とある指揮官と戦術人形達   作:Siranui

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違うんです、肩に頭を預けて指揮官の心音を聞きながら穏やかに指揮官を慕っているダネルを書こうとしたんです。 何故かこう動いてしまったんです、電波が送られてきたんです。
 


行動実験? 序章+NTW-20

「やあ指揮官、お久しぶりだね」

 

 定期報告会を終え、基地の主要通りを歩いていた私は突如声をかけられた。 指揮官と呼ばれる人は他にも周囲に沢山居るが、にこやかに私に向かって手を振る彼女に周囲の指揮官達は咄嗟に壁際へと歩を進めて道を譲り、嫌でも私に対して言っているのだと分からされたのだ。

 

「ペルシカさん……何時も思う事ですが、フットワークが軽過ぎはしませんか?」

 

「良いかい? 覚えておくと良い事だが研究者と言う物は自身の興味・研究対象に対しては身軽にならざるを得ないんだよ」

 

 ふふん と鼻高々に彼女は胸を張った。 相変わらずよれよれの白衣に外を歩くから靴は履いていたが靴下は履いておらず、近所のコンビニに行くので最低限着替えました というレベルであった。

 

「まあまあ、色々と話したい事はあるだろうから珈琲でもどうかな? 」

 

「……頂きましょう」

 

 にこにこと私を手招きしながら研究室のある棟へと誘う事から、最初から要件があったのだろう。 ならばせめて通信でも何でもいいから、事前に伝えてくれれば良いのに……と思ったが、それを伝えた所「だってそうしたら君逃げるじゃん」との事であった。

 

 逃げる様な案件を頼もうとするからそうなるのではないだろうか……とも思ったが、どちらにしろこうして目の前に来られて、大勢の前で誘われてしまったら逃げ道は無い。 大人しく彼女の後について行こう……

 

 

 

「まあ、また実験に付き合って欲しいんだ」

 

「また……ですか」

 

「うん、だが今回は敵対じゃあない。 負荷試験では無く逆に彼女達が内に秘めている事を引き出して欲しいんだ」

 

 彼女の研究室……相変わらず書類まみれで何が何処にあるか分かり辛い部屋でソファーに対面に座る。 出してくれたココアに口を付け一息ついた所で聞かされた要件というのが再度実験に付き合って欲しいという事だ。

 

 説明によると、また前と同じように装置の上で寝て貰えれば後は勝手にこちらでやる という事らしいが、その勝手にやる内容次第で協力出来る事と出来ない事があるだろう。 だが敵対では無く、内に秘めている事……とは?

 

「あははっ、そんなに難しい事は考えなくて良いよ。 つまる所あの子達が普段どうゆう事をしたいのか という事を知りたいと言う事なのさ。 データ上ならば読み取る事も出来るし、どんな事を考えているという事もわかるんだけどね」

 

 データだけではニュアンスが違うんだよね とペルシカさんは笑いながら答えてくれた。 好きだというデータでも、likeなのかloveなのかで意味は違うでしょう? と続ける事で何となく理解は出来た。

 

「しかしどうやって調べるのですか?」

 

「ふっふっふっ、I.O.P.には各人形のバックアップデータが保存されている事は知っているよね? 今回は指揮官の基地に所属している人形のバックアップデータを呼び出して、仮想空間で指揮官と二人きりの状況を作り出す。 その時指揮官は人形各位に、これはデータ空間であるという事と指揮官とやりたい事を再現できる限り好きにして良いという事を説明して貰えれば良い」

 

「好きな様に……って、どのような事まで想定していますか?」

 

「そりゃもう、S「いえ、分かりましたそれ以上は結構です」君から聞いてきた癖になあ……」

 

 聞いたのは確かに私だがまだ時刻は日が高い時間帯である。 流石にそんな時間にそんな事を言わせる訳にはいかない。 キッパリとペルシカさんの口上を遮ると、文句を言いながら珈琲を啜った。

 

「ああ、それと重要かどうかは分からないがここで行われた情報はここだけで処理されるので、バックアップデータに戻される事は無い。 つまりどんな事をしようとも彼女達の行動ログデータには残らないという事だ……まあ、望めばバックアップデータを上書きしてあげても良いけど……」

 

「彼女達次第、と言う事ですね」

 

「強く覚えていたいと願えば、そうしてあげようとも思う物さ。 さて、他に質問はあるかな?」

 

 どうやら早く実験をしたい様で、眠たげな瞳が僅かにキラキラと光っている様な気がする。

 

「……協力するのは良いとしますが、その間に執務が滞るのが心配ですが何かしらフォローはされるのでしょうか?」

 

「上級代行官が基地に指示を出してくれるよ。 ついでにこれも勤務に入るから給金は出るし特別手当も出るから文句は無いだろう?」

 

 ほらほら、と手を引かれ昔見た診療台の様な装置に身を預けると、透明なカバーの様な物が私の前方を横切って行き、何らかの文字が現れだす。

 

「それじゃ、後は向こうで会いましょうってね、おやすみ指揮官」

 

 ペルシカさんの言葉を最後に意識が薄れていき、本当に眠る様に視界は暗転した……

 

 

 

≪おはよう指揮官≫

 

 ペルシカさんの声に起こされ目を覚ますと、目の前に広がるのは真っ白な光景であった。 見渡す限り白、白、白……病院の一室だとしてもまだ他の色が混ざっている筈だと思う。 その白一色の世界にホログラフィックで浮かぶペルシカさんにここがVR空間だという事を意識させられる。

 

 眠っていた診療台はそのまま再現されているらしく、その上に座りポリポリと頬をかいてみる……うん、ちゃんと感触とかも感じるので問題は無いのだろう。

 

「おはようございますペルシカさん……で、ここがそのヴァーチャル空間なんですか?」

 

≪ああ、本来は銃撃の訓練や行動訓練を行う空間だよ。 人間でいう所の脳内シミュレーションって奴かな? だからこうして指揮官の意識と直接話が出来るという奴なんだけどね。 まあその辺りはどうでも良いか……さて、では早速始めようか≫

 

 ポチっとな~♪ と古臭い言葉を口にしてボタンを押すと、空間が少しだけ波打ち背後に何かが入ってくるような感覚がした。

 

「んっ……指揮官? ここは……」

 

 ピンク色のロングヘアに略帽を乗せ、鷹や鷲等の猛禽類を思わせる瞳をした彼女……『NTW-20 ダネル』は頭を軽く押さえながら私と周囲を見渡し顎に手を当てて何かを考え始めた。

 

「私はやられてしまったのだろうか?」

 

「いや、そうじゃないんだダネル……まあ、落ち着いてよく聞いて欲しいんだけど……」

 

 よく見ないと分からない事だが、僅かに彼女の目尻が下がり落ち込んだ様な表情に見えたのでとりあえずペルシカさんから言われた事を説明する。

 

やられた訳では無く、元々バックアップデータを利用して呼び出しているのだから前後の記憶が無い事も、この真っ白な見慣れない空間で立っている事も理解出来なくて仕方の無いことなんだと言う事だ。

 

「ふむ……つまり、私は指揮官に選ばれたと言う事なんだな」

 

「あ~……まあ、そう言う事かな?」

 

「ふふっ、そう恥ずかしがらなくても良い」

 

 いや、君が選ばれている事すら知らされていなかった とはっきり言うべきなんだろうが、口元が緩むのを隠す為に口元に手を持ってゆくダネルという珍しい表情も、少し微笑む彼女にも真実を言うのは躊躇われた。

 

「それで、私は指揮官にやりたい事をして良い と言う事だったな」

 

「そう言う事になるね……ただ、ペルシカさんが観測している という事だけは忘れないようにね」

 

「分かっているさ、常識の範囲内にするつもりだ」

 

 そう言うと片方の耳に手を当て通信をしている仕草を取るダネル。 人形である事からその様な仕草は必要ない様に思われるが、作戦行動中でもない限り人間が近くに居る場合や会話をしている時はこの様にして通信している という行為をする様に設定されている。 人に似せられて作られている限り、人間との差異はわざと作らなければいけない。

 

≪あ~……本当にそんなもので良いのかい?≫

 

「ああ、それで良い」

 

 ペルシカさんの困惑した声に、ダネルは頷き返す。 どんな事をお願いしたのか私に教えてくれても良いだろうが、ダネルは静かに微笑むだけだ……

 

≪じゃあ指揮官、空間を生成し直すから目を閉じて貰って良いかな?≫

 

「空間の生成?」

 

≪そう、そりゃこんな真っ白な何もない空間でやれる事なんて限られているからね。 だからその空間に物を配置したりするんだけどその際に高速で色々なものが動くから空間酔いをするかもしれないので目を閉じていてって事だね≫

 

 確かにそう言う事なら目を閉じていた方が良いだろう。 高速で動く物体を見続けると目が疲れるし、目が回って倒れ込み床にダイブする趣味は持って居ない。 言われた通りに目を閉じておこう……

 

≪まあ、ぱぱっとやっちゃうから安心してね……はい、もう良いよ≫

 

 ほんの数秒目を閉じている間に空間を作り直したらしいペルシカさんが声をかけてくれる。 恐る恐る目を開けてみると……

 

「……執務室?」

 

 そう、何時もの見慣れた執務室でありその内装から置いてある本棚まで全てが再現されていた……まさかと思い執務机の蓋を開けてみるが、そこに収められているのは普通のボールペンやラインマーカー等の一般的な事務用品だけであった。

 

「指揮官? 机の中がどうかしたのか?」 

 

「ああ、いや……良く再現されてるな と思ってね」

 

 隠し棚や重要書類まで複製されていなくて良かった 等は言えない。 もしそこまで再現されていたら防諜を見直さなければいけないからだ。

 

「そうか……てっきりそこに何かあるかと思ったぞ」

 

「あはははは……で、ダネルのやりたい事ってなんなんだい?」

 

「ああ、それなんだがな……」

 

 とりあえず強引に話題を逸らしておく、あまり内容的には触れて欲しくない物もあるからだ……それに気付いたかダネルもそれ以上聞いて来る事は無かった。

 

「指揮官、休憩の時に読んでる本を持ってこっちに来てくれ」

「本って……あの戦術書?」

 

「そうだ、それでここに座ってくれ」

 

 本棚を漁り、表紙や表面はおろか中身すら手垢や経年劣化でボロボロになりつつある本を取り出しダネルの元……応接用のソファが置かれた場所に向かう。 彼女は既に座っており、座る様ポンポンッ と隣を軽く叩いた。

 

 座ってくれ と言うのだから大人しく隣に座ってみると、彼女はそのまま私の肩に頭を預け腕に背中をぴったりと付けそのまま体を預け、リラックスする様に体から力を抜き本を読み始めた……

 

「うん……中々良い物だ」

 

「……え? いや……え??」

 

「どうした指揮官、あまり動かないでくれ……位置がずれる」

 

 ダネルの方を向こうとすると、身体を動かす事から肩の位置を動かすことにより乗せている頭がずれると文句を言われる。 そう言われてしまうと動けなくなるのだが……

 

「ダネル……あの、これがやりたい事なのかい?」

 

「変な事か? 静かに本を読みたいと思う事は」

 

「……いや、変ではないけど……」

 

「ならば良いだろう、そのままにしてくれ」

 

「静かにだったら、別に私とでなくても」

 

 そう続けようとした所、ダネルの頭がぐるりと動く感触がする。 背は預けたまま、首だけをこちらに向けた様だ。 目線をそちらに向けるとムッ とした様な、ジト目と言うのだろうか……

 

「指揮官、それ以上言うと私は怒るからな」

 

「……もう怒っている、と言うのは野暮かな……?」

 

「余計な事を言うからだ……第一にだ、わざわざこんな所でこうする事を望んだのも分からないのか?」

 

 正直分からない……と言う訳では無い、だが相手はダネルである。 仕事以外あまり干渉してくる事は無かった彼女が自分に興味を持って居るのかと言われると……

 

 そう考え答えを出せないでいる私にしびれを切らしたのか、それとも考え込んでいる姿が隙だらけだったのか、スッ と顔の横をダネルの腕が横切り後頭部に手を添えられ引き寄せられる。

 

「隙を見せる上に即座に行動を起こさないからだ……狙撃兵が狙う事は一撃必殺、その一撃に全てを乗せる事だ」

 

 それに、これは夢の様な物……なら、今だけは私だけの指揮官と言う事で……貴方は私を拒まないだろう?

 

 唇に感じる温かく柔らかい感触、ダネルの顔が直ぐ間近にあり視界がぼやける程だ……以外とまつげが長いんだな……と。

 

「……指揮官、こういう時は目は閉じるものだぞ」

 

「残念ながら、キスなんてしなれていないからね」

 

「そうか……そうかそうか、ふふっ……」

 

 クスクス笑うダネルに、頬が赤い私では何を言っても負け惜しみにしかならないだろう。 ポリポリと頬をかいて誤魔化そうとするもダネルにはお見通しの様で、またおかしそうに笑みを深めるだけであった。

 

「さて指揮官、理由は分かったのだろうからまた肩を貸してくれ。 私はその場所が落ち着ける所なんだ」

 

 上目遣いに私を見上げる紅の瞳、その瞳から感じられる感情は……信頼では無く甘えを感じる親愛。 その想いに今は答えよう……ただこの思いはこの空間だけで消えてしまう、残らない一時の夢でしかない……

 

 ペルシカさんは何を考えてこの様な実験を行っているのだろうか……?

 

 

 

 本当はただ傍に居られれば良かった事であった。 ただ傍に居て彼の力になれれば私は幸せであった。 彼は唯一変えの効かない皆の指揮官であったのだから。 だがそれもいつしか傍に居るだけでは足りなくなってしまった、私を見ていて欲しい と、仕事以外でも雑談をしたいとも思い始めていた。

 

 しかしそれは我慢しなければならなかった。 彼を慕う者は多い……勿論人形も、私達の仲間も、戦友も、部隊員も……私一人でも動き出したら全員が一斉に動き出すだろう。 それはダメだ、動き出す前に一撃で彼の思いを奪うつもりでなければ……機会を待つ、私は待つ事や機会を伺う事は得意であるのだから……

 

 だがそんな指揮官が、記録に残らないからと言って私と二人きりで、観測されていると言われてもその無防備な姿を自身の前にさらけ出す好機などこれ以上の機会があるだろうか!

 

 でも、それでも最初はまだ意識して貰えれば良いと、ただ指揮官の心音を感じながらゆっくりとした時間を過ごせれば……それだけで満足するつもりであった。 指揮官が私を意識しているかどうかはっきりとしない言葉を聞くまでは……それで我慢は限界を超えた。

 

私の記憶に残らない? 指揮官の記憶にも残らないかもしれない?? そんな事は関係が無い!! 私は私と言う存在を指揮官に刻み込むのだ! 貴方の事が好きですと、どんなに不器用であろうとも、私は貴方を慕っているのだという事を!!

 

 今こうして肩を借りて読んでいる本も内容は入ってこない、ただ文字列を視線で追いかけているだけである。 そこで考えている事……それは、この記憶をどうにかして外部に残せないか という事を試し続けていた。 彼は私を拒まなかったという事実だけでも良い、それだけでも残せれば私はそれを糧に機会を伺う事が出来るのだから!

 

 ……まだ時間は少しある、どうかどうか……何処か、それだけでも残せる場所があれば……! そう、強く願ったのだ。

 

 




あれか……実験系は軽く病んじゃってる娘をそれが暴走しない様に確認して制御する為に行っているという事にすれば……あ、ペルシカさん良い人になるからその案でも良いんじゃないだろうか?(夜更かし書きのテンション)
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