もし、女神官ちゃんが○○の神を信仰していたら 作:ネイムレス
それは、何でもない様な毎日の繰り返しの中で起こった、とんでもない悲劇であった。
事の始まりは、冒険者ギルドの何時もの指定席であるソファーで開始される。何時もの様に掲示板の混雑が解消するまで座って待っている小鬼殺しの所へ、まるで飼い主を見つけた子犬の様に女神官が駆けて来るのだ。
「ドーモ、ゴブリンスレイヤー=サン。実は見て欲しい物があるのですが、今はお時間よろしいですか?」
また来た。いや、同じ卓ではないのでまたではないのだが、なんとなく覚えがあるこの既視感。まるで似た様な事を前にもやった様な気がするが、きっと気のせいなのだろうと小鬼殺しは了承する。
だってそうしないと話が進まないからだ。
「先日私の信仰する神様から神託が降りまして。絶対に儲かるから大量生産しろと言われて、丹精込めて作り上げたのがこちらです!」
そう言って、女神官は背負っていた背荷物を漁り、その中身を一つ取り出して見せて来た。
それは包み紙に包まれていた。そこからは独特の甘い香りとほのかな酸味、そしてとても嗅ぎ慣れたある物の匂いが混じっている事に小鬼殺しは気が付く。
「ほう、これはもしやチーズを使った料理ですかな?」
そして、同じくその香りに誘われてきた物が居た。高い身長の上に乗った青い鱗の蜥蜴顔の偉丈夫。彼等の民族独特のの衣装に身を包むのは、小鬼殺しと何度も依頼を共にした蜥蜴僧侶であった。
「あ、どうも、こんにちは。ええ、チーズもたっぷり入っているんですよ。よろしければおひとつどうぞ。まだまだ沢山ありますから!」
「これはかたじけない。ふむ、どうやらチーズと何やら黒いペーストに魚の切り身をパンで挟んだ物ですな。では早速……」
蜥蜴僧侶は包み紙を受け取ると、イソイソと開封して中身の検分もそこそこにあんぐりと口を開ける。彼のチーズへの渇望は、もはや崇拝と言っても良いレベルに達している様だ。
そんな様子を傍目に、女司祭は小鬼殺しにも包み紙を差し出して来る。それを無言で受け取った彼は、とりあえず包装を剥がしてしげしげと中身を確認する。蜥蜴僧侶も言っていたが、横切りにしたパンの間に具材を挟んだ料理らしい。
だが、これは果たして口にしても良い物なのだろうか。得体のしれない感覚が、小鬼殺しに静止を訴えかける。
そう言えば、チーズを口にすれば甘露甘露とやかましいはずの蜥蜴僧侶が、今回はやけに大人しくはないだろうか。ふと気になって、先に口にしただろう蜥蜴僧侶を見た。
「私の信仰する福の神様が教えて下さった、『チーズ餡シメサババーガー』のお味はいかがですか?」
「ごふぁっ!!??」
豪快に半分ほど齧りついた格好で固まっていた蜥蜴僧侶が、ぶるぶると小刻みに震えた後に豪快に噴き出してぶっ倒れる。そして、その体からふわりと出てはいけない何かが浮き上がって来た。半透明になったモヤの様な蜥蜴僧侶の上半身。それはまごう事無く、彼の離脱した幽体である。
「『おお、これは何とも……、天にも昇る様な心地ですぞ……。偉大なる恐ろしき竜よ、今そちらへ……』」
「きゃああああっ!? そんな、どうして急に!? しっ、しっかりしてくださぁい!!」
ギルドの中はそれはそれは大騒ぎになりました。
受付嬢さんがすっ飛んで来て事態の解決に奔走し、女神官が蜥蜴僧侶の体を泣きながら揺さぶるのを傍目に、小鬼殺しは手の中の殺傷兵器をしげしげと眺めるのであった。
「…………これは使えるな」
食べると魂が抜ける程の味である件の食べ物は、在庫と負債を残してお蔵入りになるかと思われたが、それらの全ては小鬼殺しが買い取る事となった。もちろんこの男が買い上げた以上は、小鬼を殺す為に使われる。
もともと雑食性で悪食でもある小鬼は、巣穴の前に放置されたこの危険物にどいつもこいつも無警戒に食いついたのだ。そして、魂の抜けた体めがけて小鬼殺しは無造作にトドメを刺して行く。
実に理想的な、小鬼殺戮用アイテムが完成したのだった。
「確かに収支はプラスになりましたけど……。これでいいのでしょうか?」
「知らん。そんな事よりゴブリンだ」
女神官のボヤキにも、小鬼殺しは関知しない。何故なら彼の頭には、小鬼をどうやって殺すか以外の物は入ってはいないのだから。
ちなみに蜥蜴僧侶さんは、チーズを鼻先にお供えしたら帰って来ました。
「甘露!!」
めでたしめでたし。
【真実】「何十年前のネタだよ!! 知ってる奴いるのかよ!?」
【幻想】「極楽に行けちゃうお味かぁ。食べたくはないけど、どんな味なのかはちょっとだけ興味あるよね」
【地母神】「( ̄¬ ̄)ジュルリ」
【真実】「色気より食い気かよ。次、いってみよう」
20年ぐらい前になるのかな。
古いネタばかりで申し訳ない。