教え、武器屋を見に行くと、錆び付いたナイフ一本で迷宮へ行くつもりのベルに小剣を購入し、命を落とさないようまともな武器とポーション類を購入した。