仕方ないだろう、そこには花園があるのだから。
「あら、珍しいじゃないこんな時間に」
「そっちこそ、作戦は終わったの?」
「当たり前でしょ? 第一あんな簡単な任務直ぐに終わらせられるわ」
今日の任務を終え、グリフィンの基地大浴場へと向かった私は、
同じく脱衣所に入ろうとしているUMP45に気がついた。
すると向こうもこちらに気づいたのか笑みを浮かべていた。
確か今日、45所属の第一部隊は山岳部を一気に突き抜け、
敵司令部を占拠しては押し寄せてくる鉄血人形を殲滅する作戦・・・・・・作戦? だったはずだ。
指揮系統を刈り取り、混乱した相手を殲滅するのは理に適っているかもしれないが、
やっている事は警戒の薄い場所を浸透強襲し、只管敵司令部に突き進む突撃戦術だ。
何だろう、昔指揮官が持っていた古い漫画・・・・・・だっけ?
そこに「猪突猛進こそ、我等が本懐よ!!」と叫んでいる艦隊司令官が居た気がするけど・・・・・・
まあ向こうは突撃強襲、こっちはどちらかと言うと奇襲突撃、突撃する順番が違うだけね。
そうじゃなかった。
つまる所敵に見つからない様に最小限の敵を隠密に排除して敵司令部を占拠し、
味方部隊が増援として到着するまで現地を維持して敵部隊を蹴散らせる練度を持つ部隊の隊長。
それがUMP45という戦術人形だ。
簡単な任務 と言っていたが、一つ間違えば敵中央で孤立する可能性がある任務でもある。
朝同じ出撃し、廃墟市街地の見回りと偵察やはぐれた鉄血部隊の掃討とほぼ同じ時間に終わらせるのだ。
ドンパチ賑やかであった事は疑いようが無い。
「指揮官に報告はしたの?」
「しようとしたんだけど、臭いのは嫌だって9が聞かなかったのよ。 で、連絡したら先にお風呂へ行って来なさいってさ」
「ああ成る程・・・・・・じゃあ雨が降ったのね」
勿論、紅い雨がね。
UMP45の口端が上がる。
何時も浮かべている笑みではなく嘲笑、気を許しているからか404小隊や指揮官にしか見せない黒い部分を見せる。
よくよく見てみると、脱いだ衣服に紅い染みが着いている所も見えた。
少しは落としてきたのだろうが、硝煙と血の臭いなど早々落ちてはくれない。
「・・・・・・ま、さっさと洗い流してしまうことね。 本性出てるわよ」
「おっとと、まあまあ良いじゃない。 お風呂ってのは全て曝け出してリラックスする場所よ」
「湯船に入る前に体と心を洗うべきだわ、じゃないとお湯が深紅か漆黒に染まってしまうもの」
生意気! という声を背に大浴場へと向かっていく。
まあ、どうせ浴室内で話す事だってできるのだから問題は無い。
大浴場 元は古い国の習慣であった入浴 という物を効率よく行う為の施設であったらしい。
大人数が入れるよう大きい浴槽に、体を洗う複数のシャワーとケロリンと書かれた桶と椅子が置かれている。
汗を流すだけなら、シャワーだけで良いのでは無いか と指揮官に聞いた事があったのだが、
『それでは疲れが取れない、それに寒いだろう? 雪が降る中任務をこなして来た君達にそれくらいの配慮はするさ』
何でも、温かいお湯によって血行の巡りを良くし、水圧でマッサージ効果がどうのこうの……
んん……人形の私達に効果があるか分からないけれども、これが楽しみで頑張ろう!
という人形もチラホラ見かけるので、士気高揚には効果があるのだろう。
自分も適当な場所に座り、シャワーのコックを捻りお湯を出す。
温かい水滴が自身の白い肌を流し、サラサラと床のタイルへと落ちてゆく。
最も肌年齢など無い私達にとって、肌の張りが衰えたとかそういった悩みは無い。
……まあ、他の悩みはあるけれども。
「何よ~そんなじっと自分の事見つめて……え、ナルシスト?」
「煩い、そんなもんじゃないわよ。 まあ、貴方は悩む事はないでしょうけど」
「……どうゆう意味よ」
隣に座り、体を洗っていたUMP45が茶化してくるので反撃する。
目線を頭上からゆっくりと降ろしていき……一部で固定する。
言うなれば平原……いや、肌の白さから雪原だろうか。
体を包む泡は何の障害もなく重力にひかれ滑り落ちてゆく……雪原に対しての雪崩の様だ。
「ふっ」
「よし、その喧嘩買った。 第一あんただってそんなに変わらないじゃない」
「ぐっ、でも貴女よりはあるわよ。 それに体形だって計算されて作られている」
自分の胸部へと目線を落とす……うん、まだUMP45よりはあるはずだ。
湯舟の方に目をやるとM16A1やM4A1は年相応の膨らみであるし、SOPMODⅡは……うん、あれは大きい。
逆にあんなに大きくて行動阻害しないのかしら? そう考えれば私やUMP45の方が……
「何くだらない事言い合いしてるのよ」
「HK416……っ」
ドンッ である。
こいつは着痩せするタイプだったのね……くっ、落ち着きなさい。
続々と404小隊が近くで体等を洗い始めるのだが、UMP9もかなり大きい。
焦燥を悟られない様、無表情を貫き通すが……
「AR-15」
「なによ」
「止めない? これ以上は虚しいだけよ」
「……同感、それに指揮官はそんな事気にしないわ」
UMP45より停戦交渉、即時締結し手の甲をお互いに軽く打ち当てる。
良く分からない という表情をしていたHK416は、既に興味を失ったのかG11の髪を洗ってあげている様だ。
定期的に動くな や寝るな と言った小言を言っているものの、洗う手を緩めてはいない。
G11もそれが分かっているらしく、大人しく身を委ねている……のよね? 寝ていないわよね?
「指揮官はどうゆうタイプの娘が好みなのかしらね」
湯舟でリラックスしているUMP45が呟くように問う言葉も、流れる水音に消えてしまう。
知らないわよ と返す気力もないまま、温かいお湯に身を任せる。
あの人の隣に立つ娘が、どうか自分でありますように。
その為にも、明日もまた頑張ろう。
少しでも指揮官の役に立てる様に……
UMP45姉もAR-15も好きなんですよ? 別に他意がある訳ではなく、好きだからこそ動かして書きたい と言う事なのです。
AR-15には儚い恋をして欲しい、初恋というかそういった少しの衝撃で壊れてしまいそうな綺麗な思い出になるモノを。