までも、アニメとかでもたまにあるよね?…あ、ない?いや、あるある!あることにしよう!あるよね?
第一話:仮想世界
眠い目を擦りながら、俺はふと窓の外に流れる街並みに目を移す。
(「今日も、いつも通り…」)
朝日が眩しい。その光を反射して、白っぽい建物達が輝いて見える………今は、まだ。
(「もう少し暖かかった頃はこの時間帯でも太陽の位置は高くて、ここまで眩しくなかったんだけどな…」)
外に見える建物達が、多く、大きく高くなってゆくにしたがって窓の内側にも人が増える。それはもう、まともに立っていられない程に。それでも今日は空いている方だ、スマホをいじる余裕があるのだから。ついでに “いい歳した大人達が高速で動く連なった鉄の箱の中でおしくらまんじゅうとは何事か” などと、よくわからない自虐めいた発想が出てくる心の余裕も。
酷いときはスマホどころか、自分の鞄を持ち直そうと少し動いただけでも周囲の空気がピリつく。
(「みんな疲れてるんだなぁ…俺もあと何ヵ月後には、この人たちと同じ様にスーツを着てしかめっ面で…そして知らぬ間にオッサンになってくんだろうか…」)
そんな状態に十数分耐えておしくらまんじゅうから解放されると、いつもの発車ベルを背中で聞きながら改札へと繋がる階段を降りる。
「おぅ
軽快な男の声が俺を呼び止める。
「挨拶代わりがそれかよ…レオ」
今日は比較的余裕があった朝なのに…コイツは。
「そりゃどっかの白いライオンだろ!オレは人間だ!」
「
正直、お前の見た目のイメージは類人猿というよりライオンだよ…
「じゃぁお前は極楽野郎だ!」
「はぁ?」
「
「名前なんだから
(「脳内極楽野郎はどっちだ。全く。」)
心の中で毒づきながら、いつもの道を進む。
いつもの廊下を歩く。
「…………普段より臭う」
レオが鼻をつまむ。
「そうか?いつもこんな感じじゃない?これ木材の匂いだな、またきっと誰かが電ノコかヤスリを使ってたんだろ」
「オレこの臭い嫌い」
「俺も粉っぽいのは嫌だけど…木の匂い自体は好きだな」
そんな他愛のない話をしながら教室へ入る。
「二人ともおはよう!」
元気な女の声が俺たちを出迎えた。
「あっ…おはよう~」
少し遅れて、のんびりとした女の声も聞こえた。
「よぅ、二人とも早いね」
「おーはよう!何作ってんだ?」
すると、最初に挨拶をしてくれた元気な女の子がニッと笑いながら木の板のような物を勢い良く差し出す。見るとそれは下駄だった。
「おぉ!?下駄出来てる!!すげーよリンリ!!今度やる演目の天狗のやつだろ?」
「そうそう!だからちょっとこれ履いてみて?」
俺たち4人は、1年生の頃から同じ大学の演劇サークルに所属している。サークル全体をいくつかの班に分け、その班ごとに仕事を分担して1つの演目を完成させる仕組みになっているためメンバーは他にもいるのだが、学年が違ったり、性格の合う合わないでこの4人でチームを組むことが多くなっている。ちなみに今俺たちは美術担当だ。下駄を作っていたのもこのためで、他には演技中に演者の後ろにずっとあることになる背景の絵を書いたり、椅子を作ったり、とにかく演目の為に必要な道具はほぼ全て作るのだ。
「あ、あのっ…私ちょっとトイレ行ってくるねっ…!」
「ん!待ってモモ私も行くー!俊、私が戻ってきたら下駄履いてみた感想教えて!」
そう言い残して女の子達2人は慌ただしく教室を出て行った。
「なーんで女子って連れションするんだ?」
「え。………いや、知らないけど中学生くらいからそうじゃない?つか言い方…」
「そうだけどよ…何してんだ?一緒に行って」
「さ、さぁ…?」
何だろう、このウブなのかただのアホなのか分からない雰囲気。誰に何かを言われた訳ではないのだが、なんとなくバカにされている気がする。
暫くの沈黙の後、不意にレオが口を開いた
「…で、お前最近どーよ」
「なにが?」
「…」
「なんだよ」
「あれだよ」
「……………………。 はぁ。 何も無いよ」
要するにあれだ、今俺はレオに俗に言う恋バナというやつをふっかけられたのだ。
「……そういうお前は?」
「ふっ。オレ彼女出来たんだ」
「なんっ………だと………!?」
うわっ…。驚いて改めてレオの顔をしっかりと見て気付く。コイツ今まで見たこと無いくらいニマニマしてる。口許緩みまくってる。若干引きつつも突っ込む。
「誰!?てかいつ!?どんな人!?」
するとレオが徐に親指を立てて廊下の方に合図する。
「ん?え?」
あっち?…今トイレへ行った二人のうちのどちらかということか!? レオの好みから推測すると…
「モモさんかぁぁ!!!!!!」
「バッッッカ声でけーよ俊っ……!」
レオが慌てて必死に静かに!とジェスチャーを送ってくる。すると教室のドアが開き、二人が戻ってきた。
「ん?なになに、どしたの?二人とも」
リンリが不思議そうに俺たちを見る。
「い、いや…なんでも」
「お、おぅ 気にすんな」
全力で誤魔化す。が、後になって気付く。十中八九、この時点でリンリはモモの方から既に二人が付き合い始めたことを聞いているはずなので、ここで誤魔化した意味はあまり無かったのではなかろうか…。
「まぁーいいや!それよりさ、楽しみだね!今日からでしょ?配信開始!」
「へ?」
配信…?何かあっただろうか?リンリがこんなに嬉しそうということは、ネットかアニメ、ゲーム関連の話なのだろうが。
「新しいvtuberかなんか?」
「違ぁーーーーう!!嘘でしょ!?覚えてないのアンタ!?」
不正解らしい。…何だ?本当に分からない。
「俊くん今のゲームでも忙しいから…仕方ないよ。ね?リンリ」
「そうだなぁ、でもナーヴギアで出来る初のMMORPGなんだからもうちょい楽しみにしてくれてても良いんじゃねーの?オレら一緒に行列に並んでやっと入手出来たんだしよぉ」
あっ思い出した。そしてフォローとヒントをくれた君たち、その息のピッタリさはもはや夫婦の域じゃないか?
「あぁ、ソードアート・オンラインか!」
「そーーーーーーだよぉーーーーーーーー!!やっと思い出したか!!今日からだからね!!2022年11月6日午後1時正式サービス開始ぃぃ!!」
テンション高っw
「オレら今日午前で作業終わりだから頑張れば1時から出来るんじゃね?」
「そーーーなんだよレオぉ!!ということで!!皆帰ってログインしたら、“はじまりの街”っていう初期の街の時計台前に集合!!…しよう!?」
「「おーーー!!」」
「ぉ、おー…」
あぁ、そうか。俺以外の3人はMMORPG自体が初めてだった。夢のファンタジー世界への期待に溢れているのか…。MMORPGとは、大規模多人数同時参加型オンラインRPGのことで、プレイヤーは各々が異世界の一員としてゲームを楽しむが、一人に一つの世界が割り当てられるのではなく、一つの世界に大人数がログインする。よって仮想世界でありながら現実世界のそれとほぼ同じ社会性が必要とされる。相手が生身の人間である以上、人間関係のいざこざも存在するのだが、俺以外の3人…そのうちのリンリもこのことをまだ知らない。
(「夢のファンタジー世界に行ける!といっても、そこで考えたり、気にするべきことのほとんどは“現実とそれほど変わらない”んだよなぁ…まぁ、現実にはいないモンスターやらと戦ったり、経験値を得たり…いや、そもそも銃刀法違反必至な得物をぶら下げていられるっていう意味ではもろ“仮想”なんだろうけど」)
それはさておき、初のMMOがナーヴギアで出来るというのは少々羨ましい。従来のMMORPGは、デバイスは違っても基本は“画面”と“コントローラー”が必要だった。しかしこの“ソードアート・オンライン”は違う。ナーヴギアというデバイスを用いている為だ。ナーヴギアはフルフェイスのヘルメットのような形をしていて、プレイヤーは頭にそれを被って使用する。そして、人間が体を動かすために脳から脊髄、抹消神経へと送られる電気信号を首の後ろの辺りで遮断・読み取り、その信号をゲーム内のアバター操作へ流用する。要するに、プレイヤーにとってはまるで“自分がそのまま仮想世界に転生した”かのような感覚が味わえるのだ。
上記2つのことを考えれば、リンリのテンションの高さも頷ける。ナーヴギアの機能については、少し俺も興味を牽かれるところはある。
そんなことを考えながら俺はスマートフォンをポケットから出し、いくつも並ぶアイコンから1つのSNSを選び、起動させる。ネットで既に付き合いのある、言わば“ゲーム仲間”と連絡をとる為だ。
(「はぁ…どーしたもんかな…」)
俺は今、前述でいう“従来型”のMMORPGでギルドマスターをしている。ギルドというのは、MMOのプレイヤー達が任意で集まるコミュニティのようなものだ。その在り方は三者三様だろうが、基本的にはそのギルドの方針・加入条件・活動はそのギルドのリーダーであるギルドマスターの思想が大きく反映されている。そこで俺はギルドの方針として、第一は“楽しむこと”第二に“強くなること”を掲げ、第一方針の達成のために毎週曜日を決めて“ギルド集会”、“ギルドイベント”を開き、システム的なギルドの恩恵を極力平等になるように分配するよう務め、クイズや黒○げ危機一髪を模したミニゲームや腕試しのデュエル等、様々な企画を用意したり、時にはギルド内外共にトラブルへの対処と、色んな意味で充実した日々を過ごしていた。もちろんそれはギルドマスターである俺だけの力では到底ムリなことで、サブマスターをはじめとする、多くのギルメンの力添えがあったからこそのものだ。
そしてそれは、連絡を密にとることからはじまる。 モモが先程リンリに“俺は他のゲームでも忙しいから…仕方ない”と言ったのはこういうことだ。
そして、そのギルメンを含むゲーム仲間にもやはり“ナーヴギア”に牽かれる者が多く、SNSのTLも“ナーヴギア”の話で持ちきりだ。そのせいか若干このMMOのプレイ人口自体が減りはじめ、俺たちのギルドも例外ではなかった。更には俺自身もリンリ達に誘われてナーヴギアのゲームを始め、最終的には移住(自分が主に遊ぶゲームを変えること)することになるのではないかと思っている。そこで俺は今《ギルドマスターの引き継ぎ》もしくは《ギルドの閉鎖》という二択を迫られている。
サブマスターたちとは一緒にやってきてもう3年目なこともあり、《お前がギルマスを辞めるのなら自分らもギルドを抜ける》と言われている。自分がそれほど信頼されているという面ではすごく嬉しかったし、自信にもなった。しかしそれは同時に《自分がいつかはゲームを去る時を念頭に入れて、後継者を育てておく》という集団のリーダーの役割のうちの一つがこなせていなかったということにもなる。《ギルドの閉鎖》とは、現在も所属してくれているメンバーから“自分が気に入っていた環境を奪う”ことになってしまうのだ。本人の意思とは関係なく、強制的に。
そこまで言うならその残されたメンバーにギルドを託せば良いではないか。という意見もあると思うが、自分がやってきたことを考えると、仕事量からも、精神的負担からも、相当の覚悟がないと《引き継ぐ》ことは出来ないという結論は揺らがなかった。おまけに、引き継ごうとしてくれたメンバーに“託されたのだから放り出せない、潰せない”という余計なプレッシャーを残したくなかった。後半は完全に俺のエゴだ。
その件についての最終決定を下すためにも、今週末のギルド集会は欠かせない。その為俺は起動させたSNSのギルド幹部連絡用のメッセージルームに
『皆に意見をきいて自分でもよく考えてみたところ、やはり閉鎖という形をとるべきだと思うのだが、それを今週末の集会で話をしようと思う。承認を頂けるだろうか?』という内容と、『今日はこれから大学の友人達と“ソードアート・オンライン”をプレイしてくるのでメッセージの返事は遅れると思う』という内容を書き込み、スマートフォンを置いた。
それからいつも通り今日の分の製作作業を終えた。日曜日なのであまり多くはないが、談笑しながら学食へと進む学生たちを尻目に俺たち4人は早足に駅へと歩く。
「じゃぁ!みんな分かってるね!?1時に!はじまりの街っていうところの!時計台の下だからね!キャラ名決めたらLI○Eで教えて!」
「おーう!あ、オレは
「えっじゃぁ私も
えっマジで?みんなそれリアルネーム…ではないかニックネームとはいえ……ま、まぁいいか。
「えーそーなの!?じゃー私も
「ぶっwwwどっから出てきたんだよエリザって!」
思わずツッコんでしまった。
「え?良いじゃん!かわいくない?」
あぁ…心配なことは多いけど、なんだかすごくこれからの冒険が楽しみになってきた!
心の底からそう思っていた。あの瞬間までは。
投稿久々だし、何度読み返しても誤字脱字ありそうだからこわいよ…