気の向くままに、短編集。 作:天道詩音
振り向くと黒髪ツインテールの美少女が心配そうな表情で僕を見上げていた。
「なにか困りごとかな? だいじょうぶかい?」
澄んだ青い目と幼げながら天使のように美しい顔立ちをしている少女が僕に話し掛けている。見下ろすような目線になっているので顔の下に映る、身長に見合わない位に豊かに成熟している胸元に目に入り、思わず目線がそこに固定されてしまう。
お、大きい……じゃなくて!
「あ、すみません! 気づいたら此処にいて……ここは何処なんですか?」
固まっていた事に謝罪しつつ、ここが何処なのかを確認する。
ここがGGOの世界で未踏破地域の街だったら、周りは高レベルのモンスターだらけになっていると思うから外には出れないにしても街中なら暮らすことは多分出来るだろうからなぁ。
10年間のプレイで世界の情報は解っているからゲームが現実に変わってもそこそこやっていけるとは思うんだよね。
「気づいたら此処に……本当みたいだね。此処はオラリオ東区の屋台通りだけど分かるかい?」
オラリオ……GGOでは聞いたことの無いところだ。未踏破地域だろうか。ま、まあ夢の可能性もまだあるから!こんな可愛い女の子が知らない人にも親身に相談に乗ってくれる天使のような性格だなんて夢に決まっている!アニメやゲームの世界でなら居たけど現実にはねえ……
「いえ、知らない無いですね……オラリオって街も聞いたことが無いです」
「オラリオってこの世界で一番大きな街なんだけどねぇ……君、記憶はあるのかな? 名前は分かるかい?」
「透です。記憶はあるんですけど、家で寝ていた筈なのに気づいたら此処に居たので、その間の記憶は無いですね……そもそもオラリオじゃなくて別の街に居ました……」
夢だとは思いたいけど、痛みも感じて出店からは美味しそうな匂いもして……こんなリアルに感じる夢は見たことが無かった……まあ、よし!
これは異世界転移したんだと仮定して行動しよう!
悩んでても仕方ないし、もし夢だとしても醒めるまでは楽しむとしようか!
「どこかの神がアルカナム【神の力】をイタズラに使ったとか……うーん、天界に送還される事も考えたら……神に好かれそうな容姿だし、もしかしたらあり得るのかなぁ……」
「まあ知らない土地に来ちゃいましたけど、楽しくやっていこうと思うのであまり気にしないでください!」
首をかしげながらうんうん唸っている姿を横目で見ながら、これからのことを考えていこう。
まずは情報収集。この世界について、この街について調べよう。あっ、アイテムボックスをさっき使えてたな……てことはGGOでのスキルが使えるのかどうかも検証しないと……やることが沢山で楽しみだ!
「おおぅ、なんか急に前向きになったね。元気になってくれたのならよかったよ!」
「色々ありがとうございました」
「トール君はこれからどうするのかな? よ、よかったらボクのファミリアに来るかい!?」
「行きます!」
ファミリアが何か分からないけどとりあえず行ってみよう。行くって言った時の表情が本当に嬉しそうだったから、着いていくだけでもお礼になるかな。
「ほんとかい!? じゃあ早速行こうぜ!」
ふわりと温かく柔らかい感触に手を引かれながら歩いていく。本当に可愛らしいと言うか、無垢と言うか……うん、本当に可愛いと思う。
前を歩く君の手をやんわりと引っ張って止まってもらう。これからの為にもやっておきたいことがある。道の途中で止まったからか、どうしたの?と言いたげな表情をしている。
「ねえ、これからの為に聞きたいことがあるんだ」
質問をしようとすると少し目が泳いで不安げな表情に変わる。
不安にさせるつもりは無いので、すぐに大好きな小説の一節を意識して、指を鳴らしてキメ顔で言う。
「君の名前を教えてほしい」
不安げな表情の君が一変して笑顔に変わる。
「ボクの名前はヘスティア、君の家族になる神ヘスティアだよトール君!」