とある指揮官と戦術人形達   作:Siranui

16 / 30
 閲覧前に注意

 このSSは現在進行形のイベント内容を含む可能性があります。
ネタバレ・性格の不一致等がある可能性がありますのでご注意ください。


 どうしても彼女を編入したかった とだけ言い訳を……



UMP40 運命に付き合って

 ピーッ……音声記録を再生致します。 再生番号……

 

 これで合ってるの? まあ良いわ、現状の報告を致します。 分散された情報の搔き集めが完了……メンタルモデルの再構成に成功しました。 また現状での義体再生成進捗状況は良好、既に最終シークエンスへ移行中です。

 

 プログラムの書き換えも既に完了、計画は最終段階へ移行している事を報告致します。 後は……何も知らない奴等にやらせるだけで、おにんぎょうさん達が勝手に処理してくれるでしょう。

 

 ……了解致しました、では……

 

 

 

「はあっ……はあっ‥…!!」

 

 雑木林を疾走する……自身の体から悲鳴が上がる事を自分自身分かっているが、足を止める訳にはいかなかった。 後ろから同じ様に草が掻き分けられる音がする……ガサガサと、その下にナニカが居るのだぞ と存在を主張する様に。

 

 何故こうなってしまったのだろうか……私自身、やはり組織ではお荷物でしかなかったのかな? 初の実戦でそのまま見捨てられるなんて……戦術MAPを読みだそうとしても、現れるのはNot found……通信機器も既にザーザーという砂嵐の様な音しか聞こえない上に通信ログも真っ黒に塗りつぶされており、既にあたいは存在しない人形になっている……

 

 あたいは作られてからそう間もない戦術人形だけど、どうやら型が古いらしくネットワーク戦用のデータでリソースがほぼ埋まってしまっているらしい。 武器の扱い方も、戦闘移動も全てにおいて現行機に劣っている。

 

 なら何故あたいは創り出され、武装を施され、そして……今こうして戦場を駆けているのだろうか? 分からない……分からないけど、それすら分からないままやられてしまうのだけは嫌だな。 いや、今はもう何もかも分からないのだ。 最初の命令が示していた地点に向かうしかない……それが敵に追撃されている状態であったとしても。

 

「……あっ……!!」

 

 足が上手く動かなくなってきたかな、そう思う間もなく植物に足を取られて転倒する。 銃だけは手放さなかったのは意地か、それとも鈍器の代わりにはなるだろうと思ったからだろうか……

 

 ガサガサ という草を掻き分ける音に、金属が擦れる音が混ざって聞こえてくるのが分かる。 距離を詰められているから……タンッ と地面を蹴る音が断頭台のギロチンを落とす音に聞こえる……嫌だ、嫌だ嫌だ……壊されるのは怖いよ……誰か、助けてよ!!

 

「ひっ……!」

 

『そのまま伏せて居ろ!!』

 

 通信モジュールから誰かの声が聞こえるが、言われなくても転んだまま自分は一歩も動けない。 放り投げ出さなかった銃を胸元に抱えるのが精いっぱいだ。

 

 甲高い銃声が聞こえるとほぼ同時に、飛び上がった何かが空中ではじき返される。 連続する銃声に目の前の空間を幾つかの線が通っていく……銃撃されている様だ、後ろから追いかけてきていた何かが。

 

 数分だか、数十秒だかは分からなかったが銃声が停止する……ガサガサ と今度は逃げようとした方向から草を掻き分ける音が聞こえる。 起き上がり、咄嗟に銃を構えようとして……失敗する。 スリングが引っかかって上手く銃口を上げられなかったのだ。

 

「……大丈夫か?」

 

 そう声を掛けてきたのは、大型の狙撃銃を持ったピンク髪の人形……銃口はこちらに向けているが、撃つ気は無いのかトリガーから指は放している。 コクコクと頷き、銃口を見つめると彼女はそれに気付いた様で少しだけ苦笑いを浮かべた。

 

「すまないな、鉄血に追いかけられていたから敵ではないと思いたいのだが……確認の為だ。 所属と名称を教えてくれ」

 

 所属……そう言われても、あたいも何処から来て、何処に行けば良いのかすら分からない。 もしかしたら見捨てられる前なら分かったのかも知れないが、今では全て真っ黒に塗りつぶされてしまっているのだ。

 

「所属は……ごめん、あたいにも分からないんだ。 もう全部消去されちゃったみたいでさ。 あ、名前なら分かるよ? あたいは……」

 

 

 

 戦術人形 UMP40

 

 その名前が見えた時、彼女は今まで見た事が無いくらい取り乱した。 その名は本当なのか? 無事に生きているのか?? そう何度も問いただしてきた。

 

 現地で簡易検査を行い、今は基地の修復施設に収容し治療を行っているよ。 そう伝えると居ても立っても居られなくなったのか、執務室のドアを蹴破る勢いで走って行ってしまった。

 

「……あ、待ってよ45姉!!」

 

 パタパタとその後を妹であるUMP9が追いかけ、呆れた様にため息をついたHK416が、途中から立った屍と化しているG11を引きずりながら執務室を出ていく。 その際、ドアを閉めようとしたが蝶番が壊れているらしく、ガタガタと音を立てて無理矢理ドアを閉めて行ったのだが……何が彼女の琴線に触れたのかは分からない。

 

「……UMP45があれ程感情を表すのは初めて見たね」

 

「ええ、少なくともこの基地に預けられてからは初めてですね……私の記録にもありません」

 

 嵐の去った執務室で、副官のFAMASと私は呆然と彼女達を見送った。 救難信号が発信されているとの連絡を受け第二部隊を出撃、対象を救助したまでは良かった。 現地から所属不明、グリフィンのデータベースに登録されていない戦術人形を保護したとの報告を聞くまではだが……

 

「カリーナ、保護した娘はどうですか?」

 

『はい、とりあえずの外傷は修復が完了致しました。 身体的には問題はありませんでしたので、現在内部データベースを洗い出してメンタルモデルに異常が無いか等の検査を行っております』

 

 カタカタと手元のコンソールを操作しながら、後方幕僚であるカリーナが通信機器に現れる。 どうやら今は修復施設に居るらしく、真っ白な壁で覆われた部屋が背景に映し出されている。

 

 どうやら外傷は既に修復されたらしいので、あとは内部に問題が無ければ戦場で救出した人形として本部に報告し、書類提出をする事で指揮下の人形に登録が出来る。

 

「了解しました……ん?」

 

 収容したUMP40も問題は無さそうだと判断し、さてでは書類整理を行おう……そう思った指揮官の画面に個人呼出しが掛かる。 それも会話ではなくチャット型式の物で暗号強度は高ランク……差出人は今目の前で話しているカリーナだ。

 

 呼び出しに答え、画面の目立たない場所にチャット欄を広げカリーナに報告を促す。 わざわざ文章に残しつつ、メール等の返信がリアルタイムでない物を選ばない事から緊急を要しつつも、指揮官としての判断が要求される案件なのだろう。 口頭では責任問題に発展した場合の保障が無いが、こうして文章に残せばデータとしてやり取りしたという証拠が残せる。

 

≪指揮官様、これから報告する事は守秘義務の項目に当て嵌まります。 守秘事項の漏洩は厳罰を持って処理されますのでお気をつけ下さいませ≫

 

≪構いません、続けて下さい》≫

 

≪……UMP40戦術人形ですが、I.O.P.管理下施設外で製造された疑いがあります。 現在内部構成機器を調査中ですが、製造証明のシリアルナンバーが全て偽造コードです。 また、メンタルコア付近に現行機に無いブラックボックス化された情報媒体を確認しました。 解析を行おうと思いますが……メンタルコアは彼女の生きた証そのものです≫

 

≪つまり繊細に、脳手術をする様に神経を使う作業だと言う事ですね……時間はどれくらいかかりそうですか?≫

 

≪……現状、解析を開始して常駐プログラムに監視命令を出すのが精一杯です。 専用施設で無ければこれを処理する事は不可能だと考えられますわ≫

 

 さて、そうなってしまうとI.O.P.本社の方にメンテナンスに出さなければならない……だが、違法製造の可能性が高い人形をそんな場所に送ったらどうなってしまうか そんな事は考えなくても分かる。 十中八九解体される未来しか見えない。

 

 UMPと名前が着く事から、恐らく404小隊のUMP45、UMP9と関係がある人形なのかもしれない……いや、あの取り乱しようから確実に関係者だろう。 送るわけにはいかない。

 

≪……報告書の偽造が必要ですかね?≫

 

≪指揮官様!? ……仰っている事の深刻さは理解されていますよね?》≫

 

≪理解しています。 救助を求めていた戦術人形を1体、無断で保護しそれを協力業者であるI.O.P.に報告しないのは違法行為だと言う事くらいね≫

 

≪なら何故……≫

 

≪……UMP45がね、この名前を見た時普段では想像出来ないくらい取り乱したんだよ。 その名は本当なのか、無事なのか……ってね。 それがどうしたんだっていう指揮官も居るだろうけどさ。 あんな45を見ちゃったら……ねえ?≫

 

 何時も世話になっている事だし、少しくらい無理してだって守ってあげないと と思うじゃないか。 そう告げる私は、他の誰かから見れば大馬鹿野郎なのだろう。 だが……まあ、そういう人間が居ても良いじゃないか。

 

≪はあ……このやりとりは文章として保管されます。 現在の所報告の要無しと判断されますが、然るべき場合には責任は全て指揮官様が負う事になりますよ?》

 

《正式命令として発令します。 本件は私の独断で指示し、指揮下の者全ては私の命令に従ったに過ぎず、責は全て私の任とします。 それに……何も手立てを使わないとは言っていませんしね? それなりに裏で手を回しますよ》

 

 文章として正式な命令書を発行する宣言を出せば否応なしである。 呆れたと言うよりは、しょうがないなあ……という表情を浮かべているであろうカリーナに、その内ちゃんとした謝礼を送らないといけないかな。

 

≪了解致しました指揮官様、とりあえずこの件は内密に処理しておきますわ……それと、修復施設へご足労頂きたいのですが宜しいでしょうか?≫

 

≪少し待って欲しいけど……どうしたんだい?≫

 

≪……UMP45 戦術人形が、電子ロックを強引に破ってしまいましたので、復旧許可の申請書とお見積りにサインを頂きたいのです♪≫

 

 ……これ、必要経費で落ちるのかな? そう思いつつもとりあえず書き終えた報告書を添付したメールを送信しながら立ち上がり、重い足を引きずる様に修復施設へと足を向けるのだった。

 

 

 

「うっ……ううっ……4 0……U MP……40……っ!!」

 

 再起動した時、聞こえてきたのは誰かの泣いている声であった……何でだろう、初めて聞いた声の筈なのに何処かあたいの中でその声の主は泣かせてはいけない と何かが叫んでいた。

 

 各部チェック……オールグリーン、修復完了。 胸部に圧力を検知……起動準備完了。

 

 ゆっくりと瞳を開けると、見知らぬ天井であった……って、そりゃそっか。 起動してからまだ3回目のスリープモードだしね。 ただほの暗い最初の目覚めとは違い、今いる場所は明るく清潔感が漂う医務室の様だ。 顔を少し上げ、胸部を覗き込んでみると月を彷彿させる瞳と目が合った。 目元からは幾筋も洗浄液(疑似的な涙)が流れた後があり目元が赤く泣き腫らした様になっている。

 

「えっと……あの、大丈夫かい?」

「……うわああああん!!!」

 

 え、ええ?? と頭の処理が追い付く事無く目の前の少女はあたいの首元へと抱き付き、そのまま大声で泣き始めてしまった。 何かしでかしてしまったのだろうか? いや、ただ声を掛けただけで何もしていないし……そもそも、この少女とは初対面だ。 もしかしたら誰かに似ているのだろうか?

 

 だが目の前で泣いているこの少女をそのままにしてはいけない。 それだけは良く分かっている……壊れ物を扱う様に頭に両手を添え抱擁し、ゆっくりと落ち着く様にその髪を剝いていく……あ、ちょっとだけ引っかかる。 多分外部に出ていたのかもしれないね。

 

「ん……何があったかは分からないけど……大丈夫、大丈夫だよ……」

 

 あたいの声を聞いて、更に胸元が濡れる様な感覚が増えた様だが……まあ、多少はしょうがないかな? こんなあたいでも誰かの涙を拭う事くらいは出来るのかもしれないし……気が済むまで泣かせてあげよう。 何となくだけど、目の前の娘はずっと頑張っていた様な感覚があるからね。

 

 

「ねえ、指揮官……」

 

「ん、分かっているよUMP9。 暫くはそっとしておこう……」

 

「ぐすっ……ありがとう、指揮官……」

 

 修復施設にたどり着いた私にUMP9が揺れる瞳で見上げてくる。 感情を押し殺してきたUMP45があの様に泣く事は殆ど無かったのだろう。 貰い泣きをしながら9は自身の袖で涙を拭いながら感謝を伝える9。 見積書と修復許可の書類を確認しながら、廊下で施設内を覗き込んでいた404小隊の面々と響く声に耳を傾けていたのだが……

 

「……ありえない、そんな事……」

 

 ぼそり と呟くようなHK416の声に気が付き、そちらへと視線を向けると大きく目を見開き、見ている物が信じられないと言ったありさまである。 どういう意味で……そう問おうとしたが、やる事が出来たわ と告げて速足にその場から駆け出してしまった。

 

 追いかけようかとも思ったが、ニコニコをした表情で目が笑っていないカリーナの前から逃げる事は出来なかった。 修復施設の機密ドアが破壊されているので、衛生部門から苦情が上がってきているらしい……しかも廊下の外部に接した部分だから余計に性質が悪いとの事だ。 今でも職員が衛生状態を保持しようと消毒を行ったり機密を保つようビニール等で囲いを作ったりと後始末に追われている。

 

 仕方がない……責任を取るのが私の仕事だ。 そう気を持ち直し、自身の仕事を果たす事にする。

 

 

 

 ピーッ……音声記録を再生致します。 再生番号……

 

 作戦は順調に推移しているな……全く、こんな手がかかるとは思っていなかった。 それに粗悪品とはいえ、あんな物を作らなければならなかった事自体気に入らない。

 

 まあ、どちらにしろこれで……後はその時を待てば良い……ふふっ、神に唾吐く背信者共め、己の手で滅ぶが良いわ。 その時が来るのが楽しみだ……

 

 

 

「指揮官、これはどういう事なんだ!」

 

「どういう事だ とは?」

 

「UMP40と呼ばれる戦術人形の事だ! あれが基地に配備されているなんて聞いてないぞ!!」

 

 I.O.P.本社でのメンテナンスを終えたM16A1が帰還してくると即座に執務室へと駆け込んできたのだ。 普段怒りを出さない彼女がこれほど怒る事等珍しい事である。

 

 副官として控えていたFAMASが間に割り込もうとするが、手で制して控える様に伝える。 何か言いたげではあったが、言うとおりにしてくれた。

 

「通達はしていたよ。 基地内部での極秘情報として だけど」

 

「ああ、確かに着いた時に内容は確認したさ。 だがそれが極秘事項だと言う事は何故なんだ? あの戦術人形が以前どんな事をしたのか知っていて……!!」

 

「以前? M16はあの娘を知っているのかい?」

 

 報告ではUMP40はグリフィンのデータベースに登録されていない事が確認されている。 とある人物に確認を取った所、昔は存在していたかもしれない……という非常にはぐらかされた答えを頂いた所であった。

 

 そんな中、M16はUMP40を知っている様な口ぶりで私に怒鳴り込んで来たのだ。 そこから彼女が何者であるか確信を得られるかもしれない……そう期待したのだが、M16は私の反応に冷や水を浴びせられた様にしどろもどろに口内で言葉を濁す。

 

 いや……だの、それは……と、何時もはっきりとした物の言い方をする彼女にしては酷く言葉を選んでいるように思える。

 

「……すまないが、その事は答える事が出来ない。 これは機密事項に係る事だ……だがこれだけは確実に言える。 指揮官、アレは指揮官に害を与えるものだ。 404小隊は監視さえしていればまだ許容出来る、HK416は捻くれただけだから修正は容易で無いが可能だ。 だがアレは……」

 

 確かにM16が言う事も理解は出来る。 所属不明、構成パーツは違法品だらけ、オマケに存在しない小隊絡み……慎重な者でなくても関わりたくない事は一目瞭然だ。 だけど……

 

「M16、心配してくれてありがとう……でも、あの娘の扱いは変わらないよ。 ここで保護する」

 

「……理由は?」

 

「UMP45がまるで童みたいに泣いてたんだよ、あの娘の前でさ……そう、あのUMP45がだよ? 君も知っての通り、何時も張り詰めた様な感じで、誰にも内側を見せない様な娘がさ。 私も安心できるようにと思って色々と手は打っ付ているんだけどさ……何だろうね、やっぱり色々と敵わない事って沢山あるよね」

 UMP40は多分45の中心を支えてくれているんだと思う。 だからさ、もうあの娘は引き離せないよ。 私が私である為にも……私が指揮官として何がしたかったのか、忘れて無い為にもね。

 

 そう告げる指揮官に、私はもう何も言えなかった。 この人は常にこうだ、行動した時には全てに覚悟を決めている。 過去を悔やむ事があったとしても指揮官として常に前に前にと引っ張ろうとしていく。

 

 危うくて仕方が無い、目を離すとそのまま横で撃たれているかもしれない。 そう思わせるからこそ、彼の周囲には人形が集まるのかもしれないが……そうなって欲しくは無いんだ。

 

「分かった、ならもうこれ以上何も言わない……だが指揮官、貴方には何人もの部下が居るんだ。 そいつ等は貴方に命を預けている……貴方に何かがあったら、そいつ等も一蓮托生になってしまうんだ。 それだけ忘れないでくれ……そして、もしもの時は躊躇うんじゃないぞ?」

 

「あぁ、分かっている……つもりだよ」

 

 つもりだよ の部分は、恐らく自分に言い聞かせる為だろうか その時だけ彼の瞳は揺らいでいた。 無意識にだろうが頬をかき、右腰に付けられた銃を確認する様に撫でた……そう、それは飾りじゃ無いんだ。 危機が迫ったらちゃんと撃つんだぞ? それが例え……部下であったとしても……

 

 さて、気分を切り替えてゆこう。 確か次の作戦は北部の無人工場地帯の探索だ……5日は帰れないだろう。 指揮官、その間無茶はするんじゃないぞ?

 

 

 

「……っ……?」

 

 初めは違和感から始まった。 視界がぼやけ、体の奥底が熱を持った様な感覚……目の前のUMP45が何かを言っているのだがそれが何なのかが分からない。 姿勢制御の機能が停止……あ、駄目……

 

 

「UMP40!?」

 

 恐れていた事態が発生したのがUMP40を保護してから3日後か……早すぎず遅すぎずかな。 目の前で崩れ落ちるUMP40を抱えつつ、私はカリーナをCALLしていた。

 

「40! 40!!?」

 

「落ち着いてUMP45、強制自閉モードに入っている……簡易スキャン……監視プログラム情報の検索を……」

 

 予測は出来ていた。 人が碌な休息を取らずに正常に判断できるのは2日までが限度だ。 3日以降は思考が短絡的になったり怒りやすくなったりと異常事態に陥る。 かと言ってそれ以降では仕込まれた情報媒体が解析される可能性がある。 現に監視プログラムから引き抜いた情報でこれが鉄血側の物である事が今日判明した。

 

 強制的に自閉モードに入ったのは何らかの攻撃を40の電脳が受けている状態だからだろう……どれくらい持ち応えられるかは分からないな。 既に防壁が何か所も破られつつある……

 

「……ごめんなさい」

 

「気にしないで良いよ。 大切な娘なんでしょう? 取り乱すのも仕方がないさ」

 

「情報処理と解析なら手伝えるわ。 データを回して貰っても良い?」

 

「宜しくお願いするよ、正直手が回り切らない……ただ、情報は隔離して処理をして。 鉄血の技術が使われている」

 

「……屑鉄共が」

 

 流石は電子戦用の戦術人形だ。 手伝って貰う事によって少なくとも作業効率は4倍にまで跳ね上がった……まあ、私が情報戦が得意ではないと言う事もあるのだろうけれども……さて、UMP45と協力して整理した情報を整理しよう。

 

 1つ、今起こっている状況はメンタルモデル付近の情報媒体から行われている侵攻プログラムである事。

 

 2つ、恐らくそれはメンタルモデルを書き換え、鉄血側へと裏切らせる行動を行おうとしている事。

 

 3つ、外部から介入する事はほぼ不可能、現状はUMP40の内部防御機能で書き換えを妨害しているが……少しずつ防壁が削り取られつつある。

 

 そして最後、UMP40が乗っ取られた段階で電子戦特化型である彼女に基地機能は奪われる。 UMP45が対抗できるかもしれないが、まず間違いなく鉄血の攻勢が始まるだろう……それに、乗っ取りのプログラムがネットワークを通じて他の戦術人形に感染しないと言う保証はない。 今はUMP40が自閉モードでネットワークから遮断されているから感染しないのかも知れないが……

 

「……じゃあ、他に手は無いのか……?」

 

「残念ですが……私達が出来る事は……」

 

 合流したカリーナと纏めた情報を見返してみるが、打つ手なしという答えしか出てこない。 場所を指揮所に移し正確に情報を精査しようとしたが……基地のネットワークを使う訳にはいかず、個人用の端末で操作するしか無い為、時間がかかるだけで進展が無い。

 

 ならば……もう、破壊するしかないのだろうか? いや、だが……

 

「指揮官」

 

「UMP45……」

 

「404小隊長として進言します、直ちにUMP40を破棄するべきです……そうでなければ、貴方は全てを失います。 この状態に対応するには……UMP40戦術人形の中に侵入し、データ空間で鉄血の侵攻プログラムと戦い、その書き換えを阻止し相手側の機能を停止させる事です。 これははっきり言って賭けです、そこまでベットして得られるのはUMP40という戦術人形1体のみです」

 

 淡々と表情を読み取らせない口調で事実のみを告げる。 その口調に迷いは無い……今の彼女は影の小隊長だ。 心を殺し、ただ状況に対しどう対応すれば良いかを考え発言する。

 

「……でも、私として発言が許されるのなら……信じて。 私を、私達404を……お願い、指揮官……」

 

 ギュッ と硬く手を握り、縋る様に目線を私に向ける45……そういえばちゃんと言った事は無かったかもしれない。

 

 そっと頭に手を乗せ、彼女の髪を整える様に撫でる……今更何を言ってるんだろうと少しだけおかしくて笑ってしまった。

 

「今更疑うものですか、信じますよUMP45。 作戦を許可します。 私が出来る事なら全て行いましょう」

 

「……良いの? 失敗したら命は無いかもしれないよ?」

 

 私から見て今ここでUMP40を見捨ててしまう事はベターなのかもしれない。 自分の命、部下の命、守備している管理区の住人の命……何気なく背負っているものが、改めてずしりと感じる気がした。 だが……

 

「良いよ、君達なら信じれるから」

 

 ビクッ と彼女の体が跳ねる。 ポタッ、ポタッ……と床に何かが落ちる音がしたが、ポンポンと頭を優しく撫でる事以外はしない……良いんだ、偶には振り回してくれったって。

 

「行こうUMP45、あの娘は待っているんだろうからさ」

 

 

 

 グリフィン戦闘報告書 第〇△×基地

 

 当該基地において鉄血より受けた襲撃に関するレポート

 

第〇△部隊の哨戒任務中、管理地域において友軍戦術人形を救出。 該当人形がデータベース内に存在しない事によりこれが何らかの策略であると判断。 当基地所属指揮官は上級指揮官・及びI.O.P.技術部への問い合わせと当基地で処理する事を提案。 これを承認され……

 

 

「……つ、疲れた……」

 

 カタカタと報告書を打つ作業をひと段落させ、腕を伸ばし凝り固まった筋肉を解す。 詰んである書類はまだまだ高く、いくら処理してもその数は減りそうにない……これに普段の報告書・整備状況や陳情・管理区からの警備状況等が増えていくのだ。 カリーナが普段から仕訳したりしてくれているとは言え対処しきれるものではない。

 

「しきか~ん? 情報整理に有効な戦術人形は如何かしら?」

 

「私も私も! 如何~!」

 

「副官としても完璧な私が、貴方の書類仕事を完璧にサポートするわ」

 

「ねむ……いけど、戦うよりは楽だから手伝うよ……?」

 

 執務室のドアが開き404小隊が姿を現す。 何処か柔らかい雰囲気で私を気遣っている様な感じがした。

 

「でもさ、その前に……」

 

「新しい家族の紹介かな?」

 

 コツ、コツ……と床をブーツが叩く音が聞こえる……どうやら義体の方は上手く馴染んでいる様だ。

 

「UMP40、ただいま参上~! 指揮官、改めて宜しくね」

 

「改めて宜しくお願いします、UMP40」

 

 太陽を思わせる様な笑顔を浮かべ私と握手するUMP40。 だが握手してから彼女は中々手を離してくれない……どうしたのだろうか と思っていると、少し不安げに彼女は私を見上げてきていた。

 

「あ、あのさ……あたい、新しい義体に組み替えて貰ったのは良いんだけど……その、射撃とか戦闘移動とかその辺りのデータが全部旧式で新しく取り直さないといけないんだ。 それで……多分、いや、絶対戦術人形としての役割をまだ果たせないと思う……それでも、それでも……あたいはここに居て良いのかな……?」

 

「UMP40……」

 

 戦術人形は人間の代わりに戦う事を求められている……碌に戦えない彼女に、その存在意義はあるのか? そう不安になるのは仕方のない事であろう。

 

「そうだね……じゃあ、次は私がお願いする番かな?」

 

「お願いする……?」

 

「うん、お願い。 UMP40、私を信じてくれませんか?」

 

 にっ と微笑むと、彼女はポカン と呆けた様な表情を浮かべたが……言葉の意味を理解すると、微笑を浮かべた。

 

「変な指揮官……でも、信じるよ! まだ上手く出来ないかもしれないけど……絶対力になるからさ!」

 

 そう力強く笑う彼女に、もう不安は無かった……

 

 

 

 戦術人形 UMP40についての報告書

 

 当該基地において回収されたUMP40戦術人形は、前事件〇△×当時に酷似しているが類似機体として再生産されたものと判断される。 問題なのは当該基地に404小隊が預けられており、既に接触済みであった為これを極秘裏に破棄する事は不可能であった。 廃棄を強行した場合、404小隊の使用が不可能、反逆の可能性が大である。

 

 また、指揮官よりも申請があり彼女の再構成を受け入れる事とする……これで会社への忠誠を稼げるのならば安い物であろう。 彼はAR小隊・404小隊を我が社に繋ぎ止める優秀な楔となっているのだから……

 

 また、義体を再構成時全てをチェックしたが事件当時の記憶は見つからなかった。 これらの事柄からメリットとデメリットを換算し、I.O.P.において義体を再構成。 行動のすべてを指揮官の責任とする事で手打ちとする。

 

 疑問点への調査依頼

 

 UMP40戦術人形が再生産された施設の調査・違法パーツの流出経路・及びメンタルモデルの再構成を如何にして行ったのかの調査を意見具申致します。 大型の組織が動いている可能性大……

 

 

 報告書 No.000193937564  作成者……

 

 

 

 ピーッ……音声記録を再生します……暗号解読……記録ナンバー……

 

 

 クソックソックソッ! 何故だ! 何故失敗した!! 奴らの言う通りやったのに……あんな捨て駒を作るのにどれだけ苦労したか……

 

 それは残念でしたわね。

 

 何を人事のように! 元はと言えばお前があの人形ならば同士討ちさせられると!

 

 ええ、残念ながら……非常に残念ながら、貴方達では役者不足だったみたいですわね。

 

 何を言って……

 

 いえ、相手が悪すぎただけですので貴方はお気になさらずに……そして役目を終えたマリオネットは操者の手で舞台から降りるのですわ。

 

 っ!! ま、待て!! まさか……貴様は!!

 

 人間とは愚かな者……忌み嫌っていた者すら、恨みの感情の前では歪んで見える。 私の正体に気付かないままよく手の平の上で踊って下さいました。 私、嘘はついておりません……人形(ひとがた)同士、殺し合って頂けたらと思いましたのにねえ!

 

 

 PAN! PAN!!

 

 

 失敗した? いいえ、威力偵察としては十分すぎる戦果ですわ……戦力の見積もりが甘かった事も……いいえ、戦力の見積もりは間違えていなかった。 別の観点からは特異点があった……成長した? nein、成長もしたでしょうが予測数値を超えすぎている。

 

 人間が? もし人間の指揮官を得たのが原因だとしたのならば……? ありえないと一笑するか、それとも……

 

 ……楽しくなりそうね……

 

 ……音声記録の再生を終了致します……このデータは再生後、削除されます…… 

 




 イチャイチャは次にするから許して下さい……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。