もし、女神官ちゃんが○○の神を信仰していたら 作:ネイムレス
小鬼王とその軍団の完全討滅。見事それを成した冒険者一同は、ギルド内部の酒場に集まり祝杯を上げる事になった。
「私達の勝利と、牧場と、街と冒険者。それからいつもゴブリンゴブリン言ってるあの変なのに! かんぱーい!!」
何故こやつが仕切るのかと言った無粋な言葉は必要ない。妖精弓手の高らかな宣言と共に、勝利を称える為の宴が始まった。
蜥蜴人も鉱人も只人も獣人も?圃人も例外なく誰もが笑顔を浮かべ、酒に料理に勝利に酔いしれて笑い声を上げている。チーズをひたすら貪る者、樽で酒を呷る者、慣れない酒に早々に酔い潰れる者。実に多種多様であった。
そんな酒宴の空気の只中に、無論のこと小鬼殺しも鎮座している。何時もの特等席に腰かけ、幼馴染の牛飼娘との間にすやすやと眠る女神官を挟んで。身長差もあって、まるで娘を挟む両親の様に見えなくもない。
だが小鬼殺しは、可愛い女の子が肩に寄りかかって眠っているとか、かつて救いの来なかった村の思い出とかがどうでもよくなる様な違和感に苛まれていた。
その原因は、聞こえて来る冒険者達の話し声である。
「それにしても、怪我人も死者の一人も出る事無く勝ち越せたよな。これもアクア様の思し召しだよな」
「ああまったくだぜ。小鬼王を討伐の決め手になったのも、アクア様の授けてくださった奇跡の力なんだろう? ありがたい事だよな、最高の女神様だぜ」
「水の女神だってのにアンデッドや悪魔には容赦のない武闘派だし、今回のゴブリン退治にもお力を貸してくれるなんざ流石この世界の一大宗教だけはあるよな」
何時からこの世界の宗教は水の女神一色になったのだろうか。耳を澄ませずとも酒宴のあちこちから、やれ素晴らしい水の女神様だのアクシズ教万歳だのと言った文言が聞こえて来る。
確かに、今回の小鬼王討伐には女神官の奇跡を頼った。緑色の粒子とかは別卓の話なので、もちろん自分を囮にした奇跡での奇襲攻撃でだ。
しかし、誰もが口々に褒め称える女神については、とんと心当たりがないのである。まるで悪い夢でも見ているかのようだ。
それどころか――
「所でオルクボルグ、この洗剤使って見なさいよ。アクア様のご利益でどんな汚れでも綺麗に落ちるし、自然由来の成分だから環境にもいいのよ。しかもこれ、飲めるの!!」
「よお噛みきり丸! この鍋をみてみぃ、どんなに荒く扱っても焦げない逸品じゃぞ! これで作った料理にはアクア様のご加護が宿って、火酒が余計に進むってもんだわい!!」
妖精弓手や鉱人道士までもが、何処からか取り出した洗剤や鍋を押し付けて来る。この二人が宗教家だったなんて、今まで全く聞いて居なかったはずなのだが。というか洗剤って飲めるのか。
「小鬼殺し殿。我が父祖たる恐るべき竜も、かつて麗しき水の女神様と共に巨悪を征伐したと伝わっております。異端なれどもひとかどの敬意を感じずにはいられませぬなぁ。そんな訳で是非とも小鬼殺し殿も、これを機にアクシズ教へ……。貴方の為、あなたの為ですぞ!!」
蜥蜴僧侶、おまえもか。その体格と顔で目を血走らせて迫って来るのは、怖いからやめてほしい。
何だこの状況は。なんなんだ一体。鉄兜の下で小鬼殺しは思わず混乱する。誰か、誰でも良い。誰かこの凶悪な状況に流されて居ない人物は居ないのか。
そんな事を鉄兜の奥に隠して表には出さず、一縷の望みを賭けて隣の女神官越しに幼馴染へと視線を移した。
「どうしたの? 君がそんなに狼狽えるなんて珍しいね。悩みがあるんだったら、聞いてあげようか?」
そこには果たして、何時も通りの眩しい笑顔を向けて来る牛飼娘の姿が――
「アクシズ教の神官じゃないけど、真摯に祈ればきっとアクア様にも懺悔は届くはずだよ」
否、この娘も汚染されていた。
小鬼殺しにとっての最後の聖域。縋る思いと共に差し向けた希望は、無残にも打ち砕かれてしまう。小鬼殺しは目の前が真っ暗になって、意識を手放してしまった。
そうして、目が覚める。
「……はっ!?」
「わっ!? ど、どうしたの? もしかして寝てたのかな?」
当たりを見渡してみれば、そこは宴の真っただ中。小鬼殺しは何時もの席で座ったまま眠っていた様だ。今のあれは、どうやら悪い夢だったらしい。
心配げに覗き込んでくる牛飼娘も、周縁で騒ぐ冒険者達も誰一人として水の女神の事など口にしては居なかった。
ホッと胸を撫で下ろして、それからちらりと傍らの眠り姫を見る。悪夢に驚いたとはいえ、ずいぶん騒いでしまった。
睡眠を妨げてしまったかもしれないと、確認の為に視線を向けた。
「あ……。わ、私寝てました!? すみません、ギルドへの報告書も書きかけなのに……。あ、でも、後はゴブリンスレイヤーさんの署名を頂ければ完成です。申し訳ありませんが、この紙に一筆を……」
視線を向けた途端に起き出す女神官。狸寝入りじゃないかと言いたくなる様なタイミングの良さだ。
彼女は一方的に喋って、一枚の用紙とインクの付いた羽ペンを手渡して来る。そうして手渡された紙は、無論のこと冒険記録用紙などではない。
でかでかと書かれているのは、『アクシズ教入信証』の文字。
「……糞喰らえだ」
「ああっ!? ゴブリンスレイヤーさぁあああああああん!!!」
小鬼殺しは、力任せに入信証を引き裂いた。それはそれはもう見事に、真っ二つに。
【真実】「はい、本日のゲストは水の女神様でした。いやー、誰もが同じ宗教で思いを一つにするとは、素晴らしい世界ですね」
【幻想】「え、何これ。意味わかんないんですけど? なんか得体のしれない物で汚染されてるんですけど!?」
【駄女神】「ねえちょっと、アクシズ教を汚染って言わないでよ! 私の可愛い信者達の事、悪く言わないでちょうだい! あの子達はやればできる子達なのだから、上手く行かないのは世間の方が悪いだけなの!!」
【地母神】「Σ(`д`ノ)ノ ヌオォ!!」
【真実】「おおっと、ここでまさかの乱入だー! 収拾がつかなくなる前に、次、いってみよう」
私は敬虔なアクシズ教徒なので、既にこのすばクロスはあるのですが敢えて書かせていただきました。
それでは皆さん、良いお年を。