紺碧の暖炉でもそうだったんだけど、何でなんだろうね?
朝はきらきらと白く輝いて見えていた建物も今は発色よくハッキリと見える。
「キャラ名なぁ…うーん…」
駅前のコンビニで調達した昼食のサンドイッチを見つめ、電車に揺られながら呟く。時計は昼の12時過ぎを指している。家に着いたら即こいつを平らげ、諸々細かな用事を済ませて12時55分くらいにはナーヴギアを携えて13時になるのを待ち構えていたい。
(「レタス…卵…トマト…マトマトマハトマ………いや、ガンジーかよ!!インド独立の父だよ!!非暴力だよ!!武器を振り回すゲームのキャラ名に使うとかなんてバチ当たりな!!」)
先程別れ際に、リンリが自分のキャラ名を『エリザ』にしようと思ったと言っていたのを笑ってしまったが、名前の候補すら1つも出せていない俺に言えたことではなかったのでは…?
「はぁぁ…」
前述の通り、従来型のMMOをプレイしていたりと俺には既にネット内のハンドルネームはあるのだが今回はリアルの友達と遊ぶということもあり極力それを流用するのは避けたい。別にやましいことがある訳では無いのだが、リアルとネットは分けて考える努力が必要であると思っているからだ。といってもゲームのキャラクター=生身の人間なので完全に切り分けることは出来ないが、『リアルからネットに持ち込む事情はゲームを楽しむ上での必要最低限、もしくは本当にたわいも無い軽い雑談までが基本』この認識があるのと無いのでは、ネット内、リアル共にトラブルに見舞われるリスクが雲泥の差だ。ギルドなどのコミュニティに所属する予定や希望があるなら特にだ。これは3年以上のギルドマスター経験則からも断言できる。その頃経験した事件たちを思い出そうとすると吐き気と軽蔑しか感じるものは無い。
ともかく、新しいキャラ名を考えているとふと脳裏にレオの声が蘇る。
“「
はちすの…はすのいけ…はす………あ。
「ハースとか?」
(「単純だけど名前っぽい響きじゃない?よくね?」)
LI◯Eで先程の3人にこれを報告する。
「おー決まった!?苗字から来たかー!(笑)」
「呼びやすくていいね~」
「やっぱ
そうこうしているうちに家に着いたので大急ぎで用事を済ませる。俺は一人暮らしなので自分のペースで物事が進められて便利なのだが、家事全般が全て自分の仕事になる為、溜め込むととんでもないことになる。途中でサンドイッチを喉に詰まらせそうになりながらもなんとか無事13時前に用事を済ませることが出来た。念の為窓のカーテンも閉めようと手をかけるが、明るく暖かいうちに閉めてしまうのは少々もったいないと思い一瞬手を止めてしまう。しかしすぐに近頃日が短くなっていることや、もしかしたら夜遅くまでノンストップでみんなとソードアート・オンラインを遊ぶことになるかもしれないと思い直しカーテンをしっかりと閉める。
「ふぅ…」
ベッドに横になり、ナーヴギアを頭に被る。
(「これ、閉所恐怖症の人とか大丈夫なのかな…?」)
そんなことを考えていると時計はもう13時になっていた。
「あっ… リンクスタート!」
ナーヴギアを起動させた瞬間から妙に体が軽くなった気がする。これが “フルダイブ” ということなのだろう。円形に並んだ色とりどりの光線がいくつも前方から伸びて、俺の周りを通り過ぎてゆく。するとすぐ青色ベースの不思議な空間に出た。目の前にはSF映画にありそうなホロウインドウと人形フィギュアがある。そしてその上部には白い文字で
《Character Create》
「キャラクター…クリエイト…ふむ」
敢えて日本語で言うならばゲームのキャラクターの新規作成画面ということだ。…いや、ナーヴギアを使っているので画面というより場面と言った方が正しいか。
「うーん…身長や体格はなぁ、自分とあまり変わらない方がラグが少なそうだよなぁ…だから、自分の体を再現した感じが良いと思うんだ」
「髪も…大して変わらないかもしれないけど3DCGの技術的な面を考えるとあまり髪が長いと短髪に比べて本当に微量ではあるが動きが重くなったりしないだろうか…」
“どうせなら現実じゃ絶対なれないような体格になりたい!!” 等と思えたら良かったのかもしれないが、それよりも操作性・利便性を優先させた思考になる辺り、いつも好奇心旺盛なリンリ辺りに後でどやされそうだ。
「これで…よし」
完成したアバターは、180cmギリ無い位の身長、色白、黒髪で、ツンツンして多少幼く見えてしまいそうな前髪の短髪姿に口元に黒子がある姿だった。
髪の表示負荷を考えればスキンヘッドが一番良さそうだがそれを選ぶのは少々気が引けた。理由は聞かないでおいて貰えるとありがたい。体格はリアルの自分に近付けたので肌の色くらいはリアルと違うものにしてみようかもと思ったのだが、以前レオに聞いた話によると『肌が黒いと筋肉の凹凸が目立つようになる』とのことだったので、一応ずっと運動部だったのでそれなりに筋肉はついていると思うがそこまで筋肉自体に自信があるわけでもなく、大人しく室内競技由来の肌の色をそのまま採用した。ちなみに黒子は何となくだ。強いて言えば顔のペイント機能をどれか1つ使ってみたかった。
(「少し時間をかけ過ぎたかな?みんなもう待ってたらどうしよう」)
少し焦り気味に決定ボタンを押す。すると今度は名前を打ち込むウィンドウがポップアップした。
《ハース》
ウィンドウにそう打ち込み再度決定ボタンを押す。
《Welcome to Sword art Online!》
アラーム音とともに目の前いっぱいにこの文字が表示され、その文字の中心に向かって加速・突進してゆくような演出がされ、おまけに強い白い光で視界がホワイトアウトした。
(「…!? ………………。 い、一瞬ビビった。ビビったけどそうだよね、何もせずいきなり謎の文字に追突するなんてことはないだろうし、その……昔観た宇宙物のSF映画にもあぁいうシーンあるよね、こう、ビームサーベル的なものを扱う侍っぽい人たちとか、宇宙規模の空中戦とかある映画の、とりあえずかっこいいやつ…」)
「…………………………。えっと……?」
視界が戻ると、見知らぬ風景が広がっていた。全面石畳の地面、それと同じ様な雰囲気の建物、目の前に見えるのは草原、その奥には雲1つ無い青空。
「おぉっ…………!!」
これぞファンタジー系ゲームお馴染みといっても過言ではないほど絵に描いたような草原………
「わっとと」
「おっと!悪ぃ大丈夫か?」
思わず景色に見とれてしまい、誰かとぶつかってしまった。
「こちらこそ、すみません」
「いいっていいって、どうせ痛くねぇしよ …それよりおめぇ、そんなにボーッとしてどうした?」
そうだ、景色に見とれている場合ではなかった。みんなを探さないと。
「えっと…友達を探してて…」
「友達とはぐれたのか………そういうことならひと肌脱いでやるぜ!」
よく見るとその人は、赤紫っぽい長髪に紅いバンダナを巻いて無精髭を生やした笑顔が似合う好青年だった。
「オレはクラインってんだ!よろしくな!」
「僕はハース、よろしく!クラインさん」
「おぅ!それと堅苦しいのは無しだ、呼び捨てで構わねぇよ …そんで、ダチ公とフレンド登録は?」
俺はふるふる、と首を振る。
「まだしてねぇのか…それなら転移門広場を探してみな、大概のプレイヤーはあそこに集まるからな。案外友達も広場でおめぇのこと捜してんじゃねぇか?」
「ありが……あ。」
「ん?どうした?」
「待ち合わせの場所が…“はじまりの街”っていうところの、“時計台”の下っていう……」
そこまで言うとクラインが少し目を見開いて笑いだした。
「ぶっ…はははははは!!!!」
え、えぇ…何事だ。思わず困惑する。
「いやぁすまねぇ、悪気は無ぇんだ。お前さん最っ高だな!後ろを振り返ってみろよ」
…? 言われた通り振り返ってみるとそこには…
「…………時計塔だ」
「おぅよ、ちなみにここの名前は“はじまりの街”だ」
「………………。わぁーぉ」
ニヨニヨ笑いを浮かべるクラインを苦笑いで見つめ返す。
「…まぁ!オレもダチが来るのを待ってるからよ、一刻も早く合流してこの興奮を語りあいたい!って気持ちよっくわかるぜ……みんなリアルの都合があってオレだけ先に来ちまったんだけどな。」
この人…相当フルダイブにハマッてるんだな、すごく嬉しそうだ。まぁ…確かに目の前に広がる景色は前述の通りファンタジー世界のそれなので、俺も気持ちはすごくわかる。
「あいつらが転移門広場に集合するまでレベルの二つ三つもあげてリーダーの威厳を見せるとするかね!そんじゃな、おめぇもダチに会えるといいな!」
最後にもう一度ニッと笑うとクラインは広場の奥へと消えていった。そういえば、俺がやっている従来型ゲームの知り合いは何人くらいこのソードアート・オンラインも始めるのだろうか。なんとなくそんなことを考えていると黒髪、セミロングの可愛らしい女の子が声をかけてきた。
「あの…すみません、もしかして……」
「…?」
「ハース?」
「へっ?えっ?」
だ、誰だ?少し大人しめな可愛い雰囲気の外見のキャラにしそうなのは…モモだろうか…いや、レオのイタズラか?
「モモ?」
「…え?違うよ、コハルだよ!忘れちゃった…かな?」
コハルと名乗った少女が悲しそうな顔になる。
「えっと……ごめんね、人違いじゃないかな…?君は“ハース”っていう人を探してるの?…僕の名前もハースだけど、ちょっと“コハル”っていう名前には心当たりなくて…」
悲しそうな顔が更に歪む。
「ごっ…ごめんなさい!!間違えちゃったみた……」
コハルの言葉を遮るように突如時計塔の奥から橙色の物体が黄緑色の閃光を引き連れながら突進してきた。
「あーーーーーーーーー!!!!やっっっっと見つけたぁ!!!!」
今度は何だ!?
「お、おいおいおいいくら街中はダメージ食らわないとはいえこんなに人がいるところで武器振るんじゃねぇよ!!」
「そ、そうだよ~他の人の迷惑になるし、人に当たったらどうするの…?ハースだってゲーム初心者って訳じゃないんだからきっともうすぐ来るよ~!」
あっ……わかった。叫びながら慌ててこちらへ走ってくる…一人は茶色、もう一人は群青色の髪をした二人…あれ絶対レオとモモだ。ということは最初の橙色は…
「ハース!!いつ来た!?ずっと探してたんだ……よ?…………んん?」
「ご、ごめんリンリ、1時丁度にログインしてすぐみんなを探そうとしてたんだけどちょっと色々あってさ…」
リンリは後ろで1つにまとめた髪を揺らしながら俺への言及を始めたが、コハルさんに気付くとそちらへ興味を惹かれたようで言葉の勢いが収束してゆく。
「あっ…ご、ごめんなさい!私が声をかけたせいで皆さんまでお待たせしちゃったみたいで…」
「いやいや!謝らないで!ただ、珍しいなぁ…ハースが女の子ナンパしてるなんて」
コハルさんがギョッとした。正直俺もだ。
「違うよ!?なんでそうなるんだよ…こちらコハルさん。“ハース”っていう名前の友達を探してるんだって、それで話してたんだよ」
リンリに遅れて寄ってきたレオとモモが俺とコハルを囲むように並ぶ。
「ふーん…なるほどね!知り合ったのも何かの縁かな…?私はリンリ!こっちはレオとモモ!コハルさん、よろしくね!」
「皆さんよろしくお願いします!」
コハルさんも含め、リンリたちも一気に笑顔になる。するとモモが言った。
「コハルさん、一人で探すより5人で探した方が早く見つかるかもよ?私たちで良かったら手伝おうか?」
リンリ、レオ、俺も同意の意を込めて頷く。
「えっ…大丈夫です…そこまでお世話になる訳には…そもそも、会える保証なんてどこにも無いんです…皆さんみたいに約束した訳ではないですし。それより!!リンリさん!!」
「うん??」
「さっきこっちへ来るときの突進技って…ソードスキルですよね!?」
「そ、そうだけど…?」
突然コハルさんのテンションが上がる、元気になってくれたのは良いがどうしたというのか。
「やっぱり!!えっと…その…私にスキルの使い方を教えてもらえませんか?私不器用だし…自信がなくて…」
あぁ…確かに、このゲームの遊び方の基礎である、ソードスキルの使い方を教えて貰えるかも、となれば嬉しくなるか。
「私は構わない…けど…みんなもいい?」
「「「もちろん!」」」
「ありがとう!!」
すかさずリンリが続ける。
「じゃぁみんな、“原始の草原”に行こう!町の近くならモンスターも強くないって読んだし!」
「雑誌…?」
コハルさんが首をかしげる。
「うん!この数ヵ月ソードアート・オンライン関連の記事は漏れなく読んだからね!!βテストの情報とかも、公開されてたところは全てチェック済み!!」
「あはは…」
「「さっすがリンリ!」」
「ハモってる…仲のよろしいようで」
こうして僕たち5人は冒険の一歩を踏み出した。
コハルの扱いをずーーーーーっと迷ってたんですよ。でも、なんとなく、居る人を居なかったことにするっていうのがどうも出来なくてねw
あえて険しい道を選んでしまった気がするけど…頑張ります。