気の向くままに、短編集。 作:天道詩音
TSもの
かわいい女の子になりたい!
かわいい女の子になりたい!
そんな事をずっと考えていた。私は記憶にも残らないような平凡な容姿に生まれて、趣味も特技も何も無い、本当に平凡って言葉が相応しい男だった。
それでも一つだけ願いがあった。人に言えば、何を馬鹿なことを言われ、正気を疑われるような願いだとしても、自分自身ですら不可能な事だと思っていても、叶えるためには何でもしたいと願っている事があった。
かわいい女の子になりたい!
本気でそう思っている。私の平凡な容姿がイヤだ……そんな事は無い。ただ、男であるのがイヤだった。
私は百合が大好きで、ガールズラブを愛している。
女の子同士の恋愛に、百合は美しい。女の子と女の子。きれいな物だけしかそこには無い。最高じゃないか!
それに比べて、クラスの男子を観てみろ。喋れば直ぐに下ネタを吐き。かわいい女の子を観れば、直ぐに突き合いたいと言い出す始末。下半身でしか物事を考えられないのか?同じ男として恥ずかしい。
私が求める百合は創作上にしか存在しないのかも知れない。それでも、女の子になりたい。
女の子になって、女の子同士の恋愛をサポートしたい。
女の子同士の恋愛は悪い物じゃない。誰にも邪魔される権利は無いと伝えてあげたい。
私が女の子として生まれ変わったとしても、女の子と恋愛をしようとは考えない。もちろん男なんぞ論外だ。ただ愛を育んでいく女の子達の傍で応援したい。ただそれだけだ。
かわいい女の子である必要は無いのかも知れない。最後なんだ、正直に言おう。本当は、生まれ変わったら可愛く、美しくなりたいと思う程度には平凡な容姿が嫌いだったんだ。誰の記憶も残らないこの容姿が嫌だった。
だから女の子になりたい!走馬灯のようにその想いが駆け巡っていく。
女の子がトラックに轢かれそうだった。未来に百合を育むかもしれない女の子が轢かれて命を落とすなんて許せなかった。助けるしかないだろう?
女の子を強く押して、車体が当たらない所まで飛ばした。擦りむいてしまうことを許して欲しい。
目前にトラックが迫る。避けるのはもう不可能だ。トラックも止まれる距離じゃない。なら最後に願おう。
『生まれ変わったら、かわいい女の子になれますように!』
瞬間、衝撃。
「突然ですが、あなたは死にました」
清らかな水色の長い髪、優しさが伺える母なる海のような深い藍色の瞳。水で造った羽衣のような衣服を纏っている、美しい女神のような女性が、何も無い真っ白な空間にぽつんとある椅子に座りながら、哀しそうに目を伏せて、そう言った。
「……そうですか」
後悔は無い。未来に美しい大輪の百合の花を咲かせてくれる、その礎になれたんだとしたら、一片の悔いも無い。同じように、椅子に座っていた私はそう答えた。
「私は日本において、若くして死んだ若者を導く水の女神アクアです。貴方のお陰で、死ぬはずだった女の子の未来は変わりました。代わりに貴方が死んでしまうことになってしまいましたが……」
下を向き目元を指で拭い、流れ落ちたのであろう涙を拭ったアクア様。見た目通りに清らかな心を持っているのだろう。
「女の子が救われたのなら、それで十分です」
「そう……それではこれからの事を話しましょうか? こほん。あなたには二つの選択肢があります。このまま天国に行くか。それとも、人間として生まれ変わるか」
人間として生まれ変わる……それは性別を選択できるのだとしたら一択だろう!まずはアクア様に聞いてみよう。
「人間として生まれ変わりたいです。質問なのですが、性別を替えることは可能でしょうか?」
「えっ!? 性別替えるの? えーっとそうねぇ……あっ! 本当はもう一つ選択肢があったんだけど、異世界に転生するの。それで転生する時に特典が一つ与えられるのよ。その特典で性別を変更できるやつを選べば良いんじゃないかしら?」
アクア様に私が変な質問をしてしまったので、先程のような丁寧な言葉から、素で喋っているような子供っぽさのある口調に変わったけど、優しさは変わらないみたいだ。アクア様は本当に清らかな女神なんだろう。
「ではそれでお願いします。本当にありがとうございますアクア様」
「別にいいのよ? あー……でも転生する先ってモンスターとかが居る世界だし、特典がそれだと危ないわよ?」
「いえ、構いません。私の長年の夢だったので」
「そ、そう…………ヘンなの」
「すみません。最後の言葉が聞き取れませんでしたが……」
聞き取れなかったけど、優しいアクア様のことだから、この先の事を心配してくれて、何かを優しい言葉を投げかけてくれたんだろう。
「気にしないでいいわ! ちょっと神器のリストでそれっぽいのを確認するわねー…………あっ見て! これとか良いんじゃないかしら!」
「この、『入れ替わりの書』ですか?」
「そうよ! この書に二人で同時に触れたら身体が入れ替わるの。それで、私の部下に心優しい天使が居るのよ! その子と一緒に書を触って、入れ替わって貰ったらいいと思うの! ぷーくすくす!」
アクア様が楽しそうに笑っている。そんな身体を入れ替えてくれるような心の優しい天使様が居るなんて、さすがアクア様の部下ですね。
「では特典は、この入れ替わりの書にしてみたいと思います。一度試してみたいんですが、いいですか?」
「良いわよ? でも私の身体でヘンな事はしないでよね!」
笑いながら、冗談めかしてそう言いながら、人差し指をピンと突きつけてきたアクア様はかわいらしかったです。それこそ、理想の女の子みたいだって思いました。
「もちろんそんな不敬な事はしませんよ。使えるか試したら直ぐに戻してください」
「ならいいわ。じゃあ適当に書を触ってくれるかしら?」
頷いてから手を書の上に置いて、アクア様も手を置いたところで、眩い光が書から溢れ出て、思わず目を閉じてしまった。
光が収まったので目を開けると、平凡な容姿をした男が目の前に居た。と言うか私だ。
目の前に私が居る。つまり、私は今アクア様の姿になっている……?
下を向いてみると、胸辺りに青色の衣に包まれた大きな膨らみがあった。もちろん触らない。次に手を上にかざして見てみると、シミ一つ無い、真っ白な手が見えた。手も綺麗だ。
「アクア様成功したみたいですね」
先程聞こえた、美しい声が私の喉から発せられている。この体験だけでも死んで良かったと思えるくらいだ。
「私をこうやって観るのは始めてだけど、やっぱり美しいわね! ってあれ?」
突然、私の周囲に光の壁が現れて、身体が浮き始めた。転生が始まった……?
「えっ!? なんで転生陣が動き出してるの!? 待ってよ! 今転生されたら戻れなくなるんですけど! こんな平凡容姿で生活するとか無理なんですけど!? ちょっと待って聞こえないの!? 転生陣の不具合!?」
光の壁に阻まれて、私の容姿をしているアクア様が何を言っているかは聞こえない。
でも、アクア様は本当に優しい女神様だ。部下と容姿を入れ替えさせるって言っていたけど、代わりにアクア様自身が容姿を替えてくれるなんて、本当に幾ら感謝しても足らないくらいだ。
「ほんとに待って! お願い行かないで!」
透明な壁に手を当てて、何かを必死に言っている。残念ながら聞こえないけど、異世界に行く私に激励をしてくれているんだろう。
異世界で頑張りますよ。世界中に百合の花を咲かせられるように、女の子達の恋愛をサポートしていきますから。そしてアクア様のような心優しい女性になれるように、私自身も努力していこうと思います。
「あっ……終わった……」
身体が少しずつ浮いていって、私の容姿をしたアクア様が小さくなっていく。私の身体が光の粒子に変わっていっている。そろそろ異世界に行くのか?
それでは行ってきますアクア様。
かわいい女の子にしてくれてありがとうございます。
そして、暗転。
目を開けると、目前に広がっているのは中世ヨーロッパのような街並みだった。
それよりももっと気になるのは、頭にネコ耳があるかわいい女の子が前を歩いて行った。後ろ姿を見るとスカートから少し出ている尻尾……これは異世界だ……。
住人達は笑顔で歩いているし、モンスターとかが居る世界らしいけど、この辺りは平和なのかな?
この世界について聞くのを忘れていたから、情報収集から始めていこうか。
あの子に聞いてみるとしよう。
黒髪に赤い瞳の大人しそうな、魔法使いが着るような格好に身を包んだ女の子と目が合ったけど、頭を下げられてそのまま行こうとしてる。人付き合いが苦手なのかな?
百合の花を咲かせるためにも克服させてあげたい。引き止めてこの街のことや、おすすめの仕事などを聞いてみようか。
よし、これからはアクア様らしく、優しい口調を心がけて話していこう。
「ごめんなさい。少し聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「ふぇ……えぇー!? わ、私ですか!?」
驚いている姿もかわいらしくて、微笑ましく思う。
こんな純粋無垢そうな、かわいい女の子と会えるなんて幸せだ。
この素晴らしい出会いに感謝を。
そして、この身体を託してくれたアクア様に精一杯の感謝を。
アクア様、この世界に百合の花をを咲かしていきますので、これからも見守っていてください。
続きません。
アクアに入れ替わった主人公。
主人公から見たアクア様は優しくて、清らかな女性を体現していたので、これからそのアクア様を演じていくので、周りからは女神と崇められることでしょう。
一方、当のアクア様は嫌味を言ってくる天使と主人公の身体を入れ替えて転移させるイタズラを考えて、実行する前にお試しで身体を入れ替えたら、そのまま転移されちゃいました。
天罰が下りましたね。
まあ、いつか元の身体に戻れるんじゃないですか?多分。
主人公紹介
平凡な容姿をした男で、百合本を読んで、百合にガチはまりする。
そして、百合が増えて欲しい。そのサポートをするために女の子になりたいと願う。
自分は女の子と百合な関係になろうとは思っていない。
でも、優しくて美しい女性を体現している主人公に男女問わず惹かれる者は現れていく。
男は論外だとしても、慕ってくれる女の子の事は無碍にはできず……どうなることでしょう?
この後はクリスとダクネス、めぐみんとゆんゆんをくっつけようと画策して、結局全員から主人公が好意を向けられるって感じになりますね。続きませんけど。
それでは読んでいただきありがとうございました!