≪拝啓 桜が芽吹き、春の気配が漂う季節となりました。 本社におきましても新入社員が入社するに辺り……≫
パソコン画面に並ぶ文字を淡々と読み上げていくが、季節の挨拶に始まり会社に新入社員が入る事や、今年の桜はどうのこうの……どうも上層部と言う物は対面を気にして肝心な中身を出し渋る傾向がある。
『指揮官、本部からの通達は読んだか?』
「現状読んでいる所ですが……ヘリアンさん、何と言いますかもう少しスマートになりませんかね? 装飾が多すぎて肝心の結論にたどり着くまでしばらくかかります」
『まあそう言うな、知っての通り民間軍事会社と言う物は金がかかる。 スポンサーから少しでも資金を引き出す為には見栄と言う物が必要なのだ』
通信機器に映されるヘリアンさんについ愚痴を言ってしまう……失敗した、気が緩んでいる証拠だろうか? 幸いな事にヘリアンさんは気にしては居ない様で、会社にも会社の都合があるのだ と私を宥める様に説明する。
世界がどの様になろうとも金は何をするにも必要であった。 それを稼ぐ為に人は働くし企業だって動く、現に私もそうして生きてきているのだから文句は言えないだろう。
「……気を使って頂いて申し訳ありませんっと、定例会議ですか」
『そうだ、今年は管理区画内の会場で行う予定だ。 注意書きにある様に護衛の戦術人形を1体選抜し報告しろ』
「この護衛人形の変更は認めない とは?」
『文字通りの意味だ、一度決めた護衛人形の変更は許可できない。 きちんと考えて選抜するんだ……迷っている様ならカリーナに相談してみろ、良い助言を貰える筈だ』
「了解致しました、決まり次第報告致します」
通信画面からヘリアンさんが消え、先ほど読んでいた通信文に再度目を向ける。 定期報告会議への出席命令と護衛戦術人形を1体選別し会議開始2週間前には報告する事……また選別した戦術人形の変更は禁止、貴官が最も信頼する者を選別せよ と。
「最も信頼する……か」
ヘリアンさんが迷うならカリーナに相談しろ、と言っていた筈だ。 私の中でも候補は数名が直ぐに出てくるがわざわざヘリアンさんが助言してくる程だ。 聞いておいた方が良いだろう。
「カリーナ、すまないが執務室まで良いかな? 次の定例会議での護衛について相談したいんだ」
『了解致しました! 準備出来次第向かいますのでしばらくお待ちください』
「うん、宜しくね」
さて、カリーナが来るまでの間は書類を整理しておこう……
「お待たせいたしました、指揮官様!」
「お疲れ様カリーナ、わざわざありがとう」
「いえいえ、それで次の会議に連れて行く護衛についてですよね?」
「そうだね、何時もの通りだと思ったんだけど最も信頼する人形を選抜せよ。 なんて事が書いてあったかね、相談させて欲しいんだ」
「はい、とりあず戦績・普段の言動や指揮官様との交流等のデータや、私から見た時にこの娘達なら大丈夫だと思われる5人を選びました」
小脇に抱えたファイルから写真とデータシートを取り出し私の前に並べていく……G11、PPK、Kar98k、M4A1、ST AR-15の5人だ。
「指揮官様でしたらどの娘も喜んで付いてきてくれると思われますよ?」
「そうかな……しかし選べと言われても」
「勿論、護衛無しという事は許可されておりません、それにヘリの搭載容量から1人以上選ぶ事も不可能です、ここは腹を括ってご決断を!」
何故そこまで意気込まなければいけないのだろうか?
盛り上がるカリーナに対し、私の頭は妙に冷静に考えている。
キラキラした興味深々です! といった表情のカリーナを気にしない様に、背もたれに身を預け深く深呼吸する……
うん、やっぱり信頼しているのならこの娘だろう。
G11 111
バタバタとローターが回る音が響く中、あたしは座り心地の悪い椅子に身を預けうたた寝をしていた。 また指揮官が隣に座っているのを良い事に、彼の腕辺りを枕代わりにしてみたが振り払う様子もない。
むしろなるべく動かさない様に、と気を付けながら今日の会議資料を再確認している素振りさえある。
数週間前、指揮官から御願いされた事は定例会議へ護衛として出席する事であった。 護衛……と言っても会議へ出る事は無い。会議の中身が最重要機密となる為、私達は近くの待機所で待つ事となる。
あたしが出席を承諾したのもここが大部分を占めている。 つまりUMP45やHK416に邪魔されず居眠りする事が可能だからだ。
……まぁ、小さい部分に指揮官があたしを選んでくれた という事も無くはない。 あたしで本当に良いの? と確認した時、G11が良いからこうしてお願いしてるんだ と言ってくれた。
その時は胸が温かくなる様な感じに、異常かと確認してみたが特に何も異常だと思われる箇所は無かった。
「G11、G11、そろそろ到着するから起きて……」
ユサユサ、と指揮官が肩を揺らす。 これがUMP9だったら頬を抓られながら横に引き伸ばされるのだが……ううっ、思い出したら抓られてないのに痛くなってる気がする。
「んっ……分かった」
「まぁ何も無いと思うけど宜しくね?」
「任せて、選ばれたからにはちゃんとやる」
着陸前に自分の分身に問題が無い事を確認し、通常モードから警戒モードへと頭を切り替える。 さて……お仕事の時間だ。
ヘリポートに到着し指揮官とあたしの識別番号や声紋を確認され、さてこれから会議だ……という所で、護衛人形は何時もの待機所でなく別のルームへと案内される事になっていた。 本部の人間の案内に従って付いていくと……他の戦術人形も集められている様であった。
「さって、じゃあとりあえず各々は専属の人が付くから番号が振られている場所に座っていて下さい」
……専属? と疑問に思うが、どちらにしろ指示に従わないと話が進まないだろう。 指定された席に座ってみるとその横を固める様に櫛や化粧道具を持った人が……えっ?
「まあまあ、気楽にして下さいね~?」
「そうそう、素材は良いのですからすぐ綺麗になりますよ~?」
……それからは一方的な蹂躙戦だった。 来ていた上着やズボン、装備をはぎ取られ採寸通りだわ! やらお肌に化粧の乗りが良いわ! だの……無抵抗なのを良い事にあれよあれよという間にドレス姿へと変貌させられてしまった。
モスグリーン色で統一され、エンパイア型……肩口で揃えられた上着は動く事に支障を感じさせず、胸の少し下辺りから膝上までのロングスカートも走ったりする際には邪魔にならないだろう。 少し首元がスースーする気がするけど……
「はあ……会議が終わったと思ったら今度はパーティーか、それならそうと最初から通知してくれれば……っと、お疲れG……1、1?」
「ん……えっと、お疲れ?」
「あ、ああ……うん、お疲れ様」
化粧や着替えが終わった時には会議が終わっていたらしく、案内に従って歩いていくと幾人かの指揮官に混ざって彼が居た。 どうやら私達がドレスに着替えている事やこの後にパーティーがある事もまったく知らされていなかったらしい。
私を見つけた時、彼の表情はポカン としたと思うと頬を朱色に染め視線を逸らした。 何というか分かりやすい……まあ、そんな表情を見ているのも新鮮で面白いのだが……無言で目をそらされたままと言うのは少し居心地が悪い。
「……指揮官、流石のあたしでも目を逸らされて無言なのは応えるよ……?」
「あ、ああ……ごめん、その、えーっと……綺麗だ」
しどろもどろ、視線を彷徨わせていながら最後の言葉だけはあたしの目をしっかりと見て言うのは卑怯だろう。 自分の頬が熱くなるのを感じるが……聞きたい事は聞けた、これ以上ここに留まる必要は無いだろう。
「……ありがと、ただ会った時直ぐに言えないのは減点かな……」
「うっ……ま、まあ……見惚れていたんだよ、そう恥ずかしい事を言わせないで欲しい」
「ん……まあ、良いけど……とりあえず会場に行こう? そろそろ始まるはずだよ」
「もうそんな時間? ふむ……じゃあ、お手を頂けますかレディ?」
先ほどの減点と言ったせいだろうか、彼は片膝を付き私を見上げながら手を差し出す。 これが廊下でなければ良かったんだけどなあ……まあ、あたし達にはお似合いかもしれない。 形式ばった事より実利を好むのだから。
「喜んで……エスコートを宜しく」
そっと手を置くと、温かい手があたしの手を包み込んだ……
「……疲れた、寝ちゃダメ?」
「悪いけどもう少し頑張って、あとちょっとでラストダンスだろうからさ……」
新年度の挨拶に続いて、立食形式で料理を楽しむ場とダンスホールに分かれてパーティーと言う名の情報交換、新任の戦術人形と顔合わせや新しい武器等の売り込みが行われている。
指揮官も新型の戦術人形や、その他車両・基地防衛システム等様々な分野の人と話し、その中の何人かからダンスを誘われてもいた。 断るのも角が立つのだろう、私に伺うような目線を向けてくるので行ってきたら? と告げておく。 離れた所でも壁際に寄って指揮官を追尾していれば良い……そう思ったんだけど、壁際で一人寄りかかっているのを好機だと思われたのか私にもお誘いが掛かってしまった。
仕方が無いと何人かの別部隊指揮官と踊ったが、殆どは引き抜きの提案だったり彼の情報が欲しい連中だった。 引き抜きに関しては404部隊の小隊長にでも言ったら? と流し、指揮官の情報が欲しいと言外、直接構わず告げてきた相手は全て顔をデータ照合にかけてUMP45に通信を送っておく。
何回か踊って、指揮官と合流した時にはもうラストダンスの時間……そういえば指揮官はどうするのだろうか?
「もし宜しければ、ラストダンスを踊っては頂けませんか?」
「えっ……私ですか?」
「はい、宜しければ」
考え事をし過ぎたのだろうか、俯いていた私の横で指揮官が声を掛けられている。 見た所新型の人形……おそらくSGだ。 ドレスに合わないI.O.P.所属を示す証が首元にかかっており、本日お披露目の花形だろう。
ならば断わる理由もない、指揮官の対応から誘ってはいないのだろう。 わざわざ本日の花形が向こうからお誘いをしてくると言う事はそれ相応の理由と今後があるのだろう。
「申し訳ない、ラストダンスは彼女にと決めているので」
「そちらの……404の方と?」
「ええ、それが何か?」
「そうですか……いえ、申し訳ありません。 余計な詮索でした……残念ですが次の機会があればよろしくお願いします」
ペコリ と頭を下げ、あたしを少し羨ましそうに一瞥し他の場所へと歩いていく……って、指揮官は良かったのだろうか? そんな事を考えている間もなく、指揮官はパーティーが始まる前の時同様、片膝を付いて手を差し出していた。
「……と、言う事でさ。 あまり恰好良くないけど、ラストダンスを踊っては頂けませんか?」
「あのさ……もう少し何て言うか、雰囲気とか……時間が無いのは分かるからまあ、良いけどさ?」
「あははっ、オッケーが貰えればこちらの勝ちさ」
手を取り、ダンスホールの中央付近へと躍り出る指揮官。 左手はここで、右手はここ……と手の位置を教えてくれるが、踊り方なら民生時代の記憶から引き出せるので問題ない。 むしろ男性の踊り方をサポートしながら踊れる程度には動ける。
音楽が演奏され始め、指揮官の動きに合わせる様に踊りだす。 彼は少し驚いた様な表情をしていたが、直ぐに笑みを浮かべる。
「良かったの? あのSGの誘い断っちゃって」
「ん? いや、だって君と踊る為にラストダンスが始まるまで横に居たんだからさ。 悪いとは思うけどこれは譲れないからね」
「……それに、あたしの所属は404だし……」
「言いたい奴には言わせておけばいい、私は君達を受け入れた時に交わした約束を違えるつもりはない。 と言うよりもだ、本部にG11を護衛にすると報告した時点で何も言ってこないんだから良いって事でしょ?」
「はあ……なんでそう言う事は恥ずかしい事に入らないのさ……」
頬が熱くなるが嫌な熱さではない、あの新型SGより私を選んでくれた事が嬉しい。
ヘリアンも私がこの場に居る事は認めてくれているのだろうか……それとも、指揮官がまた何かしら手を回したのだろうか? まあ……良いや、誰からも何も言われないと言う事は探らない方が良いと言う事だろう。 そう言う事は45に任せれば良い。
「指揮官」
「ん?」
「~~」
「え? ごめん、良く聞こえなくて……何だい?」
曲が終わる……その前に彼に伝えなければならないことがある。 ボソボソと呟く様に声を下げると、指揮官は無防備に腰を曲げ顔を近づけてくる。
そっと腕の制服を掴み、反射的に身を戻そうとする指揮官をグイッと引き寄せる。
「ありがと、あたしを今日護衛に選んでくれて……」
驚いた顔で頬に手を当てる指揮官に微笑みかける。 指揮官の顔と同じ様にあたしの顔も紅いのだろうが……
「さっ、帰ろ」
まだ茫然としている指揮官の手を引き、ヘリポートへと向かう。 基地に帰ったら何が待っているかも知らずに……
その後の話? うん……能面みたいな表情って……怖いよね、本当に……
なぁのいも(水上ナギ)さん、キャラ選択と数値指定ありがとうございました。