多くの人々で埋め尽くされた特設会場。
そのステージの上に、地球連邦軍の制服――ピンクではなくグレーの物――を着た女性MCが姿を現す。
それを見つめる人達は、女性MCの言葉を今か今かと待っている。
「――さぁ皆さん! お待たせ致しましたっ!!」
その一言をきっかけに会場全体を大きな歓声が包む。
「ガンプラバトルエキシビションinガンダムミュージックフェスタ! いよいよ開催です!!」
さらに歓声が大きくなる。
ガンプラバトルエキシビションinガンダムミュージックフェスタ。
ガンダム作品の主題歌や挿入歌、劇伴などを劇中映像と共に楽しむ音楽イベントだ。
そして今から始まるのはそのタイトル通り、ガンプラバトルのエキシビションマッチ。参加者は、このミュージックフェスタにも出演する二人のアイドルだ。
「まずはこの方! ガンプラコレクターとしても有名なアイドルグループ
MCが右手を上げて紹介する。
コウジがステージ袖から姿を見せると、女性ファンの歓声が
「そして! 気になる対戦相手はこの人!」
続けて左手を反対側に上げる。
「過去には世界大会のイメージキャラクター兼リポーターも務めたガンプラアイドル、キララーッ!!」
キララはステージに姿を現すと同時に
「キララン☆」
と、いつもの決めゼリフでファンを沸かせた。
MCの後ろにはガンプラバトル用のバトルシステムが置かれており、コウジとキララの二人はゆっくりとその前に歩いていく。
バトルシステムの前で向かい合う両者。
「制限時間は十分間! ダメージレベルの設定はA! バトルで破壊されてもガンプラ自体は無事なので、思う存分バトルをお楽しみください!」
MCがルールの説明を終える。
「エキシビションだからって、手加減はしないよ?」
「当然です! 私も相手が先輩でも全力で行きますから!」
「お二方とも、準備はよろしいでしょうか?」
「あぁ、いつでもいいよ!」
「おっけー!」
「準備万端と言う事で……それでは皆さん、お待たせしました!」
二人が頷くと、MCはバトルシステムを起動させる。
放出されたプラフスキー粒子が、バトルフィールドのステージを形成していく。
ランダムで選択されたのは、岩石や戦艦の残骸などのデブリが多く浮遊する宇宙空間。近くにはスペースコロニーの残骸も確認出来た。
「ステージは宇宙空間に決定! ここで一体どんなバトルが見られるのかー!?」
コウジとキララは自分のGPベースとガンプラをセットする。
「それでは、アイドル界屈指のファイター二人によるエキシビションマッチバトル、スタートですッ!!」
バトル開始を宣言したMCが舞台袖近くへと移動すると同時に、特設会場の周辺に設置されているスクリーンにバトルフィールド内の映像が映し出された。
プラフスキー粒子によって二人のガンプラに命が吹き込まれたかのように動き出す。
「コウジ・マツモト! Hi-νガンダム、出るよ!」
「キララ! ガーベラ・テトラ、いっきまぁーすっ!」
両者が発進コールをすると、それぞれのガンプラが、これも再現されたカタパルトから打ち出されていく。
× × ×
まずスクリーンが映し出したのは、キララのイメージカラーである濃淡のピンクで塗装されたガーベラ・テトラだ。頭部にはブレードアンテナも追加されている。
デブリ帯の間をすり抜けるように機体を飛行させる彼女。衝突すれば、機体はただでは済まない速度だが、それを上手く制御して操作している姿は、技術の高さを
「さぁて、どこから仕掛けてくるか――」
それはキララが周囲を警戒しながら、コロニーの残骸を目指している時だった。
サラミス級の残骸を
「――っ!」
キララは反射的に機体の右肩にあるスラスターを一瞬だけ噴射して、横に一回転させながら回避する。胸の部分を掠めたが、ダメージは
ビームが飛んできた方向に目をやると、そこには対戦相手であるコウジが駆る、νガンダムを思わせるカラーリングのHi-νガンダムの姿があった。
「流石に当たってはくれないね」
「このガーベラ・テトラを
そう口にするキララはお返しにと、コウジの機体に向けてガーベラ・テトラのビーム・マシンガンを撃ち放つ。
「おっと!」
コウジのHi-νガンダムはシールドを構えつつ、回避行動の為に後退した。
数発シールドに受けるものの、大したダメージではない。それを見てコウジもビーム・ライフルで応射していく。
両者が遭遇してから二分ほどが経過している。
「これじゃあ――」
「
その間にも、二機は互いに射撃と回避を繰り返しながら立ち回っていた。
だが、遂に状況が動く。
それはキララがどうにか突破口を見つけようとしていた時だ。ほんの少し、自分のビーム・マシンガンから意識が逸れてしまう。
「――しまったっ!」
撃ち続けていたビーム・マシンガンが、オーバーヒートを起こして放熱状態になってしまった。この状態では射撃が行えない。
しかしガーベラ・テトラはこれ以外にも、両前腕部に射撃兵装――左右に二門ずつ装備された110mm機関砲――がそれぞれ搭載されている。
彼女は左腕の110mm機関砲で狙おうとしたが、反応が遅れた為にHi-νガンダムがデブリの裏に隠れる時間を与えてしまう。
「チッ!」
思わず舌打ちをしてしまった事にも構わず、Hi-νガンダムが隠れた場所に飛び込もうとした。
だが、そのデブリの裏から左右に分けて、二つの光が走ったのが見えた。キララはこれが何なのかすぐに気付く。
「――ファンネル!」
Hi-νガンダムの背部に翼のように配されているサイコミュ兵器、フィン・ファンネル。それを二基射出してきたのだ。
そのフィン・ファンネルから放たれたビームを、即座に反応して回避する。
まだビーム・マシンガンは放熱が終わっていない。そして幾らフィン・ファンネルが大型とは言え、装弾数も多くない腕の110mm機関砲ではビームで弾丸が消される事もあり、撃ち落とすのは容易ではなかった。
「それなら本体を潰すまで!」
フィン・ファンネルからの攻撃を回避する中で、ガーベラ・テトラは左手でビーム・サーベルを抜く。
そのままスラスターを全開にしてフィン・ファンネルを振り切り、大きく迂回しながらHi-νガンダムが隠れているデブリに向かって、その正面から肉迫する。
「やあぁぁぁッ!!」
急接近すると同時に振り下ろされるガーベラ・テトラのビーム・サーベル。
しかし、Hi-νガンダムはこれをシールドで受け止める。
「へぇ、やるね……!」
コウジは、キララがフィン・ファンネルから逃げ切ったどころか、逆にここまで迫ってきた事に驚愕した。
しかもこの位置は――
「ファンネルの射出も出来ない、か……」
Hi-νガンダムはさっき利用したデブリを背負う形になってしまっていた。これでは残りのフィン・ファンネルを射出したところで、デブリに衝突して破損してしまう可能性もある。
「そのHi-νガンダムは三個買いして、ファンネルを全部可動出来るようにしてるって話は有名ですから!」
「ははっ、有名ってのも考えものだね」
こうしている間にも、ビーム・サーベルを受け止めた箇所が熱で溶け始めてきた。
先に射出していた二基のフィン・ファンネルも、まだここまで戻ってこない。
「だったら……これで!」
コウジはガーベラ・テトラの頭部――モノアイに向けて、Hi-νガンダムの頭部バルカン砲を発射。
「そんな物っ!」
キララの方も、バルカン砲の弾丸をガーベラ・テトラの右腕でガードし、モノアイが破壊されないように守る。
これではダメージは出ない。しかし相手の視界は
のだが、
「見えてるのよ!」
僅かにモノアイが左下のビーム・ライフルを捉えていたのだ。
キララは押し付けていたビーム・サーベルを一気に左にスライドさせて、機体に向けられていたその銃身を切り裂く。
この衝撃でHi-νガンダムはビーム・ライフルを手放してしまったが、あれでは完全に使い物にならなくなった上に、すぐに爆発して機体がダメージを受けるだけであった。その為、手放した事については気にしない。
「まだぁ!」
ビーム・ライフルを失ったコウジだが、ガーベラ・テトラのビーム・サーベルがシールドから外れた事でスラスターを全開、表面が熱で焼け
「こ、のぉっ!」
Hi-νガンダムの突撃に押されるガーベラ・テトラ。しかしキララも、ただやられるだけではない。
対抗するように背部メインスラスターを全力で噴射して、その勢いを殺す。
更にこれだけには留まらず、左手のビーム・サーベルを
「――ッ!」
それが見えていたコウジはガーベラ・テトラを突き放すように押して、機体同士を引き離した。
だがその際、既に振り下ろされていたビーム・サーベルがシールドを引っ掛け、中央から下半分ほどが斜めに溶断されてしまう。
「左腕は無事だけど……
機体の状態を確認した彼は、ほとんどその役割を果たせそうにないシールドを切り離すと同時に、機体背部のファンネルラックの左側から右手でビーム・サーベルを抜刀する。
これに加えて――
「行け、ファンネルッ!」
と、残っていたフィン・ファンネルを全て射出した。
「さっきので仕留められなかったのは辛いわね……!」
キララは堪らずに歯噛みをする。
武器スロットに目をやると、ビーム・マシンガンの冷却は完了していて、すぐに使える状態であった。
Hi-νガンダムから距離を取りながらビーム・マシンガンを掃射するが、射出された四基と戻ってきていた二基の内、一基のフィン・ファンネルがHi-νガンダムを中心にしてピラミッド状に展開、ビーム・バリアーを形成してガーベラ・テトラの射撃を防いだ。
「このタイミングで……なら!」
ビーム・バリアーを張っているフィン・ファンネルを直接狙う事にしたキララ。
しかし――
「こっちはまだファンネルがあるんだよ!」
残っていたフィン・ファンネル一基が、ガーベラ・テトラのビーム・マシンガンを撃ち抜く。
「っ……このくらい!」
ビーム・マシンガンを失ったが、即座に右腕の110mm機関砲でビーム・バリアーを形成しているフィン・ファンネルの一基を撃破する。
これによってHi-νガンダムを守っていたバリアーは一時的に解除された。だが、今度は残った五基のフィン・ファンネル全てを攻撃の為に差し向けてくる。
「流石に一つ減っても、これじゃ不利ね……!」
幾ら周りがデブリ帯と言っても、この状況ではフィン・ファンネルの攻撃に大きな支障はない。キララはすぐにこの場所から機体を離脱させた。
全速力で向かう目的地は――
× × ×
「彼女の機体が逃げたのはここのはずだけど……」
コウジは五基のフィン・ファンネルを右側に二基、左側に三基と背部ラックに戻した後、キララのガーベラ・テトラが向かった場所まで追って来た。そこは残骸となったコロニーの跡地である。
「反応なし……一体どこに……」
フィン・ファンネルの回収で出遅れた彼は、キララを完全に見失ってしまっていた。
「残り時間も少ないし、そろそろ決着をつけたいところだね」
コロニーに空いた穴から内部――と言っても、半分ほどが崩壊して内外の区別はほとんどないのだが――に入っていく。
周囲に注意を払いながら廃墟になった一つの街を見渡すコウジ。コロニー内部は光もほとんどなく、デブリの多さもあって視界が悪い為、いつ奇襲を受けてもおかしくない。
ビーム刃は展開させていないが、いつでも対応出来るよう右手にはビーム・サーベルが握られている。
警戒をしつつコロニー内を進んでいく。
しばらくすると、前方にガーベラ・テトラのビーム・サーベルの光を捉えた。コウジは近くにあったデブリの後ろに機体を潜ませる。
「……動かない?」
ビーム・サーベルの光は微動だにしない。まるでガーベラ・テトラがその場に停止しているかのようだ。
彼は更に警戒を強めながらその光源に近付いて行く。
ある程度の距離まで接近したところで、モニターを拡大してその正体を確認する。
「これは……」
それはこのバトルステージに元々オブジェとして存在するMS――ジム・カスタムの残骸にビーム・サーベルを握らせ、周囲にあったワイヤーで固定させた状態の物であった。
「ダミー!?」
コウジが気付いた瞬間、Hi-νガンダムの後方にあった建物の残骸を突き破ってガーベラ・テトラが姿を見せる。
「後ろ!?」
「もらったぁぁぁぁ!!!」
ガーベラ・テトラの右手にはもう一本のビーム・サーベル。それを下から上へと一閃する。
キララは確実に入ったと確信したが、コウジが咄嗟に機体を右側に半回転させた。
そのままならばHi-νガンダムの背中から胴体を切り裂いていたであろう。
しかし彼が機体を動かした事で、キララの強襲はHi-νガンダムの背部右側にあるフィン・ファンネル二基を溶断したのみに終わる。
「そんな……っ!」
「おぉぉぉ!!」
紙一重で攻撃を躱したコウジは、機体の右手に持っていたビーム・サーベルのグリップエンドからビーム刃を発生させ、ガーベラ・テトラの胴体を狙う。
「――ハッ!?」
斬撃を躱された事で動揺してしまったキララも、機体に迫るそのビーム・サーベルが見えた瞬間、なんとかHi-νガンダムの右腕を左手で押さえた。
左手は塞がってしまったガーベラ・テトラだが、ビーム・サーベルを持った右腕は上げたままだ。
今度こそ、とキララは右手のビーム・サーベルを逆手に持ち替えさせ、Hi-νガンダム目掛けて振り下ろす。
相手が逃げられない今なら決められると、彼女は再び自身が勝利した瞬間のイメージが湧き上がる。
それでも――
「まだだッ!!」
振り下ろされたビーム・サーベルがHi-νガンダムの胴体に突き刺さろうかとした時、コウジは空いていた機体の左手で右側のファンネルラックからもう一本のビーム・サーベルを抜き、こちらもギリギリの所で防ぎきる事に成功した。
「いい加減に勝たせなさいって……!」
「僕も簡単には負けてられないから、ね!」
互いに押さえ合っているこの状態、通常であれば二機は動けない。
だがコウジの機体はHi-νガンダムである。
「それに――勝つのは僕だ!」
まだ健在であった左のフィン・ファンネル三基を射出して、ガーベラ・テトラを左右と上から取り囲むように配置させた。
ここはすぐ離脱してファンネルの攻撃を回避するのが定石である。
しかしここを離れようにも、左手での拘束を解いた瞬間にHi-νガンダムのビーム・サーベルが来るのは分かる事だ。
キララの背筋を冷や汗が伝う。それでも、ここで諦めるような彼女ではない。
「させない!」
彼女は組み合った状態から、ガーベラ・テトラの右脚で脚部スラスターも併用した蹴りを繰り出す。
対するコウジのHi-νガンダムも右脚を出して、その蹴りを受け止める。その衝撃で、両機の
この間にもフィン・ファンネルからビームが撃ち放たれようとしている。
それでも彼女は攻めを止めない。
相手の右腕を抑えていた左腕の110mm機関砲を発射、射線の右側は当たらないが左側の弾はそのままHi-νガンダムの右腕、関節部と上腕部にかけて命中して小規模ながらも爆発を起こした。
「なっ!?」
この爆発によって互いの機体が離れ、ガーベラ・テトラは直後に撃たれたフィン・ファンネルのビームを回避する事に成功する。
「やってくれるね……!」
Hi-νガンダムは右肩から下の腕を失ってしまったが、それ以外は大したダメージにはなっていない様子だ。
それはコウジも即座に機体の状態を確認していた。
「ファンネルッ!」
組み合う前の攻撃で斬られた右側のフィン・ファンネルを廃棄しながらガーベラ・テトラへ再度、残ったフィン・ファンネル三基での攻撃をする。
爆発で飛ばされたガーベラ・テトラの方も体勢を立て直していた。
「残り時間もそんなにないし、これ以上ファンネルから逃げ回っても面白くない……だったらッ!」
向かってくるフィン・ファンネルを見たキララは、逃げずに立ち向かう決意をする。
フィン・ファンネルは一基ずつビームを発射してきた。
彼女はその三射を回避すると、そのまま機動をランダムにして最初に撃ってきたフィン・ファンネルへ自ら距離を詰めていく。
「特攻……?」
その行動にコウジは疑問を持つ。この間にもう一度フィン・ファンネルが順番にビームを放った。
「――こうするのよ!」
するとキララはガーベラ・テトラの回避機動を最小限に留めると、正面に捉えていたフィン・ファンネルに向けて左腕の110mm機関砲、その全残弾を斉射する。
接近していた事に加えて、攻撃後を狙った事で110mm機関砲をフィン・ファンネルに直撃させ、容易ではない事を彼女は見事にしてみせたのだった。
「本当にやってくれる……でも、まだある!」
彼の言葉通りHi-νガンダムのフィン・ファンネルは未だ二基が健在である。
その一基から撃たれたビームが、110mm機関砲を撃っていた左腕に命中。ガーベラ・テトラも上腕部を失ってしまう。
「この程度っ!」
それでもキララは――左腕の110mm機関砲が弾切れしていたのもあって――この損傷を気にする事なく、撃ってきたフィン・ファンネルへ右手に持っていたビーム・サーベルを
だがこれで――
「もうその機体の武装は、残弾が少ない右腕の機関砲だけ……ここで一気に落とすッ!」
コウジは最後の一基になったフィン・ファンネルを突撃させる。
キララも機体を後退させながら110mm機関砲を発射して迎撃するが、こちらも予想していた通りすぐに弾切れを起こしてしまった。
そこにフィン・ファンネルから発射されたビームがガーベラ・テトラの右脚に直撃してダメージを与えると、さらに続けてHi-νガンダムが突っ込んでくる。確実に決めるために。
「これで!」
その左手に持ったビーム・サーベルからビーム刃を発振させて、ガーベラ・テトラの胴体を狙って横になぎ払う。
だが、
「そう簡単には――」
瞬時にキララは機体の左脚――そのつま先を出す事で身代わりにし、Hi-νガンダムの攻撃を辛うじて避ける。
「負けないっ!」
彼女はそのままガーベラ・テトラをHi-νガンダムとフィン・ファンネルの間をすり抜けさせ、先程のトラップに使用したジム・カスタムの残骸に向かっていく。
あそこにはまだビーム・サーベルが残っているままだ。
「行かせない! ファンネル!」
キララの行動を阻止しようとフィン・ファンネルで攻撃するが、惜しくもビームはガーベラ・テトラの両肩背面から伸びるバインダー、その左側の物を掠めただけで取り逃がしてしまう。
「これでまだ戦える……っ!」
ジム・カスタムの手から握らせていたビーム・サーベルを取る。
すると、後方からフィン・ファンネルが狙っている事を知らせるアラートが鳴った。
フィン・ファンネルの位置を確認した彼女は、ガーベラ・テトラが手にしたビーム・サーベルでジム・カスタムを固定していたワイヤーを切断し、振り返ると同時にその残骸を左脚で蹴る。
蹴られたジム・カスタムはガーベラ・テトラの盾になるような形で、ビームのチャージをしていたフィン・ファンネルに飛び込んでいく。
そのままフィン・ファンネルが放ったビームはジム・カスタムの残骸に直撃。爆発はそれほど大規模ではないが、ガーベラ・テトラは爆煙の中に消えた影響でコウジは姿を見失ってしまう。
「間に合わなかったか……どこだ?」
――この爆発で彼女の機体にもダメージがあれば……いや、直撃してあの程度なら初めからこれを想定して……?
彼は警戒を強める。まだ周囲の煙は晴れていない。
「――はあぁっ!!」
「正面!?」
黒煙から飛び出してきたガーベラ・テトラは右手のビーム・サーベルを展開させ、そのまま右腕を突き出してHi-νガンダムへ向かってきた。
僅かに反応が遅れたコウジだったが、機体を後退させながら同じくビーム・サーベルを展開。それと同時に両機の間にフィン・ファンネルを割り込ませる。攻撃の為ではなく盾として――ではあったが。
キララは速度を落とさずフィン・ファンネルを串刺しにして、尚も勢いのままに突撃する。
「届けええぇぇぇッ!!!!」
「――く、おおぉっ!」
遂にガーベラ・テトラのビーム・サーベルがHi-νガンダムの胴体を捉えたかと思われたが、寸前のところで左手のビーム・サーベルで外側に受け流していた。
それにより串刺しにされていたフィン・ファンネルはぶつかり合うビーム・サーベルによって溶断され、また受けきったHi-νガンダムと
「これでファンネルは全滅ね!」
「ああ、そうだね。でもファンネルだけが僕のガンプラじゃ……ない!」
コウジは叫ぶとHi-νガンダムの右脚でガーベラ・テトラの腰の辺りを頸部で蹴り、その衝撃で機体が離れたところを続けて正面から足裏で押し出すように蹴り飛ばす。
しかし、これによって亀裂が入っていた右脚は膝から完全に砕けてしまった。
「機体のダメージが……」
あの組み合った時の蹴りがそれほどの威力だったのかと、彼は内心驚きつつもダメージを与えた張本人である機体に目を向ける。
「そっちもそろそろ限界かしら?」
「いいや、まだ僕のHi-νガンダムは行けるよ。君の方こそ限界なんじゃないかい?」
「確かに機体のダメージはかなり来てるけど、それでも勝つには十分よッ!」
そう口にしたキララのガーベラ・テトラは再び斬りかかってきた。
「それは僕だって同じだッ!」
対するコウジはビーム・サーベルで受け止めずに、まずは回避を選択。場所を入れ替えるようにして二機はすれ違う。
キララはすぐに機体を反転させるが、その視界にはHi-νガンダムのビーム・サーベルから発せられた青いビーム刃が迫っていた。
「ちィッ!」
だが彼女はなんとかガーベラ・テトラを後退させることで、その刺突を頭部が掠めた程度に済ませる。
損傷は軽微でメインカメラにも支障はない。
「こん……のぉー!」
再度キララが突撃。しかし今度は両肩のスラスターを使い、コウジに機動を読まれないようにして接近していく。
「この機動なら!」
今のHi-νガンダムには右腕がない。腕がない右側に機体を回り込ませれば――
「甘いッ!」
「嘘――っ!?」
右側を狙ってくると読んでいたコウジはHi-νガンダムの各部――肩や腰にあるスラスターを使って、ガーベラ・テトラが来るであろう位置に機体を向けて左腕を突き出した。
「く、うぅ……!」
驚いたキララではあったが、なんとか彼女は左肩のスラスターを噴射して機体に急制動をかける。
結果として、Hi-νガンダムのビーム・サーベルはガーベラ・テトラの胴体には当たらなかったが、速度を殺しきれなかった為にそのビーム刃は左肩に深々と突き刺さった。
「――まだぁっ!」
それでも機体は――右腕はまだ動く。戦える。
彼女もHi-νガンダムの頭部をビーム・サーベルで突く。
少しの間の後、双方の損傷箇所が爆発して両機は離れた。だが二機ともビーム・サーベルは離さなかったようだ。
「左肩は完全にダメ……。それ以外は――よし、何とかなる!」
今のダメージでガーベラ・テトラはほとんど限界ではあったが、キララはまだ諦めていない。
「メインカメラはやられたけど、まだサブカメラが生きてる……他もまだいけるね」
Hi-νガンダムも相当なダメージを負ったものの、こちらもまだ勝利する事を考えていた。
またも動き出したのはガーベラ・テトラの方だった。
「おっと!」
コウジは冷静にビーム・サーベルを弾くと、機体を
「付いて来れるかな?」
「ちょ!? 待ちなさい!」
キララもすぐにHi-νガンダムの後を追う。
廃墟となったコロニーの街を走る二つの光跡と、その線が交わった際に生じる一瞬の閃光。
逃げるHi-νガンダムとそれを追うガーベラ・テトラは互いに剣戟を繰り広げていたが、未だ決定打となる攻撃は決まらずにいた。
「こっちだよ!」
彼の機体は遂にコロニーの残骸から外へと飛び出す。
「逃がさないわ!」
追いかけていたキララもそれに続くが、彼女がコロニーを出た時にはHi-νガンダムの姿はなかった。
――どこに……っ!?
「上から!?」
デブリを利用したコウジはガーベラ・テトラの上方から強襲をかける。
キララが咄嗟の反応を見せた事でなんとか鍔迫り合いになるも、機体の位置が悪く右肩の装甲表面がHi-νガンダムのビーム・サーベルに焼かれていた。このままでは右肩から先も溶断されてしまうだろう。
それが分かっていた彼女はすぐに相手のビーム・サーベルを押し返す。
互いの距離が開くと、なんとコウジは機体が手にしていたビーム・サーベルを投げつけてきた。
「はぁ!?」
全く想定していなかったキララだったが、これを難なく右手のビーム・サーベルで外側に弾く。
しかしそれは大きな隙を生む結果になる。
「そこだッ!」
最後のビーム・サーベルを投げ捨てたはずのHi-νガンダムが、ガーベラ・テトラの懐まで飛び込んできた。
ここまでキララはある事を失念していた。それはHi-νガンダムの左腕に収められている三基目のビーム・サーベルの存在だ。
「――しまっ!?」
急接近したHi-νガンダムは左腕のサーベル・ラックを開き、そこからビーム・サーベルを取り出してビーム刃を発振させる。
投げられたビーム・サーベルを弾いた事で今のガーベラ・テトラに他の防御手段がない。
――間に合わない!
そのまま無防備な機体へHi-νガンダムのビーム・サーベルが迫り――
『TIME UP』
× × ×
ガンプラバトルのシステム音声が制限時間の終了を告げ、それと共にプラフスキー粒子によって形成されていたバトルフィールドが消えていく。
バトルシステムの上にはダメージレベルAによる僅かな傷はあるものの、最後の状態で立っているHi-νガンダムとガーベラ・テトラの姿があった。
「な、なんと……時間切れー! ガンプラバトルエキシビション、アイドル対決は決着ならずーッ!」
女性MCの言葉に、結末を見守って静まり返っていた会場の観客達が一斉に歓声を上げる。
コウジ、キララの両者はその場に立ち尽くしていたが、しばらくして互いに歩み寄っていく。
「まさか時間切れとは。後一歩だったのに、残念だ」
「あの状況だと私の負けだったかも知れない……でも、完全に負けたとは思ってませんから!」
「確かにあのままだと僕が勝ってた。だけど、ガンプラバトルは最後まで何が起こるか分からないし、僕が負けそうになった瞬間だってあった。一瞬だけどね」
最後に笑うコウジに釣られ、キララも笑みがこぼれる。
「またいつか、全力のガンプラバトルを。今度は絶対、私が勝ちます!」
彼女は右手を差し出す。
「ああ。その時は必ず決着を付けよう!」
彼もキララに応え、二人は握手を交わした。
その光景に会場の歓声はさらに大きく響き渡る。
「それではコウジさん、キララさん。次の出番までスタンバイお願いします!」
スタッフの一人がステージ裏に下がったコウジとキララに告げる。次の出番というのは、このあとに予定されているライブだ。
「分かったよ」
「はーい!」
これに応えた二人は、それぞれの控え室に向かう。
「そうだ! ガンプラバトルの決着は完全に付かなかったし、次はライブバトルでもどうかな?」
その中でコウジがこんな提案をした。
「いいわねっ! 面白そうっ!」
キララもこの案に乗るようだ。
「決まりだね」
「個人ステージもコラボステージも、このキララがまとめて頂いていきます!」
「おっと、アイドルの先輩としてもそれは負けられないな」
向かい合った二人は、互いに不敵な笑みを浮かべる。
その後、ガンプラバトルで白熱の戦いをしたコウジとキララによるライブはかなりの盛り上がりを見せ、両者には新たなファンが出来たようだ。