リハビリ作ですがUMP9のお話です。
「ええ~っ……夜間訓練?」
「そう、その指導教官って訳……突然お願いされちゃってね」
「あははっ、45ったら指揮官から『君が適任だと思って、申し訳ないけどお願いできるかな?』なんてお願いされたから二つ返事で受けちゃうもんだからs」
「40?」
「オーケーオーケー、余計な無駄口は叩きませんよっと……」
「ったく……で、416達は?」
ケラケラと笑うUMP40に、呆れた様に額に手を当ててUMP45は視線を隣のHK416の方へと向ける。 不機嫌そのものの表情で夜間用の装備を整えている所で、更にその隣に居るG11を小突きながら急かす様に準備を進めている。
「そこの寝坊助がサボっていたツケを払う為の夜間作戦よ……ったく、最低限のノルマすら熟してないなんて……」
「ううっ……査定の期限を忘れてただけじゃん……」
「それを含めて呆れているのよ」
どこの基地であってもノルマと言う物はある。 治安維持から鉄血の掃討まで……書類とドローンの録画データで報告されるもので、最低限職務を遂行しないと給金や資材の補給等が削減されるという事になるのだ。
その査定日が明後日までであり、仕方なしに掃討任務や偵察任務などを詰め込めた結果がこれらしい……全く持って仕方ない事だ。
「んじゃあ私も……」
「9は明日休みでしょ」
「だからこそ付き合おうと思うんだけど……」
「ダメよ、休む事も仕事の内よ」
自分もどちらかに付いて行こうと思ったのだが、45姉に額を押さえられベッドへと押し戻される。 付いていきたいのになあ……と額を押している45姉の人差し指を見上げるが、相手は苦笑とも困った娘だな とでも言いたいような表情で、こうなってしまったら私は何も言えない。 45姉を困らせる事は私の本意では無いし……
「分かった……大人しく休んでいるね」
「ん、良い子ね」
ポンポン、と45姉の手が私の頭を軽く撫でる。 心地よいと思うけどそれで宥められるほど子供でも無いと思うんだけどな……
「じゃあ、行って来るわね」
「行ってらっしゃい、気を付けてね!」
「お土産は無いわよ」
「言われなくても分かってるよ……G11じゃあるまいし」
宿舎の扉から出て行く皆に手を振って見送る……416もやれやれと冗談を言いながらG11を小突きながら出て行く。 まあ自業自得だから仕方ないし、それで来月お金が足りないと嘆くのもG11本人なんだから、それを防ごうとしてくれている416はやっぱりなんだかんだ言って面倒見が良いと思う。
体の力を抜いてベッドへと横たわる……静かだ、空調が室温を保つ為に風を吐き出す音しか聞こえない。 そういえば基地で一人眠る事なんて初めてでは無いだろうか?
自分の隣へ顔を向けると、何時もは45姉が寝て居るが今は綺麗に畳まれている……最初の頃はもっと離れていた場所に寝て居たんだっけ? と、最初この基地にお世話になりだした頃を思い出してしまう。 纏まって寝て居たら爆発物で一網打尽だって全員四隅で眠っていたっけ……
クスクスと思い出し笑いをする。 仕方が無かったのだ、その当時はこの基地の指揮官の事が良く分かっていなかったのだから……私達の持ってる情報とか技術とかを奪おうと考える人っていっぱい居たしね。
まあそれがただの杞憂だったのは直ぐ証明されたんだけど……それからだっけ、徐々に物が置けるから~とか、掃除が面倒だからって皆集まって眠りだしたのは…… ベッドだって新品でふわふわしてて、段ボールや廃棄されたソファー等で眠っているよりはリラックスできるし……
何時も難しい顔をしている416も、ここで眠っている時は安らかな寝顔だっていうのも内緒の話だ。 私の隣で眠るのが416だから偶に早起きすると寝顔を見れたりするからだ。
寝返りを打つと45姉とは少し違うが、直ぐに眠れるようにベッドメイクされている。
その奥にあるG11は何時だって眠れるようにシーツだけはちゃんと敷いてあるが、その上に抱き枕やら掛布団が一見乱雑に見えるが、あの配置が直ぐに眠れるベストポジションの様で、前に整理しろと怒っていた416がその後あれはあれで整理されている と諦めたのは記憶に新しい。 外に設けられたセーフハウスにあるG11の寝床を見て基地のあれはちゃんと掃除もされているという事で妥協したらしい。
「……静かだなあっ……」
周りを見渡して、少しの私物や要望した机や椅子、書棚などが置かれている宿舎……何故だろうか、安心して眠れる場所な筈なのにそこに仲間が居ないというだけで随分と寂しいなんて……
これもマインドマップが成長している証なのだろうか? でも仲間が居ないと寂しいと言うのは人形としては弱くなっているのではないだろうか? 変わった原因は……間違いなくあの人なのだろうけれども……
「……まだ起きてるかな?」
そう考えた時、既に足は動き出していた。 ふわっ とした足取りで宿舎の扉を開けると、 既に照明は常夜灯のみに落とされているが足元はしっかりと見えている。 光量が絞られても調節して増幅すれば良いのだからそういう意味では私達は便利だ。
ペタペタとスリッパが廊下を叩く音が響くが、既に寝静まった宿舎だから余計大きく聞こえるだけだ。 それに足音を抑えるのは指揮官が居る区画周囲だけで構わない。 人形の宿舎に設置してある監視カメラは映像だけだと分かっているからだ。 カメラの死角を潜り抜け、目的の部屋へ歩いていく事など造作もない事だ……
執務を終え風呂にも入り後は眠るだけの状態で本を読んでいた指揮官の耳に扉がノックされる音が聞こえる。 時刻は既に消灯時間を過ぎているが……誰だろうか?
「はい、誰かな?」
「えへへ……私だよ指揮官、まだ起きてる?」
「9? ああ、起きてるよ……こんな時間にどうしたのかな?」
「うん……ちょっとね」
扉を開けると髪を降ろし、寝間着なのだろうか何時もよりラフな服装で私を見上げていた。 要件を聞いてみると言いにくいのか、人差し指通しをくっつけもじもじと上下させたり目線が泳いだりしている。
「良いよ、とりあえず中に入るかい?」
「……うん、お邪魔します」
こんな時間にわざわざ自室を訪れたのだ、何か理由があるのだろう……公に言えない相談かも知れない。 彼女が所属する小隊の性質上からも十分あり得る事だ。
部屋に招き入れ、電気ケトルでお湯を沸かしている間適当な場所に座って待ってる様に伝える。 物珍しそうにグルグルと見回っていた9だったが、は~い という返事と共にベッド横にある折り畳み式の机に付属している椅子に座る。
普段であればパタパタと足をばたつかせていたり、鼻歌を歌っている事が多いのだが今日はじっ と私の方を見続けている……やはり何か話したい事があるのだろう。
「はい、ココアだけど……夜に甘い物はダメだっけ?」
「あははっ、だいじょーぶ! 私はあまり太らないみたいだから」
白いマグカップにこげ茶色の液体……ココアを淹れて渡すと、ありがとうと微笑みながら受け取る。 向かい側のベッドに腰かけ同じ様に自分のマグカップに口を付ける……うん、何時も通り優しい甘さだ。
「それで、何か話したい事でもあるのかな?」
ゆっくりとココアを飲みリラックスした頃合いを見計らって9に話しかける。 受け取ったマグカップを両手で持ち、ちびちびと口を付けていた9は私の呼びかけにえ~っと……と、先ほどと同じ様に言い淀んでいる様子だった。
「……笑わない?」
「勿論」
「一人だと寂しかったから……」
「……へっ?」
9から予想外の言葉に思わず聞き返すと、彼女はカップに口付けたまま上目遣いにこちらを見つつ先を続ける。
「だから……45姉も、416も誰も居ない宿舎で1人で居るのが寂しかったの! 指揮官ならまだ起きてると思ったし、側にいて安心するし、家族だし……だから、来たの」
そこまで一息に言って自分が何を言っているのか気付いたのか、うーっ……と呻きながらマグカップで顔を隠そうとする9。
頬が赤いのはココアが温かくて血流が良くなったと言う訳ではあるまい。 ただそこは指摘しないのが方が良いだろう、気づいた事全てを正直に話す事は必ずしも正しいことでは無い。
「……おかしいかな? そんな事を考える人形って……」
「そんな事は無いよ」
9の頭に手を当て少し強めに撫でる。 人を模して造られたのならそういった感情が芽生える事が悪い事だとは思わない。
「色々と考えられる様になったり、感情を覚えたりする事は成長したって事だと思うよ? 少なくとも私はそう考えるかな……それにまあ、頼られて悪い気がする人間はいないさ」
ふわふわとした髪を撫でていると、9は気持ちよさそうに目を細めている。 口元が緩み声が漏れているのだが……まるで猫みたいだ。 喉を撫でたらゴロゴロと鳴くかもしれない。
「ふあぁっ……」
「あっ……ごめんね指揮官、もう眠いよね?」
柔らかい髪が気持ちよく気を抜いた瞬間あくびが出てしまう。 それに気が付いた9が彼女らしく謝りながら困った様に眉を下げる。
まだ大丈夫だよ と答えたいのだが、日付をそろそろ超える時間帯であり職務上あまり夜更かしもできない。 だが……寂しいと言っていた彼女を宿舎にそのまま帰らせても大丈夫だろうか とも思ってしまう。
「じゃあ、そろそろ宿舎に戻るね……話を聞いてくれてありがとう指揮官」
「あ、待って9」
呼び止めた9は首を傾げながら振り返る。 呼び止めた自分ですらどうしたいのか分からなかったが、寂しいから とわざわざ私の元に来た娘をどうにかしたいと思っていたのだ。
「あ~……えっと、9が良ければここで寝るかい?」
少し冷静になれば何を言っているんだ と思う事だったのだが、その時は妙案だと思ってしまったのだ。 9は寂しいからここに来た、私はそろそろ寝なければならない。 なら一緒の場所で寝てしまえば9は寂しくないし私は眠れる 一石二鳥じゃないだろうか と。
「え……でも、良いの?」
「うん、私は構わないよ。 家族なんだし同じ部屋で寝るくらいね」
「ん~……なら、お邪魔しちゃおうかなっ」
えへへっ と笑いながらまた向かいの折り畳み椅子へと座る9。 それに対し自分はベッドから立ち上がりソファに向かおうとすると9が袖をつかんでいた。
「指揮官はベッドで寝なきゃダメだよ?」
「いや、提案したのは私なんだから9がベッドを使って良いよ。 一日くらいならソファでも眠れるし……」
「むう……駄目だよ指揮官、良い睡眠が取れないと体の疲れが溜まっちゃうんだから。 それに私のせいで指揮官が辛い思いをするのは嫌だよ……」
目尻を下げ悲しそうな表情をする9。 だが私がベッドで眠るとしたら9は何処に……
「あのね、その……指揮官が良ければだけどね?」
9からの提案は確かに全ての条件を達成していると思われるし、唯一の懸念である事も9からの提案である という事からクリアしている。 まあどうしたのかと言うと……
「……んふふっ、添い寝するって本当に家族みたいだよね」
すぐ隣でクッションを枕にした9が嬉しそうに微笑んでいる。 そう、べッドは一つしかなく双方ともお互いにベッドで寝て欲しいと思っている ならばもういっその事一緒に寝てしまおうという事なのだ。
躊躇したものの他に案がある訳でも無く、9なら何かが起こる訳もないだろうとこれを承諾。 ただ一人用のベッドで小柄な9とは言え二人で寝るには少々手狭だ。 実際に9は私の胸元に頭を預ける様に横になっているし、どうしたものかと困っていた私の手は9を包むように彼女の背中に回されている。
気を付けの姿勢で眠ろうとしたのだが、無理な姿勢を取るよりは抱きしめてくれた方が寂しくないな と言ってくれたのでその言葉に甘えたのだが……
「指揮官は暖かいね……」
それは自分もそう思う、くっついている部分で体温が交換されているのか、はてまた9の体温が高いのか湯たんぽの様にポカポカとしているので眠気を誘う。
「眠いんだよね? いいよ指揮官……疲れているんでしょ? おやすみなさい……」
9の声が私を夢へと誘う……瞼が重くなり目の前がぼんやりとしていく内に意識を失った。 おやすみ と返事を出来たかどうかだけが心配事項であったが……
本当に寝ちゃったのかな? ふふっ……本当に無防備な人なんだなあ……
指揮官を見上げてみると、既にその眼は閉じられ穏やかな寝息が聞こえてくる……やっぱり疲れているのかな? 目の下に少し隈らしきものが見えるし……
耳を指揮官の胸に当てると、とくん……とくん……と一定のリズムが刻まれている。 人が生きている証……この音は私を安心させてくれる。
任務が終わった時、訓練が終わった時、後方支援が成功した時……指揮官は優しく頭を撫でてくれたり、その胸に飛び込んでも受け止めてくれる事が好きだ。 この暖かさを守りたいから……私は頑張れる。
何時でも一緒に居て欲しい、でも私達も元は根無し草。 それは安定とは程遠い生活であり人間にとって望むべきものではないだろう。
でも彼ならば……指揮官ならば、来て欲しいと言ってしまったら、恐らく……来てくれてしまうのだろう。 それはとても魅力的であるが、同時に大切なモノが危険に晒される矛盾を生んでしまう。
それはまだ嫌だ、彼にはまだこちらの世界に来てはいけない……だから、私達がちゃんと守ってあげよう。 どんな敵であろうとも……例え、形式上の味方であろうとも……だって家族は支え合うものでしょ?
「おやすみ……指揮官」
目を閉じて今はこの暖かさに身を委ねよう。 まだ時間はあるのだから……
夏もそろそろ終わりそうですが、まだ残暑が厳しいですので皆さまお体にお気をつけて……