チームO男子部のナルカミとの、柊 青空を賭けた勝負にて勝ち星を上げたスズカ。戦闘による疲労とケガによって倒れたスズカの下に、チームO女子部で、あの勝負の勝敗に関係した不動 カレンがやってくる。不動は二人に戦闘で使う武器を見せると共に、これを作った人の元へ案内するという。
ここチームO男子部教室のある校舎。
女子部とは少しだけ離れた場所にあり、監督が仕事を行う部屋は教室の近くにあるようだ。
男子の多いこともあってか視線が怖い。特にスズカは昨日、男子部の副隊長を互角の勝負をしたのもあってか、視線が痛いだろう。
「ここだな」
不動さんはとある教室の前で止まった。扉の横には、『チームO男子部監督仕事部屋』と書かれた札が掛けられていた。
不動さんは扉をノックする。
「どうぞ」
扉の向こうから返事がする。
「失礼します!(ほら、二人も)」
不動さんは小声で私たちを誘導する。
「「し、失礼します!」」
扉を開けると、そこには一人の車イスに乗った女性がいた。白衣に赤い縁の眼鏡、後ろで一つに縛っているが全く纏まりのない黒い髪。眼鏡の先の目はこちらを見ていた。
「今日はやけに騒がしいわね・・・。不動さんとそれから?」
「あ、こっちのは」
「不動さん、二人に自己紹介させて?二人の声を聞きたいの」
男子部監督は車イスで私たちの方へ移動する。足が不自由なのかな?
「あなたは?」
「あ、アタシはスズカ アンリです!能力は氷を造ることです!」
スズカが緊張している。
「そう、スズカさんね。よろしく。・・・あなたは?」
男子部監督は私の前に移動する。
「柊」
私の名字を聞いた瞬間、男子部監督は眉をピクリと動かす。
「・・・続けて?」
「柊 青空です。能力は水を操る能力です。」
「柊・・・ひょっとしてあの柊 海都君の娘さん?」
「は、はい。」
反応的にわかってはいたけど、やっぱりそうだった。オルガ監督やリリー先生に続いて、この人も私のパパを知っている。
「へぇ・・・やっぱり、よろしくね。私の自己紹介が無かったわね。私はアリサ。知ってると思うけど、チームO男子部の監督をしているわ。」
「よろしくお願いします!」
「あのー、自己紹介が終わったところでアリサさん?」
「アリサ監督・・・でしょ?」
「アリサ監督、これを作って貰いたいのですが」
不動さんはテーブルの上に設計図を出す。そこには空白が無いくらいにびっしりと文章と図が書かれていた。
「ウェザーバレット・天候 雪と雷。今持ってるのは晴れと雨の能力エネルギーを詰め込んだものだけですので、次は雪と雷なんてどうかな・・・と。」
「・・・」
アリサ監督は車イスから身を乗り出して設計図を読み込む。目の動きから高速で文を読み取っているのだろう。
「ふぅ・・・。80点、なかなかの文章だったわ」
「80点ということは?」
「これくらいの説明文なら1週間掛からないわ。ただ少し穴があるわ。前にも話したけど、この雪と雷を人に撃ち込んだらどうなるかを説明して」
「人にですか!?」
「晴れのときは燃える、雨のときは水を浴びるって説明したでしょう?雪と雷は?」
「この銃弾は人に撃つものではないですから、そこに関しては」
「・・・戦うことを考えたとき、あなたの能力は不向き。天候を変えたところで、戦況を大きく変えることは不可能、相手だけでなく、自分達にも影響を与え続けることになるから、足枷にもなりかねない。なら、その銃弾を少しは攻撃用にした方がいいでしょう?最初に渡したそのスナイパーライフルとも相性良いし」
「・・・」
不動さんは口を閉じてしまう。反論はない。
「・・・黙ってちゃ交渉は終わらないわ。とりあえずβ版としてこれ作っておく。だから、言葉で言えないなら、戦場で見せなさい。できないなら、わかるわね?」
「はい!」
「失礼しました!」
不動さんの交渉は終わり、私達はアリサ監督の仕事部屋を後にした。
「アリサ監督かっこよかったな、ソラ!それになんか大人の女性って感じだったな!」
「うん、そうだね。」
確かにスズカのいう通り、私たちと比べれば大人な女性というのはわかる。でもあの目の奥に、何か隠してることがある気がした。
「ちょっと待って、柊さん」
階段を下りる直前で後ろから声を掛けられる。そこにはアリサ監督がいた。
「どうしました?」
「ちょっと話したいことがあるの、あなたと二人だけで」
「え?私だけ?」
「えぇ」
「わかりました。」
「俺たちは先に行ってるから、また後でな」
「また教室でなー。」
二人はそう言って階段を下りていく。
アリサ監督は車イスで移動し、私はそれについていく。
部屋の前に到着すると、扉は自動で開き、私たちを招く。
「そこに座って?」
私は指示された通りに、今さっきまで設計図の置かれていたテーブルの前の椅子に座る。
アリサ監督はちょっとしたお茶菓子とお茶を用意するとテーブルの上に置く。
「ごめんなさい、今はこれしかないの」
「いえいえ、ありがとうございます。」
私はお茶を飲む。アリサ監督は私が湯飲みから口を離すのを待っているように見えたので、ほんの少しだけ飲むとすぐに湯飲みをテーブルに置く。
「それで話したいことってのは、ナルカミ君の話なんだけどね、昨日はごめんなさい。」
「大丈夫ですよ。あまり気にしてないので」
「彼、ちょっと頭回らないときあるから・・・。でも彼があそこまで他人のことを好きになるのは初めてのことだから」
「まぁ・・・見てたらわかります」
「それで迷惑料と言ったらなんだが、これをあなたに渡しておくわ」
アリサ監督はお茶菓子を取りに行ったときから膝の上に置いてあった、白い小さな箱を私の前に置く。
「これは?」
「開けて」
中には金色の鍵が入っていた。
「それはこの学校のどこかの部屋を開ける鍵。今その鍵を持っている人は、あなたと私だけ」
「・・・なんでそんな重要なものを私に?」
「それはあなたが柊 海都君の娘さんだからよ」
また父親の名前が出る。二人の監督から聞く限り、確かに私の父親はこの学校では有名な人なんだろうが、私まで特別に見られることはないはずだ。
「どことは言わない。まだ三年も時間があるんだから、その間に見つかると思う。それがいつだかはわからないけど。・・・話は以上。この学園生活を楽しんで」
教室に戻ると、2限目の授業が始まっていた。
スズカは席に座って私の方を見ていたが、不動さんはいない。
「遅かったな、青空。もうとっくに授業は始まってるぞ」
「すみません。ちょっと男子部さんの方の監督と話してまして」
オルガはそれを聞くと、一度は目を見開いて驚いた反応をしたが、すぐに平静を取り戻してため息をつく。
「わかった。すぐに席につけ」
「はい・・・。」
私は教室のドアを閉め、自分の席に行く。
スズカは私が席に着いたと同時に、私のところにメモ帳の1ページを渡す。
(アリサ監督と何話してたん?)
私はそれを読み、
(この前のナルカミさんのこと話してた)
と返事をしてメモを渡す。
スズカも早々返事を書き、私の机に置く。
(本当にそれだけ?それなら、アタシも呼ばれない?)
勘の鋭いスズカ。私は仕方なく、
(あとで教えるから、今は授業に集中して)
と返事を書く。
「遅刻してきて早々、授業も聞かずに筆談とはいい度胸だ。」
そのときすでに、オルガ監督が私の横に立っていた。
「か、監督・・・!」
「普段なら廊下に立っていろと水がたっぷりと入ったバケツを持たせるものだが、正直その話は俺も気になる。あとで話を聞かせてくれないか?」
最悪は魔逃れたが、昼休みの数十分がこのあと削られることになった。
★
「この部屋の合鍵をあの子に渡した。」
その言葉は急なもので、私の思考を停止させた。
何でそんなことを・・・。私のことを知ってるのはあなたと、私を作った上の人間だけでいいはず。彼の娘さんを巻き込む意味は。
「海都さんの娘がこの部屋を知れば、ただじゃおかない。人質にして上と取引することもできる。あの偉くなった柊 海都には一番の交渉材料だと思うわ」
柊 青空は私が成功するための鍵。使えるものは使える内に使っておかないと・・・ね?