え、二か月前?? 月日が経つのは早いデスネ
「……もう一度説明して貰っても良いかな?」
「指揮官、聞きたいならもう一度でも三度でも言ってあげるけど……現実は変わらないのよ?」
「はあ……つまり、配布されたスキンのバグによってUMP9が子供化した と言う事は本当の事なんだね?」
確認の為、もう一度45が報告してきた事を口に出して聞き返す。 何時もの薄っすらと笑みを浮かべている彼女は鳴りを潜め、何処か頭が痛いと言う様な疲れた様な表情を浮かべたまま頷いた。
「……私の事、分かるかな?」
「ん! ちきかん!!」
UMP45の後ろから覗き込んでくるUMP9(子供)に、しゃがみ込み目線を合わせながら聞いてみると元気よく笑顔でお返事をしてくる……良く教育の行き届いてる娘ですね、手を上げながら答える様は微笑ましい。
45の後ろから覗き込んでくる事から分かる様に、身長も子供スキンと言われる様に低くなっておりこの身体で銃を持つ事は難しそうだ……45が困っているのもそれなのだろう。 知能も外見に引きずられている様子で舌足らずな口調で指揮官と呼ぼうとしている事が分かる。
「……指揮官にも分かる様にこの身体で銃は持てないし知能レベルも子供並になっているから今日の作戦には連れていけないの。 技術者から修正プログラムは今日中に仕上げると言質を取っておいたから明日には修正されるけど、今日一日私達は出撃しないといけない……だから、後は宜しくね指揮官~」
「分かりました、執務室で預かりましょう……ないん、私とお留守番出来るかな?」
キョロキョロと私と45を交互に見つめ、45が頷くのを確認するとん、 とこちらな両手を広げ突き出してくる……これはあれですか、抱っこという事でイインデスカネ?
チラッ と45の方を伺ってみると何時もの微笑を浮かべながら片目を瞑りお願い というポーズを送って来る。
やってくれないかな?
そういう意味であろう……まあ、これなら抱っこしても問題は無いだろう。 両手を突き出している9の脇に手を入れ一息に胸元へ抱き寄せ持ち上げる。 落ちる心配が無い様に自分の左腕に9を座らせ、右腕で背中に手を回す。
「ふふふっ、顔は似てないけど親子みたいだよ指揮官」
「……慣れている、という意味でだよね?」
「そう言う事にしておいてあげるよ~……じゃあ、行って来るね」
「行ってらっしゃい、気を付けて無事に帰って来るんだよ」
ヒラヒラと手を振る45に手を振り返すと、抱えている9もブンブンと手を振るのでユラユラと揺れるツインテールがくすぐったかった。 45はそんな私達を微笑みながら見返し執務室のドアを閉めた。
「45姉……」
「寂しいかい?」
キュッと私の制服を握る9に目線を向けると、彼女はブンブンと首を横に振る。
「ちきかんが居るから平気だよ?」
「そっか……強いね9は」
「ん……強くは無い よ? ちきかんが暖かいから、平気なだけ」
私の方へもたれ掛かり頭を預ける9、その無防備な姿は私の事を信頼していると言う事なのだろう。 子供は正直なのだから……多分。
このままで居たい気持ちもあるが、書類仕事は待ってはくれない。 執務机まで9を抱いたまま座り膝上に乗せ報告書を確認する。 膝上の9は手持無沙汰にならない様、重要度の低い書類を渡して読んでいてもらう……ただすぐに飽きるだろうからカリーナに何かしら児童用の絵本、又はそれに類似した電子データが無いか確認して貰う。
カリーナの良い所は必要としている物に対して何故必要なのか と言う事を聞かない事だ。 早々に絵本のデータを探し出しこちらへと送ってくれる……まあまあな値段がしたが、それでも闇市の適正価格より少し安いくらいだ。
「9、こっちで絵本を読むかい?」
予想通り、難しい漢字に文字だらけの書類はつまらなかった様子で折り畳んだり何かの形を作ろうとして遊んでいる所であった。 書類的には問題ない、近くの街でバーゲンをやるという報告書だったからだ。
「ん~……読んでくれる?」
「……少し待ってくれれば、良いよ」
やった! と喜ぶ彼女に胸が痛み、書類を捲る度に終わった? 終わった?? と期待を込めた瞳で見上げ、まだ枚数がある事に気付いてまだかぁ……とシュンと顔を伏せ、足をプラプラさせる9に良心は限界を告げた。
無理、地頭と泣く娘にゃ敵わないとも言う事だし、とりあえず即時に対応しなければならない事案は無いみたいなので今日の業務は全て明日に回そう。
「……よし、終わったよ9」
本当に? と言いたげな9を抱き上げ、執務用の椅子から立ち上がり応接用のソファへと移動する。 膝上に乗せデータパッドに転送された絵本のデータを展開させる。
「どんなお話?」
「ん……シンデレラか、え~っと……」
適当に概要を説明しながら絵本を読み進めていく。 私の膝上で楽しそうに物語を聞く9は物語の進展に一喜一憂し、大げさに小さい体を動かし、手や足をパタパタさせながら続きを聞きたがる。
子供が出来たらこんな感じになるのだろうか……と頭に出てくる感想に何を考えているのやら と苦笑する。 明日も知れない仕事をしている所に嫁いでくれる者など居ないだろう。 普通の幸せはこの仕事に就く事を決めた時に諦めたのだから……
「ちきかん?」
「ん? ああ、ごめんごめん。 えっと続きは……」
「ん~ん、ちきかん 寂しそうな顔 してた」
「……そうかな」
誤魔化す様に笑みを浮かべるが、9は納得してくれていない様だ。 不満げ……と言うより、心配そうに眉を八の字に落とし私の頬に両手を添える。
「大丈夫だよちきかん、あたしが傍に居てあげるから。 寂しくさせないよ?」
「あはは、参ったなあ……心配してた立場が逆転しちゃったかな」
「……ちきかん、私は本気だよ?」
むっ と眉根を寄せ不満を表情に出す9. 疑っている訳でもないし、傍にいると言うのも友達としてとかの面が強いだろう。 それに……スキンのバグと言う事だ。 明日には今日の事は忘れているだろう……
「疑ってはいないよ9、何なら約束しようか?」
「……指切り」
「良いよ、大人になって覚えていたら傍に居て貰う 約束だ」
小指を差し出すUMP9に私の小指を絡める。 ひまわりの様な笑顔を浮かべ「ゆ~びき~りげ~んま~ん……」と歌いながら小指を上下に揺らす9はご機嫌だ。
「約束 だよ?」
念を押す様に言葉を重ねる9に私は頷き彼女の頭を優しく撫でる。 擽ったそうに笑いながらはしゃぐ9。 それからも彼女はジッと私の挙動を見つめ、何か手伝える事……例えるなら掃除や片づけをしようとするとパタパタと後ろからくっついて来て整理を手伝ってくれたり、雑巾やはたきを一緒になってかけてくれたりしてくれた。
手伝いが終わると私の前に立ち、頭を撫でて欲しそうに見上げてくるのでその度にフワフワとした柔らかい彼女の頭を撫でているのだが、その度に嬉しそうにするのでこちらとしても嬉しくなってくる。
ただやはり子供になってしまった体では長い時間行動する事は難しかったのかもしれない。 気付くとウトウトと船を漕ぐようになっていたので宿舎に戻って眠る様に伝えるとハッ と目を見開いて眠くないと彼女は服を掴んで訴えるものの、無理をしているのは一目瞭然である。
「私も少し疲れていてさ、眠くなってきたんだ。 一緒に少し眠らないかな?」
一緒に という所で安心したのか、服を掴みもたれ掛かる様にすぅすぅと寝息を立て始めるので、毛布を掛けようか と腰を上げようとするも掴まれた手が思いの外硬くこれは仕方ないとそのままソファーに背を預け9を抱き直して目を閉じる。
人の体温は安らぎを与えると言うのはあながち嘘ではないのだろう、少し目を休めるつもりだけだったのだが意識が少しづつ薄れて……
「指揮官……指揮官?」
気が付くと既に時刻は夜間、目の前でUMP45が私の肩に手をかけ体を揺さぶり心配そうにのぞき込んでいる。 大丈夫だと告げ、腕の中に居る9を見て見るが眠る前と同じ様に眠っていた。
「随分と好かれている様ね」
「まあ、姉である君には敵わないけどね」
「ふふっ、そうそう簡単に抜かれちゃ困りますよ……ほら、9起きて」
ニコニコと微笑みながら眠っている9を起こす45。 数回揺すってあげると半分寝ぼけているだろうが目を覚ました9は、私と45を交互に見つめる。
「ほら、帰ってちゃんと寝よう?」
両手を脇に入れ9を抱っこする45に、9は少しだけ私の方を見るが頷くと45の方へとしがみ付いた。
「じゃあ指揮官におやすみしとこっか」
「ん……おやすみ……ちきかん」
「おやすみ9、また明日ね」
明日には今日の記憶は無いだろうけど、45の胸に抱かれた9に手を振り執務室から出て行く彼女達を見送り、私も執務室を後にする……幸い先ほど片づけていたから、明日の業務には問題無いだろう。
「おっはよ~指揮官!!」
翌日、執務室で書類を整理しサインをしている所にUMP9が姿を現した。 昨日の様な子供姿ではなく何時もの服装に身長だ。
「おはようUMP9、身体に問題は無いかい?」
「大丈夫だよ! オールグリーンって奴だね!!」
ふんっ と両腕を上いっぱいに上げ、元気元気とアピールする彼女に問題は無い様だ。 が、今日も昨日と同じでそれほど忙しくは無い。 本当に各所異常が無いか調整の為に射撃場や運動場で少し慣らしをする方が良いのかもしれない。
「ねえ、指揮官」
「ん?」
「家族になろうよ!」
今日の予定を見直し、射撃場や運動場のスケジュールを確認していた私に、9がキラキラした瞳で告げたのだ。 何時も仲間達の事を家族だ! と言う事があるが、それとは少し違い決定系でなく提案である事が私の頭に残る。
「家族って……今までは家族じゃなかったのかな」
「んも~、指揮官ったら……そうじゃなくて本当の家族になろうって意味だよ!」
「本当の家族?」
「大人になったら傍に居てあげるって約束したでしょ?」
ピシッ と私の思考が止まり身体が硬直する。 何故それを覚えているのか……?
「しきか~ん? もしかするんだけどスキンのバグだから、バグの間の事は全部無かった事になるとでも思ってたのかな~?」
「UMP45……」
ニコニコと昨日と打って変わった張り付けた様な営業スマイルを浮かべ扉に背を預けつつ腕を組んでいるUMP45。
私は知っている、この時の45は大抵怒っている時の表情だ。 ダラダラと背中を伝う冷や汗をシャツが吸い込み不快感を増していくが、笑顔を浮かべながら冷たい声を発する45に即座に冷却される。
「話は聞かせて貰いましたよしきか~ん? 9に大きくなっても覚えていたら傍に一生居て貰う なんて約束したって」
「えへへ……ちゃ~んと覚えているよ指揮官!」
「へええええ……ふう~ん……まさか、約束を破るなんて事は無いですよね~しきか~ん??」
詰みという状態である。 もしここで否定すれば待っているのは妹を弄んだ重罪人として裁かれる未来だ。 かと言って肯定したら人生の墓場直行便だろう、9は既に嬉しそうに指揮官と家族! とその気であるし、45も約束を履行しろ と言わんばかりである。
「「指揮官?」」
さてどうした物だろうか……左右から聞こえてくる追及の声に、私は何を用意すれば良いか前向きに考え始めた。 明日も知れない仕事に就いた私ですが、幸せになっても良いのでしょうか?
その答えを知るのは、最早居なくなってしまった神ですら分からないのかも知れなかった。
お仕事が修羅場ったのがいけないんです! お、おれは悪くない! だって上司が……上司が言うとおりに残業して、指示通りに仕事をしてたら体力ごっそり持って行かれて風邪が治らなく……
とネタを一通りやれるくらいには回復しました。 これから秋です、皆様も体調にだけはお気をつけて