SAOIFハース前日譚(仮)   作:ハース/ユウキ

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あー………やっと終わったw まぁ、なおさないといけないとことかまだまだあるんだけどさw




暖簾を取り付け終わると酒屋の店主に挨拶をしてから呉服店に戻り、小次郎へ報告する。

 

「ご苦労だったな、もう飯だお前も食え。その後は鍛練だかんな」

 

そう言うと小次郎が丼と箸を差し出して来るのでとりあえず受けとる。

 

「鍛練…?」

 

「あぁ、お前には言って無かったか。櫛名田組(オレたち)はいつも午前は仕事、午後は各々得物の鍛練をするんだよ」

 

なるほど…?なんだろう、午後はモンスター討伐系のクエストに切り替わるとかかな?

 

「んむぅっ!?…うぇっ……」

 

何丼だよ、これ。甘ったるい綿菓子をご飯の上に乗せたような味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の得物は何だ?」

 

丼をなんとか平らげた頃、小次郎が俺に尋ねてきた。左手で背中から弓を引き抜き目の前へ差し出す。

 

「まぁ、分かってはいたが。ついてこい」

 

店の裏口を出ると運動場のような広場に出た。そこには丸太相手に居合いの練習をしている人たちがいたり、空手の組み手のようなことをしている人もいた。小次郎の言葉通り、組員たちは皆ここで武芸の練習をしているようだった。それらを横目に奥へと進むと、広場の一番端に的がいくつかぶら下がっているのが目につく。弓の練習はあそこでするのだろう。その後は日が沈むまでひたすら矢を放ち続け、定食屋で夕食をとったら宿屋で寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを繰り返して約一ヶ月と数週経った頃だった。いつもの通り午後の鍛練をはじめようと、俺は本日一本目の矢を弓につがえた。

 

「おめぇ、本当の得物は何だ?」

 

後ろから小次郎が話しかけてきた。

 

「…え?」

 

「弓も筋が良いとは思うが、お前元々は剣士だったんじゃねぇのか?」

 

「な………。」

 

思わず絶句してしまった。確かに俺は以前片手直剣をメイン武器としていた。しかしそれはもう何ヶ月も前の事で、小次郎と会ってから…いや、最初に第十層を訪れた時ですら直剣に触らなくなって数ヶ月経っていた。それなのに何故小次郎がそのことを知っている?

 

「図星か」

 

小次郎がニィッと笑う。もしかして…

 

「他人の武器熟練度が見えるのか?」

 

そうとしか思えない。弓の熟練度も26までは上がってきていたが直剣の熟練度は30にまで達していて、俺が取得している熟練度スキルも直剣カテゴリのものが一番多いのだ。

 

「まぁそんなところだ。…お前、何故剣を置いた?」

 

あぁ。この話の流れなら聞いてくると思ったさ。

 

「……もう忘れたよ」

 

何事も無かったかのように弓を引き絞る。

 

「なら、何故次の得物に弓を選んだ?」

 

放った矢は大きく逸れて的の脇にある茂みへと消えた。

 

「…単独行動をしても、比較的安全に戦えたから」

 

「安全だぁ?弓使いは近付かれたら何も出来なくなるって自分でも前言ってなかったか?」

 

「近付かれる前に、倒すか逃げるかするんだよ」

 

「くだらん」

 

「…なんだと?」

 

「聞いて損だったと言ったんだ」

 

「……弓使いでもない貴方に何が分かる」

 

「何使いだろうと同じことよ。周りをよく見て、足並みを揃えられる奴が仲間の勝利の為に故意に一人距離を置くことを単独行動っつぅんだ。だからそいつの行動は有意義なものになるし、万が一危機的状況に陥っても仲間が助太刀に入れるんだ。おめぇのはただの孤立だよ。」

 

「…………。あぁ」

 

きっと、心のどこかでは分かっていたことなのだと思う。仲間とスイッチを重ねてこそ効果を発揮しやすい熟練度スキルを多く持つ直剣を、色んな思いと共に頑丈に蓋をして心の奥底にしまいこんだ。それ以降、俺は人と深く関わることを恐れている気がするのだ。以前はこんなことはなかったはずなんだ。剣を握り仲間と肩を並べていたはずなんだ。しかしそれはある日出来なくなってしまったのだ。俺の判断ミスのせいで。俺は失敗したんだ。おまけに、そのとき出来たことといえば仲間を信じることだけだった。…いや、それも違う。俺は…信じたんじゃない…絶対に止まってはならない時に、混乱と恐怖で動けなくなってしまったのだ。それをフォローしようと仲間が動いた。彼らは俺を信じていたから。でもそれを俺はただ…止まった思考を抱えながら眺めていることしか出来なかったんだ。信じることすら出来なかった。その後悔から直剣(なかま)と深く関わるのを避け、恐れるようになったんだ。

 

「………?」

 

矢が一本も的に当たらない。今までどれだけ調子が悪くても1/5本の確率程度には的を射抜けていたのに。

 

「おい、もう今日は休め」

 

小次郎が普段より少しだけ柔らかい声音で言った。しかし俺はそれを無視して矢を射続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、どうも考え事をしてしまい中々寝付けずにいた。リーファとユウキはどこまで攻略を進められているのだろうか。攻略組の面々は今どうしているだろう。一人で最前線に残してきてしまったコハルは大丈夫だろうか。現実世界からの救助はやはり無いのだろうか。ソードアート・オンラインをプレイする直前に閉鎖へと向かっていた(リーダー)が消えたあのギルドはどうなっただろう。直剣をまた握ろうと思える日は来るのだろうか。

 

「前も思ったことあったけど、小次郎(アイツ)ほんとにNPCかよ…」

 

ここでの生活も潮時だろうか。櫛名田組は大きな農家の次男坊や俺のような流れ者など様々な人間を受け入れているので、集団のわりには個々が独立しているためかとても自由な雰囲気があり気楽だった。しかし第百層攻略を目指しているプレイヤーの一人として、いつまでもここにいてはいけないのではないかとも思う。それに直剣のことを小次郎に見抜かれてしまったのも少々居心地が悪い。

ちなみに“櫛名田組”と同じ千蛇城下町の治安組織、“見廻り組”は武家出身の人間のみで構成されていて簡単に言うと“武士のメンツ”やらなんやらで櫛名田組を見下し、厄介者扱いをしているということもここ一ヶ月の間で理解した。

 

翌朝、いつもの通り呉服店へと向かい小次郎から今日の仕事(クエスト)を受ける。また町中で済ませられるおつかい系のものだった。

 

「…じゃ、いってきます。あぁそれと俺、今日の午後は広場じゃなくて上の階層で鍛練したいのですが良いですか?」

 

こうして徐々に距離を置いて、こっそりここから旅立とう。そう思っていたのだが。

 

「掟があってな、鍛練の場所はあの広場のみと決まってるんだ。そこでやりたく無いなら櫛名田組を抜ける意思表示となるがそれで良いか?」

 

するとウィンドウがポップアップした。《櫛名田組から脱退します。よろしいですか? ※脱退すると通常の名前表示になります》は?えぇなにそれ…そんなことになってんの?知らないよそんなの。

 

「まぁ、いいか。」

 

お世話になったが、どうせそのうち小次郎に挨拶をして出て行くつもりだったのでそれが少々早まっただけだと思い了承ボタンを押す。

 

「ふぅ…お世話に…」

 

「いつかそうなるとは思ったが。……うし、構えろ」

 

…ん?何だ?構えろ?

 

「ほら、早く」

 

そういうと小次郎は壁にかけてあった薙刀を持ち出し刃先を俺へと向ける。

 

「え、えっと…?これは…どういう…?」

 

じりじりと後退りながら小次郎へと訪ねる。

 

「俺とお前はこれからどちらかが倒れるまで

一騎討ちをせにゃぁならん」

 

…は!?何故!?倒れるまでってHP0ってことか!?というかまず俺が櫛名田組を手伝うって決めたとき“組員じゃなく見習いならいつ辞めても構わない”って小次郎言わなかったっけ!?

 

「何故!?いつ辞めても良いんじゃなかったんです!?」

 

「あぁ、言ったさ。いつ辞めても良いとは言ったが無事で帰すとは言ってねぇ」

 

えぇ………アリかよそんなの。先に言ってよぉー……。心の中で呟く。櫛名田組へ来て何度も思ったことだったがここまで差し迫った状態となったのははじめてだった。

 

「ぜぁぁっ!!」

 

小次郎が薙刀を手にすごい勢いで突進してくる。しかしまだ小次郎の頭上のカーソルは通常のNPCと同じ緑色だった。

 

「っ…わぁぁぁっ!?」

 

咄嗟に薙刀を避けようと右へと跳ぶ。薙刀の刃先をギリギリでかわしたがなんという速さなのか。…本気だった、今のは…。カーソルの色など関係ない、気迫が小次郎が本気で俺を殺そうとしていることを示していた。これは…和解のために話を聞いて貰うにもとにかく先に小次郎を無力化しなければ…!そう思い俺は裏口から広場へ出た。更に屋根に上って裏口の扉を照準に弓を引き絞る。小次郎が出てきた瞬間にまず足を射ろう。動きにくくするためだ。

 

「…なっ」

 

驚いて矢を放つタイミングを逃した。戸口から出てきた小次郎は着物の上に剣道の胴のような防具をつけていた。さらに、弓を構えたことがトリガーとなったのか小次郎の頭上にHPバーが追加され、表示されたカーソルは敵対モンスターを表す赤色へと変わっていた。それだけならまだ良かったのだが…

 

「そんな…」

 

《Kojirou》と記された文字は赤く、少し黒ずんで見えた。Lvやステータスが俺より数段上だということを表している。“小次郎を無力化しなければ”なんて考えは甘かったということだ。全力で戦っても勝てるかどうか分からない。血の気が引いてゆく。指先に力が入らない。

 

「……ふっ!!」

 

小次郎が薙刀を左脇に構え一気に振り抜く。なんだ…?いくら薙刀とはいえ屋根の上の俺には届か………っ!?

 

「………くぉっ!?」

 

薙刀の刃が通った軌道が青白い光の帯となってこちらへ飛んできた。ギリギリのところで回避するが、体勢を崩して屋根から転げ落ちる。

 

「……ぅぐっ!!」

 

落ちた勢いでゴロゴロと数メートル転がったが何とか立ち上がると、鳩尾(みぞおち)に薙刀の柄がクリーンヒットする。一瞬息が止まった。そのまま後ろの壁へと叩きつけられる。今の一撃だけでも1/4程HPを削られた。

 

「次は柄でなく刃だ。」

 

小次郎が冷静に言い放った。

 

「くっ…」

 

速い。そして一撃が重い。おまけに遠距離攻撃も出来るとは…弓で戦うのは厳しいか…?

 

「お前は何処へ行きたい?何故ここを去る?」

 

俺は……

 

「…仲間の元へ」

 

「フン」

 

すると小次郎は薙刀を後ろに構える。今度は何が来る…?とりあえず俺も弓を構える。遠距離技か、突進か…

 

「…っ!?」

 

しまった。極度の緊張と焦りから引き絞ろうとしていた矢を中途半端なところで離してしまった。

 

「らぁぁぁ!!」

 

小次郎が突進しながら後ろに構えていた薙刀を投げた。突進と遠距離を合わせてきた!?薙刀は難なく風圧で矢を吹き飛ばしあっという間に俺の目の前まで迫っていた。

 

「い゛っ…!?」

 

完全に避け遅れた。柄で殴られただけであの威力だったのに刃をまともに受けたらどれだけHPを持って行かれることか。何としても直撃だけは避けなければならない。

 

「ぬぁぁぁ!!」

 

咄嗟に弓で薙刀をいなそうと試みる。少々軌道をズラせたようだが、右肩に薙刀が深く突き刺さった。それと同時に弓が真ん中から二つに折れた。

 

「くそっ…!!」

 

折れた弓を握りしめながらHPバーを見る。残り半分のところまで減っていた。こんなの…無理ゲーだ。勝てっこ無い…ここで死ぬのか…?こんなところで…色々なものから逃げてきた罰なのだろうか。肩に刺さった薙刀を左手で引き抜き壁際に捨てる。

 

「………剣をとれ」

 

どこからか日本刀を持ち出してきた、小次郎が言った。

 

「…………。」

 

“お前は何処へ行きたい?何故ここを去る?” “仲間の元へ”と答えたのは嘘ではない。今も各々の身の丈にあった場所で戦っている仲間たちのことだ。しかし心のどこかで迷いがある。俺は彼らから逃げたのに今さらどんな顔をして戻れば良い…?沈黙を破り、小次郎が口を開いた。

 

「一騎討ちは一人で戦うもんじゃねぇ」

 

……?は?何を言い出すんだいきなり。一対一で戦うから一騎討ちというんじゃないのか。

 

「俺は櫛名田組の立場と、仲間と、仲間と高めあってきた鍛練の成果を掛ける。その為にお前に勝つ。お前を殺す。」

 

…そうか。小次郎は、今の自分があるのはバックボーンで色々な人との関わり、経験を積んできたからだ。と言いたいのか。

 

「俺は…」

 

いい加減、素直になろう。枷を、蓋を、全部壊そう。実力が上の相手に出し惜しみをしても損しかしない。 ………俺はこれをどこで学んだ…?

 

「たぶん…」

 

現実世界だ。全力でぶつからないと叶うものも叶わなくなってしまう。しかし、気持ちだけでもダメだ。経験や練習があってはじめて自分の力となるはずだ。

 

「全てだ」

 

「…あ?」

 

「上手く言葉にできない。でも、形振り(なりふり)構わず全力でお前を越えて行かなければならないんだ!!」

 

自分で自分が何を言っているのかわからなくなってくる。しかし心からの叫びなのは間違いない。弓を捨て、ウィンドウを操作し直剣を装備する。

 

「良い返事だ」

 

…!小次郎がいつものニィとした笑みを浮かべる。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

そこからはよく覚えていない。各々の刀身を染める色とりどりのライトエフェクト、轟音、閃光。小次郎のHPも俺のHPもジワジワ減ってゆく。

 

「もう、見切った」

 

突然、小次郎がスキルを出すのを止めて静かに刀を中断へ構える。どこも力んでいない自然な姿勢と、そこだけ時間が止まっているかのような妙な緊張感に包まれている。それに一抹の不安を覚えたが俺は間髪入れずに次のソードスキルを発動させる。

 

「………!?」

 

俺の剣と小次郎の刀が触れた瞬間、剣が軽く跳ね返された。切り返して次のスキルを放つがまた跳ね返される。

 

「悪ィな。俺は櫛名田組全員と手合わせをした。直剣使いの技は全部対処方を知っている。あとはお前が使える技を把握出来れば事足りるんだ」

 

そんな……もうチートじゃないか…?これ負けイベ?この期に及んでこんな事を思うのは少々緊張感が足りないだろうか。いや、例え負けイベでも…

 

「…それでも、俺はお前に勝ちたい」

 

紛れもなく本心だ。

 

「俺もだ。お前に勝ちたい。お前が対人の熟練者(スペシャリスト)だったなら、俺に勝てたかもな」

 

“勝ちたい” HP0が死を意味するこの世界の戦闘でこんな思いをするとは思わなかった。遊びではなくなってしまったとはいえ“これはゲーム”だ。ゲームの対人戦は、数値の兼ね合いによって変動するとはいえ基本は“いかに相手の攻撃を避け、相手より多く自分の攻撃を当てるか”が勝敗を決める。例え自分の一撃が相手のHPを数ミリしか削らなかったとしても、この数ミリを、わずかと見るか、着実とみるか。そういうことだ。

 

「…そうだな」

 

気持ちは整った。何度も練習したソードスキルは防がれる。なら俺は、小次郎が言う通り経験から小次郎を上回るしかもう道はない。

 

熟練者(スペシャリスト)ね…」

 

もちろんそう呼ばれる程の腕は無いし、剣で人を斬る経験は初めてだ。しかしそれはこの世界(アインクラッド)でのことだ。

 

「ふぅ…………………っ!!」

 

俺は静かに剣を逆手に持ち、腰を落とす。ソードスキルは発動しない。そのまま小次郎へと突進する。イメージしろ、思い出せ……!!もっと速く…遠く!!もっと奥へ………駆け抜けろっ!!

 

「はぁっ!!」

 

追い抜き際に小次郎へと斬りつける。その瞬間、微かに白い閃光が一本走り小次郎のHPバーが僅かに減った。

 

「かぁったい…!あの胴の防具のせいか…?」

 

思ったより小次郎のHPが減らなかったため思わず口走ってしまう。小次郎がやや驚きながら体を反転させる。

 

「…もう遅いっ!!」

 

俺は即座に剣を順手に持ちかえ、水平に剣を構え前傾姿勢をとる。一瞬刀身に紫色の雷が走った気がした。そのまま小次郎の右脇腹を狙って一気に剣を前に出しながら前へ思いきり跳ぶ。

 

「うぉっ!?」

 

小次郎が驚きの声を上げる。俺はそのまま再度踏ん張り斬り上げるように跳び上がってから着地する。上から見るとV字になるように駆け抜けたためこちらからは小次郎の背中が丸見えだ。しかしここで調子に乗って再度斬り込むと…大方、斬られる。

 

「…っらぁ!!」

 

小次郎がソードスキルのシステムアシストに従って360°ぐるっと水平に刀を振った。

 

「…やっぱりね」

 

万が一その場での範囲技ではなく移動する技を使われたときのため、後ろへ跳び退きながら投擲スキルでピックを前方にバラ撒く。……良い位置だ。再度俺は剣を逆手に持ち腰を落とす。スキル後の硬直から解放された小次郎が俺の突進に備えて刀を体の前へ出しガードの姿勢をとる。

 

「ふっ…!!」

 

俺は小さな気合いと共に動き出した。さっきよりは遅いが陸上の幅跳びの踏み切りのような変則的なステップで相手との呼吸をズラす。三歩目、幅跳びなら最後に踏み切る足が地を蹴った瞬間、上半身を左に引きながら剣を逆手に持った右手を左肩につけ、剣先を小次郎の肩口へ照準する。

 

「…っ!!」

 

目を見開き少々うろたえている小次郎と視線がぶつかる。…そうだ、存分に焦れ。いつものお返しだと言わんばかりに小次郎へ微笑を返す。捻った上半身を元に戻す勢いとともに、手首にスナップをきかせながら腕を伸ばす。

 

「くぅっ…!!」

 

小次郎が唸る。斬撃を防ごうとしている姿勢は突き技に弱い。そして全身を使った突き技は腕が伸びきる寸前の一瞬だけ凄まじい貫通力を持つ。その一瞬、青い閃光が俺の刀身から吹き出した。

 

ズガァン!!

 

俺の剣が小次郎の防具の金具を貫いた。金具が弾け跳び防具は破損、小次郎が驚いた顔をしている。これで少しはこちらの攻撃も通りやすくなっただろう。──対人戦での戦闘スタイルは星の数だけあるのだろうが、俺の場合は嫌がらせをして(立ち回りと)嫌がらせをして(デバフをかけて)、畳み掛けるっ!!

 

「やっぱ対人戦はこうでなくちゃ」

 

小さく呟く、気分がノッてきた。互いのHPは共に残り1/6程となっている。最初は余裕綽々だった小次郎も今は動揺が隠せなくなっているようだった。この世界の戦い方(ソードスキル)しか知らない小次郎にとって、それを一切使わない未知の戦い方は恐怖でしかないだろう。反対に俺は今までに無く穏やかな気分で戦っていた。何故なら、忘れかけていたことを思い出せたからだ。俺がここまで小次郎を追い詰められているのは別のゲームで一対一の対人戦を散々やったからだった。その中で戦い方を考え、覚え、お互いに高めあっていく、それこそ仲間といえる存在と共に。居合いや斬撃の避け方は戦士(ウォリアー)たちが。上手い嫌がらせ(デバフ)のやり方を成らず者(ローグ)たちが。間合いの詰め方や追い込まれそうなときの掻い潜り方は猟兵(レンジャー)たちが。拳の避け方は修道士(モンク)たちが。支援(バフ)の重要さを聖職者(アコライト)たちが。長物の避け方は放浪者(ワンダラー)たちが。遠距離広範囲攻撃の厄介さを魔法使い(マジシャン)たちが。動きを封じられることの怖さを創作家(クリエイター)たちが。勝利することへの諦めの悪さを復讐者(リベンジャー)たちが。彼らがくれた圧倒的な“戦闘経験”が小次郎を上回った。彼らだけではない。アインクラッドで出会い、快く俺を仲間に迎え入れてくれた人たちも、上を目指しながら前向きに頑張っているユウキたちや中層プレイヤーたちも、たとえ今側にいなくても俺と肩を並べて戦った人たちも。いつの間にか視野が狭くなって忘れかけてしまっていただけで、多くの仲間たちがくれた“経験”や“気持ち”が今の俺を形作っている。

 

「ぜぇぁぁっ!!」

 

壊れた胴を気にしながらも小次郎が刀を上段に振りかぶる。

 

「はぁっっ!!」

 

俺はその刀を追いかけるように上半身と剣を左に引き剣を振りかぶりながら小次郎に跳びかかる。それを見た小次郎はギョッとしながらもすぐに真面目な顔に戻り刀を振り下ろそうとする。

 

「風よ……吹き荒れろ!!」

 

思わずそう叫んでしまった。イメージとしては、空中で水平に回転しながら多段の斬撃を繰り出す…進◯の巨人の回転斬りのような感じ…だったのだが、システムアシストの無い状態でそんな離れ業は繰り出せなかった。叫んでしまった手前少々恥ずかしくなるが今はそれどころではない。一気に剣を左から右に一閃する。剣の軌跡が水色の風を纏っている。

 

「く……ぅっ………!!」

 

小次郎の上段斬りと俺の横凪ぎがぶつかりそのまま鍔迫り合いになった。俺の横凪ぎにシステムアシストははたらかないはずなのだが、不思議と体は宙に浮いたままになっている。

 

「っうぉぉぉぉぉ!!!」

 

小次郎が吠えた。押し込まれそうになる。

 

「っ……!!吹き…飛ばせぇぇぇぇ!!!!」

 

次の瞬間、俺は剣を振りきった。小次郎の手から刀が抜け遥か後方へとんでゆく。イケるっ!!宙に浮いたまま俺は上段へ剣を構える。すると刀身の回りに今度は緑色の風が集まりはじめる。ガラ空きとなった小次郎の顔を目掛けて剣を振り降ろそうとした。その瞬間、右から小次郎の耳を目掛けて飛んでくる短剣が目に入った。

 

「っ!?」

 

思わず振り降ろす剣の軌道を外へ開き、小次郎ではなく短剣を撃ち落とす。すると左から赤い、血の色にも似たポリゴン片がとんでくる。驚いて視線をうつすと、小次郎が俺の頬の横で手を開いていた。その手の平には大きな矢が刺さっている。咄嗟にその矢を小次郎にの手から引き抜く。矢のダメージのせいで小次郎のHPはもう数ドットしか残っていない。さらに麻痺毒のアイコンが点滅している。

 

「…っ!どうして!!」

「へっ…お前…こそ…それより、あっちだ」

 

屋根の上に人影が見える。それを視認した瞬間

 

「っ!?あっ!?」

 

屋根の上の人物が放った矢に、持っていた剣を跳ね飛ばされてしまった。それだけでなく、他の櫛名田組の連中はみな麻痺をかけられ動けなくなっているか、屋根の上の人と同じような黒装束の人物と交戦中だった。すると屋根の上の人物が静かに、通る声で言った。

 

阿漕(あこぎ)な商売をしていると報告があったため来てみれば、街中で武器を扱うのは午後からという掟を破り、見慣れぬ輩に追い込まれる頭目とは…呆れたものだ」

 

「なんっだと…!?」

 

何なんだあいつは。俺の着物の裾を小次郎が引っ張る。

 

「ありゃぁ…見廻り組の暗部だ…もう良い、お前は…逃げろ…」

 

何を言い出すんだ。

 

「前にも…お前と同じように突然この町へ現れ…櫛名田組の仲間に…なった奴がいたんだ…そいつもある時…自分には…行かなくてはいけない場所が…あると言って…ここを去った…だが…もうそいつは…いない………。」

 

そういう設定なのか、俺のようにクエストを遂行させたプレイヤーがいたのか定かではない。

 

「状況証拠…だけだが、そいつは……その暗部に殺された…捕まって、俺たちの情報を…揺すられたんだろう、敵対する…組織(オレたち)を、潰すために……」

 

詳しい事情はよくわからないが、事実でなくそういう設定なのであってほしいと思う。

 

「俺は…守れなかったんだ……中途半端に面倒をみて……自分の道を…見つけた仲間を……無用なしがらみに、巻き込んで…だから、お前がここを去る…ときは、どれ程の腕に…なったかをたし…かめようと……」

 

「気を悪くしないでほしいんだけど、小次郎。そいつが…本当は元々見廻り組のスパイだったってことはないの?」

 

小次郎はふっと目を伏せる。

 

「時雨!!」

 

広場の端、弓の練習場の方から一人、俺を呼び弓を投げて来る組員がいた。即座に屋根の上の一人がその組員を矢で麻痺にかける。

 

「…分からねぇ。でも…お前は違うだろ。だからもう…良いんだ、逃げろ!」

 

投げられた弓を俺が受け取ると同時に小次郎が叫んだ。…あのとき、小次郎ではなく短剣を弾いたのはなぜだろう。咄嗟のことで自分でも理解出来ていなかったが、そうか。

 

「…あぶねぇと思ったら、咄嗟に体が動く…それが仲間ってもんだろ!!」

 

ハッとした。あぁ…そうだよね、小次郎。

 

「…笑止、終わりだ櫛田小次郎!」

 

屋根の上の黒装束が叫ぶ。すると周りで戦っていた黒装束の男たちが全方位から俺たちに集まってくる。どうする。どうしたら良い。弓はある。あとは小次郎の手に刺さっていた矢が一本。屋根の上のアイツを狙っても、周りの黒装束たちに小次郎と俺は殺される。どのみち周りを制圧しようにも一本の矢ではどうすることもできない。

 

「逃げろと、言ってんだろ…時雨ぇ!!」

 

うるさいぞ。また俺に、仲間を見殺しにして自分だけ助かれと言うのか、そんなのごめんだ。考えろ、時雨として…何が出来る?

 

「っ!そうか、上か!!」

 

俺は空へと矢をつがえ、引き絞る。名前(シグレ)らしく、雨のように矢を降らせるんだ!!

 

「いっっけぇ!!!!」

 

矢を離した瞬間、小さく効果音がした。構わず俺は小次郎に覆い被さる。小次郎のHPが尽きないことを願いながら。周囲でいくつもの悲鳴と爆散音が聞こえる。集まってきていた黒装束たちのものだろう。背中にいくつもの衝撃を感じる。そういえば…自分のソードスキルを自分で食らうと、ダメージって入るのかな…?もし入るのだとしたら、小次郎との戦闘で心許なくなっていた俺のHPも危うい。

 

 

 

 

 

 

 

「どけ、ハース」

 

いつの間にか麻痺から復活していた小次郎が俺を軽く殴る。顔を上げると黒装束たちは跡形もなく消え去っていて、麻痺から回復した組員たちがちらほら起き上がりはじめた。小次郎のHPは残っている。ハッとして自分のHPバーを確認する。

 

「え…なんで…?」

 

丸々一本、1ミリもかけることなく俺のHPバーはそこにあった。

 

「お前が矢を放ったあと、俺はお前を組員から除名したんだ。元々お前は街中じゃ何があっても死なない人種だろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小次郎からクエスト報酬を受けとる。特に何の効果がついている訳でもないあの町人の着物と同じものだったが、以前貰ったものは戦闘でボロボロになってしまっていたため俺にとってはこの上なく嬉しいものだった。もう小次郎が俺を時雨と呼ぶことは二度となかったし、俺の矢を逃れた黒装束の行方もわからない。しかし、もうただの“プレイヤー”と“NPC”となった俺たちにはどうすることも出来なかった。

 

「行ってこい。世話になったな」

 

小次郎がいつものニィとした笑顔を向ける。

 

「世話になったのはこっちだよ。本当にありがとう、またね」

 

ゆっくりと小次郎に背を向ける。攻略組はそろそろ第十二層のフロアボスに挑む頃だろうか。今から俺なんかがひょっこり行ってもボス討伐のレイドに入れて貰えるかわからないが、コハルの顔でも見に最前線へと向かおうと思う。他にも、また話したい人たちがたくさんいる。

 

「あ、待て」

 

小次郎に呼び止められる。

 

「お前の剣技、名前はあるのか?」

 

「…そんな大層なもんは無いよ、ただ…強いて言うなら…成らず者の放蕩者(ローグ)は、いつでもどこでも放蕩者(ローグ)らしく戦う、それだけだよ」

 

気恥ずかしくて、振り返らずに背中を向けたまま答える。転移門を目指して一歩踏み出す。さぁ、帰ろう。居るべき場所に帰るために。




TVアニメのアリシゼーション人界編(?)放送されたねw
キリトにアインクラッド(原点)とヴォーパルストライク(自信)、(既知の)仲間たちやユージオたち(新しい仲間)がいるように、誰にだってその人なりの原点や仲間たちがいると思うんだよねw …なんてねw
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