「お待たせしました」
戸口に立つ小次郎に声を掛ける。
「おぅ、悪ィな。じゃ行くか」
スタスタと歩き始める小次郎の後について行く。服装からして、さっきの話にもあったようにコイツは商売人なのだろうがフランクな口調の中にも微妙な気品が溶け込んでいてどことなく雰囲気が掴めない。
「ここだ」
「へ?」
早過ぎやしないか、ついさっき宿屋のところの門をくぐって街道へ出たばかりだ。俺のわずかな戸惑いを無視して小次郎は店へと入る。その店の軒先にはでかでかと看板が下がっている。《千蛇呉服店》
「ごふっ…………!?」
呉服屋…百貨店の基礎だったりするやつだよね……えぇ……?なるほど、微かな気品はそういう……
「おい、何してる。早く来いよ」
わずかだった戸惑いが大きくなっているのを知ってか知らずか、小次郎は俺の腕を掴み店の中へと引き込む。すると外をキョロキョロと確認してからそっと扉を閉め、店の奥まったところにある階段から二階へと上がってゆく。二階は和風の大広間が一つあるだけだったのだが、障子が少なくまだ午前中だというのに少し薄暗かった。少々嫌な予感がする。
「えっと…?」
「単刀直入に聞こう、おめぇ
やっぱりーーーーーー!!……つかなんだよそれ!ヤクザですか!?断ったら殺されるやつかな何かな!?いやでもNPCだし…モンスターに変身とかしちゃう系だったり?しちゃいますぅー?…なんだこのテンション。
「く…櫛名田組…とは…?」
どうにか時間を稼ごう、そのうちになんとか…
「あぁー?見慣れねぇ顔だと思ったがおめぇそんなことも知らねぇのか?櫛名田組といやぁこの千蛇城下町の治安を守る筆頭だぁよ」
…は?今何と?
「………へっ?」
「だぁから、治安組織だ」
……………。あれ?ヤクザじゃないっぽい…?けど…
「俺はその代表、局長の櫛田小次郎だ」
…………。あっ分かったぞこれ新撰組的なやつかな?鬼の副長…じゃないや怖い局長…無理矢理だけど響き似てるし。
「あ、あぁ…見廻り組的な…?」
「あぁ!?見廻り組なんぞと一緒にすんなボウズ!!」
ボウズ!?…いや…えぇ?違うの…?もうちょっと日本史勉強しとくんだった訳が分からなくなってきた…
「あんなスカしたイケ好かない連中なんぞ…とまぁいい。しかしおめぇ…櫛名田組を知らねぇで見廻り組を知ってるとぁそういうことか…?」
あ。やべぇ。今度こそやべぇやつだこれ。
「違います違います!!俺は昨日食事をしに城下町へ立ち寄っただけでそれまではこの上の層で戦ってました!!」
「…そうか。だが、だとしたら上へ登れる奴が何故こんな平和ボケした町で油売ってる」
「それは…」
NPCのくせに痛いところをついてくる。思わず言い淀んでしまう。
「まぁ良いさ、行くあてが無いんなら
それだけ言うと小次郎はさっさと下の階へ降りて行ってしまった。何この展開…つかれる…精神的に。雰囲気や話の展開にビビッてしまったが話によるとここは“平和ボケした町”だそうなのでそこまでハードなクエスト内容ではないだろうと思い、俺は小次郎たちの仕事を手伝うことにした。
「あれ…?でも櫛名田組の仕事なんだ、店の仕事じゃなくて」
あれかな、一応治安組織ではあるんだけど町が穏やか過ぎてそれだけじゃ生活が成り立たないからカモフラージュの意味も含めていつもは商売やってるみたいな、某有名時代劇“必◯仕事人”的な…?少々引っ掛かるところはあるが小次郎を探しに俺も下の階へと降りる。
「あの…俺にでき…」
小次郎を見つけ声をかける。なにやらいくつかの反物を棚へとしまっているところらしい。
「おぅ、言わなくても良いぜ待ってな」
せめて最後まで言わせて……。しばらくすると小次郎は奥から何かを持って来て俺に手渡してきた。
「まずそれに着替えろ、おめぇのその真っ青な格好はいくらなんでも目立ち過ぎる」
渡されたものを確認するとウィンドウがポップアップした。《
「…町人」
呟きながらそのアイテム類を装備フィギュアへと移動させる。一瞬で着替えが終わる辺りここら辺は現実世界よりも楽だ。
「おぅよ。百姓にしてはお前はヒョロっこくて白過ぎる、逆に不自然だ。こっちに来い装いを整えてやる」
有無を言わさず店の奥へと拉致される。これ以上何があると言うのか、帯曲がってたりする?
「これでよし」
小次郎は満足に鼻を鳴らす。どうやら髪型と髪色を弄られたらしい。鏡を見て唖然とする。
「なんだこの…大分大人しくなった遊◯王みたいな…」
茶色かった髪色は落ち着いたトーンの黒に近い焦げ茶に変えられていた。渡された着流しの色にもこの方が合うと思う。しかし問題はこの髪型である。逆にこの方が目立つだろ!!と内心でツッコみを入れる。
「ん?何か言ったか?」
「い、いえ何も…」
あとでこっそり自分で少し直してみよう。にしても、耳たぶの辺りまでしかなかったもみ上げが一瞬にして顎の辺りまでのびている辺りここはどんなにリアルでも仮想世界なんだと実感させられる。
「それとーぁーうーむ…………よし、
「…は?」
すると聞き慣れない効果音が聞こえたが何か変わった様子は無い。後で他の組員らしきNPCに聞いたのだがどうやら櫛名田組に入ると皆一様に本名とは違う名前を宛がわれるらしい。スポーツチームで希にあるコートネームのようなものなのだと思う。
「早速だが時雨、この
またおつかい系クエストかぁ…分かってはいたが、そろそろただ歩くのにも疲れて来た。
「わかりました、行ってきます。」
相も変わらず人気の無い街に出る。酒店の店主に暖簾を届けるとそのまま取り付けもしてくれとのことだったので店先で作業を始める。すると遠くの方から元気の良い声が聞こえた。
「うわぁ~~~!!!!見てみて!!ほんとに江戸の町みたい!!春になったら桜とか見られるかなぁ!?」
…?なんだか聞いたことがあるような…
「ちょっと待ってよユウキ!!圏内だから安全とはいえ置いてかないで!?」
ユウキ…?って確か…
「やーだよー!!観光に行こうって誘ってくれたのリーファじゃ…………あれ?」
さっきまで遠かった声が俺の背中のすぐ後ろで聞こえた。…速くね?こ、これは挨拶するべきか…?いや、普通に六層では一緒に攻略したんだから挨拶しない方が不自然か。
「よ…」
「お兄さん、プレイヤーだよね??」
…ん?なんだこの…よそよそしい反応は。まさか…忘れられ…?
「そ、そうだよ」
「えーと…S、h、i……しぐ…しぐれさん?」
…あれ?なんでユウキがそれを?と思ったのもつかの間、自分のHPバーの横を確認してハッとする。今までHearthと綴られていたところに今はShigureと記載されている。しかも通常の白色ではなく、薄い黄色で。
「う、うん」
「読み方あってた!名前の色黄色いけど、どうしたの?クエスト中?」
「うわぁすみません!初対面の方にいきなり色々聞いたら失礼でしょ!」
後から黄色いポニーテールの少女が走ってきてユウキを小突く。リーファという名前の…キリトの妹さんだったような。
「えーそうだっけ?ボク、なんだか前にシグレさんと会った気がするんだけどな~…」
うっ…鋭い。別に隠してる必要はないのだが、キリトたちと最前線で戦えていた俺がこんなところでクエストをやっていると知られれば、特にリーファにはいらぬ心配をさせてしまうかもしれない。
「そうかい…?人違いじゃないかな、ごめんね、えーと…ユウキ…さん?」
この時ばかりは、髪から服まで替えをくれた小次郎に感謝した。
「えっと…二人はどうしてここへ?」
…何をしてるんだ俺は。せっかく追求をかわしたんだから早急にこの場を離れるべきだろうに。
「私たち、攻略組を目指してるんです」
リーファが凛として言った。
「ねー!リーファはお兄さんが攻略組でね、早く側で自分も一緒に戦えるようになりたいって聞かなくてさー!ボクも、頑張って闘ってる人たちがいるなら手伝いたいって思って!」
今度はユウキが笑顔で答える。
「っ………。」
眩しい。そして懐かしい。まるで数ヵ月前の自分たちを見ているようだった。レオの真っ直ぐさを、モモの優しさを、リンリの強さを。
「それは…それはとても立派なことだと思うよ。でも…でもね……」
どうも、言葉に出来ない。俺は…俺はこの子たちに何を伝えたいのだろう。危ないからやめておけ?いや、違う。俺も連れて行ってくれ?違う。そんなことじゃない。
「お兄さん…?大丈夫…?」
いつの間にかうつ向いていたようで、心配そうに覗き混むユウキと目が合った。あぁ、情けない…。
「ごめん、大丈夫。なんでもないよ」
精一杯笑顔を作り、二人を見る。ちゃんと笑えているだろうか
「攻略組かぁ…頑張ってね、くれぐれも気をつけて」
どうにかそれだけ伝えると、今日は城下町の観光がてら街の近くで狩りをしに来たという二人を見送って暖簾を取り付ける作業に戻る。
前編後編で終わらせるはずがやっぱり上中下にのびたよー…あはは…