とある指揮官と戦術人形達   作:Siranui

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 以前ツイッターで呟いたAUGを纏めて投稿しました。


AUG 貴方を見送らない為に

「……また、いらしてたのですね」

 

 こんにちは と何時もの紅い制服を着た彼は挨拶をしてきます。 朗らかな笑みで、両手に抱えきれないくらいの白い花束を手に彼は毎月、決まった日にここを訪れます。

 

 ここはグリフィン関係者の共同墓地……そして管轄区で無くなった方々の眠る場所でもあります。 彼の親族が眠っているのでしたら、彼が来る理由も分かるのですが……以前社員証を確認し、埋葬されている方々の登録されている分のデータを照合しましたが、それらしき人は居りませんでした。

 

 最もここで言うデータ登録されている方とは、しっかりと葬儀が行われ本人だと確認されて埋葬された方のみですから……もしかしたら、登録されていない無名墓地に埋葬されているのかもしれません。

 

「今日もまた、多くの花を持参したのですね」

 

 管理区の方で今日は良い花が沢山仕入れられててね。 と答える彼ですが、生け花がそんな都合よく今日集まる訳はありません……恐らく、お店の仕入れ担当者が今日は彼が来る日であるから と気を使って仕入れ量を調整しているのでしょう。

 

 最も、彼なら適正価格であれば買ってくれる という商売心もあるのでしょうけれども……過去数か月、彼が花束を持って来なかった日はありませんでした。

 

 また持ってくる花も紫苑・ローズマリー・キンセンカ……季節によって変わりますが、その全ての花が鎮魂や哀悼を示す意味の花でした。 それを前大戦の戦死者……識別不能な程に損壊した者や、遺留品すら残らず行方不明となった兵士達の魂を慰める為の慰霊碑に捧げ、更に管理区の無縁墓地・殉死した職員の共同墓地にも花を送ります。

 

「何故この方々に花を送るのですか?」

 

 前に一度、彼にその真意を問う事がありました。 花を供えた後、時間がある時に私は彼と話す事が出来る様になっていました。 管理者用の小さな小屋で、机を挟んでお茶をする程度ではありますが……その行動自体は興味本意で、この時は気づきませんでしたが私は話し相手が欲しかったのかもしれません。

 

 この共同墓地にはほとんど人が訪れませんし、訪れたとしても皆一様に下を向き言葉少なげに黙祷しては去っていくので……管理人としての業務報告以外、私は滅多に他の人と話すと言う事が無かったのです。

 

 彼はポリポリと頬をかきながら、変かな? と聞いてきます。 まあ、珍しいとは思います。 と無難な返事を返しておきました。

 

 あまり特別な理由は無いんだけど、彼らを忘れたくないからかな……と、何処か寂しそうに話し始めました。 彼らの犠牲があったからこそ今の自分達は生きて行けるのだと、E.L.I.Dとの戦い方然り、戦術人形の運用方法然り、それらの教本や指導書は斃れていった人達の血で書かれたものだと。

 

 だから彼らの死を悼んで、感謝と哀悼の念を忘れない様にしないといけないと思うんですよね。 他の人が忘れてしまったとしても一人くらい定期的に貴方方の死は無駄ではなかったと、安らかに眠って下さい と祈る人が居ても良いかな と思いましてね。

 

 自己満足なだけですよ と困った様に微笑を浮かべ、私が居れたお茶を口にする。 彼は特に私の意見を求めるでも無く、ジッと彼を見ていた私に少しだけ居心地が悪そうに苦笑を浮かべていました。

 

 私は……この時代、こんな世の中にもそう言った考えを持てる人が居るのだな と感心していたのですが、それを言語化する事は出来ませんでした。 その日も、彼は何時も通り私のお茶を貰ったお礼を言ってから市街地へと戻っていきました。 また来ます と、軽く会釈をして……

 

 

 

「……今日は遅いですね」

 

 共同墓地の掃除を終え、管理小屋の中でラジオから流れるニュースを聞き流しながら窓から見える墓地の入り口をチラチラと確認し、やはり誰も来ていない事を確認して手に持ったお茶に目線を落としました。

 

 あの人は今まで、時間を違えた事は無かったのですが……まあ、グリフィンの指揮官は多忙だと言いますし今日の様に雨の降りそうな日には、日を改める事もあるのでしょうか……

 

≪それでは、引き続き市街地における抗議活動……あ、いえ。 たった今公式発表がありました。 一部民間人が暴徒化した暴動現場について……≫

 

 軽く聞き流していたニュースが、人間でいう所の嫌な予感を誘発する。 暴動が発生している場所は? 規模は? その間に、彼の赴任している基地とのルート上となる部分はあるか?

 

 抗議活動の内容についてや、最初は届け出の出された正式な……等とどうでも良い情報がラジオキャスターの口から紡がれる。 違う! 違う!! 私が知りたいのはそんな事では無い!! 焦れる思考に、焦りの様なノイズが混じり気付かず胸元に寄せた両手を握りしめる。

 

≪該当区域は市街区F-〇〇地区、商業区C-〇〇地区……≫

 

 ガタンッ と椅子が倒れる音がする。 私が立ち上がり椅子を蹴倒した音だと気付いたのは小屋の隅に置かれたケースから自分の分身を取り出し素早く残弾と整備状況を確認している時であった。

 

 電脳の冷静な部分では、彼が巻き込まれている可能性は低い筈だと訴えている。 だが、私を構成するAIはこう強く訴えている。 彼が巻き込まれていないという確証が得られない以上、自分から動くべきである と。

 

 弾薬チェック完了、同調率問題無し……よし、行きましょう。 管理小屋の扉を開け外に飛び出す。 空は相変わらずの曇り空だが色が鈍色に濃くなりつつある……時期に降り出すだろう。 急がなくては……

 

 

 ポツポツと小雨が降る中、警戒しながら街中を走り抜ける。 前に確認しておいた社員証のデータを元に管理区での活動データ……簡単に言えば何処で何を購入した や、管理区を跨いで移動する時に検問所で提示された社員証のデータを元に彼がどの辺りに居るかを絞り込む。

 

 以前使用していた戦術人形の権限を元に、対暴徒鎮圧作戦の一環でありグリフィンの指揮官を護衛する為に捜索している。 と各所のデータ管理センターや自動警備システムには送信しデータ提供を依頼している。 グレーすれすれ……違法行為だとエラー警告が表示されるが、それを強制的に黙らせる。

 

 絞り込んだデータによればこの辺りの筈だが……聴覚センサーを最大限に、降り続く雨が地面を叩く音、遠くに聞こえる人の声……そして、目の前に立っているのが私だと気付くと、向けていた拳銃を降ろし、こんにちは、管理人さん と微笑もうとして痛みで顔を顰める彼が居た。

 

 建物を背に座り込んでいた彼の傍に自分の銃を置き、触診を行う……打撲と切り傷、額から出血しているものの傷は浅そうです。 頬に打撲された痕跡があり口を切ったのか、唇から少し血が流れています……まずは出血を止めなくては……

 

 大丈夫だよ や、平気だから と言う彼の手を押さえ応急処置を開始する……と言っても医療用の人形では無いので本当に血を止める為にハンカチで圧迫止血をする程度しか出来ないのですが……

 

 ただ、化膿するのを防ぐ為にも殺菌しなくてはいけません。 人間の唾液には多少の殺菌効果がある……と言う事を模倣し、戦術人形の唾液にも多少の医療用ナノマシンが含まれて居るので、必然的に彼の額に舌を這わせ唾液を塗布する事になります。

 

 驚き身を下げようとする彼の頭を抱える様に腕で固定し、傷口に沿うようにゆっくりと唾液を塗布していきます……汚いとか、汚れるとかそんな事を言っていますがそれが気になるようでしたら最初から行っていません。

 

「じっとしていて下さい……逆に汚れます」

 

 うっ…… と呻き、ばつが悪いのか目線を下げ大人しくなりました。 理解して頂いた様ですからこのまま処置してしまいましょう。 血を拭い大体の部分に塗れた所で白いハンカチを傷口に押し当てます。

 

 痛かったのか、唇から空気の漏れるくぐもった声が聞こえますがそれは生きているという証拠なので……気にせず圧迫止血します。 じわじわと白いハンカチに朱色が混ざって少しずつ黒くなっていきます……その色は死神の色でしょうか……

 

 ……させませんよ、彼はまだ貴方には渡しません。 まだ……まだ? 私は何故まだと……?

 

 助かりました、ありがとうございます。 という彼の声で思考から引き戻されます。 気にしないで下さい、と答えたと思いますが……考えている内に彼の通信機が鳴り始め、誰かと通信をしている様です。 上級代行官の様ですが、負傷している事も知るとその口調が厳しくもその身を案じている様でした。

 

 今度からは護衛を付けろ と怒られました。 何て頬をかきながら苦笑していましたが当たり前です。 負傷した事よりも、今日はお墓参りに行けない事を考えている様でした。 捧げる花が血で汚れてしまった など……

 

「……そんな事よりも、自分の身を案じて下さい」

 

 苦笑を止め、私の言葉にきょとん とした表情をしますが……この人は自分の評価が低い様ですね。

 

「貴方が思っている以上に、貴方は大切に思う人が多いという事ですよ……」

 

 押さえていてください と頭部のハンカチに彼の手を添えさせ、付近に置いた分身を取り周囲を警戒します。 彼を守る為に……もう一度、銃を取る事を決めましたから。

 

 

 

 後日、彼はまた共同墓地を訪れていました。 頭にはまだ包帯が巻かれていますが、傷事態は浅いのであと数日で取れるであろう と言うのがお医者様の見解です。 墓地はあの日からも変わらず静寂を保っています。 変わったのは私の居る場所と立場でしょうか……

 

 あの日、反違法行為と知りながらも、昔のデータを利用して動いていた私の事は彼に話しました。 彼は少し驚きながらも、そうまでしてでも探して守ってくれたのなら、今度は私の番ですね。 と、私を引き取る手回しをしてくれました。

 

 一度置いた銃を私は再度手にしましたが……私に後悔はありません。 でも、そうですね……あの人の葬儀に参加しない為にも、あの人の為に戦い続ける事を決めた私は、何処かしら壊れてしまったのでしょうか?

 




 次にAUGを書く機会がありましたらもう少し甘くしたいですね(どうしても基地に編入させる話は甘く出来ない気がします)

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