とある指揮官と戦術人形達   作:Siranui

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 誰と話していたのか、何処で会話していたのかすら忘れましたが頭に残っていた単語が
AR-15に耳元で愛を囁かれたい という事だったので書き上げました。

 私はベトナムにもロシアにも行った事が無いから脳内で数字が見える幻覚も無いし、戦友が居ないのに見えると言う事はないのでアンシンシテクダサイ


ST AR-15 ただ貴方に溢れんばかりの愛を囁く

「……良い天気だなあ」

 

 珍しく書類仕事が午前中で終わり、昼食を食べ終わった時間帯……休憩時間だからと応接用のソファーに身を預けて休んでいた私の耳にドタバタと廊下を走る足音が聞こえる。

 

 何事だろうか……そう思いながらも、春の涼しい風と温かい日差しに気が緩み頭がぼんやりとして眠気に負けそうになる。 また緊急の場合は警報か通信機が鳴るだろうと言う点もそうだが、季節の変わり目と言う物は体が疲れを感じやすいのだろう。

 

 うつらうつら と船を漕いでいると足音が近づいて来る事に気付く……目元を擦りながら扉の方に意識を向けると、ドアの蝶番が悲鳴を上げる勢いで開かれる。 その音量で驚き眠気が一息に吹き飛び霞んでいた視界が一気にクリアになる。

 

 ドアを蹴破る勢いで開けたのはST AR-15であった。 普段の彼女ならば執務室に入る前は必ずノックをする娘だし、逆にノックせず入ろうとするSOPMODⅡを注意する方であるはずだが……

 

「AR-15……? どうかしたのかい?」

 

 声を掛けるものの、俯いたまま無言で近づいてくる彼女。 カツ、カツとブーツが床を叩く音と自分の心音が執務室に響く。 無言のまま私の前に立つ彼女に心音が早くなるのを感じる……それはそうだ、こういう場合は大抵怒っている事が多いからだ。

 

 AR-15が爆発する事は時たまある、殆どの場合はそうなる前に小言と共に注意してくれるのだが……重大作戦で少し徹夜した事が怒られたのは記憶に新しい。 何が彼女の琴線に触ったのかは分からないが、爆発される前に謝る内容を探った方が良いだろう。

 

「えっと……AR-1」

 

「指揮官」

 

 ソファーから立ち上がろうとした所で彼女が私を呼ぶ。 その声は想像していたより柔らかく怒っているというよりは……

 

「あははっ、しきか~ん!」

 

「……はいっ?」

 

 満面の笑みを浮かべながら彼女は私に飛びついてきたのだ。 突然の事で態勢を整える事も出来ず、彼女の成すがままにソファに押し倒される。 花のような香りがするのは石鹸か……宙に浮いた両手をどうする事も出来ず、首の後ろに回った両手の温もりも耳元にかかる湿った空気も、頬を掠める長い髪も……全てが夢でなく現実であると言う事を示している。

 

「ふふっ、指揮官……愛しています」

 

「はいいい!!??」

 

 耳元で囁かれる言葉が自身の理解を超え……いや、言っている意味は分かるのだが何故そう言われているのかが分からない。 引きはがした方が良いのだろうが、かなり強い力で抱き締められているので敵いそうにない。

 

「指揮官! すまないがAR-15が……って遅かったか!」

 

「あ、ああ……うん、AR-15がどうかしたか教えてくれるかな、M16」

 

 打つ手無し と途方に暮れていた所、再度ドタドタと廊下を走る音が聞こえ開けっ放しであった執務室の扉にM16が現れる。 ちっ と舌打ちしながら遅かったか という言葉に事情を知っているだろうと説明を求める。

 

 M16は頭を掻きながらどうした物かな と数秒悩んでいた様だが、意を決した様にその名を口にした。

 

「ペルシカ」

 

 魔法の言葉である。

 

「うん、全部分かったし直ぐにどうにかできないと言う事も分かったよ……あれ、M4やSOPMODⅡは?」

 

「ああ……まあ、ペルシカにO HA NA SIがあるって言って16LABの方に向かったよ……笑顔で」

 

「……自業自得かな?」

 

 はあ……とため息が双方共に示した様に合わさって口から出ていく。 お互い大変なようだ。

 

 

 

 その頃のM4さん達。

 

「や、やあM4……あのだね、これはちょっとした手違いであって決してワザとではなくてだね。 まあ落ち着いてコーヒーでもどうかな? やはり冷静になって考えて貰えないと単なる八つ当たりに起因する怒りと言う感情も生まれるだろうから」

 

「ペルシカさん」

 

「はい」

 

「こうなりたくなければ正座」

 

 早口に捲し立てるペルシカにM4は笑顔を張り付けたまま取り付く島もない様に切り捨てる。 彼女が聞きたいのは言い訳でも謝罪でもなくただAR-15がどうしてああなってしまったのかであり、それは1秒でも早く知らなければならない事だ。

 

 故に最初に一撃を加える。 背後に控えていたSOPMODⅡを前に出し、SOPMODⅡはM4に促されるまま左手の鋭い爪でリンゴを握り潰し右手に持ったコップにその欠片と果汁を満たしていく。

 

 それを目にしたペルシカの行動は素早かった。 椅子から立ち上がろうとした状態から膝を床に落とし両手をその上に乗せる。 怒っている事を理解したからだ。

 

「宜しい、ではお聞きいたしますが何をしたのですか?」

 

「素直になれないのならと、冗談半分で精神が子供になる様に感情モジュールを調整した。 これは時間で正常に戻る様に設定してあるから明日の朝には元に戻ると思う」

 

「強制的にプログラムを修正する事は」

 

「不可能だよ、急激に感情モジュールを調整したら自分を見失いかねない。 見失ったら最後、自我が崩壊するまでトライ&エラーの繰り返しでオーバーフローする」

 

 冗談半分で と言っていたが、彼女が何かしらAR-15を思いやってこうした事は分かっている。 何だかんだ言いながらも彼女は私達を大切にしてくれていると言う事は本当は分かっているのだ。

 

「はあ……分かりました、ではAR-15はとりあえずこのまま……」

 

『指揮官、何故M16に意識を向けるのですか? 私を見て下さい……』

 

『わああっ!? 分かった、分かったから頬を舐めないでくれ!!』

 

『何やってんだよお前!! あとそれは別のARの口癖だろうが!!』

 

 M16から通信が送られてきているらしく、肩に装着された通信機から指揮官の悲鳴とM16の叫び声が聞こえる。 その瞬間のM4は目が座っており〈あ、これもう絶対許されないわ〉 と覚悟を決めたと後に語られた。 隣に居るSOPの目元に光るものがあった事から、この圧力は私の勘違いでない事を理解する。

 

「ペルシカさん」

 

「YES,Ma`am」

 

「急用が出来ました、今すぐ基地に帰還しなければなりません。 現状はこれ以上追及致しませんが次回があるとは思わない事です。 宜しいですね?」

 

「YES,Ma`am」

 

「SOPⅡ、今すぐ帰りますよ……え、ヘリがまだ整備中? ならば陸路でも構いません……敵地の中央を突っ切る事になる? ソレガナニカ?」

 

 うーん育て方間違えたかなあ……正座しながら去っていくM4の背中を見送るペルシカ。 その際目線で救援を求めるSOPMODⅡから視線を逸らす。 誰だって逃れた射線に再度躍り出る事はしたく無い。

 

 呪ってやるうう!! と何か聞きなれた少女の声が聞こえるがアーッアーッ聞こえない聞こえない。 だって……

 

「誰か助けて……」

 

 私も足が痺れて動けないのだから……

 

 

 

「離れろおおお!! AR-15おおお!!」

 

「嫌よおおお!!」

 

「痛い痛い痛い痛い!!」

 

 柔らかく生暖かい舌で頬を舐められた後、M16も手加減をする必要が……と言うよりは我慢の許容限界を超えたのか、AR-15を私から引きはがそうとするがAR-15がそれに全力で抵抗する。 首に回していた腕に力を入れ私から意地でも離れない様にしようとしている。

 

 ここで困るのは私だ、AR-15の両腕が離れまいとギリギリと締め上げてくるので胸部が圧迫される。 前面に覆いかぶさっているAR-15、背面はソファーと逃げ場がない。

 

 更に力を入れ引き離そうとしたM16の手がAR-15の掴む場所を変えようとしたその一瞬の隙をAR-15は見逃さなかった。

 

「ふっ!」

 

「なっ、ゴハッ!?」

 

 腹部に良いストレートを貰ったM16が執務室から廊下の壁へと吹き飛ばされる。 恐らく人形同士である為人間相手にはかかるセーフティーが掛からなかったのか、壁に打ち付けられたM16が呻き声をあげるものの立ち上がれない様だ。

 

 少し待っていて下さいね と耳元で優しく囁いたAR-15が私から離れドアの方へと向かう。

 

「……ごめんねM16、でも指揮官とは離れたくないの」

 

「A R……15、お前 なあ……手かげん、しろ よ……」

 

「ごめんなさい、でも今は邪魔されたくないの……埋め合わせは後でするから、じゃあ ね」

 

 執務室のドアを閉め、横に据え付けられた端末に手をかざし何かの操作をするAR-15。 電子ロックを示すランプが点灯し出入口が閉鎖した事を理解した。

 

「じゃあ指揮官、続き……させてもらいますね」

 

 ニコニコと最初の様に笑いながら再度私の頬に自身の頬を触れさせるAR-15。 きめ細かく柔らかい肌の感触を感じながら私はこれからどれだけ自分の我慢が続くかの耐久試験を行われる事になるようだ。

 

「指揮官……愛しております」

 

 零れる吐息に囁かれる儚げなAR-15の声、潤んだ瞳を眼前に何処まで耐えられるかは……神のみぞ知る。




 OK、AR小隊好きな人は落ち着いて欲しい。 うん、すまないまたST AR-15なんだ。
そろそろ指輪のM4A1はまだか、そもそも耐久試験のUMP9書いているのかと言いたい事も良く分かっております。

Hai! GWは3日しかなかった上に初日が仕事でお呼び出しされたからでふ!! チマチマ書いているので許してください……

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