Karのあの服装……夏場では熱中症待ったなしですよね、人形に熱中症があれば……? オーバーヒートという概念はありそうですがどうでしょうね。
ザーザー……と大地に雨が降り注ぐ。 人類にとっても、この大地を生きる動植物にとっても恵みの雨である事は確かだが、今の貴方にとってはうっとおしい事この上なかった。
基地外部に出る仕事があった貴方は、今日の天気予報を確認せずに出た事を後悔した。 ついてない事は続くもので、その仕事に時間がかかり、雨足が強くなってしまいある程度の撥水効果があったグリフィンの制服も既にずぶ濡れであり、下着にも雨が貫通し風が吹くたびに容赦なく体温を奪っていく。
このままでは風邪をひいてしまうかもしれない……そう考えた貴方は、とりあえず基地に帰還したら着替える事を念頭に通信を繋げカリーナへと連絡を取る。 仕事についての報告を代理で行って貰う為だ。
『仕方ありませんわね……今度、お茶でもご馳走して下さいね?』
苦笑交じり了承してくれる彼女に礼を言いつつ、足早に自室へと向かう……すれ違う人形達が何事かと道を開けてくれるのが幸いで、自室へはすんなりとたどり着いた。
「お帰りなさいませ、指揮官さん……あらあら、本当にずぶ濡れですわね」
自室にたどり着くと、本日の副官であるKar98kがパタパタと駆け寄って来る……両手にバスタオルを持って、滴り落ちる水滴を包み込む様に私を拭いてくれる。
「何故? という表情ですわね。 指揮官の通信ログが副官権限で閲覧出来ますから、報告の代行を依頼した時点でこちらに戻ってくるのは予想できますわ」
少し屈んで下さいな という彼女の要請に答えて膝を曲げる。 玄関口を濡らしていた水滴が彼女にも滴り落ちそうだったので自分でやるよ と伝えるが、彼女は全く気にしない。
「頑張った人にはご褒美が必要ですもの」
どう言った理論でその答えを導いたかは分からないが、彼女の中ではこれはご褒美らしい。 ワシャワシャと優しく労う様に手を動かし、丁寧に水分を取っていく様は確かにご褒美かも知れなかった。
「帰って来る時間が少し遅れたのも、やらなくても良い事をしていたからでしょう? 迷子になった子供の親探しは業務の内に入るのでしょうか? まあ、市民の困り事を解決すると言う姿勢を見せる という意味では正しいかもしれませんが……まあ、指揮官さんはそんな事を考えていないかも知れませんが」
そう、貴方が仕事から帰るのが遅れたのは仕事先の市街地において迷子になった子供の親を探していたからなのだ。 管理区内の市街地における警備状況の確認と、住民からの要望や陳情内容について、市街地の担当官と打ち合わせを行っていたのだが、その帰り道に不安げに周囲を見渡す子供を見つけてしまったのだ。
担当官が報告するには、市街市の治安状況は悪くはない……いや、むしろこんな荒廃した世界においてでは十分すぎるとも言われていたが、だからと言って放っておくわけにはいかなかった。 空も雲が下がってきており数十分以内には雨が降って来るだろう……野外での行動経験上、雨が降る前の空気と言うのは独特で予測が出来た。
そんな中で見かけただけの子供とは言え、貴方は無視する事は出来なかった。 膝を付き目線を合わせ、どうかしたのかい? と不安にならない様に声をかけていたのだ。 結論から言うと子供の親御さんは見つかった、少し目を離してしまった隙に離れてしまったらしく街頭警備に立つ戦術人形に相談している所であった。
親が居ると気づいた子供は母親へ駆け出し、母親はそれをしっかりと抱き締める。 隣に立つ父親らしき人物がグリフィンの制服である事に気付いたらしく深く頭を下げている。 お気になさらず、無事に見つけられてよかったですよ。 そう告げる貴方に、戦術人形達は何処か誇らしげであったり、又は流石指揮官だ。 と言ったような様々な表情を浮かべているがそのどれも肯定的であった事を覚えている。
何度も頭を下げる親子を見送り、警備に立つ戦術人形達にねぎらいの言葉をかけた所で帰路に着いたは良いが……予想通り、空から雨粒が降り始めたのはその直後であった。
ただ、その事はカリーナにも告げていなかった筈だ。 通信をした訳でも無いし仕事の報告書にも書いて居ない。 何故Karがその事を知っているのだろうか……
「クスクス……警備に立っていたのは誰だったでしょうか? 通信ログが残るのは指揮官さんの記録だけでは無いのですよ? あの娘達は嬉しそうに通信をしていましたよ。 些細な事ですけどやっぱり指揮官さんは指揮官さんですって」
表情に出ていただろうか、Karはおかしそうに笑いながら答えを教えてくれる。 街頭警備に立っていた戦術人形の誰かが通信で仲間に伝えたのだろう。 それをKarが見たか……いや、彼女なら調べたのだろう。
「さあ、お風呂も沸いてますから温まっていらっしゃいな?」
ポンポン、とタオルの上から軽く撫でられ、浴室の方へと手を向ける。 それとも風邪をひいてから看病をされる事をお望みかしら? とウインクをされるものだから慌てて浴室へと足を向ける。
着替えを洗濯籠に叩き込み、熱いシャワーで軽く体を流してからKarが言った通り沸かしてくれていた浴槽に身を沈める。 疲れと寒さがお湯に滲み出して行く様な感覚に目を閉じふうっ と一息付く貴方。
「お湯加減は如何かしら?」
脱衣所でゴソゴソと何かをする音が聞こえる……籠から制服を出して、洗濯機に入れているのかもしれない。 丁度良く気持ちが良い と答えると、次からもその温度にする様にするようにしますわ と返答があった。 次からも……って、どういう意味なんだろうか?
鼻歌を歌いながら洗濯機を回しているKar……そういえば着任当初は洗濯どころか掃除や整理すら出来なかった彼女だが、いつの間にか学びいつの間にか貴方に合わせる様に……寄り添う様に、彼女は貴方の隣に立つ様になっていた。
お背中でも流しましょうか? という申し出を丁重にお断りする。 少し残念そうな気配がしたが流石に許可する訳には行かない……まあ、そう言う事はちゃんと……何時までも、甘えている訳には行かないだろうから。
彼が眠っている……疲れていたのでしょう、ベッドに入ると気絶する様に眠りに入っていきました。 それはそうです、雨に濡れて行動すると言う事は予想以上に体力を使いますし……奪われる体温を保ち続けようとする為でもありますし、水分を吸った衣類やぬかるんだ地面は歩くだけでも訓練になる程度に負荷がかかります。
最も私達人形は歩き方をインストールし、アシストで補助される為大した事は無い。 ですが人間には……この環境は辛い。 その程度が分からない指揮官さんでは無いだろうに、それでもあの人は子供の安全を優先しました。 それが甘いと言えば甘いのでしょうが……だがまだ私達で補助出来る範囲内であるし、その甘さが私達を引き寄せ、付いて行こうと決めさせた要因ですね。
この荒廃した世界で、他人を思いやり自分でなく弱きモノを守る事を願い、消耗品に心を配り取り戻す為に、救い出す為に上層部へ自らの印象を悪化させる事を厭わずに意見具申した。 私にはそれが心配だ……彼は他人ばかり気にしている。
だから、私は彼を心配する事に決めました。 副官を務めるのも、他の戦術人形から情報を集めるのも、身の回りの事をお世話出来る様に学んだ事も……最初は失敗だらけでしたし、彼に頼りっぱなしでしたが……今ではこうして洗濯から整理まで、身の回りの事を一通りこなせるようにはなりました。
ねえ、指揮官さん。 貴方が他人を心配している様に、私も貴方を心配しておりますのよ? だから……どうか、何時か気付いて下さいましね?
その時、この思いが慈愛なのか、恋なのか、それともただの感情モジュールのバグなのかが分かるでしょうから……
迷わないで書いた結果がこれです……Karの正妻力を上げたかっただけで書き上げたものです。 はい……7月中は投稿速度が今以上に落ちると思いますので、のんびりお待ちください……申し訳ありません。