もし、女神官ちゃんが○○の神を信仰していたら   作:ネイムレス

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覚えていますか? ゴブリンスレイヤーと出会った瞬間を。


歌神

 これは小鬼殺しが初めて妖精弓手や鉱人道士、蜥蜴僧侶達と小鬼退治の依頼に向かった時のお話です。

 捕らわれていた森人を介抱し、蜥蜴僧侶の呼び出した竜牙兵に森人の里まで送り出した一行は、小鬼を殲滅しつつ遺跡の更に奥まで侵入を果たしていた。

 

 斥候役を担う妖精弓手を先頭に、警戒しつつ進んだ先で辿り着いたのは今までに無い広い空間。吹き抜けになった天井から夕日が差し込むそこは、何階層にも別れたテラスを持つ劇場めいた広間であった。

 

 そして、小鬼殺し達一行が見下ろす広間の底には、無数の小鬼達が夕暮れの光の中で眠りこけている。正面から戦うには、あまりにも多すぎる小鬼達が。

 

「私に良い考えがあります」

 

 そんな小鬼達を見下ろしながら、策があると言い放ったのは女神官であった。小鬼殺しでは無く、女神官だったのだ。

 

「…………奇跡か?」

「はい、ゴブリン達を一網打尽に出来る、私の信奉する神様から授かった奇跡です!」

 

 小鬼殺しは訝しんだ。奇跡の内容にではなく、女神官から溢れ出るやる気にだ。彼女は果たして、こんなに積極的に自分を売り込んで来る様な性格だっただろうか。心なしか、全身から漲る熱気がオーラとして立ち上っているかの様だ。

 本来ならば、白磁の新米に事を任せる様な事はしないのだが、小鬼殺しはその時強く反対する様な事は無かった。何故なら、彼は小鬼が殺せれば何でも良いのであって、なによりそうしないと話が進まないからだ。

 

「では、私……行ってきます!」

 

 そうして、小鬼殺しの許可を得た彼女は駆け出して行く。両手で錫杖を抱えるながら、自らの奇跡を披露する舞台に向けて。

 

「よし、私達も行くわよ!」

「そうさな、ワシらも負けてはおられん!」

「いざ参りましょうぞ!」

 

 何故か小鬼殺し以外の面々も急に張り切り出して、全員が女神官を追いかけて走り出した。取り残された小鬼殺しは、立ち尽くしたまま仲間達を見送る他無い。

 

 女神官はテラスの縁に立ち上がると、錫杖を両手で構えたまま一度深呼吸をする。それから、あらん限りの声を張り上げて叫び声を上げるのだった。

 

「どいつもこいつも、私の歌を聞けーーーーーっ!!!」

 

 それから始まったのは唐突なライブ。何処からとも無く伴奏が流れ、女神官は錫杖をスタンドマイクの様にして歌い始める。それは、まるで愛の心が突撃していくかの様な、情熱的な歌唱であった。

 

 本来であれば、寝静まる小鬼達の群れを前にして、叫んだり歌い出すなど狂気の沙汰だ。もちろんの事、この突然始まったゲリラライブに、寝入っていた小鬼達はすべて目を覚まして女神官を見上げて来る。

 だが、小鬼達は群れを成して集まりこそすれど、小鬼殺し達の所に殺到してくる様子は欠片も無かった。むしろ、女神官の歌を聞いて、ぎゃいぎゃいと歓声を上げている様子である。

 そう、女神官の歌は小鬼達を全て魅了していた。醜悪な小鬼達が、一匹の例外も無くライブの観客として盛り上がりを見せているのだ。これは正に奇跡だろう。

 

 唐突な伴奏の出所は、後を追いかけて行った他の仲間達だ。鉱人道士がその器用さで巧みにキーボードを操作し、それに対抗して妖精弓手がベースを繊細な手つきで奏でる。蜥蜴僧侶はどっしりと中央に構えて、すらりとした手足を活かしドラムを担当していた。まるでシングルのジャケットになりそうな絵面である。

 何処からその楽器の数々は出たんだとかは特に気にしてはいけない。何故ならばこれこそが、神のもたらした奇跡なのだから。

 

「…………」

 

 小鬼殺しの足元にも、当然の様に独特なデザインのギターが落ちていた。小鬼殺しはギターを拾い上げると、それを肩に担いで仲間達から離れる。向かうのはもちろん、階下の小鬼達の所だ。

 なぜなら彼は、小鬼殺しなのだから。

 

「いったい何の騒ぎだこれは!! この耳障りな爆音はなんだ!? 小鬼どもは何をはしゃいでおるのだ!!」

 

 小鬼殺しが最下層まで降りて来ると、遺跡の更に奥へと続く道からドスドスと足音を唸らせて異形の怪物が現れた。それは食人鬼等とも呼ばれる、優れた膂力と体躯に魔法まで操る上級の魔物。どうやら奴が小鬼どもの親玉らしい。

 

「この爆音と歌声はあの小娘が原因か! ゴブリンどもよ、何故雁首揃えて見守っておるのだ! さっさと捕らえて孕み袋にでもすればいい物を! あの小娘が何だと言うのだ!?」

「ご存じ、無いのですか!?」

 

 ここからは小鬼語でお楽しみください。

 

「彼女こそ、ゴブリンスレイヤーヒロイン界でデビューして以来、読者と視聴者をその健気さと可憐さで引き付け。失○姿と悲鳴でファンを魅了する、ヒロインレース上位者の女神官ちゃんです!!」

 

 小鬼語終了。

 声を荒げる食人鬼に、歌に聞き惚れつつも小鬼の一匹がご丁寧に解説を入れる。それがどうしたと言わんばかりに食人鬼は鼻を鳴らして女神官を見上げるが、その姿を睨み続けるうちにその腕からずしんと金棒が落ちてしまった。

 

「な、何だこの歌声は。胸の奥が熱い……。こ、これはいったい何の……。おお、デカルチャー……っ!!」

 

 こうしてまた一匹。奇跡の歌声に魅了され、戦いを忘れた者がゲリラライブに熱中して行く。人と魔物の心を繋ぐ、歌と言う文化の煌めきが、今この場には満ち満ちていた。

 

 それから彼等は一体となって、昼夜問わずのぶっ続け耐久ライブに突入――する様な事は無い。何故なら、ライブに夢中になっていた小鬼達と食人鬼に、文字通り横合いから冷や水が浴びせ掛けられたからだ。

 

「はっ!? ごぼぉっ!? 何だ、何をした……?」

 

 気が付けば、食人鬼は両手と下半身を失って水辺に横たわっていた。周囲には小鬼達と思わしき、バラバラになった惨殺死体が転がっている。彼等の身に何があったのかは直ぐに判明した。

 

 目前から、兜の奥に鬼火を宿した修羅が迫って来ていたからだ。

 

 その腕には今しがた使われて燃えて行く転移のスクロールと、ヘッドの方を掴んで肩に担がれた奇妙な形のギター。小鬼殺しは転移の巻物を深海へと繋げ、溢れ出した海水が刃の如く小鬼達と食人鬼を纏めて一掃したのだと説明する。

 

「貴様、あの奇跡の歌を耳にしても、平然と攻撃を仕掛けたと言うのかぁ!?」

 

 当然だ。この男の脳裏には小鬼を殺す事しか入っていない。小鬼どもと心を通わせるなど、小鬼殺しにとっては良い小鬼と出会う程にあり得ない事なのだから。食人鬼など、物のついでに過ぎない。

 

「貴様なんぞよりも、ゴブリンの方が――いや、あの娘の奇跡の方が余程手強い……」

 

 最後にそう呟いて、小鬼殺しは動けない食人鬼の脳天にギターを振り下ろした。無論、死ぬまで。

 

 

 【真実】「プロトカルチャー。それは、文明を生み出した神の様な存在……」

 【幻想】「あ、フャイヤーでボンバーな人が信仰対象じゃないんだ? 歌の神様扱いになってるのかと思ったけど違うんだね」

【地母神】「( ´∀` )シンカンチャンノキャラソンキボンヌ」

 【真実】「これだけ人気なら出るんじゃないか? 出てくださいお願いします! 次、いってみよう」




ちなみに、ゴブスレさんが一緒に演奏に参加した場合、敵達が死ぬまでライブが続きました。
奇跡ですからね。仕方ないね。
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