もし、女神官ちゃんが○○の神を信仰していたら 作:ネイムレス
昏睡していた小鬼殺しの目が覚めると、そこは見慣れぬ寝台の上であった。
ただし、豪奢な天幕のついた寝台などでは決してない。拘束具が付けられた、施術用の特殊な寝台である。そう、小鬼殺しは今、その両手両足を革製のベルトでしっかりと寝台に括りつけられているのだ。
地下墓で小鬼英雄に殴り飛ばされて重傷を負った事は覚えているが、それがどうしてこんな薄汚い場所で拘束する羽目になるのだろうか。さっぱり訳が分からない。
状況を確認する為にも、兜を付けたままの頭を動かして周囲を観察する。いささか薄汚れた感のある室内に、中央にある寝台とそれを取り囲む医療器具の数々。どうやらここは、病院内部の手術室らしい。
そして、状況を確認すると同時に、部屋の隅に何かが蠢いているのも発見できた。それはブヨブヨとした青白い皮膚と、奇妙に肥大化した頭を持った奇怪な人型の生物。シルエットだけ見れば、まるでキノコが人型になったかの様だ。
そいつは何をするでも無く、部屋の隅に立って拘束されている小鬼殺しを眺めていた。ゆらゆらと微妙に揺れながら、無機質な瞳が小鬼殺しを観察している。
その見た事も無い不気味さと、奇怪な状況に思わず脳の奥で未知の啓蒙が生まれてしまいそうだ。
「あら、目が覚めたんですね。無事で良かった……」
その時、部屋の戸を開けて誰かが入室してきた。奇怪な生物に目を奪われていた小鬼殺しに、部屋の外から入って来た人物が声を掛けて来る。
それは、他でもない小鬼殺しの仲間の女神官であった。
「ずっと目を覚まさないから、みんな心配していたのですよ。剣の乙女様だって……、ね?」
「そうか……。それよりこの拘束は一体なんだ。何故俺はこんな場所に運ばれている?」
女神官の言葉を小鬼殺しは何時も通り軽く流す。だが、そうしてから違和感に気が付いた。この良く知る女神官は、果たして知り合いが拘束されている状況を是とする性分であっただろうかと。
「……お前は――」
「ウフフフ。大丈夫、何にも怖くないですよ。直ぐに気持ちよくなるから……、大人しくしていてくださいね」
問い質そうとするも、そもそも話が通じる雰囲気ではない。どうしたものかと沈黙していると、女神官はそれを無抵抗の意思表示と受け取り満足気に微笑んだ。
「ゴブリンスレイヤーさんの治験……、きっと得難い物になりますよ。今度は古い血を試してみましょう。他の皆さんよりも、有意義な結果が出るに違いありません」
「何……? 他の連中はどうした。まさか、もう既にあいつ等にもこんな事を?」
口元を歪に歪めながら語られる女神官の言葉に、小鬼殺しは鋭く反応した。例え小鬼にしか興味を持たない狂人であっても、旅を共にした仲間を無碍にする程愚かではない。
小鬼殺しの言葉に対して、女神官は更に口元を歪めて答えてくれた。狂気じみた、真実と言う物を。
「他の皆さんならもう既に、治験を終えて治療されていますよ。今はこの部屋の外で、生まれ変わったように元気にしています。それに、剣の乙女さんならずっとそこに居るじゃないですか」
「……………………、何……?」
剣の乙女はそこに居る。女神官は確かにそう言った。
何を言っているのかと小鬼殺しは訝しむ。なぜならこの部屋に居るのは、小鬼殺しと女神官と、キノコ頭の奇妙な生き物しか居ないのだから。
と言う事は――全てを理解した時、小鬼殺しの脳裏に恐怖と共におぞましい真実が知識として刻まれた。
「……一体何をした?」
「治験を。そして治療を施しました。彼女の全身の傷跡も心すらも、完璧に治療されているでしょう? 大丈夫、あなたも直ぐにこうなりますから」
冗談ではない。誰が好き好んでキノコになりたがるものだろうか。がむしゃらに暴れて手足の拘束を解こうとするも、なめし皮を引きちぎる様な膂力は小鬼殺しは持ち合わせていない。
「ほら、良い子だから。大人しくしなさい……。……さあ、死ね! 大人しくしろ! するんだ!」
「やめろ……。やめろおおおおっ!!」
女神官が持っていた杖をヒュンと鳴らして振るうと、杖が幾つものパーツに分かれて紐で繋がれた蛇腹剣へと変形する。そして、本性を現して壮絶な笑みと共に近づいてくる彼女に、小鬼殺しは動けぬ身でもがきながら、張り裂けんばかりの慟哭の叫びを上げるのだった。
この悪夢の様な現実からは、逃れ様がない。
――と言う所で、小鬼殺しの目が覚めた。
「はっ!? っ……、ハァハァハァ……」
飛び起きて上体を起こし、胸の中で暴れまわる心臓を掌で抑える。乱れた息を整えながら周囲を見渡せば、そこは見た事も無い様な豪奢な調度品と天蓋のついた大きなベッドのある部屋であった。
少なくとも、薄汚れた手術室では断じてない。その事には一つ安堵する事が出来た。
「う……、ん……、ん……? ん~~……」
だが直ぐに、ぎくりとしてベッドから飛び出す。傍らに全裸の女神官が横たわっている事に気が付いたからだ。夢見のせいで、何よりも恐怖心が先に立ってしまっての行動である。
「え? あっ、わっ、あっ!? あっ、とっ!?」
少し距離を取って警戒していると、起き出した女神官は何やら一人で大騒ぎをし始める。どうやら、彼女は普段通りの女神官らしい。
彼女は顔を真っ赤にしながら、小鬼殺しに恐る恐ると言った様子で訊ねて来る。それに対して、小鬼殺しは妙に神妙な声になって答えるのだった。
「えっと……、み、見ました……?」
「ああ、見た……」
裸では無く、とびきりの悪夢を。
【真実】「いやぁ、ヤーナムの医術は啓蒙が高まるね」
【幻想】「上位者ってそもそも神様なの? 確かに教会で崇拝されてるのも居るみたいだけど……」
【地母神】「(´-ω-`)ジャシンモ、カミノウチ」
【真実】「確かな事は全て霧の中に。それがフロム。次、いってみよう」
ヨセフカの診療所には何時もお世話になっております。
全員生存ルートに繋がりますからね。LOVE&PEACEですね。