猜疑に歪んだ視線が訴えかける、どう頑張ってもこれは貧乏くじだ と。
しかし彼を見捨てる事は出来ない、ならば皿事毒を食らうまで……
状況1 UMP45 基地襲撃……
「んっ……?」
微かな物音をセンサーが捕え自分の電脳がスリープモードから通常モードへと移行する……霞む目元を擦り、状況を整理しようとして違和感を感じる。 いつの間に宿舎に戻ってきたのだろうか? 確かI.O.P.の整備部門で精密検査を受けていた筈なのだが……
そう疑問に思っていた所、部屋に設置されているスピーカーから警報音が鳴り始める。 この音は……接近警報!?
「9、416、G11応答せよ」
即座に部隊内通信を立ち上げCALLするが……誰からも応答が無い?
「FAMAS、Kar、WA2000……誰か応答できる部隊長は居ない?」
次に自分以外の部隊長を同じくCALLするが、やはり帰ってくるのは無音……そう、まるで自分以外の人形が全て破壊れているか、存在していないかのような無音状態である。
「指揮官、応答して」
『UMP45、こちら指揮官』
指揮官へのCALLでは直ぐに指揮官が現れる。 相当切羽詰まっているのか、何時もの柔らかい微笑は浮かべておらず手元のコンソールを忙し気に動かし指示を出し続けている様だ。
「まだ無事だったみたいね、現状の報告をお願い」
『ああ、どうやら基地の防衛システムがシャットダウンされたらしい。 現状各部隊は基地外壁で防衛戦闘中だ。 数が多く少し押されている』
「了解、指揮システムには問題は無い筈よね? さっきから通信に誰も応答が無いのは……」
『妨害電波が出ている様だね、こっちも短距離しか通信ができない。 外で防戦している部隊にはドローンで中継しているが、それも撃墜されたら危険だ……対応を考えたいから一度司令室まで来て貰って良いかな?』
「分かりました、武装していくから少し待ってて」
手早く身支度を整え、宿舎のガンラックより分身を持ち出す。 初弾装填良し、安全装置解除・・・・・・全て問題なし。
宿舎を飛び出し小走りに基地内部を駆け出すと遠くから断続的な銃声が聞こえてくる、急がなくてはいけない。
「お、出てきた出てきた」
基地の監視カメラを通した体で映された画面上でUMP45が基地内を駆け出す、窓の部分で身を屈めたり射線の通る広い場所を避ける等から相当訓練されている事が伺える。 既に基地内部のMAPを広げてどのルートが安全且最短時間で司令室にたどり着けるかの演算は終わっているのだろう。
「しかし危なかったね……やっぱり小隊長を務めるだけの事はあるよ。 少しでも違和感を感じたら冷静にそれを見極めようとするし……咄嗟に警報を鳴らして思考を中断させなければ実験も失敗だったかもね」
コンソールを操作し、銃声や砲声が聞こえる様にすると少しだけ目線を動かし、直接的な脅威が無いかどうか、敵の位置は何処か、移動するべきか反撃するべきか瞬時に判断している。 UMP45を計測している手元のデータからはまだ異常と言える数値は検出されず、通常戦闘時程度のストレス値だと判断できる。
『指揮官』
『UMP45、お疲れ様……と言いたい所だけど状況はかなり不味い、外郭に敵部隊が取り付きつつある』
そう考察している間にもUMP45は司令室にたどり着いた様で、彼女の呼びかけに指揮官が対応している。 戦術MAPを投影し、敵と味方の配置を図に示していく。
画面上の指揮官とUMP45は普通に状況報告と意見交換をしているように見えるが……手元のデータが狂い始める、UMP45が感じているストレス値が上昇の傾向を示したのだ。
『外郭が突破されるのも時間の問題かも知れない、カリーナや他の基地に居る非戦闘員には退避命令を出している』
『指揮官、図から見るに敵の狙いは包囲殲滅。 一箇所でも突破された防壁はもう塞ぐ事が出来ない筈よ……指揮官も脱出するべきじゃないかしら』
『……それは最後の手段として考慮はしておくよ』
何故ストレス値が上昇しているのか、その原因が分からないまま彼女達の話は進む。
時間経過と共にプログラムは順調にその役目を果たし、VR内で砲撃が炸裂したのと同等の揺れが司令室を襲う。揺れに対し、身体を屈め揺れに対応する指揮官がUMP45を気遣う様に声掛けようとするが……
『4……』
『ああ、ごめん。 やっぱりこれ以上は無理、その口と声で私を呼ばないで』
UMP45がUMP45の銃口を指揮官に突き付ける。 比喩でも揶揄でも無く、金色に輝く瞳に殺意を滾らせて……先程から話していた緊張しながらも柔らかい声では無く、敵に向けて吐き捨てる様に彼女は無理だと口にした。
はっ……? と開いた口が塞がらない私の前で、彼女はそのトリガーを引き絞った。
フルオート、マガジン内の全弾を至近距離から指揮官に叩き込む……冗談でなく彼の体はズタズタに引き裂かれ風穴が空いた体から鮮血が溢れ出す。
『あら、人間だったんだ……人間は最後まで聴覚が残ってるって言うから教えてあげる。 指揮官はね、脱出するのは最後の最後で私達が全滅するならそのまま玉砕する様な人よ。 私が脱出の選択肢を示しても、曖昧に笑いながら拒否する甘ちゃんなの。 声や姿を幾ら似せた所で、そう言った所は似せられないわ……私も舐められたものよね、そんな中途半端で私は騙されない』
淡々と事務事項を伝える様に倒れ付す指揮官……いや、既に息絶えている素体に話しかけている。 至近距離からの銃撃にも関わらず彼女には返り血の1つも浴びていない上、足元に広がる血液すら触れない様にしている。
『最初からおかしかったよね、攻めてきているのが鉄血の連中だと言うのなら、奴等の通信が拾えないどころか雑音も無しに無音だってのもおかしいもの。 妨害されていると言っても、自分の通信まで妨害するバカは居ない筈よ。
それにいくら日常生活が壊滅的な奴等とは言え戦闘に関しては一流、そんな奴等が私に救援要請も出せないまま全滅する筈も無い。 9が私の傍を離れる時に何も伝えない事も、416が戦闘が始まっているのに叩き起こさない事も、G11が宿舎で寝て居ない事も……落ち着いて考えれば考える程矛盾点が出てくるのよね……』
ブツブツと状況を整理する為か、腕を組み片手を顎にあて考えを口に出していくUMP45。 うーんやはり性急過ぎたかなあ……と反省しながら、次の実験では気を付ける注意点として脳内にメモしていく。
『まあ良いや、どうせ今考えた所で仮説に仮説を重ねていくだけだし……ただ』
データを収集している機器から警報音が鳴る。 これは……ハッキング警報? いや、まさか……
額から嫌な汗が流れ固まる中、ゆっくりと彼女が顔を上げ、監視カメラの方へと顔を向ける……彼女は笑っていた。 口元を三日月形に歪め、金色の瞳に影を落としつつ真っ直ぐにこちらを見ている。
『モドキとは言え、指揮官を私に撃たせたのは……ゼッタイ二ユルサナイカラ』
ピーッ っと心音が止まった医療機器の様な音がする。 UMP45のステータスを示していた画面がエラーを吐き、表示されていたデータが消え、朱い一文が表示される。
ミツケタ と。
私は即座に緊急停止ボタンを拳で叩き押し、UMP45とVR空間の接続を切断した。 削除される世界の中、彼女は笑顔のまま最後まで監視カメラを見ていた……まるで画面越しに私を覗き見る様に……嗤っていたのだ。
「……ペルシカリアさん、深淵を覗き込む時は深淵もまた私達を覗き込んでいる というたとえ話があるのですが……」
「だ、大丈夫よ。 VR内での記憶は持ち帰れない様にプログラムしてある。 例えあの場所でこちら側に干渉したとしてもその記憶を覚えていないのだから問題ない……ハズだよ?」
ダラダラと冷や汗を流す私と、あの視線に中てられたのかウェルロッドは大型モニターと私を目線が落ち着きなく行き来する。
ええい狼狽えるな、それでも戦術人形か!? 大丈夫大丈夫出来る出来る絶対出来る何でそこで諦めようとするんだ。 いざとなったらそこで寝ている指揮官を盾にO・HA・NA・SHIするしかない。
あ、この人禄でもない事思いついたな という表情をウェルロッドが浮かべるが気にしてはいけない。 勘のいい戦術人形は嫌いだよ? どちらにしろルビコンの川は渡ってしまったのだ、どうせ怒られるのならば全員試して怒られた方が損はない!!
「……そういえばUMP45、指揮官モドキが敵対行動をとる前に気付いてしまったみたいなんですけど……それは良いのですか?」
「まあ、ストレス値は測定できたし経過も見れたんだ。 こちらの想定した過程を通らなかったとしても目的は達成できたのだから問題ないよ……まあ、あれはちょっと怖かったけどね……」
「ちょっと……?」
あれでちょっとなのか と言いたげなウェルロッドに君達はもっと恐ろしい物と戦っているじゃないか と言いたくなるがそれは置いておこう、過ぎた事よりこれからの事を考えて行こう。
「過ぎた事を今考えたって無駄さ、今するべき事は次の実験を行う事だよ」
「今からでも遅くはないので中止するというお考えは?」
「無い、もう一度別の時期に指揮官を攫う事は不可能になるだろう。 そして正面から依頼したが今回拒否されているんだ。 ならばもうチャンスは今しかないんだ、≪何時やるの? 今でしょ!!≫こういう標語もあるんだ。 今更中止は出来ないのさ」
「はあ……分かりました、乗りかかったタイタニックです。 行く先が分かっていても最早降りる事は出来ませんのでお付き合い致します……その方が指揮官も守り易そうですし……」
HAHAHA、私も護って欲しい物だよお願いだから……まあウェルロッドも実験の継続に納得してくれたようだし、次の実験を始めようじゃないか……UMP45の妹、UMP9の耐久試験を。
試験結果は最後に講評として解説回を設ける予定です……ハイ。