とある指揮官と戦術人形達   作:Siranui

11 / 30
 最初はここまで個性的になるはずでは無かったんです……


第二部隊 子猫の扱い方

「やーったらやーなのー!!」

「MG5、そっちに行った!」

「ハッハッハッ、任せ……ダメだ、早すぎるぞ?」

「何をして……っ! ええい、すり抜けられた!」

 

 ドタンバタンと何かが走ったり倒れたりする音が第二部隊の宿舎から立て続けに聞こえてくる。

何事か と非番の人形が何人か様子を窺っているみたいだが、誰も扉を開けようとはしない。

それはそうだ、開けた瞬間顔面にGという名の古代生物が飛んで来られても困る。

気にはなるが、かと言って二次被害に合うのは嫌だとお互いに顔を合わせ、どうしようか……と悩んでいる様だ。

 

「どうかしたのかい?」

 

 とりあえず声を掛けてみよう、と近くに居た娘に聞いてみるが、どうにも要領を得ない。 騒ぐ声が聞こえたから見に来たけど具体的な事は分からないという返答のみである。

致し方ないと一応ノックして自動扉に手をかけるとロックがされている様だ。

手元のタブレットを操作し指揮官権限で開錠を要求、部隊副長権限より上位者命令により承諾……

軽いモーターが動く音と共に自動扉が開く。

 

「フーッ!!」

「威嚇されているぞ?」

「……分かってる、とりあえず半包囲して逃げ場を絶たないと……」

 

 そこには無残にも倒された調度品や本棚、散らばった書類……荒らされた宿舎が広がっていた。

部屋の隅には何故か耳を逆立てて威嚇するG41、それを逃がさない様に両手を広げながらジリジリと距離を詰めるMG5にダネルという図であった。

……なんだこれ? それがこの光景をみた最初の感想であった。

 

 

時は少しは戻るが、本日の第二部隊は休日であった。

隊長であるFAMASはいつも通り指揮官の所へ向かったが、珍しくVectorも外出許可を貰い街へと出掛けていた。

丁度良い日差しにウトウトしたくもなるだろうが、窓際で本を読んでいたダネルは偶にはこんな日も良いだろう と休日を満喫していた。

元々騒がしいのは余り得意ではないし、一人静かに過ごす方が好きだが……

 

「やーっ!」

「待つんだG41、無駄な逃走は諦めて大人しくしろ!」

 

 前言撤回、何時も通り騒がしい事になりそうだ……部屋のドアが開かれ、外からG41とMG5が慌ただしく入ってくる。

G41はMG5から逃げているらしく、ピョンピョンと小柄な体を生かし脇をすり抜け腕を交わし、長身なMG5を翻弄する。

ただG41は逃げるのに、MG5は追うのに必死で気づいていないだろうが、彼女達が動き回る度に備え付けられた家具が倒れ、書類が散らばり本棚が倒され中身がMG5に襲い掛かる。

 

「いい加減にしろ! 休日だと言うのに仕事を増やして……何が原因なんだ!」

「むっ……居たのかダネル、丁度良い手伝ってくれ」

「ダネル、MG5が無理やり飲ませようとするの! お願いだから逃げるの手伝ってよー!」

「お互いに手伝って欲しいと言われても私は一人しか居ない! 兎に角落ち着いて話を聞かせてくれ……」

 

 MG5もG41もお互いに牽制し合っている為、私の方を見ようとはしない。

別の場所でやっているのなら関与しない、又は落ち着くまで暴れさせても構わないと思うのだが……

ここは私達の宿舎であり、解決しない限り被害は増え続けるだろう。

お互いの中間に入り、双方とも落ち着く様に声をかける。

 

「G41に増幅カプセルを飲ませようとしているのだがどうも嫌がるんだ。 苦いとかどうとか……」

「嫌よ、そのカプセル苦いんだもん! 前に甘いって言ってたのに騙されたんだから!」

「味がしないからと噛み潰す奴が居るか……それに薬は苦い物だ」

 

 薬は苦い物だ、と告げられた時のG41はショックを受けた様な表情であった。 口を半開きにし絶望した様に眉を八の字に下げている。

……まあ、ここまでの話的に私がどちらの味方をするかは決まった様なものだ。

 

「……とりあえずの話は分かった。 MG5、手伝おう」

「ダネル!?」

「Good、良い判断だ」

 

 MG5と並ぶように立つとG41が更に怯えた様に一歩下がるが、この娘に増幅カプセルさえ飲ませてしまえばこの騒動は収まるのだ。

MG5が少しの間目を閉じて何かの処理をすると、宿舎の扉がロックされる。 これで逃げ場はこの部屋以外無くなった。

 

「さて……抵抗は無駄だぞG41、2対1で敵う筈も無い」

「……もう、本気で怒ったんだから!」

 

 G41の瞳が赤色に変わる……言葉通り、戦闘モードに移行したという事だろう。

……そんなにも嫌なのか、たかがカプセルを飲むだけなのに。

そんな考えをしたのが間違えだったのかもしれない、G41はアサルトライフル、私はライフルの戦術人形でMG5はマシンガンだ。 機動力に重きを置いて居ない私達はG41を捕まえられずにいた。

直ぐに終わると思った捕り物は修羅場となり、遂には総力戦だと言わんばかりの様を晒している。

 

「やーったらやーなのー!!」

「MG5、そっちに行った!」

「ハッハッハッ、任せ……ダメだ、早すぎるぞ?」

「何をして……っ! ええい、すり抜けられた!」

 

 最早何が可笑しいのか、MG5は笑いながら捕獲しようと腕を伸ばした所、身を屈め腕を掻い潜り走り抜ける。

私も捕獲しようとするが、足の間をスライディングしてすり抜けられる。 ええい、どうにもならないものか!

MG5と共に隅へと追い込むが、壁を背にしてG41は私達を威嚇する様に唸り声を上げる……なんだ、野生化してないか?

 

「フーッ!!」

「威嚇されているぞ?」

「……分かってる、とりあえず半包囲して逃げ場を絶たないと……」

 

 背後から空気が抜ける様な音が響いたのはその時だ。

振り返る余裕も無くG41を注視していた私達の耳に彼の声が聞こえる。

 

「……何が起こっているのかな? MG5、ダネル」

 

 

 

「……何が起こっているのかな? MG5、ダネル」

 

 部屋の惨状に頭を抱えたくなるが、とりあえずは現状を把握しなければならない。

蹴散らされた物を踏まない様に部屋の中へと進んでいく。

 

「ああ指揮官、すまないが簡単に説明だけするとG41が増幅カプセルを飲む事を拒んでいるのだ。 それをどうにかしようと私は追いかけている」

「私はそれに付き合っているだけだ、静かな休日を二人に壊されてはたまらない」

「……うん、大体分かったよ。 後は任せて……」

 

 この惨状が引き起こされた理由を知り頭を抱える。 増幅カプセルを忙しいからと理由を付けて自分で与えなかったのが悪かったと思っておこう。

真剣な表情をしているMG5とダネルを見てしまうと何も言えなくなる。

 

「ご主人様でも、嫌なものは嫌ですよ!」

「あはは……G41、無理やりには飲ませたりしない、約束するよ……ほら、おいで」

 

 MG5もダネルも身長が高い戦術人形であり、小柄なG41が追い掛け回される事は怖い事だったかもしれない。

こういう場合はまず警戒心を解く所から始めるしかないだろう。 両手を広げ、敵意が無い事を示しつつG41に近づいていく。

逆立てていた耳がゆっくりと落ち着いてゆき、目の色も赤から青へと戻っていく。

 

「……本当ですね?」

「うん、約束する」

 

 ポフッ と柔らかい髪の毛が私の腕の中に当たり、G41が身を預けてくる。 私は荒れ果てた部屋で床に物がない場所を確認し、胡座に座り込んでその上にG41を乗せる。

子供の頃、怖い夢を見た時やテレビを見る時良く父親の膝上に乗せてもらった記憶があるのだが、その時に感じた暖かさは安心感を得るのに十分だった。

膝の上に乗ったG41は頭を胸元に摺り寄せ、私の手を引っ張り抱き締める様に彼女の体の前でクロスさせる。

 

「んっ……はあっ、少し落ち着きましたよご主人様」

「おお~……流石だな指揮官」

「……やはり追いかけ回すのは失敗だったかな、獲物は絡め捕って仕留める方が……」

 

 パチパチと感心したように拍手するMG5に、ブツブツと先ほどの追いかけっこの反省をしている……筈だ。

獲物とか物騒な事を言っている気がするが……まあ気のせいだと思っておこう。

少し落ち着いた所で、MG5に話を振ってみる。

 

「MG5、増幅カプセルは今持って居るのかい?」

「ああ、とりあえず飲ませなきゃいけない分は持って居る」

「ん~……MG5、増幅カプセルの役割ってなんだっけ」

 

 何を今更? とMG5の表情が語っているが、微笑みながら目線をG41に向けると理解した様子で少しだけ頷いた。

恐らく彼女ならそれだけで理解できているだろう。 ダネルにも確認の意味で目線を送ると彼女も分かっている と言わんばかりに片目を閉じた。

 

「戦術人形の駆動部分や人工筋肉等の動きを補助、または補修する薬だ。 ある程度の期間を置いて飲んだ方が効率の良い動きが出来る。 勿論パーツ交換や定期メンテナンスでも可能な事ではあるが、予算が掛かるのが難点だな。 そういった意味では、指揮官に負担をかけない為にも定期的に摂取する方が助かるだろうな」

「……それだけではない、私達は何時戦場に身を置くか分からない身であり、メンテナンスを常に受けられる訳ではない……そんな時、増幅カプセルに含まれたナノマシンが補修したりしてくれる。 要は自分の為でもあるんだ」

「ううっ……それは分かってますけど……苦いのはやーなの……」

「いや、噛み砕かなければ苦くは無いのだがな?」

 

 ふむ……どうもG41も飲まなければいけない と言う事は理解してはいる様だ。 だがどうしても昔に経験した苦さが忘れられないらしい。

ならば記憶を上書きしてあげれば良い筈だ、飲み方を教えてこれが苦い物では無いと理解できれば次からはここまで強い拒絶反応はおきないだろう。

 

「MG5、水とオレンジジュースを貰ってきてくれるかな?」

「それならここの冷蔵庫にあるが……また何故?」

「飲み方さえ分かれば良いと思うんだ。 だからG41、私と一緒に頑張ってみないかな?」

 

 少しだけ強張ったG41の頭をポンッポンッ、と優しく撫でながら大丈夫だよ、と伝える様に少し体を抱き寄せる。 うーんうーんと唸りながら猫耳? を揺らし考えていたG41が私を見上げる。 頬が朱色に染まり目が潤んでいる事から、やっぱり怖いのだろう。

 

「……ご主人様と一緒なら、良いです……よ?」

「うん、ありがとうG41……MG5、カプセルと水を」

「ああ、了解した。 ほら」

「ありがとう、ほらG41、あーん……」

 

 MG5から受け取ったカプセルを摘み、膝上のG41に口を開けさせる。 背中を私に預け目を閉じ、舌を少し出しながらあ~っ……と口を開く。

摘まんだカプセルをなるべく奥の方に……

 

「はむっ」

「……何故G41は指揮官の指が抜ける前に口を閉じてしまうのだ?」

「分からん……だが羨ましい……」

「ダネル、何か言ったか?」

「いや……?」

 

 舌に置いた瞬間、G41の口が閉じられてしまった……ん~ワニだったかな、舌に触れると反射で口を閉じてしまう生物が居るとか居ないとか……何て考えてる場合じゃないか。

カプセルはそう簡単には溶けないだろうが、早めに飲ませないとまた苦い思いをさせてしまう。 ピコピコと機嫌良さげに動く耳が少しくすぐったいが、右手を引き抜き水の入っているコップを渡すと、両手でコップを持ち、コクッコクッと喉を鳴らしながら飲んでいく。

プハッ、と飲み終わった事を知らせる様に息継ぎをし、私を見上げながらニコニコと褒めて欲しそうにして居たので、口に含まれていない方の手で撫でると気持ちよさそうに目を細める。

 

「あ~っ……」

「……あれ、あと何個あったっけ?」

「あと9個だ指揮官」

「これ、全部飲ませないとダメかな?」

「うむ、すまないが頼みたい……なにせな」

「なにせ?」

「FAMASが帰ってきた様だ、今すぐ片づけをしないと……」

「今すぐ片づけをしないと何でしょうか?」

 

 ピシリッ とMG5が固まり、ダネルの表情が消え落ち着きが無い様に目線が泳ぎ始める。 変わらないのはG41くらいで、私の腕の中であ~っ と3つ目のカプセルを飲み込んでいる所であった。

声のする方向を見ると、自動ドアの前でFAMASが笑顔で仁王立ちしていた。

 

「お帰りFAMAS、書類は問題無かったかな?」

「ただいま戻りました指揮官、特に問題なく受領されました。 早速で申し訳ありませんがMG5とダネルをお借りしても宜しいでしょうか?」

「あ~……うん、まあ手加減してあげてね? 半分くらいは私がカプセルを自分で渡して飲ませれば良かったのだと思うからさ」

「はあっ……分かりました、手加減は致します」

「ま、待ってくれFAMAS、私は……」

「……言い訳はしない、だからMG5よりは短くしてくれ……私は静かに過ごしたかっただけなんだ」

「なっ、裏切るのか!」

「問答無用です、お二方は私の私室へ同行して頂きましょうか? はい、早くしなさい」

 

 トボトボとダネルが先行し、MG5が何とかしてくれないか と言いたげに私に振り返るが……ごめん、これはどうも弁解できない。 ごめん、と手を立てて謝ると全てを理解したのか気落ちした表情でFAMASの私室へと向かった。

 

 

「……模様替えでもしているの?」

「そんな所だ」

「…………」

 

 夕方、宿舎に戻ってきたVectorが見たのは、表情が全く変わらず黙々と片づけをしているMG5とダネルだった。

MG5はまだ返事をする気力があるようだが、ダネルは目線を向けてくるだけで何も言葉にしない事から酷く疲れている状態だと感じた。

 

「指揮官は?」

「そこに居る」

「…………」

「ダネルはいい加減目線で話すのをやめな、私は分かるから良いけど……指揮官、ただいま」

「お帰りVector、休みは楽しめた?」

「そこそこ、探していた物は見つけられたし……ん、G41は寝ているだけ?」

「そうだよ、走り回って疲れたのかもね」

 

 スウッ……スウッ……と指揮官にその身を預け、腕の中で眠るG41……ん~……やはり噂は噂でしかない と言うよりは面白半分で誰かが広げただけだろうか。

 

「そう、じゃあ指揮官がG41に苦い物を無理やり飲ませている というのはただの噂だ と言う事か」

「……どういう事なの……?」

 

 指揮官がキョトン とした顔で私を見上げる。 やっぱり自動ドア越しに聞いていた耳年増達の仕業か。 とりあえず噂をまき散らしている奴を捕まえ、当事者から説明をして貰えれば誤解も解けるだろう。

 

「……いや、指揮官は必要な事をしただけだぞ?」

「そうだな、私達では出来ない大切な事をしただけだな」

 

 ……あ、こいつ等に説明させる事だけはやめた方が良いな。 ダネルは慣れた相手でないと口数が少なく言葉足らずになり易いし、MG5はわざと勘違いさせる様に誘導する可能性がある。

Vectorはそう判断したものの、自分も当事者ではないしFAMASが動いているのなら大丈夫だろう と静観する事を決める。

 

「いや、ただそんな噂が流れていると言うだけだよ。 FAMASに任せておけば大丈夫だろうから、私から報告する事は無い」

「はあ……まあ、Vectorがそう言うならそうなんだろうね」

 

 指揮官は私の言葉に安堵したように笑みを浮かべる。 少しは疑ったりした方が良いんじゃないかな……まあ、私もこの時FAMASが破損した備品や書類の確認で手一杯だと言う事に気付いておけば良かったんだけどね。

後日、G41やMG5にダネルが中途半端に指揮官を庇ったり説明不足で噂に信憑性を持たせちゃうもんだから、その事を知ったFAMASがまた笑顔で説教する事になるんだけど……まあ、私には関係のない事だからここで話を終えるよ。

 

 




 子猫や子犬は人懐っこい個体と気難しい個体がございますが、私の近くに居る猫・犬は無防備にお腹を晒してくる子ばかりでした……野生の野良猫、それで良いのかい……?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。