…敬礼、綺麗だったよね……
「ねえねえM16、そういえば指揮官から貰った指輪なんだけど何で指に着けてないの?」
「うん? ああ、常に付けてなければならない物でもないし、それに指や手だと被弾した際に吹っ飛んでしまいそうだからなあ……」
「ふーん、じゃあ今は持っていないの?」
「いや、こうしてネックレスにして身につけている。 服の下なら暴れる事も無いし、身に着けていれば問題なく機能はするしな」
作戦終了時、帰還しているヘリの中でSOPⅡが暇つぶしなのだろうか、誓約指輪の事について聞いてくる。
私はネクタイを緩め、シャツの首元を緩め銀色のチェーンを取り出す。
先端まで手繰り寄せると、チェーンを通した状態のリングが輝いているのが良く見えた。
……作戦時に出したら、その輝きから狙撃の的にされかねない具合だ。
「うーん……でも折角貰ったのに着けてあげないのは可哀相じゃない? 」
「……いや、このくらいの距離の方が丁度良いのさ。 ベタベタされるのは指揮官だって苦手だろう」
「そうかなあ……まあ、指揮官に一番近いM16がそう言うならそうなのかな」
指揮官に一番近い と言うのは、誓約指輪を貰ったのが私一人であり、副官を務めている事が多い事からなのだろう。
納得したのか、SOPⅡはまたプラプラと流れゆく外の景色を眺め始めた。
私もつられて外を眺めると、グリフィンの管理区域が遠めに見え始めていた……私達の帰る場所だ。
「小隊長お疲れ様M16、他の皆もお疲れ様でした」
「よう指揮官、わざわざお出迎えありがとう」
バタバタとヘリのローター音が響く中、私達の指揮官が出迎えてくれる。
SOPⅡやほかの隊員達は、思わず駆け出そうとするのを指揮官が私を見ているのに気付き数歩進んで堪える。
いつも通り朗らかな笑みを浮かべている事を確認してから今回の作戦を纏めた簡易報告書を手渡す。
受け取った報告書をその場でパラパラと速読し、小脇に抱え込む。
「鉄血の動きも特に変わりなく、何時もの小競り合いの様だね」
「ああ、まだ偵察の延長線だろう。 相手側もこちらの戦力を測り切れてないのかもしれない。
主力は出さず、実戦経験を積ませたい小隊を出すのが良いと思うな。第五小隊辺りでどうだろう?」
「分かった、その線で調整しよう……その辺を相談したいから、M16は整備と補給が終わったら執務室まで良いかな?」
「了解、じゃあまた後でな……そら、行って良いぞ!」
私の言葉に、待ってましたと言わんばかりにSOPⅡが走り出し指揮官に抱きつく。
他の隊員も彼に近付いて行き、労いの言葉や頭を撫でて貰う等をねだっている。
「宜しいのですか? 本来なら貴方もあの位置に居て然るべきだと思いますが」
「あぁ、指揮官は私だけのものじゃない、あぁして他の奴にも平等に接してこそあの人なんだ。
私はそんな奴に惚れたのさ」
「……難しいものです」
ウェルロッドはそう言い、顎に手を当てて考え込んでいる。
別に難しい話ではない、こうして公の部分で特別扱いして欲しい訳では無いだけだ。
妹達を見ている様で、指揮官も娘や子供に接するように他の人形達と触れ合っている。
じっと見ていると、視線に気付いたのか指揮官と視線がぶつかる。
ニッ と微笑むと彼も柔らかく笑った。
その程度に、私達は繋がりあっていると信じている。
「さ、ウェルロッドも行ってきたらどうだ?」
「私は、別に……」
「無理すんなっての、逆に奪うくらいの気持ちで行ってみたらどうだ?」
「むっ…信頼されてるのですね」
「当たり前だ、私がその身を預ける事を決めた指揮官だぞ?」
「はぁっ……分かりました、なら遠慮せず」
そう言い残し、スタスタと歩いていき……しゃがんでいる指揮官の手を取り、手の甲に当たるか当たらないかの位置で唇を捧げた。
それ、やってる方とやられてる方が逆だろうが。
修復施設で被弾した箇所を修復し、宿舎に備え付けられたシャワールームで簡単に汗を流し、着替えてから報告書を纏め指揮官の待つ執務室へ向かう。
「よっ、お疲れ指揮官」
「お疲れ様、少しは休めた?」
「シャワーを浴びればサッパリするもんさ、休むなら仕事を終わらせてから存分に休むよ」
「あはは、すまないね・・・・・・じゃあ今回の作戦区域であった場所のルート策定を、幾つか叩き台として考察したルートがここにあるのでそれを参考に」
「了解、任せておけ……それと指揮官、今夜は空いているかい?」
書類を受け取る際、右手でなく左手で受け取る・・・・・・その薬指には指輪がはめられていた。
それを見た指揮官の表情が少し和らぐ・・・・・・少しだけ嬉しそうであった。
「うん、21:00位からなら平気かな・・・・・・部屋で良いかい?」
「構わない、2人の方が良い」
「了解、じゃあ早めに片付けようか」
「んっ・・・・・・はあっ、こんなものかな」
「お疲れ、こっちも終わったぞ」
既に日は沈み、夜の帳が基地を包み込んでいる。
手を頭上に伸ばし、ゆっくりと首を回したりしている指揮官の横に立ち、纏めた書類を差し出す。
それを受け取り、その場で速読をしようとする指揮官の目線を自分の手で遮りながら、書類を持つ手をゆっくりと机に持っていく。
「今日はもう終わりだろ? 確認は明日でも良いじゃないか」
「折角纏めてくれたのに?」
「仕事に真面目なのは良い事なんだけどな、休む時に休む事も必要だ……それに」
椅子に座っている彼の手を引き、自分の胸元へと引き寄せ寄せる。
指揮官は引っ張られた事に驚き、私に抱きしめられた事に一瞬体を強張らせたが直ぐに力を抜いた。
「もう公の時間は終わっているんだ、私の時間は私を見てくれ」
「……そうだね、そうするよ」
「分かってくれれば良いさ」
指揮官を離すと、彼は書類を要確認と書かれたケースに入れ、戻ってきた指揮官の手を取り指を絡めると、彼も握り返してくる。
執務室を消灯し鍵を閉めて、私達は歩き出した。
「今日はどうしたんだい?」
「偶にはこういう日もある、それだけだ」
指揮官の私室はまあまあ広い、本棚やソファー、簡易的なキッチンに冷蔵庫等一式は揃っている。
時刻は21:00、既に夕食も入浴も済ませあとは寝るだけ と言った状態で大きめなソファに身を預けた彼の隣に座る。
彼は特に何も言わない、ただ私を受け止め包み込む様に肩を抱き傍に寄せるだけ。
「しかし、面白い合図だよね」
「何が?」
「指輪を薬指に着けてる時は傍に居たい合図だって話、M4達にだって話していないのでしょ?」
「……ふん、私は頼れる姉でなきゃいけないんだぞ? 迷いも弱さも見せてはいけない存在だ。
そうしてきたと言うのに……指揮官が悪いんだぞ、そういった所を見つけてしまうんだから」
不機嫌そうに顔を逸らしてみると、彼はごめんごめん と少し困ったように笑いながら私を強く抱き寄せる。
……ずるい奴だ、そう思いながらも彼の背中に手を回し少しだけ力を込める。
「こういった表情を見せてくれるのが嬉しくて、言い過ぎてごめんよ」
「ん……ったく、しょうがないな」
お互い本気で言っている訳ではない、ただ触れ合いたいと思いじゃれている様な物だ。
ただ、そのじゃれ合いが愛おしい。
「指揮官」
「ん?」
「愛している」
指揮官の為なら、私は迷わず使命を果たせるだろう。
だから……どうかその日が来るまでは、この行いに付き合って欲しい。
妹達にも見せられない、弱さを貴方になら見せられるから……
指揮官が【何時か帰る場所】になる事を祈りつつ…