柊 青空とスズカ・アンリの二人は入学して早々、チームOの戦礼(洗礼)を受けることになる。チームOのメンバーの能力が見えるなか、目の前にチームO女子部一番の先輩、白銀が二人の前に壁となって現れる。
ドボン!
目の前に現れた湖に私は服を着ていることを忘れて飛び込むんだ。
これで湖の水全てを使うことができる。これなら、あの人を倒すこともできる。
・・・倒す意味ってあるのかな。
「ふぅ・・・湖に飛び込むのを止められなかったか。しかし、ここはジャングル。その湖には主がいる。そこまで忠実に再現しているから・・・」
わ、ワニだ!しかも大きい!
「そこにはチームO男子部の生物班が買っているワニがいる、食べられちゃうぞー」
でもこれは好都合!水さえあれば、このワニを白銀さんに向かって撃つこともできる。
私は水で、ワニを湖の外にいる白銀さん目掛けて投げた。
「あ、危ないじゃないか!ワニを投げるな!」
それはダミー。本当の攻撃は、
「ひゃっ!」
白銀さんを湖の中に引っ張り込むことだ!
白銀さんの足を掴む水の手は、そのまま湖のなかへと引っ張る。そして水で白銀さんを、
「この程度の力で私が潰れるとでも?」
「え?」
白銀さんは纏わりついた水の手を、刃の見えていない状態の刀を凪ぎ払って、水中に潜む私を攻撃する。重たい一撃は私を湖の外へと押し出した。
「これでもこの学校に4年いる女子部の中で一番の先輩だ。これくらいは経験したことがある・・・」
痛みのあまり、声が出ない。
白銀さんは刀を腰に付け直すと、倒れた私の前に立つ。
先輩としての威厳を見せつけるかのように・・・
「・・・あなたは忘れている。私の秘密兵器を!」
私がここまで走ってきた理由は水を補給するためだけではない。
「うぉぉぉぉぉぉッ!」
瀕死状態のスズカを休憩させ、後に奇襲させるためだ!
スズカをあの場に見捨てたんじゃない。スズカにはあとで隙を作るから攻撃しろと言っておいた。
「凍れーーーッ!」
冷気を貯めたスズカの手が白銀さんに触れるそのとき、
「終了でーーーす!」
二階堂さんの声が戦場内に響き渡った。
「お疲れ様です、洗礼はこれで終了ですよ。紅白戦は私たちの勝利です、先に5つ取ったので」
二階堂さんの左腕には五本の旗。そして右脇には気絶したと思われるミラさんが抱えられていた。
「終わりか。」
スズカは二階堂さんに助けられた。スズカの腕の上に振り下ろされた白銀さんの手は、腕を折るぐらいの勢いだった。白銀さんのその顔は教室や今さっきの水中で見せていた笑みの見える顔とは違う。本気の顔だった。
もしも終了の合図が掛からなかったら、白銀さんが凍る前にスズカの腕が折れていただろう。
「二人とも良いコンビネーションだった。まさかここまで追い込まれるとは思わなかったよ。だけど、まだ隙が有りすぎるかな?これからの訓練でもっと戦術を研くよううに。・・・じゃあ、私は休憩でもしますかね。」
白銀さんはその場でちょっとしたストレッチをすると、出入口へと向かった。
私たちは勝てなかった。これまで戦ってきた不良の力や、船内の試験官とは全く違う能力の強さに、私たちの弱さを知る結果となった。
「今のままでは、白銀さんを倒すことはできない。しかし、君達の連携は無限の可能性を秘めている。」
戦場の出入口から現れたオルガさんは、白銀さんとすれ違うと、私たちの前に立った。そして私たちの顔を見ると、水の入ったペットボトルとタオルを渡した。
「オルガさん・・・」
オルガさんは渡すものを渡すと、後ろを向いた。
「・・・監督と呼んでくれ、今日から君達はチームOの一員だからな。今日の訓練で、君たちに学んで欲しいことは、自分達の弱さを知るということだ。」
「弱さ・・・」
「今日の宿題は、目標を決めること。決められなければ、先輩に質問して聞いていい」
「目標か。ソラ、どうする?」
「あくまで先輩のみだ、そして一人一人で決めることだ。青空と同じにするなんて考えは禁止だ。それでは、今日の授業は終了だ。各自、これから訓練するなり、休憩するなり決めろ」
「ありがとうございました!」
「あの先生、また面倒な宿題出してんな。」
ナルカミと黒城は観客席からこの授業の一部始終を観ていた。
「・・・」
「どした?ナルカミさんよぉ?」
ナルカミは終始無言でいた。
「心が落ち着かない・・・」
「・・・はぁ?」
「あの水を使う女子、好きだ。」
「・・・マジで?」
場所は変わって休憩室。
訓練終了で休憩をしていた白銀のところに二階堂が現れた。
二階堂は持ってきた水筒を開け、紙コップに水筒からお茶を注ぐ。
「久しぶりに刀を使いましたね。」
「抜いてはないけどな。」
白銀は二階堂から紙コップを受け取る。
「抜いたら面倒ですから、やめてくださいね」
「わかってるよ。」
白銀は喉が乾いていたのかすぐに飲み干すと、二階堂におかわりを要求する。
「あの二人、一人はあの柊 海都さんの子供だろ?」
「そうですけど・・・。やっぱり戦っててなんか感じました?」
「三年前に柊さんと戦ったからわかる。あの人と目が同じだった」
白銀は二杯目もすぐに飲み終えてしまった。
「良い後輩ができましたね。・・・スズカさんは?」
「あの氷使いはまだまだかな。でも、化けるよ。あの子」
「・・・やっぱり白銀さんに任せて良かったです。」
「そう言ってもらえると嬉しいかな。一年留年して良かったよ。監督がいきなり仲間が増えるなんて言うからさ、一目顔を見たくてさ」
「そんな理由で卒業しなかったんですか!?」
「そう。それにまだ私にはやることがあるかなって」
「やること・・・ですか?」
「あぁ、あの二人の才能を開花させることだ。」
白銀は刀を持つと、紙コップをゴミ箱に投げ捨てた。
「ごちそうさま!さーて、筋トレでも行くかな。」
二階堂は捨てられた紙コップを見る。そこには血の付いた紙コップが捨てられていた。
・・・
あれから数時間後、目標は決まらない。スズカも決まってないみたい。
放課後になって教室の掃除が始まる。
「ソラ、決まった?」
「まだ。難しい宿題だよね」
二人同時にため息をつく。
まだ学校生活が始まって1日目しか経ってないのに目標を決めるとか・・・。
「お、悩んでるな?」
箒を持つ手が止まり、夕焼けを見る私達にミラさんが声をかける。隣にはイヤホンを付けた立葉さんもいた。
「ミラさん、立葉さん」
「私も考えたな。私はすぐ決まったけど、奈々は何も決まんなくて」
「ミラさんの目標って?」
「私はハルバート家が代々伝えてきた、超古代魔法による魔力生成理論を世界中の能力者に知ってもらうこと。そしてこの魔法を一人でも多く覚えてもらうことかな。」
「ミラがこの話を始めると長くなる。無視していいよ」
「おい、奈々!」
「えっと・・・立葉さんは?」
「私は」
「奈々は三日間悩み続けて、最終的にはこの学校で能力について学ぶとか、シンプルな目標を出してたよね」
奈々は頬を膨らますと、ミラを後ろから蹴って、教室から出ていく。
「ッ~~~。ま、待ってよ!それじゃあ、目標決めるの頑張って!」
二人は風のように去っていった。悩みは解決することなく、掃除終了のチャイムが鳴る。
「・・・帰ってから決めるかな。」
「そうだな・・・」
それから数時間経ったが、何一つまとまらず、私のなかで大きな問題となっていた。
「・・・そもそもどうしてここに来たんだっけ。」
この能力の大切さを知るためとか言ったけど、この能力で守れたものは・・・圧倒的に破壊の方が多い。
「よっしゃーー!アタシは決まったー!」
お風呂に入ってくると言って、部屋から出たスズカは髪を乾かさず、下着のみで部屋に入ってきては、すぐに鉛筆と提出用紙を取り出して、書き殴るように鉛筆を走らせた。
「スズカ!髪を乾かしてから書かないと!あと服を着なさい!」
私の能力でスズカの頭を触って、水を一つの塊にする。
「おう!悪い悪い!でも、アタシは決まったよ。ソラが書き終わったら見せる」
スズカは目標が決まった。あとは私の目標。
ここに来る前、神社で私は・・・
・・・
「二人とも、目標は提出できるか?」
翌朝、私はオルガに提出物を要求される。寝ずに考え付いたこの答えを私はオルガに見せた。
「ほぅ。スズカは親父を越える・・・と。で、青空は・・・」
私の答えは単純だった。あの日、神社で考えたこと。退屈な中学校生活のなかで思っていたあの言葉。
「自分の生きる価値を見つける・・・か。」
私は自信を持って頷く。私は中学生時代に見つけられなかった価値をここで見つける。
スズカの目標を聞いて、私もそれに訂正したいと思ったが、一度決めた目標を変えるのは酷だ。
「二人とも難しい目標だな。しかし、それが君たちの背中を押す力になるだろう。」
目標を持ち、成長した二人。
ここからどんな能力者になるかはまだ誰も知らない。