UMP40を甘やかしたかっただけなんです……
てしてし と軽く頬が何かに叩かれる。 まだ日が昇り始めた早朝、自室のベッドで眠っていた私は微睡みの中に居た。 今日は休日であり、少し遅めに起きようと思っていたのだが……誰かが起こそうとしてるのだろうか?
てしてし と、今度は先程より僅かに強く頬を叩かれる。 うっすらと瞳を開け、目の前が滲みながら目を開いていくと……灰色が見えた。 サラサラと流れるような毛並みを、無意識に撫でるように手を差し出すと、その物体は起きた事に気付いたのか、手に自身を擦り寄せる……
なんだ、猫か犬でも迷い込んだのかな? そう思いながら撫でつつ起き上がると、その物体はどうやら服を着ている様だ。 見た所UMP系統が装備している物に非常によく似ている。
ボーッと観察していると、手が止まったのが不満なのかまた私の手に収まる様に身を寄せ、てしてしと前足……いや、これは手? で叩いてくる。 いい加減目を覚ませ とでも言いたげである。
「……UMP40?」
「にゃぁ!」
目を擦り、焦点の合った瞳で確認してみるとそれはUMP40に非常に良く似た生き物……生き物? であった。 違いといえば、彼女は私の手に収まるくらいの小柄な体では無いし、頭に猫のような耳も、おしりの方に尻尾も生えていないということだ。
確認の為に名前を呼んでみると、元気よく片手を上にあげてにゃぁ! と鳴いた。 成程、返事のつもりらしい……ここまで理解し、寝巻きのままであるが枕元に置かれていた通信機を起動させる……通信式は勿論、トラブルメーカーでもあり、AR小隊の庇護者の様な存在でもあるI.O.P. 16LABO主任である彼女だ。
『やぁ、おはよう指揮官。 驚いてくれたかな?』
「おはようございますペルシカさん、それはもう……驚きましたよ?」
いつも通り、ヨレヨレの白衣に寝不足そうな顔をしたネコミミ付研究員、ペルシカさんは悪気も無い笑顔を浮かべながら通信に応答した。 いきなり寝室に侵入された挙句、小さくなった姿を見せられでもしたら驚くだろう。
『あはは、軽いジョークの一種なんだが……まぁ、その形になったのには理由があるんだよね』
「はぁ……一体どのような理由でしょうか?」
『君の申請していたUMP40の記憶媒体増設が認められた。 その交換、更新の為にUMP40の本体を預かる事になったんだけどね、デリケートな作業だからメンタルモデルから記憶やら全部バックアップを取って作業してる為に、どうしても時間がかかってしまうからね……それまで仮にと愛玩用に作られていた素体にメンタルモデルとデータを写してそっちに送り返した って奴さ』
記憶媒体の増設は、言うなれば戦闘情報の蓄積や姿勢制御のデータ等をより多く積み込む事が出来る様になるという事であり、情報戦の為に必要なデータで大幅な容量を取られているUMP40にとってそれは戦力増強に直結する。 圧縮データを取っかえ引っ変え展開し、その場その場で最適に活用する様にしてもやはり齟齬やログデータの蓄積で活動が鈍るのだが、容量が増えればそれも改善される。
グリフィンの上層部が何故か渋っていたのだが……ようやく改造の許可がおりたようで、UMP40猫(小柄で猫耳なども着いているからそう呼ぶ事にした)も胸を張ってどうだい? と言いたげである。
よしよし、良かったね。 その意味を込めて彼女を再度撫でると、くすぐったそうにしながらも私の手から逃げる事は無かった。
『増設事態は今日中には終わるだろうから、その愛玩用素体のテストに付き合うつもりで1日面倒を見ていてくれ。 食事や行動については問題が無いと思うが、何かあったら連絡してくれて構わない。 回線は開けておく』
「了解しました」
敬礼を送ると彼女は頷いて通信を切った。 にゃっ と膝に立っている彼女もその小さい手で敬礼の形を取っていた事から、意識があると言うのは本当の事なのだろう。 問題は彼女が猫の鳴き声でしか話せない事であるが……
にゃあ? と彼女が私を見上げてくる。 その瞳からはどうかしたの? くらいの感覚で、不安等は一切感じられなかった。
「いや、どうやって移動すれば良いかなってね。 今の君だと歩幅が違いすぎるからさ」
にゃあ? にゃー! なんだ、そんな事かい そう言いたげに鳴いた彼女は、私の服に爪を立ててロッククライミングの要領で登っていき、手乗りならぬ肩乗り猫として座り込んだ。
「あははっ、確かにこれなら移動は大丈夫そうだね。 じゃあ着替えるから1度降りようか?」
にゃっ と肯定の声は聞こえるが、彼女が動く気配は無い。 両手をこちらに向け期待する様な瞳でこちらを見つめてくる……どうやら下ろして欲しいらしい。
ひょい と脇に手を入れ、40を床に下ろしてあげる。 にゃっ!と片手を上げ笑みを浮かべた。 じゃ、外で待ってるよ! と声を掛けた様に彼女はとてとてとドアに向かい歩き出した……どうやら今日はずっとこんな調子になりそうだ。
「指揮官……それって、40?」
「へぇぇ! 可愛いねー45姉ぇ!」
「……指揮官の肩に乗るなんて……(ギリギリ)」
「416が怖いよ……」
執務室で待機していた404小隊の面々の第一声はこれであった。 当の本人である40と言えば、肩に座ったまま羨ましいかー? と言わんばかりに胸を張ってピスピス と鼻を鳴らしている。
まるで猫だ……あ、いや、今は猫か。 416がグローブの親指部分を齧りそうな勢いでイライラした視線を向けてくるのが後々怖い事になりそうだ。
「ねぇ、ちょっと抱っこしてもいい?」
「UMP40が良ければ良いけど……どうだい?」
にゃっ と朝私に向けた様にUMP45に向けてその小さい両手を伸ばす40。 良いよ、という事だろう。 ゆっくりと私の肩部分に手を伸ばしUMP40を抱きかかえるUMP45。 ピコピコと猫耳を上下させている事から機嫌が良さそうだ……45も45で片腕で40を下から支え、落ちない様に腕を胴体部分に回してしっかりと胸元で抱き締めている。 人形を抱き締めた少女 と見た目は絵になるだろう。
「……♪」
にゃ~にゃ~にゃ~ と歌の様な鳴き声を上げている事から、抱き心地は悪くない事は明らかであるし、45も45で目元を緩めて40の頭を撫でている……これなら少しの間彼女達に40を任せても良いだろう。 そう判断し執務机へと向かい書類を手に読み始める。 さて、今日の報告は……
暫くワイワイと猫の姿となった40を中心に騒いでいたのだが、触られ飽きたと言うかずっと抱かれたり膝に乗せられたりと拘束され続けたのがストレスになったのか、額に怒りマークを浮かべて404小隊の手を抜け出し書類を整理している私の足元に逃げ込んで来たのだ。 しゃああ!! と毛を逆立てて威嚇している事から彼女の怒り具合が良く分かる事だろう。
「……ちょっと調子に乗っちゃったかしら?」
「まあ、あそこまでベタベタ触ってたら嫌がるよね……普通の猫だってあんまり触られるのは嫌いだっていうし」
「一番触っていた人形が言うと説得力があるわね」
「え、416だって触って……あ、うん……メンドクサイ事になるからいいや……」
ギロリ とG11を睨みつける416に黙り込むG11。 45と9は申し訳なさそうにしゃがみながら40を見ているが、40の方も今は捕まるのが嫌ならしく、足の後ろ側へ回り込みべえっ と舌を出している。
「まあ、少し時間を置いたらどうかな? ずっと触られっぱなしも疲れるだろうからさ」
「ん、仕方ないかな……じゃあ、少しお仕事を手伝ってあげるよしきかん」
パンパン と手を打ちながら手伝いをしてくれるという45の一声で書類整理の手伝いを始める9、弾薬のチェックと在庫確認へと向かう416、G11は掃除を始めている。
「じゃあ、私は配達された物とかが無いか確認して来ますね~」
416と共に執務室から出ていく45、にいっ……と足元から息を吐く声が聞こえると、40がやれやれ と言った様な表情で扉を見つめていた。 私が見ている事に気が付くとやはり両手をこちらに向けて差し出してくる……私は抱き上げて良いのだろうか? 脇に手を入れて抱き上げ膝の上に乗せると、そのまま膝の上で丸くなりくああっ……と可愛げなあくびをして寝始めてしまった。
「……やっぱり、40姉は指揮官の元だと安心するのかな?」
「そりゃそうでしょ、あの時だって40を助ける決断をしたのは指揮官だし、こうして40が普通に暮らせるように手配したのも指揮官だしね……」
丸くなって寝息を立てている40を覗き込むように9とG11が身を少しだけ乗り出す。 小声で話す辺りは40に気を使っているのだろう…… ピクッ と少しだけ耳が動いた様だが、目は閉じたままでそのまま眠っている。
「ねえ、指揮官……40姉の事、手を離さないであげてね?」
「……急にどうしたんだい?」
「ん~……ほら、私達は本来存在しない小隊で人形だけでも行動出来る様になってるからさ、指揮官がもし引退したりして私達の前から居なくなってもある程度の期間を置けば……悲しいだろうけど大丈夫になるんだろうし、小隊として存続できれば私達に居場所はあるんだけどね」
ボソリボソリと呟く様に、自分に言い聞かせる様に9は話を進める。 G11も何も言わない事からそれは間違いではないのだろう。
「でもね、40姉は指揮官しか居ないよ。 404小隊に入る事も出来るだろうけど、それは多分歪な形になっちゃうと思うんだ。 だからね指揮官、40姉の手を一度でも取ったんだから……絶対に手を離さないで。 それだけは約束して」
「……ああ、勿論。 約束するよ……まだ、言葉でしか言えない口約束だけど……信じてくれるかな」
そっと丸くなっている40に手を添え、彼女を優しく撫でる……朝、彼女が身を寄せてくれた手のひらに伝わる温かさが愛おしい……まだ準備が出来ていないから今はまだ言葉で約束するしかできないが……それでも近いうちに、私はその証を彼女に送れるだろう。
「あははっ、指揮官はやっぱり真面目だけどおかしいよね? 私みたいな何の法的制限も約束しなかったからってどうにかなる様な存在でもないのにさ」
「ん~……まあ、それが指揮官だし……それに、そういう人だからあたし達にも色々と良くしてくれるんだろうからさ……嫌いじゃないよ」
え~、私も指揮官の事嫌いだなんて言ってないじゃ~ん? とクスクス笑っている9に何時も眠たげな眼を少しだけ緩めているG11……双方ともに名言はしてくれなかったが、少なくとも否定的では無いだろう……そう信じてる。
「そんなしきかんにお届けものみたいよ~?」
扉を開け、UMP45が段ボール箱を手に戻って来る。 送り元は……I.O.P.の16LAB……ペルシカさんだ。 中身が何なのか早速開けてみるが……黒い猫用の首輪であった。 ご丁寧にネームプレート付きでゆーえむぴーよんまる と書いてある。
「……で、それ付けてあげるの?」
「飼い猫にはちゃんとした証明って必要だと思わないかな~? 指揮官」
「……ま、さっき信じてって言ったけど、やっぱり言葉より物があった方が安心するよね……?」
まさかの全肯定的意見に頬が引きつるのを感じる。 いや、だってまだ誓約をした訳でも無いのにこれは……そう躊躇い視線を下げると、いつの間にか起きていたらしいUMP40が膝上から机に手を付け、首輪をしげしげと眺めている……ここで彼女が否定的な意見を言ってくれれば彼女達も考えを……
にゃん と40が一声鳴きながら首輪を差し出してくる……ご丁寧に包装を取り両手で冠を捧げる様に……それで良いのだろうか? そう疑問にも思わないでも無かったが、信じて欲しいと言った手前もう断る事も出来ない。
40から特製であろう首輪を受け取り、彼女の首に装着する……にゃ~♪ とご満悦そうな鳴き声が執務室に響いた。
夜になるまでも404小隊や他の戦術人形達からからかわれたり、食事のサイズが違い過ぎて小分けにして食べさせてあげなければならない事、執務を終えて入浴をしようとした時にガラス戸をかしかしと不安げに叩いていたので開けっ放しにしなければならなかった等、手間がかかる事も多かったが……偶にはこんな日も良いと思えた。
既に夜も更けて、後は寝るだけ……既に彼女はベットで丸くなり、枕元で眠そうにあくびをしていた。 待って居なくても良いのに……だが一緒が良かったのだろう。 彼女の頭を撫でてベットにその身を預ける……にゃ……と、40も一声だけ鳴き、その目を閉じた……
てしてし 顔を何かが叩いている……意識は朧げに浮かぶのだが、目を開ける事が出来ないし、体も動かない……金縛りの様な状態だ。 にゃあ と恐らく横で寝て居たであろう彼女が鳴く。 恐らくだが……お別れの挨拶なのだろう。
にゃっ、にゃあ~ にゃご、にゃ~……にゃ。 チロッ と頬に生暖かいザラザラした舌が走り、小さい体が遠ざかる……待って欲しい、私はまだ君に伝えて居ない事が……
「UMP40!」
「うわあっ!? い、いきなり大声で叫ばないでよ!」
覚醒すると同時にベットから跳ね起きた私を、ベットの横に尻もちをついた状態で驚いた表情のUMP40が……
「……UMP40?」
「そうだよ? ニューヴァージョンのあたい! ただいまさんじょ~ ってね」
「改装は無事終わったみたいだね……お疲れ様」
昨日付いてしまった癖か、40の頭を撫でてしまうが……んふふ~と彼女は嫌がるそぶりを見せなかった。
「これからもっと頼ってくれて良いからね? 」
彼女の首元に真新しいチョーカーが付けられているのが目に移ったが……それが何を意味しているのかが分かる時はそう遠くない未来のような気がする。
UMP40との誓約フラグが立ちました! イベントを発生させる事によりUMP40と誓約が可能です!!(システムメッセージ)
お仕事により次回投稿は少なくとも8月くらいになりそうです……実家でPCが使えないと段落編集とかその辺りが出来なくて……あ、暇を見て書き続けはしますので、一気にあがるかも……?
スローペースですが、またよろしくお願いいたします。