AN-94は……まあ、財布が無事大破しましたが来てくれたので……
注意点ですか? 好感度が高めの設定で書いてますのでご注意下さい。
AK-12 捕まえていて、痛いと感じる程
ギシッ、ギシッ……と床を踏みしめる音が聞こえる。 まだ日が昇り始めた早朝に足音を抑えながら自分に近づくモノは何であろうとも目を覚ますには十分すぎる理由になるだろう。
足音が止まる時を狙い、勢いよく布団を捲り上げ物音がした方向を見定めてみると……
「あら、おはよう指揮官」
目を閉じたまま何時もの戦闘服でこちらを見つめているアサルトライフル戦術人形 AK-12 が立っていたのだ。
周囲を確認の為に見渡すと、就寝前と変わらず何時もの見慣れた私室であり、ここが仮眠室や執務室ではない事を寝起きの頭でも理解する。
「……どうしてここに?」
「ん~指揮官の寝顔が気になったから かしら?」
あと朝最初に会った人に挨拶すらしないのかしら? と涼しい顔で言ってのける彼女にため息が出てくるのは仕方のない事であろう。 軽い頭痛を覚え額に手を当てて見るものの、彼女はニコニコした表情を崩さず私を見つめ続ける。 何処までもマイペースな娘だ……こうなってしまうとこちらが合わせる他無い。
「おはようございます、AK-12」
「おはよう、今日も良い天気よ」
丁度朝日が差し込んで来たのだろう、彼女の銀髪が光を浴びてキラキラと輝く。 何時もの様に見える笑顔が幾分か機嫌が良い様に見えたのは錯覚なのだろうか?
「朝食は出来てるわ、待っててあげるから早く着替えてきて頂戴ね」
「朝食を?」
「気が向いたから よ」
そう告げ寝室のドアを閉めて行く彼女……しかし、朝食とは気が向いたら作ってくれるようなものなのだろうか? と考えそうになるが早く着替えないといけない。 あまり遅くなると機嫌が悪くなるからだ。
暖房がかけられている様で、さっさと寝間着を脱ぎ適当に洗濯用のカゴに放り込みクローゼットを開けるとノリが効いたグリフィンの制服とシャツがかけられている……恐らく手入れしたのは彼女だろう。 何時の間にやったのだろう、昨日寝る時には特に何もしていなかった筈なのに……
「どうかしら?」
「うん、美味しいですよ」
「ふ~ん……そう」
興味がありません と言う様な言葉遣いではあるが、閉じられた瞳が微かに開けられ私を横目で見ている事は分かっている。 ただそれを迂闊にも指摘した場合、今日一日の業務を副官無しで務める事になるので過ちは繰り返さない。
最もその場合、気を使ったAN-94が代わりを務めAK-12が更に拗ねるの悪循環が待って居たりする。 AK-12が手伝うから下がりなさい と伝えるとAN-94はあっさり引き下がるのだが、提出書類等の行進状況を確認しているのか、一定の効率以下になるとまた執務室へ訪れるのだ。
「AK-12は食べないの?」
「ええ、もうここに来る前に頂いたもの」
朝食はトーストにスクランブルエッグとソーセージにサラダ、卵のスープと定番ではあるが作るとなると多少時間がかかるものであった。 作った当の本人は頬杖をついてこちらを眺めているのだが……小さな声で呟く様にデータ、とか保存 という言葉が聞こえてくるのだが……眺めていると言うよりは観測している、という方が正しいのだろうか?
その観測結果からか、最初の頃は珈琲を淹れてくれていたのだが、苦い物が苦手だと表情に出ていた事から気付いたのか、それとも誰かから聞いたのか、私の好物がココアであり甘い物は食事には合わないので食事が済んでから飲むようにしていたのだが……
「どうぞ」
「ありがとうございます」
こうして食べ終わり、食器を下げる時に交換としてココアを出してくれる様になっていた。 勿論最初の頃はそんな事をやらなくても良いと何度か告げたのだが、『好きでやっている事なのだから、嫌でなければ受け取っていて』と伝えられて以来、彼女が飽きるまではそのままにさせておこうとしている。
ココアも最初は濃かったり薄かったり、熱かったり温くしてみたりと様々なパターンの物を作っては反応を伺っていた様で、今では丁度良い温かさに味の濃さを提供してくれる様になっている……これ、全部データとして取っていたのかな?
「さて指揮官、今日の予定は……」
スラスラと聞き取りやすい発声で今日の予定を簡単に伝えてくれる。 ココアで温まった身体に脳が活性化していき考えを纏めながら今日の編成と配置を考えて行く。
朝食と少しの休憩を挟んで執務室へと向かう。 私室の鍵は電子ロック式なので、AK-12が出てきた所で振り返り鍵を閉めようとした所、カードキーを持って居ない筈のAK-12がチョイと手をかざすだけで電子音と共に扉がロックされた。
「はあっ~……疲れました……」
打ち込んでいた報告書を送信し、目頭を押さえて痛みを和らげる……今日の業務はここまでだ。 AK-12が適度に手伝ってくれる為に定時では上がれそうだ。 まあ適度と言うのは誤字・脱字がある部分をどうやっているのかは知らないが、PC上で色を付けて誤字・脱字と計算違いの場所を指摘してくれるのだ。
その事に気付き、副官席で姿勢よく座ったままのAK-12に謝意を伝えると何て事は無い と言いたげにひらひらと手を振って来るのだ。 ただ少し問題なのは任務から帰還してきた他の人形と話していると、視界の片隅でこちらを覗き込んだり、報告をしている人形の後ろを資料片手に歩き回ったりと存在をアピールし始めるのだ。
そう言った事をしながらでも彼女は仕事を進められるので、全く問題は無いのだがそう言った事をする理由が分からないのでどう対応すれば良いかが分からない。 以前少しだけ注意した所『その程度で意識がそれてしまうのは問題じゃないかしら?』との事だそうだ。
かと言って反応せず報告を聞いて居ると、報告が終わり人形が宿舎へと戻ると執務室のPCがシャットダウンされたり、突然操作を受け付けなくなる等の電子的問題が多発するので、それ以降無視をすると言う事だけはやめる事にしんた。
「お疲れ様ね、指揮官」
「AK-12もお疲れ様でした。 この後は好きな様にして下さい」
「ん~……そう、なら頑張った副官にはお礼が必要じゃないかしら」
そうソファーに移動して両手を広げるAK-12。
彼女は何時からか自分への報酬として私から触れる事を望むようになっていた。 最初は手を繋ぐ事や頬に触れる程度だったが、次第に頭を撫でて欲しい やハグをして欲しい と少しずつ触れる面積が大きくなってきている。
「必要ですね……じゃあ、行きますよ?」
「そお、素直なのは良い事よね」
ソファに座る彼女に覆いかぶさり、背中の方へと手を回す。 その際ソファと彼女の間に隙間が出来る様、彼女が体を浮かす為に私の背中に手を回して軽く密着する。 彼女は手が後ろに回る事を確認するとまた力を抜いてソファに収まるので、彼女を自分の身体とソファで挟み込み押し付ける様に抱き締める。
「苦しくはない?」
「ん~……この位が丁度良いのよね……ふふっ」
密着している為彼女の表情は見えない為、声で判断するしかないが苦しそうではない。 よくよく聞いてみると鼻唄の様な声が微かに聞こえてくる事からこの状態を楽しんでいるのだろう。
と言うよりも嫌であるのならば自分から誘う事は無いだろうし、大人一人の腕力で抱き締めた所で彼女達なら容易に振りほどける。 特にAK-12という特別な人形であるのならば余計にだ。
「私以外の別の事を考えているでしょ?」
力が緩んでいる と指摘され再度力を入れ直す。 それで良いのよ と彼女が耳元で囁き、私の背中に回した腕を少しだけ強く引き寄せる。
「ちゃんと捕まえておいて」
耳元で彼女が蠱惑的に囁き、甘える様で少しの我儘を言うような声が私の脳に響く。
「そうじゃないと、何処かに行ってしまうかも知れないわよ?」
「それは困ります」
ギュッ と力を込めて彼女を強く抱きしめる。 逃がさないという意識と、この場に居て欲しいという希望を込めて……彼女はそれに対して嬉しそうに息を漏らし、応える様にポンポンッ と背中を叩いた。
「良いわ、貴方がちゃんと捕まえていてくれる限り私はここに居られる様に努力してあげる」
だから、ちゃんと捕まえて逃げられない様に束縛して。
指揮官からは見えなかっただろうが、その時のAK-12は指揮官から自分が必要だという言葉を引き出せた事に笑みを浮かべていた。
ただ、指揮官に正面からその笑みを見られる事はまだ駄目だ。 流石に彼女だって恥ずかしいという感情はあるし、惚れさせるのは良いとしても自分が相手に興味を持ち、それが欲しいと思う事など……まだ、彼女は自分が彼に何故ここまで興味を惹かれるかの本当の意味を知らない。
それが分かる時、彼女がどう変わるのだろうかは……それはまた、別のお話……
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AN-94 貴方のかけがえの無い存在となる為に
冬の朝と言う物は目覚めが悪くなるものであると言う事が、実は科学的に証明されている事である。 目覚めを促す成分が日の光によって分泌を促されるのだが、冬は日差しが弱くなる事によってその活動が阻害されるらしい。
ゆさゆさ……
少しづつ浮かんでくる意識に感じた事は誰かが私の体を揺すっているという事であった。 肩の辺りに両手を添え、優しく意識を覚醒させる様に、一定の間隔でゆさゆさ……と揺すっている。
「……起きませんね……AK-12の言う事には、指揮官はこうして起こす方が好みだと聞いたのだが……」
うーん……と悩む様な声が聞こえ、肩に添えられていた手が離れて行く。 恐らく顎に手を当て考えているのだろう……生真面目な彼女らしい。 体を揺さぶって起こされる と言うのは確かに目覚まし等で起こされるよりはマシではあるが、休日はゆっくりと寝て居たいと言うのも本音である。
「んっ……仕方がない、次の起こし方を試してみよう」
次の起こし方……? 疑問に思っているのもつかの間、近づいて来る気配がすると同時に耳元で囁く様にアサルトライフル戦術人形 AN-94の声が聞こえる。
「指揮官……朝だ、起きて欲しい」
少し湿った風が耳の奥に響く様で、思わず目を開けてしまうと目の前ほぼ数センチくらいの所で空色の瞳がこちらを見つめていた。 起きた事を確認した彼女が少しだけ離れる。 その際頬にかかっていた髪が引き潮の様に流れ少しくすぐったかった。
「おはよう、指揮官」
他の人間、人形が居る前ではあまりこうした笑顔は見せない彼女が、微笑みながら朝の挨拶を口にする。
「おはようございます、AN-94……今日は休日だと覚えてましたが、何かありましたか?」
「えーっと……いや、得に何かあった訳では無いけど……」
気になった事と言えばそこだ。 何故休日に何時もの時間に起こしに来たのか という事。 緊急の事であれば内線を使えばいい事だが……
AN-94は何時ものはっきりとした口調では無く、何かを言い淀む様に視線を左右に振り手を握ったり開いたりしている。 それを数回繰り返し、落ち着いたのか意を決したのかAN-94は少し前のめりになりながら私に視線を合わせる。
「……指揮官が休日の過ごし方を教えてくれると言ったから、教えて貰おうと……それをAK-12に相談したら、そういう時は朝から起こしに行きなさい と教えてくれたから……起こし方も、身体をゆすったり、名前を呼ぶと寝て居る人でも、自分を呼んでいると脳は理解するから起きやすいと……」
AK-12の言う事は間違いない と信じる彼女は、AK-12より色々と教えて貰ったり、意見を聞く事が多い と言うのは知っていたが、まさか戦闘以外でも彼女の言う事だけを信じるとは思わなかった。
「……迷惑だったか?」
「いや、得に予定は無かったから迷惑では無いですよ。 ただ突然だったから驚いただけで……だからそんな顔をしないで欲しいかな」
迷惑をかけてしまっただろうか と落ち込む彼女の頭に手を置き、ポンポンッ と軽く撫でる。 ほっ と、少し安堵した様に息を付き、はにかむ様に微笑みを浮かべるので私はそのまま撫で続けてみるのだが……
「指揮官……その、嬉しいのだが朝食が冷めてしまう。 その……」
「朝食を?」
聞き返すとコクリと頷く。 少し自信が無いのか視線を逸らし少し頬を染めながら、それでも口調だけははっきりとその思いを告げる。
「ああ、簡単な物だが指揮官の為に作ってみたんだ。 なるべくなら温かいうちに食べて欲しい」
「……ええ、ありがたく頂きます。 ただ着替えたいので少し待って下さい」
「はい、では隣で準備しておきます」
名残惜しそうに私の手を退け、寝室を出て行くAN-94……さて、今日は仕事ではないから動きやすい服装で良いだろう……ベッドから起き上がり、支給品のシャツとスラックスへと着替える。 その際暖房が効いている様で部屋の温度は温かく、加湿器も動いている……今日は休日であったので昨日の夜にはタイマーを設定させていなかった。
つまり、AN-94が気を使って動かしてくれていたのだろう。 だが今更だが疑問がある……彼女はどうやって私室に入ってきたのだろうか、またどのくらい前からか と言う事だ……
「……おいしい」
思わず漏れた言葉だ。 AN-94が作ってくれた食事はオムレツにサラダ、シチー……キャベツを煮込んだスープであった。 温かい食事はその日の活力になる。
AN-94はその言葉に少しだけ頬を緩めた。 やっぱりAK-12の意見は正しい と聞こえてきたのは……
「これもAK-12から教わったのかい?」
「ええ、指揮官が食堂で頼むメニューや普段の食生活から最適であろう物を教えてくれた。 作り方から最適な温度、ふわふわになる卵の炒め方まで……ああ、それとこれも好物だと教えて貰っている」
そう言って差し出したマグカップにはこげ茶色に甘い匂い……ココアだ。
「ありがとうございます、確かに私の好きな飲み物ですね……うん、美味しい」
一口ココアを飲んでみると、丁度良い温度であり甘すぎず、落ち着ける味わいであった。
「ふふっ、そう言って貰えるのなら精度にこだわった甲斐があります。 本当なら少し熱めに入れた方が冷やす間に会話をする時間が出来る という手法もあるのだが……指揮官ならそんな事をしなくても付き合ってくれるだろう?」
微笑を浮かべ、両手で顎杖をつきながらリラックスした表情で視線を向ける彼女。 常に気を張っていた昔とはいい意味で変わってきたのでは無いだろうか?
「……その信頼に応えましょう、さて……どんな話をしましょうか?」
「ああ、そうだな……じゃあ、AK-12に助言された事だが……」
AK-12は凄いぞBOTと化したAN-94の報告によって、私室のキーカードが偽造されていた事、人形にとっては涼しくて過ごしやすい環境であっても人間にとっては寒いと思うから部屋を暖めておいた方が好まれるという事、オムレツの上にはケチャップで文字を書いた方が……等を教えて貰ったとの事だ。
嬉々としてAK-12の凄さと判断の正しさを伝えてくるAN-94だが、次から次へとよくAK-12の事が出てくるものだな……と少しだけ関心する。 それだけ彼女の事を見ているし、意識していると言う事だろう……
「羨ましいな」
「それで……突然にどうしました?」
彼女とAK-12は姉妹機にして相棒……ずっと傍に居た分、それだけ話す事や情報も多いと言う事は分かる。 ただ彼女がAK-12の事を話している時はとても楽しそうで……
「いや、AK-12の事が本当に好きなんだなって思ってね」
「勿論だ、AK-12の為なら私は何だってできる……彼女の補佐をし、守る事が私の使命だからな」
だが、と彼女は続ける。
「だが、私は指揮官も特別であると思っている。 誰かの為に戦い、生きる私を指揮官は支え、励ましてくれる。 休暇の過ごし方だって、ずっと戦術書を読んだり訓練したりし続けている私を気遣っての事だろう? 嬉しかった」
AN-94は空色の瞳がその奥まで見えると感じる程、真っ直ぐに私を見つめている。 彼女の言葉に迷いは無い、ただ自分がそう思っている事を真っ直ぐにぶつけてきている。
「だから指揮官、今日は私に色々と教えて欲しい。 指揮官がAK-12に羨ましいという感情を持って居る事が分かった、つまり指揮官は私を意識していると言う事なのでしょう? なら私もその気持ちを返そうと思っただけです」
目を逸らす事は出来ない、彼女は彼女なりに私の気持ちに応えてくれようとしているのだ。 彼女は私の手を取りそっと両手で握りしめる。
「私にはこうして気持ちを正直にぶつける事しか出来ない。 皆の様に回りくどい事や、何かに例える事とか……風情が無い、つまらない私かも知れないが……それでも、指揮官を想う気持ちは負けない筈だ」
言葉が出ない、ここまで正面から気持ちをぶつけられる事は無かった。 恥ずかしいという思いよりも嬉しいという思いの方が強い。
「指揮官、この気持ちはもう偽りません。 これからも私を支えて下さい、私も私の全てをかけて貴方を支えます」
貴方だけの為に……そう告げる彼女に、私は顔全体が熱く感じていた。 みっともなく顔を真っ赤にしているのだろう。 そんな私をAN-94はただじっと見つめている……
「……ああ、その……宜しくお願いします」
「ふふっ……今はそれでよしとします、もっと積極的な答えが貰える様にこれからも頑張ります」
涼しい顔でくすくすと笑う彼女に、私はどうすれば良いのだろうか? 休日はまだ始まったばかりである……
次はAK-12とAN-94の休日編を書きたいと思いつつ、試験やワンコの話も続き書かないとな……時間が……
書く癖を付ければ、文章は進みますでしょうか?